8スレ11
「おい、そこのピアス」
「せめて名前で呼ばない?」
「呼んでほしければピアスを外しなさい」
「いつも言ってますがそれはムリでーす」
今の時代あまり見かけなない校門での風紀委員。遅刻者や校則違反者を厳しく取り締まり、学校の風紀を
取り締まるのが風紀委員である「折白 咲」の役目だ。
そしてこの学校には他校では見られないのはもう一つあり、それが葉々崎高校名(迷)物であるピアスと
呼ばれた「四條 未斗」とのやり取りだ。
「風紀委員長はクラスメートの名前も覚えられないんですかぁ?」
「覚えてるよ!!四條でしょ!?……呼んだんだからピアス外しなさい」
「名前呼んだらピアス外すなんて一言も言ってない」
「なっ!?卑怯よ!!」
「……」
いきなり黙って咲を見る四條。いや折白の後ろを驚いたような目で凝視していると言った方が正しいだろう。
それに気がついた咲は振り返る。―――――――――そこには特に何もなかった。ただ生徒が校門に入り、
風紀委員が校則違反者のチェックを行っているいつもの風景。
「ちょっと、何もないわ……よ?」
未斗の方へ振り返った……ではなく未斗がいた方に振り返った咲は
(騙された!!)
と、未斗一杯喰わされたことに気づく。
だが時すでに遅し。未斗はもう校内に入っていた。
咲が風紀委員になってからの服装チェックは今回も未斗の勝利となった。
どこの学校にも服装が乱れている者、授業中の態度が悪い者は存在する。存在するだけで周囲に悪い影響を
与え同じ様な者が出る。それは学校近辺の住民に悪印象を与えるだけでなく、この高校に進学したい中学生の
気持ちを奪うことにも繋がる。自分の出身校は誇れるものであってほしい。その一心で風紀委員になった彼女に
とって未斗の存在は校風を乱す癌である。
「では今朝の違反者報告を行う……とは言ってもそんなにいないだろ」
「先生!今日も四條がピアスを着けて登校しました!」
咲以外の風紀委員は「またかよ」と笑いながら呟いた。
「先生!これでは風紀が乱れ他の生徒に示しがつきません!なにか処置をとってください!」
「そう言ってもなぁ~。……いつも言っているが四條はピアスを着けてはいるが授業の態度や成績が悪いわけ
じゃないし……逆に四條を見て素行が悪い生徒の成績が良くなっているのも事実だしな」
この高校は別に校則が厳しいわけではない。成績が良いものはアルバイトが認められており、犯罪でなければ
染髪やピアスを教師は黙認している。入学当時から成績が良く特に問題を起こしているわけではない四條のピア
スについては学校は認めているのだ。
「それでは風紀委員の意味がありません!!」
「折白。お前は立派に風紀委員の職務を行っている。だが折白も一人の生徒なんだ。少しは肩の力を抜いて
高校生活を楽しんだらどうだ?」
「……ご心配ありがとうございます。ですが私は中途半端に職務を放棄したくありませんので」
教師はやれやれといった表情で軽く溜息をついた。
憂鬱な表情で教室に入る咲の目にすぐに映るのは友人と話す未斗の姿。
「しぃ~じょ~う」
「俺の名前はそんなユニークなものじゃありません」
「うるさい。アンタのせいで風紀委員の仕事が上手くいかないのよ」
「えー」
「えーじゃない」
「でも以前より服装が乱れてるヤツ減ってるじゃん。俺のおかげで。成績が良ければオッケーなのが解って
勉強しだしたヤツもいるし。単純だよねー」
「だからといってアンタが校則違反していい理由にならないでしょ」
「アッハッハ」
「笑うとこじゃない!」
「え?なに?泣けばいいの?」
「……そうね。跪いて涙流せば少しは見逃してあげるわよ」
ニヤァと微笑む。
「女王様って呼ぶわ」
「ちょ!?それは何か違う!」
両手を力いっぱいブンブンと振って否定する咲。
「イタイ!やめて下さい女王様!!いやんっ」
「当たってないでしょ!?それにいやんなんて言うな!!」
夕日が辺りを真っ赤に染め上げる放課後、委員会を終えた咲は学生カバンを取りに教室に戻った。そこには
花瓶を持った未斗の姿があった。
「そこの不良男子」
「どんどん酷くなっていくね」
「アンタにはお似合いじゃない。で?なにしてんの?」
視線を花瓶に移して聞いた。
「あーコレ?油で揚げたら美味いかなって……いうのはウソなんで睨まないでください。水をあげてただけ」
そんな面倒事やるなんて、と思いながらも睨みつける。
「睨まれたくなかったらピアスを外せ」
「やっぱそこなんだ」
まぁそりゃあそうですよねと表情で苦笑する未斗。そんな彼を見て少し見直した自分が馬鹿みたく思え、不快
になったのかイラつきながら咲は
「ねぇ。なんでアンタそんなにピアスしてんの?ってか何個開けてるのよ?」
彼のトレードマークであるピアスについて聞いてみた。
「開けてる数は5個」
「嘘っ!?」
ビックリ箱を開けたかのように咲は驚いた。
「うん、嘘」
「殴るわよ……?」
右拳をプルプルと震わせこめかみに青筋を立てる咲。
「冗談だよ女王様」
「そのネタはもういい!!で?本当は?」
「右耳に3と左耳に2個。んで眉と口に……全部で7個」
「はぁ!?バッカじゃないの!?」
「一応これでも成績は上位です」
「そういう意味じゃない!?」
「あっ。でもでも鼻にも開ける予定」
なんでこんな奴が成績優秀者なのだろうと思いながら溜息。そこには風紀委員としての怒りもなく、ただただ
呆れた感情しかなかった。
「それでピアスを開けた理由なんだけど……」
「それは……?」
「……教えてあげないよ。ジャン♪」
「ぶち殺す」
「うわー。風紀委員とは思えない発言」
楽しむように答える未斗に対し、先程の怒りが沸き上がる咲。
「まぁ小さい頃からピアスがカッコいいって思ってたんだよ」
「ふーん」
「折白はさー、もっと肩の力抜いたほうがいいよ。気楽にしんしゃい」
「それ、先生にも言われた」
同じことを同じ日に言われたからか咲はイラっとした。それもそうだ。事の原因は目の前にいる未斗のせいなの
だから。
「いつもムっとした顔してんじゃん。女の子なんだからなんて言わないけどさー。かわいい顔してんだから
笑顔も大事だろ?」
「はぁ!?」
コイツには何回も驚かされる。平気でテストで高得点取るは、校則破るは、いきなり突拍子もないことを言う。
「かわいい!?アタシが!?」
予想外だった。いつも風紀委員という一般生徒からは嫌われる役職にいたから男なんて寄り付かない。女子と
して最悪なことも聞いた。男子が自分のことを「いつも怒っているから彼女にはしたくない」などと話していた
のだ。人として正しい行動をしているのに何故そんなことを言われなければならないのかとショックを受けた。
コイツは本当に問題児だ。人をイライラさせたり、驚かせたり、…………喜ばせたり。
「普通にかわいい顔してんだろー。責任感強いのはスッゲー良い所だけど、折白も生徒なんだから学校生活
楽しまないと損だぞ?」
「じゃぁアンタが楽しま……!?」
(ちょっと待って!?アタシ今何を言おうとした!?)
「そんな折白にこのCDを貸してやろう……あっ別に損とそんなを掛けたわけじゃないから」
「……」
下らない冗談のせいか熟れたリンゴのように赤い顔は元に戻った。
「10年前位いに売れたバンドなんだけど何回かミリオン出したから知ってる曲だと思うけど」
「あーコレね。っていうかこのCD聞いただけで楽しい学校生活が送れるわけ?」
「それは折白次第。これはキッカケ」
「なによそれ?……まぁいいわ借りとく」
「おう。じゃあ帰るわー」
「ん。バイバイ」
パジャマ姿でベッドに寝転んでいる咲。頭に装着されているヘッドホンから流れるのは未斗から借りたCD。
ロック調な音楽を聴きながら歌詞カードに視線を送る。
「これ……懐かしい」
10年前にミリオンしたと言えば咲もテレビで何回も聴いたことがある。歌詞など全くわからない。ただ知って
いるのはサビの部分だけ。
「それにしてもこのヴォーカルどっかの問題児みたいにピアスが多いわね」
(あれ……この人のピアスの位置。アイツと同じ?)
未斗に足りないのは鼻にピアスがないだけ。それ以外は全て同じ位置にピアスがされている。
「影響でも受けたんだか」
そう呟いたとき曲が変わった。
その瞬間咲に鳥肌が立った。音楽に興味がなかった当時。頭にとても印象に残っている曲が流れたのだ。その
曲だけはイントロを聴いただけで当時好きだった曲と解った。
(あぁ。……このバンドだったんだ)
「10年前かー……!?」
(10年前?小さい頃?)
何か引っかかる。
なんだっけとても重要なこと……。
CD。ピアス。この曲。
「あっ」
思い出した。なんで忘れていたんだろう。
「四條」
思い出してくれっかなー。
『この曲いいよね!!』
『うん!』
『お金あったらCD買えるのになぁ……』
『そうだね……』
『ライブにも行けるのに……』
『よく知らない人達のライブなのに?』
『みぃ君うるさい!』
『でもライブってなんか怖そう』
『みぃ君は子供だなー。見て見てこの人!すっごいピアス!!カッコいい』
『痛くないのかなー』
『痛そうだけどカッコいいよね。みぃ君もやってみなよ』
『えー』
『ピアスしたらカッコいいよ!!』
こんな事でピアスするなんてカッコ悪いよな。ハッハハ。
速く思い出してくれよ女王様。楽しい学校生活送らせてやるから――――――――――――
数週間後、葉々崎高校にはピアスをした優等生の隣に可愛らしい風紀委員の花が咲いた。
最終更新:2010年04月20日 00:14