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幼馴染の恋人

  • 作者 604氏

 雨の降る帰り道の出来事だった。
 今日は月岡も一緒に帰宅だ。
「ねぇ、ナノ」
「ん?」
 雨が降るというのにナノは傘を持ってきてないし。
「副主君と付き合ってるの?」
 む。どうして女子はこう、色恋沙汰が好きなのだろうか。
「いいよね。副主君優しそうだし。ハロも優しいけど浮気性だもからなぁ」
「私は別に」
「だって、今だって副主君の傘に入って。副主君もちゃんとナノが濡れないようにしてくれてるでしょ」
「そうだけど」
 とりあえず、こういう場合は俺は口を割って入らないほうがいいよな。
 変なこと言って空気嫁って言われてもやだし。
「でもね。ツン。公人は」
 そこでナノの言葉が止まる。別に月岡には言ってもいいだろうが。
 というか、漫画とかにある図星さされて慌てるそぶりすらないんですが。
「ただの幼馴染だよ。別に付き合うとかそういうのないし。今だって私が濡れないようにってのは、教育の賜物だもん」
「そうなの?」
 それは俺が聞きたい。
「うん。別に好きとかそういう感情は無いからさ」
 …無いからさ。か。
「ねぇ・・・ねぇってば」
 ナノが早歩きで近づいてくる。俺はさらに歩みを速める。
 月岡と別れた後、俺はナノを置いて歩き出した。
「公人。聞こえてるんでしょ。止まってよ」
 二人の距離が縮まらない微妙な速度。
「公人!」
 足音が変わる。本気で走ってきたようだ。
 俺もそれに合わせて走り出す。段々とナノの足音が遠ざかり、そして雨音しか聞こえなくなった。
 もうすぐ家だ。
 後ろから近づいて来ない足音。
 そこまで距離はとらなかったはずだけど。
 俺は後ろを軽く見る。
 そこにナノの姿は無かった。
「・・・ナノ?」
 俺は少しだけ元来た道を戻る。
 強くなる雨足。傘無いんだから早く来いよ。
 足音が聞こえなくなった場所で辺りを見回す。
 あるのは民家と公園。
「まさか」
 公園のベンチ。
 屋根があるわけでもなく、雨曝しになったベンチにナノは座っていた。
 器用に体育座りで顔を膝にうずめている。
「風邪引くぞ」
「いいもん・・・公人に嫌われたから・・・」
 すでに濡れてしまっているため意味はあるのかわからないけど、俺は傘の影にナノを入れる。
 髪も服も全部濡れて。
「・・・戻ってくるなら・・・初めから・・・そうしなさいよ」
 泣いていた。
 ナノの泣いているを見るのは何時ぶりだろう。
「謝らないからな」
「いいよ・・・別に」
 膝から血が出てきている。ひょっとして走って転んだのか?
 声を出さないようにして泣くナノ。
 つい先日、もう悲しませないって自分に約束したはずなのに。
「ごめんね」
「なんでお前が謝るんだよ」
「だって・・・私が・・・悪いんだもん」
 顔を上げる。
 瞳には雨の雫とは違う大粒の涙が溜まっている。
「私だって、公人が、私のこと好きじゃないって言ったら、すごく、ショック、だもん。だから」
 一言一言ゆっくりと言葉をつむぎ出す。
「うっっ・・・ごめんなさい。ごめんなさい」
 ナノの瞳から涙が流れ落ちる。
「ナノ」
「んっっ」
 俺はナノの前に膝をつき、その唇を奪う。
 冷たくなった唇が俺の体温で少しだけ温かみをもつ。
「俺も変な意地はってごめん」
「怖かったよぉ。公人が、公人が、いなくなっちゃうって、思ったら」
 ナノが俺の背中に腕を回してくる。
 俺もナノを抱きしめる。
「俺がもっとしっかりしていればよかったんだよな」
「ううん。私が、初めから、ちゃんと、言えば」
 俺はもう一度キスをした。
 ナノが自分を責めないように。
「帰ろう。今日はずっと一緒にいるから」
「いいの?」
「あぁ。父さんも母さんもナノなら許してくれるさ」
 俺はナノの肩を抱いて立たせる。
「足、痛いか?」
「うん。ちょっと」
「じゃあ、帰ったら消毒してやるな」
「うん・・・ありがとう」
「んっ。ぁっ、い、いたいよ。公人」
「変な声を出すな」
 俺は手に持った消毒液を置き、ガーゼに薬を染み込ませてすりむけた膝に張る。
「うきゅぅぅぅ」
「お前、本当に空手やってるのか?」
「だって、普段は自分でやってるだもん。ゆっくり」
「だから痛みに弱いんだ。ほら、終了」
「きゃっ」
 俺がガーゼを張った傷口を少し強く叩く。
「うぅ。公人のバカバカバカ。本当に痛いんだからね」
「ガキ」
「むぅ。ガキでいいもん」
 ナノは頬を膨らませて、そのままベッドに横になる。
「そろそろ風呂沸くな。先に入っていいぞ」
 俺はナノが寝っ転がって濡れた布団をどうにかしないと。
「ねぇ」
「ん?」
「一緒に入る?」
「はぁ!?」
「ほ、ほら。公人だって濡れてるし・・・・・・あ、う。ごめん、今の無し」
「ほら、早く入れ」
「う、うん」
 ナノが部屋から・・・出て行かずに何してるんだ。
「ねぇ。入りたかったら・・・来てね」
 それだけ言うとトタトタと階段を下りていく。
 やばい。鼻血出そう。
 あいつも何を言ってるんだか。
「公人のばか・・・あんなに驚かなくても」
 なに機嫌悪くして独り言つぶやいてるんだアイツは。
「・・・ナノ」
「き、公人!?ほ、本当に来ちゃったの?」
「おいおい。んなわけないだろ。着替え持ってきたんだよ。お袋のだけど大丈夫だろ」
 俺はパジャマを脱衣所に置く。
「風邪、引かないように暖まれよ」
 俺が脱衣所を出ようとすると、浴室の戸が開く音がした。
 そして、濡れた柔らかい体が俺の背中に密着する。
「体・・・洗って」
「おいおい」
「洗ってあげるから」
「・・・ダメ。理性持たない・・・今だって辛いんだから」
「いいよ。公人なら。いつだって・・・私は」
 ナノが俺の服を脱がしにかかる。
 俺は微かに残る理性では、ここを動かないということだけしかできなかった。
 動いたら、この場で襲ってしまいそうで。
「・・・公人」
「なんだ」
「・・・私のこと好き?」
「あぁ、好きだ」
「本当に?」
「もちろん」
「だったら・・・して」
 俺は振り向いて抱きしめようとするのをなんとか踏みとどまる。
「ダメ?」
「うがぁぁ!!」
 俺は自分で自分の頬を叩く。
「公人?」
「ナノ。体は洗ってやる。けど、エッチはまた今度な」
「ぇ」
「そんな寂しそうな声出すな。少しだけ待て。こんな成り行きじゃなくてナノにはちゃんと・・・したいから」
 ナノが俺に体を預ける。
「うん。まって・・・る」
 その場に倒れこむナノ。
「ナノ!?」
 顔が真っ赤だ。それに、すごい熱。
 すでに風邪引いてたのか。
 俺はナノの体を拭き、パジャマを着せ、抱き上げベッドへ。
 風邪薬ってどこだっけ。それよりも、おばさんにれんら・・・着替えさせたのどう説明するんだよ。
 どうする。俺!!
 オロオロしていると、お袋が帰ってきてくれて全て丸く収まった。
 着替えさせたのもお袋ってことで。
 ナノは今、俺の部屋で寝ている。
 俺が頼んだ。後で色々説明を求められるだろうけど、俺が看病していたかったから。
 俺のせいで風邪をひいたようなものだし。
「公人?」
「大丈夫か?」
「うん」
 ナノが目を覚ます。
 熱は下がってきたかな。薬が効いてるだけかもしれないけど。
「あれ。私・・・公園で・・・えっと・・・!?こ、これ誰のパジャマ?それにここ公人の部屋じゃない」
「誰ってお袋の」
「なんで!?」
「なんでって。覚えてないのか?」
「え?」
 ナノは目を瞑って考える。
 その顔が段々と赤くなっていくのが薄暗い部屋でもわかった。
「却下」
「はい?」
「あれは事故。あんなこと私は言わないし、しない」
 ナノは人差し指を俺の顔に向ける。
「事故って」
「あ~もう。忘れて全部忘れて!!」
 枕を持って暴れるな。痛い、痛いって。
「はいはい。わかった、忘れるから。全部ちゃんと。だから大人しくしてろ」
「え・・・本当に忘れちゃうの?」
 どないせちゅうねん。
「やっぱなし。忘れて。うん、それがいい」
 ナノは布団をかぶると俺に背を向ける。
「ふぅ。まだ、風邪治って無いんだからちゃんと寝ろよ。明日は休みだし。俺の部屋使っていいから」
「・・・うん」
 俺はタオルと水を取り替えるために部屋を出る。
「ねぇ」
 ナノが顔をちょこんと出して俺の方を見ている。
「ん?何か欲しいものあるか?」
「ううん。あのね、体見た?」
「体って。ナノのか?まぁ、少しは見たけど気が動転してたからな。ほとんど覚えてないや」
「そっか」
 ナノはまた布団に入ってしまう。
「・・・待ってるから」
「え?」
「なんでもない。おやすみ!」
「お、おう。おやすみ」
 待ってるって、看病しててくれってことか?
 それとも・・・まだ熱あるのかな。あいつ。

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最終更新:2007年08月03日 20:39