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7スレ17

  • 作者 7スレ17氏

「つまらなかったわ」
「いやその……スンマセン」
 映画館の入り口を出るなり、ばっさり切り捨てられた。いや、確かにつまらんかったけど。それは俺のせいじゃなくね?とは思うが、言えない。残念ながら彼女とは、そういう力関係だ。
「だから『ラヴスカイ』はやめようと言ったのに。“中高生の絶賛”なんて、まったくアテにならない! 「たまには流行りのを見よう」なんて、あなたの口車に乗った私が莫迦だったわ。これだったら『劇場版漂白』のほうがよっぽどマシよ」
 やばい、相当怒ってる。白い頬がほんのり紅くなってるし。いや、これは寒いせいか?
 それにしても、彼女が怒ってる表情はとても素敵だ。薄い眉をちょっとしかめ(化粧品で描かれたものではなく、自前だ)、猫を思わせる瞳が、すっと細くなる。そして、薄い唇から紡がれる、きっつい言葉の数々。
 嗚呼、ちょーキュート。
 ――え? このM男が、って? それがどうした。
 しまった。彼女の眉がさらに鋭角になってる。これ以上怒らせるとさすがに怖いので、謝らなければ。
「ほんとゴメン……。って、もしかしてアニメでも良かった?」
「もしかしても何も。『漂白』の原作はひととおり目を通してるわ」
 なんてこったい。俺も見たかったのに。
「じゃあ来週にでも『劇場版漂白』見に行こうか」
「な、ん、で、それを今日にしなかったのよ……!!」
「ゴメンナサイ」
 ひたすら恐縮。そんなに『ラヴスカイ』がお気に召さなかったとは。
「ふん、まあいいわ。お昼にしましょう。今日は何?」
 助かった。話題が変わった。
「高嶋屋のレストラン街にパスタ屋が新しくできたんだけど、結構評判だそうで」
「ネットの口コミ?」
 うぐっ……なぜわかった。
「変更ね。あなたが行ったことのある、一番おいしい店に連れて行きなさい。値段と内装ばっかり立派な店なんかに連れて行ったら、承知しないわ」
「イエス、マム」


 彼女は“お嬢様”だ。中学から大学まで、地元では『お嬢様学校』として知られる私学に通っていた。親は実業家。名前はあまり知られていないが、高品質の工作機械を生産する企業グループの、創業家の三代目だそうだ。
 それに対して自分は、サラリーマンとパートタイマーの次男坊。両親ともに農家の生まれだ。公立でそれなりに頑張って、市立の大学に通っている。
 人から「なんでそんなつまらない男相手にしてるの?」と良く言われる、と彼女が言っていた。彼女には秘密だが、俺はもっと酷いことを言われている。巨根で篭絡したとか、レイプしたとか、そんなのは序の口だ(俺はでかくも小さくもない、平均サイズだっつの)。
 なぜ彼女は俺と付き合ってるのか。そんなのは俺も知らん。俺は彼女を愛してると断言できるが、彼女が俺をどう思っているのか、俺からは推測することしかできない。
 だけど――


「ごちそうさま、おいしかったわ。――こんなおいしい店を今まで秘密にしておくなんて、良い度胸ね」
「いや、秘密にしてたわけじゃないけどさ……」
 二度ほど駄目出しをくらい、結局、ラーメン屋に来た。スープは旨いし麺には気合が入ってる、俺のお気に入りの店だ。が、せまっくるしいカウンター席だけの、店主には失礼だが小汚い店で、彼女を連れてくるには失礼だと思っていた。
 意外にも、彼女は嫌悪感を示さなかった。「大学に入るまで外食をしたことがない」と言っていたのに。
「さて、午後は私につきあってもらうわ。具体的にはというと、春物の靴が見たいの」
「もう春物なんだ。早いね」
「そんなものよ。安心なさい、荷物持ちさせるほどは買わないわ」
 嫌悪感どころか、非常に気に入ってもらえたらしい。機嫌がなおってる。
「まずは地下街から。そのあと百貨店を全部まわるわ」
「……イエス、マム」


 なぜ彼女は俺と付き合っているのか。
 そんなのは俺が知りたい。
 宣言どおり、地下街も百貨店もすべて回った。買ったのは一足だけ。
「……つかれた」
「確かにたくさんまわったけど、歩いただけじゃない」
 それはそうなんだが、女性ものの靴屋だけを見てまわるってのは、精神的にも疲れる。基本的に暇だし。
 口数の少ない俺たちを、地下鉄が郊外へと運んでいく。繁華街をすぎたとたんに人が減って座れるので、楽で良い。
 淡々と駅が過ぎ、俺の下宿の最寄り駅に着いた。
 降りるために、立ち上がる。来週は『漂白』を見よう、と声をかけようと思ったら、彼女も立ち上がった。
「なにぼぉっとしてるの。閉まるわ」
「ああ、うん」
 一緒に降りる。……なんで?
「あなたの下宿、近いの?」
「まあ、歩いて10分ほど……く、来るの?」
 聞いてない。
「『私と付き合うための十二の要求』、三番目」
「『下宿は常に整理整頓』……だ、だけど、事前に言っておいてほ」
「五番目、『デートは一日予定がない日だけ』――まさか、守ってないの?」
「まさか、守ってるって。守ってるけど……」
 『私と付き合うための十二の要求』とは、彼女に告白したときに突きつけられた条件だ。
 別に無理難題を突きつけられたわけじゃないし、ぶっちゃけ守ってなくてもばれないたぐいのばっかなんだが、俺は律儀に守っている。“身分差恋愛”の引け目からか、と言われれば、否定しない。
「では、案内なさい」
「い、いえす、まむ……」
 なんてこったい。まさか我が下宿に彼女をご招待することになるとは。
 ……なんてこったい。


「綺麗にしてるじゃないの」
 どうやら日ごろの努力は実ったようだ。
「お褒めに預かり感謝の極み」
「なに、その大げさな言い方」
 僅かに笑う。怒った顔も好きだ、といったが、やはり笑顔にはかなわない。この笑顔のためなら死ねる。
「ささ、とりあえずお茶でも。コーヒーしかないけど」
 ちょっと良いコーヒーメーカーに、そこそこの豆と水をセットする。あとはお茶菓子(コーヒー菓子?)を用意して、待つだけ。
「……少し、驚いたわ。ちゃんと用意してあるのね」
「まあま、これくらいは」
 『彼女がうちに来たらどうする?!』という妄想の結果だとは言えない。つか、来ることがわかってたら、もっと良い豆とお菓子を用意する。
 芳ばしい香りが部屋を包む。砂糖とクリーミングパウダー、ティーカップ(これだって、もっと良い以下略)を並べ、できたコーヒーを注ぐ。
「どうぞ」
「ありがとう」
 彼女はストレートで口をつけ、一言「おいしいわ」と言ってくれた。妄想も捨てたもんじゃない。良くやった、俺。いやでも、やっぱりもっと良い豆を用意しとけば……
「で、夕食は何にするの?」
 ……夕食?
「なぜに夕食?」
「食べないの?」
「食べるけど……え、食べるの?」
「なんであなただけ食べて私が食べないのよ」
「それもそうだけど……あれ?」
 事態が飲み込めない。
「今日の夕食は、私が作るわ」
 幻聴か? 彼女の手料理?
「でも、帰り、遅く」
「ならないわよ。帰らないし」
「へっ?!」
 やめて、俺のライフはもうゼロよ! ――とか、素で考えてしまった。俺の脳はこれ以上の負荷に耐えられない。
「父は出張、母は絶好の機会と、友人と旅行。帰ってもひとりなのよ。暇だから、泊めなさい」
「……アイアイマム」
 やばい、緊張する。手が震えてきた。
 彼女はというと、冷蔵庫と台所の棚を物色している。
「ちゃんと自炊もしているようね。まあ、自炊も条件の一つだから、当然だけど」
 あなたはなんで、そんな冷静なの?
「鍋にするわ。こんな狭い台所じゃ、たいした料理もできないし。カセットコンロは?」
「ああ、こっちに――て、手伝うよ!」
 立ち上がって台所に駆け寄ろうとするが、
「大人しく待ちなさい」
 包丁を突きつけられました。
 とりあえず、テーブルの上のティーカップを片付け、カセットコンロを用意する。ガスは、まあ足りるだろう。
 彼女の手際は、驚くほど良かった。
 気がつくと、出汁の具材の入った鍋が火にかけられ、残った野菜と豆腐がざるに盛られていた。
「いただきましょう」
「い、いただきます」
 うまい。普通にうまい。出来合いの出汁の素を使ってない(そんなのはうちになかったはずだ)のに、見事。何をどうやって作ったんだか。
「ごちそうさま」
「おそまつさま」
 ひたすら食べた――二人きりの食事が気まずかったのもあるが。
 彼女は後片付けまでやってくれている。そりゃ、一人暮らし用ワンルームアパートの台所なんてたいしたもんじゃないから、二人一緒に台所に立つ、なんてできないけど。
 皿を洗う彼女、ぼんやりとテレビを眺める俺。“まるで新婚夫婦”という言葉を、なんとか思い浮かべないようにする。といっても、こういうふうに考えている時点で駄目な訳だけど。
 こっそりと、彼女を盗み見る。彼女は細い。和人形のよう、という形容を本人は嫌っているけど、俺はぴったりだと思う。長めのおかっぱ、といった具合の黒髪も、色艶ともに文句なしだ。
胸は、まあ、高校時代には巨乳派でならした身としては、物足りない、っちゃあ物足りないが、
「――」
 無意識だろう、何かの歌を口ずさみ、それとともに、腰が揺れる。
 いや、もちろん大げさに振っているわけではない。僅かに、だ。これも無意識なのだろうが。
 彼女の腰は、エロい。デカ尻という訳ではない。が、ウエストが細いので、女性らしい腰のラインがとても艶かしいのだ。きっとロングスカートの下は――
(まずい、妄想モードが)
 入りかけた。急いで視線を彼女から離す。あらぬ方を向き、深呼吸。これで落ち着ける、はずだったが。
(あれ、あれは――)
「こ、こんっ!?」
 彼女の鞄の近くに、コンドームがひと綴り。
(コンドーム?! なんで?!)
 神速で回収してポケットにねじ込む。
 心当たりが、ないわけではない。『彼女がうちに来たらどうする?!』という妄想の、延長だ。なんかの飲み会の帰りに、調子に乗って薬局の自販機で買ったことがあった。
(すて、すてたはずじゃあ)
 家に帰るなり、莫迦ばかしさと情けなさですぐにゴミ箱に放り込んだはずだ。が、酔った上での行動なので、確証がない。
(いや、まてよ、買ったのってこれだっけ? ――覚えがない)
 そもそも、だいぶ前の出来事だったはず。
 問題は、そんなことではない。
(彼女に見られたかどうか、だ)
 見られていたら――ま、ろくなことにならないだろうな。
「終わったわ」
「はいぃっ!」
「……?」
「あはは……なんでもないです」
 心臓に悪い。
 彼女が隣に座る。
 俺も彼女も、しゃべらない。ただぼんやりとテレビを眺めている。
「――お風呂は、毎日炊いているの?」
 沈黙を破ったのは彼女のほうだった。
「いや、シャワーで済ませてる」
「では、シャワーで我慢するわ」
 鞄から数種類の化粧品(と思われる)と、圧縮袋に入った着替えを取り出す。泊まるつもりで来た割に荷物が少ないとは思っていたけど、そんな便利グッズを使っていたとは。
 そのまま何も言わず、風呂場へと入っていった。かすかな物音の後、ドアの閉められる音。シャワーの音。
(気まずい)
 普段俺がシャワーを浴びている場所で、彼女がシャワーを浴びている。妄想するなというほうが無理な話だ。
「さて、世界の経済は、と……」
 もちろん頭に入らない。ハーフの美人キャスターですら眼中にない。
 ぱた、という音。おもわず飛び上がりそうになったが、どうやら彼女のシャワータイムは終わったらしい。まもなく、パジャマ姿の彼女が出てきた。
 色っぽくもなんともないチェック柄の普通のパジャマが、とんでもなくエロく見えるのは、きっと俺の修行が足りないからだ。
「つぎ、どうぞ」
「うん。あの、ドライヤー、これ」
「ありがとう」
 彼女にドライヤーを渡し、下着とTシャツ・ジャージ(パジャマ代わりだ)を引っつかんで風呂場に飛び込む。なんだか甘いにおいがするような気がするが、きっと気のせいだ。とにかく手っ取り早く済ませ、出る。
 彼女は、まだテレビを見ていた。少し逡巡したあと、彼女の隣に座る。
 再度、沈黙。ニュースも終わり、見たこともない深夜番組が始まった。
(つまらん)
 安っぽい番組だ。深夜なんだから、もっと刺激的でアグレッシブなのを作れっての。彼女なんか、隣に座ってるだけで俺をアグレッシブにさせるのに――何を考えてるんだ、俺は。鬱だ、氏のう。じゃなくて。
 頭の中が、ぐるぐると撹拌される。何がなんだかわからないし、冷静になれない。と――
 こてん。
 まさにそんな感じ。彼女が寄りかかってきた。恐る恐る窺うと、どうやら寝てしまったようだ。
(軽く自己嫌悪だ)
 彼女を退屈させてしまった。歩き回って疲れていたのかもしれないが、初めてのお泊りで、こんなに会話が少ないのもいかがなものか。
 ゆっくりと抱きかかえ、ベッドに横たえる。彼女の身体は、わかってはいたけど、とても細かった。
 掛け布団を――かける手が、止まる。

 彼女の、ゆっくりと上下する胸から、視線が離せない。控えめなものの、確かなふくらみが、呼吸とともに動く。その上には、華奢な肩、すらりとした首筋、シャープな顎のライン、そして、僅かに開かれた、薄い唇。
(あ――)
 気がつくと、自分の唇を彼女のに重ねていた。駄目だ、と思う暇もない、脊椎反射のように、俺は彼女にくちづけをした。
(最悪だ、俺)
 寝込みを襲った。これはもう、言い逃れのできない事実だ。しかし本能が、彼女の柔らかな唇をもっと堪能しろ、と命令する。
 進むか、引くか――葛藤の末、ようやく唇を離すことができた。申し訳ない気持ちよりキスの感動が上回り、それを自覚してさらに自己嫌悪に陥る。きっと、明日の朝に正直に話してしまったほうが気が楽になるだろう、と思えるほどに。
 とにかく、今は彼女の安眠を妨げないことしかできない。潤んだ瞳でこちらを見上げる彼女に掛け布団をかけて――かけ、かけかかかけかけ、
「い、いつから目がさめてたんで、す?」
「キスされて」
 ――終わった。そうだ、土下座しよう。
「あなたに、寝込みを襲う度胸があるとは、思わなかったわ」
「ごめん。ほんとに、ごめん」
 深く、深く土下座した。
「なぜ、謝るの?」
「――へ? なぜって……」
「言葉どおりよ。今、あなたは私に謝った。なんで?」
 彼女の真意がわからない。
「だって、そりゃ」
「今の行為は、あなたにとって、謝らなければならないもの?」
 彼女が上半身を起こす。
「も、もちろん」
「……私とのキスは、あなたにとって、そんなにも」
 そこまで言って、俯いてしまった。そんなにも、なんなのだろう。
 沈黙に耐えられず、俺は口を開いた。
「その、同意のないキスって、レイプ同然だってのは、わかってる。わかってる、つもりだった。だから」
「一般に」
 彼女が、遮る。
「一般に、男性の家に泊まる女性は、その気があるもの、と、いわれているわ」
 少しの間の後、もう一度「一般に、ね」と加えてくる。――そういう言い方をされると、
「つ、つまり、その気が、あるの……?」
「野暮は嫌いよ」
 恐る恐る聞くと、そう切って捨てられた。伏せられた彼女の瞳は、いまにもひとしずく、涙が零れ落ちそうだ。
 覚悟を、決めよう。
 彼女の肩に手を置いて、目を覗き込む。彼女はひとすじ涙を流し、瞳を閉じた。
 二度目の、キス。
 三度目のキスは深くなってしまった。自制が効かない。
「んっ……」
 逃げようとする彼女。反射的に、後頭部に手を回す。
 深く、もっと深く――いきたいが、彼女の手が胸板に当てられ、少し突っ張ってくる。
「がっつきすぎね」
 彼女の甘い粘液のせいだ。
「じゃあ、もうすこしソフトに」
 四度目。彼女の唇をつつくと、ゆっくりと舌が出てきた。どうやら彼女の意図を誤らずに済んだ。
 今度は、彼女が深くまで求めてくる。一方的に掻き混ぜられるのは、確かに辛い。
 気が済んだのか、ゆっくりと舌を引き抜いていく。雫が垂れないように唇をひと舐めしていくあたり、彼女らしい。
 「君もがっついているよ」とお返ししてやろうかとも思ったけど、大人気ないので止めて――
「……あなたにくらべれば、ましよ」
 顔に出ていたらしい。にやけてた?
「ふん」
 身体を横たえてしまった。
「一般にその気がある、の、その気って、どこまで?」
「野暮は嫌いといったはずよ」
 うん、まあ念押ししたかっただけだし。
 ゆっくりと、彼女の上に覆いかぶさる。彼女は耳まで赤くして、そっぽを向いている。
「あ、そうだ。私、結婚するまで避妊を怠らない主義なの」
 う、しまった。避妊を考えてなかった。避妊に気が回らなかったとは、リアルに凹む。
「そりゃ、そうだよね。うん」
「当たり前じゃない。妊娠したらあなたとできなくなるし」
 そこまで言って、自分の失言に気付く彼女。慌てて口を押さえるが、言葉はとっくに俺の耳に届いている。
「……そのにやけ顔をやめなさい。勘違いしないで、この莫迦。レイパー。一般論よ一般論」
 いや、そういわれても、無理。にやける。表情筋が崩壊する。
「もういいわ、勘違いするなら、勝手にしてて」
 ふてくされる彼女の髪に指を通し、触れるだけのキスを額に落とす。
 しかし、避妊をどうするか。ゴムがあるにはあるが、出所の知れないやつだしなあ。
「持ってないの」
「いやまあ、そこまで準備万端ではなくて……」
「持っているはずよ」
 彼女が強く言ってくる。
「持ってるでしょう? 良く思い出して。あなたは持ってる。ねえ、持ってるじゃない?」
「あ」
 そこまで言われて、やっと気付く。急いで穿いていたジーパンを探し出し、ポケットの中身を取り出す。
「うん、持ってた。準備してたよ。すっかり忘れてた」
「ほら、やっぱり。この助平」
 うん、まあ深く突っ込むのはやめよう。彼女の機嫌をこじらせて、良いことなど一つもない。
 経験のない者同士だったので、行為は酷く稚拙なまま終わってしまった。
 まるで、ままごとだ。
 でも、翌朝の彼女は上機嫌だった。朝御飯が食べたい、あれを作れこれが良い、無いなら買ってこい、と、やりたい放題だ。
 が、俺も機嫌が良かったので、それら全てを受け入れた。結果、金のかかった豪勢な朝食になってしまった。なまじコンビニなんてものがあるからたちが悪い。
 おなか一杯食べた後、自転車に二人乗りで彼女を家まで送った。早朝の道路はすいていて、とても気持ちよかった。「中学生じゃあるまいし、恥ずかしい」と彼女が言ったので「俺らには、中学生からはじめるくらいでちょうどいいんじゃない?」と返したら、殴られた。
 彼女の家の玄関で、キスをした。「これくらいからが、ちょうどいいのよ」と言われたので、もう一度キスして、別れた。
 キスに飽きたらもう一回しよう、と言ったら、グーで殴られた。「一生飽きないわよ」と怒鳴られ、追い出されてしまった。そういう恥ずかしいことは大声で言わないでほしい。
 けど――

 確かに、飽きなかったらどうしよう。困った。

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最終更新:2009年12月06日 00:21