ツルとカメ
「カメ、今日一緒に帰れる? 欲しいCDの発売日で」
「ん、どうだろう?」
水樹に言われて、僕はツルを見た。
友達と楽しく話をしているので、今日はツルとは別々に帰ることになりそうだ。ならば
問題ないと思うけれど、取り敢えず確認のために訊くことにした。以前、ツルの誕生日な
のを忘れて水樹や他の友達と遊びに出たときにはそれはもう酷い目に遭ったものだ。その
ことを思い出すだけで奥歯が震えそうになるけれど、今ではそれも良い思い出です。
「おい、ツルよ」
「何よ?」
いつものことながら僕に向けられる視線は冷たいもので、嫌われていないと分かってい
るがどうにも複雑な気分になる。ついさっきまでは友達に仏様のような笑顔を向けていた
から、それは尚更だ。そういう性格だと分かっているから持ち堪えているけれども、もし
分かっていなかったとしたらくじけていたに違いない。
「その目付きを直せよ」
「うっさい」
ここまではいつものやりとり、挨拶代わりのようなもの。
「で、何の用よ? そのつまんない言葉を言うためだけだったら、明日から女の子として
生きることになるわよ?」
おや、いつもにも増してキツいが何かしただろうか。今日一日のことを思い出してみて
も、とんと心辺りがない。その理由も訊くにも訊けない雰囲気だし、本題すらなんとなく
訊きにくい感じがする。
「早く言いなさいよ」
「そうよそうよ」
後ろで水樹が追い討ちをかけてくる。それ自体は構わないけれど、正直女言葉はやめて
欲しいと思う。外見は美少女のくせに、ちんこが付いている性別のこいつが悲しくも親友
であるせいで、必死に弁解をしていても未だに学園に僕がホモだという噂が根付いている。
せめて、制服を女子のものから男子のものに変えれば良いのに。
閑話休題。
「今日って、何も無かったよな?」
言ってツルの顔を見てみると、眉の端が僅かに動いた気がした。これは失敗したかと思
ってあれこれを思い出してみるけれども、残念なことに何も浮かんでこない。
数秒。
「何も無いわよ、馬鹿」
単なる僕の思い過ごしだったのか、ツルはすぐに笑顔を浮かべた。但し笑顔と言っても
年頃の女の子らしい可愛らしいものではなく、僕にだけ向ける特別なもの。悪意と皮肉を
大量に混ぜたその表情で下から見上げるようにして、
「楽しんできなさいね、ホモ野郎」
だから僕は同性愛者じゃないというのに。
あれから数時間、街中で適当に店を冷やかしながら時間を潰し今は水樹と二人で某有名
ジャンクフード店で遅い夕食を食べていた。向かいに座ってテーブルに突っ伏しながら、
水樹はゆるゆると僕を上目遣いで僕を見て、
「良いの?」
「何が?」
「ツルちゃん」
腕時計で時間を確認してみるが、まだ門限まで時間がある。
「問題ない」
「ふーん、そっか。でも、大変だねえ」
「何が?」
普段は結構はっきりと物事を喋るタイプなのに、こいつはたまに含みを持たせるという
か、少し遠回しに話すときがある。その場合の殆んどがこちらを気遣うときで、その度に
ありがたいと思える。だけれど、今回は今一つ要領を得ない。
「んー、これは個人の問題だけどさ」
「何だよ?」
こいつがここまで言わないのも、かなり珍しい。
「同棲、止めたら?」
正確には同居だ。
話は簡単なもので、従妹であるツルが何を思ったのか僕と同じ高校を受験して、近いか
らという理由で僕の家に居候することになったのが原因だ。僕の両親もツルの両親も共に
仕事が多忙なため、一年中殆んど帰ってこない。どちらも一人っ子なので寂しかろうと、
どちらの両親も一緒に住むことを勧めてきたのもあり、今はこうしてツルと二人暮らしの
状態になっているという訳だ。
その辺りの事情はどうでも良いらしく、水樹は目を細めると、
「大変でしょ?」
「そうでもないよ」
これは本心。
確かに独りで暮らしている方が楽かもしれないし、以前に比べて不便なことも多くなっ
たけれど、良い部分もたくさん出てきた。それは現実逃避と言われればそれまでだけれど
も、僕にとっては絶対に変わりようのない事実だ。
「だから大丈夫」
数秒。
「そっか、でも無理しちゃ駄目だよ」
「無理はしない性格だ」
「あはは、そうだね」
さっき時計を見てからもう、かれこれ二十分は経った。そろそろ帰る時間なので会計を
済ませて、店を出る。軽く手を振って水樹と別れた後は、自然と歩調が早くなった。
時計を見る。
先程店内で時間を確認してからさほど経っていないものの、気になってしまう。今くら
いならツルももう帰宅しているだろう。ついさっき再確認した二人でいる温かみが少し恋
しくなってきたのもあり、心も足も自然と加速をしてしまう。それに何より、ツルはキツ
いくせに意外とあれで寂しがりやだから、早く帰ってあげたいと思う気持ちもあり、ます
ます速度が増していく。帰ったら何をしてあげようかと考えている内に、気が付けば僕は
家の前に立っていた。
「ん?」
どこか、様子がおかしい。
首を少し動かして家全体を見てみれば、すぐに違和感の原因に気が付いた。いつもなら
点いている筈の灯りが点いておらず、それどころか人の気配すらない。試しにドアノブを
捻ってみれば、しかし鍵はかかっていなかった。
「ただいま」
返事は、ない。
不安に駆られてリビングに入り、灯りを点けると予想外の光景が広がっていた。
豪華な食事。
綺麗な花。
しかしそれらは床に散らかされていた。だけれど、一番の問題はそれじゃない。それら
が散乱する中心で、少し洒落た格好のツルが座り込んでいた。その顔に浮かべているのは
悲壮な表情で、目元で灯りを反射しているのは涙だろうか。
「あ、カメ」
僕に気が付いたのか、視線をこちらに向けて力のない笑みを浮かべた。
「どうしたんだ、灯りも点けないで。それに」
この惨状は。
「ごめんね、今片付けるから」
ツルはだるそうに立ち上がると、割れた皿の破片を集め始めた。
だから、何があったんだ。それに、
「危ないぞ」
「だいじょう…痛ッ」
言った側からツルは指を切ってしまったらしく、細い指先からは肌の色とは対照的な、
赤い雫がゆっくりと溢れた。しかしツルはそれすらも気にならないようで、黙々と破片を
集めている。いつもの姿からは想像できない、一人の弱い女の子がそこに居た。
「止めろよ」
「えへへ、ごめんね」
「止めろ」
「えへへ」
「止めろッつってんだ」
抱き締めるように押さえつけて、漸くツルの動きが止まった。
「どうしたんだよ、おかしいぞ?」
「うん、ごめんね」
さっきから謝ってばかりで、本当に意味が分からない。
「ね、今日って何の日か分かる?」
分からない。
「今日ってね、アタシとカメが二人で暮らし始めて丁度一年目の日なの」
そうだったのか、すっかり忘れていた。
謝ろうと思ったけれども、口を挟む間もなくツルの言葉は続いていく。
「だからお祝いしようと思って、それなのにカメは忘れてて、でもサプライズになるかと
思ったから良いと思ったけど、いつまでも帰ってこなくて不安になって、外でご飯食べる
ってメールが来て、愛想を尽かされたんだと思って」
「もう、良い」
これ以上の言葉は要らないというのに、尚も言葉は止まらない。
「いつも酷いことばっかりしちゃうし、アタシ幼児体型だし、性格も口も悪いし、だから
告白しようと思っても自信がなくなってきちゃって」
結果、こうなったのか。
「ねぇ、カメ。カメは…」
続く言葉を待たずに、僕はツルと唇を重ねた。
数秒。
漸く唇を離すと、驚いたような表情でこちらを見ているツルの顔があった。それはそう
だろう、いきなりキスをされたら、しかもそれが初物だったら誰でもそうなるに決まって
いる。少し罪悪感もあったけれども、後悔はしていない。心の底から思っての行動は、僕
にそれだけの結果を与えてくれた。
「順番が逆だよ、馬鹿」
「ごめん、好きだツル」
言いながら、再び唇を重ねた。今度はツルの方から、積極的に僕の口内を求めてくる。
舌を絡め、唾液の交換をして、唇を離すと互いの顔の間に透明な橋が架った。
「ね、カメ。ベッド行こ?」
少し展開が早くないですか?
「無理しなくても良いぞ? こんなことをしなくても、僕はツルが」
「良いの」
強引に言葉を断ち切ると、笑みを浮かべ、
「今日告白して、初めてもあげるって決めてたから」
数分。
女の言葉は最強の武器だ、現に僕は今ツルと二人でベッドの上に居る。
「しかしなぁ」
「何? さっきも言ったけど、アタシなら」
「本当に乳がな痛ァッ」
「うっさい」
拳骨が飛んできた。 しかしこれは自分のせいだと諦める、素直に誉めなかった僕が悪い。実際こうして照れ
隠しの発言でもしていないと、幼児体型ながらも綺麗な体に、いつまでも見入ってしまい
そうになる。それ程に、ツルの裸は魅力的だった。華奢なのに柔らかい体も、白くて滑ら
かな肌も、全てが麻薬のように思考を溶かしていく。
我慢できずに平たい胸に吸い付くと、擽ったいのか小さな声が漏れてきた。
「カメ、赤ちゃんみたい」
「人のこと言える体かよ」
「黙れ馬鹿」
二度目の拳骨。
本当に痛かったが、それでもツルへの愛撫は止めない。
暫くして股間に手を伸ばすと、そこはもうかなり湿り気を帯びていた。軽く指を差し込
んで掻き混ぜるだけで高い水音が響き、指先には粘着質な液体が絡み付いてくる。ツルの
声もかすれて高いものになっていた。
もう入れても良いのだろうか、悲しいことに童貞にはその判断が上手く出来ない。水樹
から借りたエロ本の知識を総動員してここまでやってきたが、それだけでも奇跡のような
ものだ。
いきなり入れても良いか訊くのはマナー違反だと思うので、まずは軽いトーク。
「濡れやすいんだな」
しまった、これだと只の変態だ。
「馬鹿……相手がカメだから」
顔を赤く染めて言うツルはとても可愛い。顔を背けていた上に後半は小さな声だったが、
内容はしっかりと聞き取ることが出来た。それを聞いて浮かんでくるのは只一つ、嬉しい、
という気持ちだ。
「もう、挿入れても良いんだな?」
「うん、来て?」
ぬめる割れ目に先端を当てて、ゆっくりと沈めていく。少し進むと、抵抗のようなもの
にぶつかった。これが処女幕というものだろうか。
「痛ッ、良いから、進んで」
言われ、一気に奥まで押し込んだ。割れ目から流れる血と同時に、目尻から一雫の涙が
溢れ落ちる。それは痛みのせいなのか、それとも嬉しさか。
「カメ、これで」
「非処女になったな」
「馬鹿」
拳骨。
「こんな年、こんな体型で非処女なんて両親も泣いているだろうよ」
「誰がやったと思ってんのよ」
「おやロリコンがここに一人」
「この変人」
「恋人だろ」
言うとツルは黙り込んでそっぽを向いた。その仕草が可愛らしく、思わずキスをして腰
を動かし始めた。潰されそうなキツさと、ぬめりながら全体を擦りつけてくる感触が快い。
数分。
限界が近いらしく、ツルの中が小さく震えるように締め付けてきた。同じく僕の限界も
そろそろ近い。
「ツル、もう出そうだ」
「良いよ、中に」
出して、と言う代わりに僕の腰に脚を絡めてくる。
それが嬉しくて、射精感はすぐにやってきた。
一瞬。
「あ、出てる」
ツルの中に全て放出し、引き抜くと割れ目から粘度の高いピンク色の液体がゆっくりと
溢れ出てきた。これが始めてを貰った証だと思うと嬉しくなる。
「何、人の股間を観察してるのよ」
手で割れ目を隠しながら、ツルが睨みつけてくる。その視線はいつもと同じ冷たく鋭く、
悪意も皮肉も大量に混じっているけれど、だけれど僕にしか分からない温かさもあるもの。
昔から変わらない、彼女の表情。
「愛してるよ」
「……馬鹿」
四度目の拳骨は飛んでこなかった。
最終更新:2007年08月04日 00:29