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 「飯できたぞーっ」
 凍夜お手製のハンバーグが出来上がり夕食の時間となった。
 克行と観月がホクホクじゃがいもとハンバーグが盛り付けられた皿をテーブルに運ぶなか、玲奈と緋莉に
菜月はイスに腰掛けている。
 買い物班だった2人は何が起こったかは知らないが、雰囲気で悟り声をかけるのを止めた。話しかけたら
それが追い詰めることになってしまいそうだから。
 「いいかみんな?存分にこの超絶品ハンバーグを噛み締めるんだ。そして俺を崇めるんだ。せーの、いた
だきます!」
 調理班の班長であり副班長でただの班員、ようするに1人で全て作った凍夜が号令をかけて皆が飯にあり
ついた。凍夜ら3人はいつものごとく食べるが玲奈と緋莉は小さくハンバーグを口に運ぶ。
 若者が好きな濃厚ソースが掛かったハンバーグは噛むほどに黄金色の玉ねぎの甘味と、肉汁が口いっぱい
に広がり
 「おいしい!」(観月)
 「うまっ」(克行)
 「うん、もはやプロ級だな」(緋莉)
 「あー、おいしい~っ」(玲奈)
 「さっすが凍夜君だわ!うまいし、最高だよ!」(菜月)
 と叫んでしまう。
 先ほどまでの憂鬱はどこへやら、3人の表情には笑顔が戻り食べるペースも普段通りになった。
 心の奥底でやってやったぜ感に浸りながら特製ソースを付けた白飯を食べる凍夜。こんなんで良いならず
っと作ってもいいかなぁなんて思ったり思わなかったり。
 「もうね、言うことないよ!完璧!最強!だからおかわり!!」
 「早っ!?あ~、少し待ってろ。よそって来るから」
 菜月の大皿と茶碗を受け取りキッチンに向かおうと立ち上がった凍夜に
 「凍夜くん、私もおかわりちょーだい?」
 「あっ俺も」
 「私も頂こうか」
 「残したら勿体無いから私も食べてあげるわよっ。は、早く頂戴!」
 と、追い討ちをかける。
 「お前ら少しは自分でやれよ!つーか、俺にも飯喰わせろ!」
 などと言いつつ実は内心喜んでいる凍夜。その証拠に唇の両端は上に曲がっている。仕方ねえな、そんな
に俺の特製ハンバーグが食べたいか。そっかそっか、だったら腹一杯に食わせてやるよ。
 調子に乗って目を瞑りうんうんと頷いていたのが悪かったのか
 「ちょっと!ノロノロしてないで早くしてよ………せっかくアンタの料理食べられるんだから……」
 怒られた。本心は聞かれなかったが。
 「はいはい、サーセン。まっ、俺の特製ハンバーグでも食って大きくしろよ」
 「……何をよ?」
 「そんな残酷なこと言わせんなよ。なぁ菜月?」
 「えっ?……ああ」
 菜月の視線が自分の胸に向かっているのに気付いた玲奈は、凍夜が何を言いたいのか理解した。
 「こ、こ…殺す!ぶっ殺す!!」
 玲奈は少女に似つかわしくない暴言を吐きナイフを手にした。隣の菜月が羽交い絞めし何とか加害者にな
らないでいる玲奈。
 「あ、あああアア、アンタ、人の胸をおおおおお、大きくしろって……!!!!」
 「いやいや胸なんて言ってないぞ。俺はそのちっさい身長を大きくしろって言ってるんだ。すっげー親切
じゃね?」
 「嘘付けっ!それに凍夜私の胸見ながら言ってるじゃない!身長のことでも大きなお世話よっ。ああもう
離してよ菜月!私はアイツを殺(ヤ)らなきゃいけないの!!」
 玲奈は菜月の腕の中ジタバタ動くが身長差があるため自由になれない。また足が若干浮いているのでこの
まま持ち運ぶことも可能だ。
 「ダメでちゅよ玲奈ちゃん。ご飯の時間は静かにお行儀良くするんでちゅよ?あと誰かを殺すのもメだか
らね。わかりまちたか?」
 「はあーっ!?何言ってんのよ菜月!菜月まで馬鹿にする気!?ちょっと凍夜!アンタのせいで皆に笑わ
れるはめになったじゃないっ!ねえ聞いてるの!?あっ、ちょっと待ちなさいよ!!」
 笑い声を上げながらキッチンに向かう凍夜を見ることしかできない玲奈は、むぅーっと頬を膨らませ特製
ハンバーグを待つことにした。
 (なんか凍夜のくせに調子に乗ってない?人が気にしている胸を言うだなんて最低。それともなに?やっ
ぱり男は小さい胸より大きい胸の方がいいってわけ?私だってなりたくてなったわけじゃないのに!菜月と
同じくらいになったら私のこと見てくれるかな……?って何考えてんのよ、私!?)
 「……さっきから何してんの?宇宙人とでも交信か?」
 両腕に大皿を持った凍夜が頭を横に振ったり挙動不審な玲奈を呼びかけた。
 「えっ!?あ、ちょ、ちょっといきなり話しかけないでよ、びっくりするじゃない!」
 「ふっ、話しかけるのにいきなりも何もないだろ」
 「河原さんは黙ってて!」
 「図星をつかれたからってキレないキレない」
 「元はと言えばのせアンタのせいじゃないっ」
 「俺かよ……」
 「そうよアンタのせいよ!凍夜のせいでどうやって自分の胸を……って何言わせてんのよ!!」
 マグマのように憤怒した玲奈は凍夜に責めよる。
 「むね?」
 「誰も胸なんて言ってないわよ!これ以上変なこと言うと、その使えない脳みそ引きずり出すからね!」
 バン!と玲奈がテーブルを叩いたため食器が2~3cm宙に舞い、汁一滴も零さずに着地。これはテーブ
ルクロス引きよりも高等な大道芸に見える。
 「酷い!玲奈が僕のこと虐めるよパパン!」
 凍夜は克行に抱きつき玲奈を指差しおいおいと泣いた振りをするが、克行は嫌っそうな顔をして凍夜の頭
を掴んで思いっきり引き剥がした。
 そしてたった一言―――
 「……ウザイ」
 「ヒデーーーーーーー!」
 「ひで?中田?」
 「観月先輩。一応ツッコんでおきますがヒデ違いですしベタ過ぎです」
 「……ん~?」
 「いや、ですから。サッカー選手の方じゃなくて酷いを言ったんですよ、凍夜は」
 「………おっ!」
 菜月のツッコミで観月は頭上にあった?マークがなくなり代わりに電球マークがピカピカと光っている。
だが次は菜月の頭に?が浮かび某建築CMよろしく、「なぜ中田の方なんだ……?」と呟く。
 「ママン聞いて!パパンがボクちんのこと虐めるんだ」
 めげずにボケを噛まそうとしたのが間違いだった。
 克行にしたように観月の体に縋り付こうと接近した瞬間、襟首が何者かに掴まれ「うげぇ」とカエルの鳴
き声を出してしまった。
 恐る恐る後ろを振り返ると――

 「それ以上観月に近づいたら……」
 「それ以上他の女にいくなら……」

 そこには――

 「「殺す!!」」

 ――禍々しいオーラを身に纏い仁王立ちする少年と少女がいた。
 「お、おう!?」
 「お前他人の彼女に手出さないよな……?」
 「アンタ尻尾を振って女の子に近づくなんて……まして観月先輩を……」
 「いやいや冗談だよ、冗談……何もそこまでキレなくてもいいじゃんか。いやだなぁ~アハハ」
 凍夜の力無い乾いた笑い声が響く。
 「冗談で他人の彼女を使うのか……?」
 「そうよそうよ!何で観月先輩なのよ!?あっ、いやこれは別に私でも良いじゃないっていう意味じゃな
くて、克行君の目の前で観月先輩に手を出すのはどうなのかなっていう意味なんだからねっ。変な勘違いし
ないでよ」
 早口で捲くし立てる玲奈に対して克行は(……何かが違う)などと呆れながら横目をつかう。
 緋莉たちも克行と同様に違和感を感じ玲奈に視線を送った。それに気付いた玲奈はあれ?あれ?とキョロ
キョロ周りを見る。この場の異様な空気を作り出した張本人は何がなんだか解らないようだ。
 「えっ?なによこの雰囲気は?」
 いえいえ、あなたが作り出したものですよ。カッコよく言うならば創造主ですよ。など言いづらいので
 「いや別に……それよかハンバーグ冷めるぞ」
 逃げてみた。
 「そうだな。折角の料理が台無しになってしまうからな」
 「……?まあいいわ」
 玲奈の頭の中を簡単に説明すると凍夜の料理>>>>>>>>今の空気といった感じだろう。
 「だけど凍夜、また女の子にセクハラしたり身体のこと言ったら殺すからね」
 16年間も悩み続ける身体的コンプレックス>>>>>>>>凍夜の料理なのは仕方がない。この胸のせ
いで何回ネタにされたか思い出したくないし、記憶から消し去りたいものだ。
 *   *   *   *
 夕食が終わり緋莉と菜月が各自の食器を流し台に持っていく。夕食を手伝うことができなかったことに責
任を感じたのか、2人は自ら皿洗いを進み出た。玲奈もやりたかったのだが、また地獄絵図を見せられてし
まいそうなので菜月が私らで充分だからと言って止めた。
 凍夜の方は2人の申し出を断らず克行たちと同様に、テレビを見ながら満腹感に酔いしれている。ソファ
の座り心地と程よい満腹感や疲労などが合わさり、睡魔と言う手強い怪物に進化して凍夜を襲う。
 頭をカクンと船を焦がしながらも心の中で戦うが
 (……ダメだ、今寝たら……確実に後悔する……目覚めろ俺!睡魔を打ち倒すんだ!ぬぅおおおおお!)
 「……スー」
 睡眠大好きな凍夜がこんな強敵に勝てるわけがなく、すぐに白旗を振ってしまった。だって人間の基本的
な欲求じゃん?仕方ないさ、アハハハ。
 「ちょっと起きなさいよ凍夜」
 凍夜の体がゆさゆさと揺れる。のではなく玲奈に揺らされている。あと数秒で向こうの世界ではなく心地
良い夢の世界に行けたのだが強制帰還が命じられた。
 「んあ……なんだ~」
 体を起こして眠い瞳を擦りながら目の前にいる玲奈をジッと見る。意識も玲奈の輪郭もぼやけてしまって
いるので、頭をトントンと叩き眠らないよう努力するが一向に睡魔は去ってくれない。
 「あのさ折角遊びに来てるんだから寝ないの。それにすぐ寝たら牛になるわよ」
 「ん~?……やることねーじゃん。見たいテレビだってないし……ふぁあ……克行だってのんびりしてん
だし別にいーじゃん」
 「あ、私がつまんない……」
 「えっ、今なんか言ったか?ゴメン聞こえなかった」
 「だから!えーと……あのー……」
 玲奈は口に右手を当て上目遣いの視線を凍夜から逸らして言葉を探す。頬を微かに赤く染めて。
 「一緒に遊んであげなくもないよ……?」
 「はい?」
 「あーもう!だから暇だから付き合いなさいって言ってるの!」
 微かに染められていた頬は真っ赤になっている。言い方もどこか投げやりになってしまい心が少しチクッ
とした。もう少し優しく言えないのか、と。
 「……ダメ?」
 「いいよ。眠気が無くなってくれそうだし」
 「ホ、ホント!?あ、いや凍夜が私に付き合うのは当然よね」
 誰にも気付かれないほどの小さな小さなガッツポーズを作ってホッと安堵する。
 ここで断られたら玲奈に大きな傷跡ができてしまう。自分は凍夜にとっては睡眠に劣る存在なんだと確証
になる。これは地味にショックだ。
 「で、なにすんの?」
 「え~っと……」
 「……」
 「あ~……」
 「おやすみ~」
 「ちょ、ちょっと待って!こら、寝ないの!」
 横になってもう一度夢の世界に行こうとしたら襟首を持たれ、前後に揺らされて息ができない凍夜はあち
らの世界に逝ってしまいそうになる。白目を剥いたのに気付いた玲奈は手を離し、凍夜はソファに倒れてゲ
ホゲホとむせてしまう。凍夜は呼吸を整えてから抗議した。
 「決まってないじゃんか……」
 「そ、それは凍夜が決めるの」
 「俺かよ」
 「そうよ、大体デートとかも男が決めるじゃない。それと同じよ」
 玲奈は外人のように肩をすくめてハァとため息。当然でしょ?なに言わせてんの?と言いたいような表情
に冷たい視線を凍夜に与える。
 「なるほど、これはデートなのか」
 「ち、違うわよ!なに言ってるの!?」
 「だって玲奈が……」
 「他人のせいにしないの!まあ……凍夜がそう言うなら……デートってことにしても……いいけど……」
 頬を桜色に染め体を恥ずかしながらモジモジさせる様はとても女の子らしい。
 「じゃあ散歩でもするか。そうすりゃ目も覚めるだろうし」
 「そ、そう。じゃあ行こう」
 *   *   *   *

 観月に出かけることを伝えた凍夜はぶらぶらと外を歩く。
 悲しみや喜びなどのあらゆるものを包み吸収してしまう黒い空の下、凍夜と玲奈は別荘の近くにある海辺
に向かって歩いていた。この前まではすぐに落ちていた太陽も最近になっては少しずつ頑張っているようだ
が、まだ夏のように明るさを保つことはできないようだ。
 ――今は5月。仲の良い家族や友人にカップルはこのゴールデンウィークを楽しんでいるのだろう。ここ
にいる玲奈たちもその中に当てはまる。
 本当は凍夜と一緒に過ごしたいという願いは叶ったのは事実。ただおまけが要らなかった。できれば2人
っきりが良かったのだがこればかりはもうしょうがない。今を楽しもう。この場には2人以外だれもいない。
天敵の緋莉もいない2人だけの世界。
 そんなことを考えていたら心も身体も熱くなってきたが、海の近くのおかげで冷たい夜風が火照った身を
冷ましてくれる。
 別荘を出てから数分、石段を下った先に月光を受けて煌く海が広がる。無人の砂浜には凍夜と玲奈のジャ
リ、ジャリという足音と、勢いが全く無い静かに打ち寄せる波の音しかなく、それはまるで映画の1シーン
のようだ。
 「少し座るか」
 「うん……」
 別荘を背にし海を眺めるかたちで浜辺に座る。夜空を見ると星が点々とあり凍夜たちが住む住宅街では見
ることができないものだった。
 「すごいよなー、観月先輩の家って」
 「そうだね」
 「……」
 「……」
 お互い何を話せばよいのか解らず無言になってしまう。向こうではどんな暮らしていたのか聞きたいこと
は山のように多く、凍夜がいなくなったときの寂しさを愚痴にして困らせたかったはずの玲奈は、言葉に表
さない。話題が多ければ多いほど何を掴めば良いのか迷ってしまう。
 寄せては返す波の音はBGMのように2人の頭の中に入り込み、玲奈は自然が織り成す音楽を聞くことに
した。静かな波音が玲奈の心をクラシック以上に癒してくれる。海面にも広がる星は絵画を思わせどこか現
実離れしていた。
 「……ごめんな」
 凍夜の寂しい一言が先ほどまでの空気を掻き消す。凍夜の言葉は何に対しての謝罪かすぐに解った。
 「……もういいの。詳しい理由は知らないけど家の事情かなんかだったんでしょ?」
 湿った声が凍夜を困らせたいという玲奈の悪戯心を壊す。
 「まあ、そんなところかな」
 ふぅと一息。そして諦めたような声で言う。
 「それなら仕方ないよね……」
 玲奈も高校生だから子供の力の無さなんて嫌というほど知っているし、自分よりも長く生きている大人た
ちと衝突しては挫けた経験だってある。残酷なことに子供は親の言うことを従って生きていくしかない。ど
んなに抵抗しても結局は自分の力の無さに涙を流すのだ。
 だから過去のことは諦める。あのときはお互い小学生でカッコイイことを言ってもそれを実現することは
できないから。
 「でも、お願いだから……」
 声を震わせ懇願する。顔を俯かせ前髪で瞳を隠しているので凍夜からは表情を窺うことはできない。だか
ら玲奈が怒っているのか泣いているのか寂しがっているのか解らなかった。
 「もう2度と勝手にいなくなるのはやめてっ!!!なんであのとき何も言わないで消えちゃったの!?待
つ方の身になってよ!寂しかったんだよ?悲しかったんだよ?」
 凍夜の方を向いた玲奈の表情は涙でグシャグシャだった。大きく綺麗な瞳から溢れ出る大粒の滴は彼女の
思いを乗せて、頬を伝い、砂に混ざって消えていく。

 ――玲奈の顔はとても悲しそうで
 ――とても寂しそうで
 ――どこか怒っていて
 ――目を逸らしたくても逸らしてはいけない気がして

 「私たち幼馴染でしょ!?一言、たった一言で良かったのになんで何も言わなかったの?そんな関係だっ
た!?簡単に壊れちゃうほどの絆だったの!?」

 ――彼女の叫びは俺の心を壊しそうで
 ――でも彼女を追い込んだのは紛れもなく俺であって

 「凍夜のバカーーーーーーッ!!!!」

 ――気付いたら俺は彼女を強く強く抱きしめていた

 *   *   *   *
 長年溜めていた玲奈の心の叫びを吸い取ったのは星が煌く空でも月光を反射する海でもなく、1人の幼馴
染だった。そのおかげか玲奈もすぐに落ち着きを取り戻すが顔はまだ赤い。それは多くの涙を流したためか
凍夜の腕の中にいるためか。自分の顔が耳まで赤くなっていることぐらい玲奈も気付いている。その理由も
考える必要すらない。
 「凍夜……もう大丈夫。ありがと」
 正直まだ味わっていたかったが甘えていられない。玲奈は名残惜しそうに凍夜の身体から静かに離れた。
 「勘違いしないでね。泣いたのはアレよ、アレ。ほら……目にゴミが入っただけなんだから。それに悲し
いってのは私がなんか除け者っていうか、惨めな立場にされてイヤだったっていう意味だからね」
 「そっか」
 静かな海辺に凍夜の右ポケットの携帯電話から軽快な音楽が流れる。ディスプレイには『Eメール受信 
緋莉』と表示されていた。メールの内容は『散歩にしてはいくらなんでも遅くないか?しかも有澄と一緒に
行ったと聞いたが……いいか?もし不純なことをしたら怒るからな。あと有澄ばっかり構うんじゃなく他の
人とも接したらどうだ?すぐ近くにいるんだから。……少し話しが脱線したな。とにかく夜遅いから早く帰
って来るように』と、玲奈に対して嫉妬が混じったものだった。
 「そろそろ帰って来いだって」
 「ん~っ、じゃあ帰ろっか」
 立ち上がり伸びをする玲奈は吹っ切れた表情でいた。とても可愛い笑顔でそれを見た凍夜は驚いて頬を赤
く染める。
 (今の玲奈……すっげぇかわいい)
 「いつまで座ってんの?はやく帰ろ」
 「ん、そうだな」
 凍夜も腰を上げズボンに付着した砂をパンパンと落とす。そして玲奈を見つめて静かに口を開いた。とて
も真剣な眼差しで。
 「玲奈……俺さ」
 (この目つき……も、もしかしてこここここ告白!?ちょ、ちょっと待ってまだ心の準備がああああ!)
 玲奈の心はそよ風に吹かれるタンポポのように舞い上がり
 「――転校とかもうしないよ」
 (わ、私も凍夜のこといいかなっていうか、まあそこまで言うなら付き合ってあげるって、え?なに?て
んこう?)
 「親の都合とかでまたどこかに行くことはもう無いから安心して。まあぶっちゃけ英語なんて話せねーか
らアメリカに行く気がないのもあるけどな、ハハハ」
 大きく墜落した。
 「……えじゃない」
 「え?」
 「当たり前じゃない!なにをえらそぉぉ~に言ってるの?私にあんな思いをさせたのは死に値すると言っ
ても過言じゃないのよ?それなのにいきなり真剣な顔してこくは……じゃない、今のはなしっ!」
 「は?なに?コクハ?」
 玲奈は真っ赤になって凍夜をにらむ。
 「ばっ、今のなしって言ってるじゃない!それ以上言うならその使えない脳みそを鼻から引きずり出すか
らね!」
 文句を垂らしながらも笑う玲奈。先ほどまで泣いていた顔とは思えない女神のような美しい笑顔を知って
いるのは、世界中でただ1人。

 66億5051万人の中のたった一人である幼馴染だけだった。

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最終更新:2008年01月15日 18:23