ツルとカメ-2
例え自分は悪いことをしていない筈だと分かっていても、それでも罪人の立場に陥って
しまうことはある。この世界はそんな風に出来ていて、人間一人の力では抗うことが出来
ないと言う事実が存在するのだ。仮に無実だとしても大衆が悪だと認めた場合、身の潔白
を証明できなかった場合、相手が自分よりも正しかった場合。
そして、相手が自分よりも優位に立っていた場合。
こんなときに人はただ嵐の波間に漂う板の切れ端のように無様に運命に翻弄され、流さ
れることしか出来ないのだ。かくも無力なのは人の悲しい性也。
「何をブツブツ言ってんの? 視線がおかしな方向を向いているわよ?」
「すみません」
今現在、僕は正座中。時間は朝のHR前、場所は教室。特異な状況だけれども、身長が並
より高いこと以外は平凡を極めたような一般市民である僕にはこんな状態を打破すること
は出来ず、この苦痛を受けることに甘んじている。
黒いストッキングを至近距離で眺めることが出来るだけの状況で、神は僕に何を教えよ
うとしているのだろうか。人類には、人知を超えたものの考えることは理解できない。
「あぁ、この哀れな迷える子羊に救いの手を!!」
「うっさい、哀れなのはアンタの脳味噌よ!!」
言葉と共に、華奢だが綺麗なラインを描く脚が飛んでくる。間一髪で避けたのは良いが、
それのせいでツルの眉間に寄る皺が増えた。不機嫌さを表すメーターである皺は、もはや
危険区域。数にして五本を数えていた。
「それより、人の話をちゃんと聞いてたの!?」
「聞いてます」
何故こんなことになったのか、話は約10分前に遡る。
『あれ?』
鞄を開くと見慣れないもの、いや逆に見慣れたものが入っていた。昨夜教科書を入れた
ときには絶対に入っていなかった、学校にはふさわしくない本。僕が定期購読をしている
もので、表紙には『マエバリマニアック』という文字がポップな色で踊っている。名前で
どんなものかは簡単に分かるが、要はエロ本だ。特に気に入っている先月号だが、これは
先日しっかりとしまったのを覚えている。
何故だろう、と首を傾げていると背中を軽く突くものがあった。振り向いてみれば鬼の
ような表情をしたツルが、仁王立ちをして僕を睨んでいた。普段から僕に対しては高圧的
で不機嫌なことの多い彼女だけれども、今日はそれとは少し違った。不機嫌なのではなく、
ただ純粋に怒っている。
『どうした?』
『その本』
手指で指し示すのは、僕が鞄の中から取り出した『月刊マエバリマニアック』。何故か
嫌な予感がして一歩後退するが、距離を広げないようにツルも一歩前進。更に一歩、恐る
べき迫力を持って近付いてくる。
『昨日ね、カメの部屋を掃除してたら出てきたの』
成程、つまり見付けたという証明に入れたのか、納得した。これは多分女性だったら、
誰にでもある本能のようなものだろう。僕にはそんな経験はないが母親が息子のエロ本を
発見した後で本人の目に見える場所に移動させるというのはよく聞く話だ。
しかし疑問が残る。
『かなり奥にしまった筈だと思うけど?』
『隠してそうな場所を念入りに掃除したのよ』
『そりゃガサ入れって言うんだ馬鹿』
『馬鹿はアンタよ!!』
脇腹に拳が叩き込まれ、思わず蹲ってしまう。毎回肝臓の上を的確に殴ってくる上に、
一発一発の威力が半端じゃないので毎回止めるように注意しているけれども未だにそれを
聞き入れる様子は見られない。しかも今回は注意の言葉すら言えないような強さだった。
ボディブローはもっとゆっくり効いてくるものではないのかとか、その小さな体で何故に
こんな力があるのかとか言いたいことは山程あるけれども、それは鋭い視線で遮られた。
ツルは椅子の上に立ち、僕を見下ろしながら怒鳴ってくる。
『しゃがんでないで、ちゃんと正座!!』
言われた通りに正座する。
『良い? 大体アンタは……』
こうして説教が始まり、今に至る。
「またよそ見して、聞・い・て・ん・の?」
僅か数cmの距離で僕を睨みつけ、一文字ごとに力を込めて発音する。合わせるように額
に拳を当て、回転させているのが地味に痛い。学校の中でこんなにツルと顔を近付けるの
は初で、こんな状況じゃなかったらどれだけ良いだろうと溜息を吐いた。
「何のつもりよ、生息かけて、中途半端に生温い。嫌がらせのつもり?」
「これは事故だ」
殴り掛ってきたツルの左腕を掴む。これ以上肝臓を打撃されてしまったら、本当に機能
が駄目になりそうだ。この年で成人病にはなりたくない。
「大体、何でそんなに怒るんだよ」
「言わんと分からんのかァ!!」
続いて飛んできた右の拳も受け止めて、力比べの状態になる。幾ら僕がしゃがんでいる
とはいえ、身長差が40cmの筋力差は普通かなりのものだと思うのに、その固定観念を打ち
崩すようなこの力は女の子としてどうかと思う。言えばもっと酷いことになるから決して
言わないけれど。
数分。
やはり尋常ではない筋力を持っていても性別は女、男の僕に力敗けをしてきた。そもそ
も、これだけの体格差があるのに今まで拮抗していたのがおかしかったのだ。どちらの方
が異常なのかは分かるだろう、僕達を遠巻きに眺めている教室の諸君!!
しかしただ負けることを許さないのがツル、劣性になってきていると分かるや否や頭を
後方へと引き、
「ふんぬっ」
気合いの言葉も猛々しく頭突きをかましてきた。半分予想していたことなので僕は額で
受け止め、そのまま力の拮抗する三角地帯が出来た。
不味い。
僕は座っているので上半身の筋肉しか使えないけれども、立っているツルは全身の筋力
を持って推してくる。このままでは確実に殺られてしまう。
僕か心の中で我らが主への言葉を紡いでいたとき、
「おはよう。ツルちゃん、カメ」
「おはよ、ツル。またあんたたち妙なイチャ付き方して」
一筋の光明が見えた。
ホモ疑惑のある僕の親友水樹と、レズ疑惑のあるツルの親友コイが寄ってきた。挨拶の
ついでにかけられた言葉に反応してツルは勢い良く飛び退き、僕は漸く解放される。
「おはよう、水樹、コイ」
片方は男だが、外見は両方とも美少女なので朝から目に優しい。特にコイの巨乳は薬を
通り越して毒になる程の威力だ。ツルもこのような大きさに育ってほしいと思うけれども
身長や顔から見れば今の貧乳を通り越してもはや無乳と表現した方が正確であろうその乳
も捨てがたく矛盾と言っても過言ではない感情が僕の心の中でいけない感じに戦ってどう
すれば良いのだろうか誰か教えて下さ……
「カメ、大丈夫?」
「余裕さ!!」
つい条件反射で答えてツルに振り向いた。小学校のときに僕よりも若干大きいちんこを
確認したので男だというのは分かりきっているが、それでも見た目は学年でトップクラス
の美少女なので貧乳も良いかと思わせられた。と言うか男だから乳が無いのは当たり前で、
これでパッドでも入れて来られた日には本気で絶縁を考えなければならないと思う。因み
に女子の制服を着ているのは昔からなので、慣れたと言うよりも諦めた。
「どうしたの?」
「何でもない」
「変なの」
変なのはお前だよ!!
「で、何であんたら朝からイチャ付い……力比べなんかしてたの? この腐れちんこが何
かしたの? 膜は無事?」
そんな発言ばかりするからあなたにはレズ疑惑が付いて回るんですよ。
ともあれ、僕もツルが怒っていた理由がよく分からなかったので、視線を向けた。この
二人が居る今なら、先程のような真似はしてこないだろう。ツルは僕を除き、人の迷惑に
なるようなことはしない女だ。
「これよ」
ツルの手に握られているのは、例の本。
「雑誌?」
中身を知らない人が見たらそう思うだろう。一般の人でも手に取りやすく、電車などの
中でも安心して読めるように表紙は普通の雑誌を装っている。因みに僕はそれに惑わされ
ず、タイトルをしっかりと確認して買った。
「雑誌なら良いんじゃない」
案の定騙されたコイが小首を傾げた。男、特に僕を嫌っているらしい彼女だが別に性格
は悪い訳ではなく基本的には公平だ。だから流石にやりすぎだと思ったのだろう、ツルと
本を不思議そうな目で見つめている。
しかし、それも短い間だった。
「エロ本よ」
「最っ低ェ」
短く吐き捨てられたツルの言葉に同調するように冷たい視線で睨みつけてくる。何故だ、
男だったら誰でも持っているものだし、そこまで酷い目付きで見てくることはないだろう。
僕が何をしたって言うんだ。
「ツルちゃんもコイちゃんも言い過ぎじゃない? あたしは持ってないけど、男はエロ本
なんて殆んど皆持ってるし。ねぇ?」
水樹がフォローするように言葉を挟み教室の中を見回すと、殆んどの男が頷いた。その
後で女子に睨まれ股間を隠して身を縮めたのは多分正しい判断だろう。
「ほらね?」
「でも、タイトルがこれよ? 読んでみなさい」
「マエバ……これは無理だね、フォロー出来ない」
水樹までもが、引いた表情でこちらを見てきた。四面礎歌とは正にこんな状態のことを
言うのだろう。他の男子に助けを求めようにも皆女子に殴られているので期待は出来ない。
状況は絶望的だ。
「極めつけはこれよ、わざとらしく巨乳特集のところに折り目なんか付けてさぁ。カメ、
アンタこれは何の嫌がらせよ!?」
ん?
僕は目を細めてそのページを見た。確かに折り目が付いているけれど、僕は付けた覚え
は全くない。僕は元々、例え雑誌と言えど本は大事にする方なのでページに印を付けると
しても栞を使う。特に大事にしていた先月号は汚すことすら嫌なので飲食をしながら読む
ことさえしていない。それなのにこれは、どういうことだろう。
その考え込んだ数秒間が悪かったのか、ツルの目元にはみるみる涙が溜ってきた。
「どうせアタシはチビな上に国産黒毛貧乳よ!! カメなんか金髪巨乳外人と仲良くしてろ
馬鹿あぁァッ!!」
捨て台詞を残して教室から出ていった。
「あ、ちょっと待てコラァ!」
思わず追い掛ける。始業の予鈴が鳴った気がしたけれども、今はそんなことは関係ない。
数分。
無意味に広い校舎の中を駆け回りツルを捜すが、しかし見付からない。こんな時ばかり
は、施設が充実しているこの学校のことが恨めしくなる。八つ当たりだと分かっていても
つい舌打ちを一つ、天井を軽く睨みつけた。
不意に、悲鳴。
声が聞こえた方向へ駆けると、階段の上からツルが落下してきた。思わず抱きとめたが、
漸く弁解の機会が与えられたことに気が付いた。HR中なので周りに人も居ないから、何を
言われても何を言っても問題ない。
「離しなさいよ馬鹿」
「嫌だ」
短く言って、抱く力を強くした。後ろ向きなのでどんな表情をしているか分からないが、
きっと泣いている。僕に辛く当たってくるくせに寂しがりやなこの少女は、いつもこうし
て一人で考え込み、後悔して泣いている。昔からそんな一面を見続けてきた僕だからこそ、
よく分かる。
「何よ、貧乳は嫌いなんでしょ?」
随分と話が飛躍しているな、いつものことだが。
今回の話を簡単に言ってしまえば、僕が巨乳好きだと思ったから貧乳な自分には興味が
ないとでも思ったのだろう。一昨日僕に抱かれておいて、随分な話だ。
「僕は、ツルが好きなんだよ」
言うと、ツルの体が一瞬震えた。続いてもがくように暴れ、腕の拘束から強制的に脱出
する。振り返って僕の顔を覗いてくるのは、不機嫌そうないつもの表情。
「本当に?」
「マジで」
答えるなり、ツルは僕の手を引いて歩き出した。上っている階段の先は屋上の筈だが、
どういうつもりなのだろうか。一時間目まではまだ若干の余裕があるけれども、そろそろ
教室に戻った方が良いと思う。
立ち止まったのは屋上の扉の手前、踊り場だった。
「どうしたんだよ?」
「ちんこ、出して」
いきなり衝撃的な発言をされ、驚いて顔を見てみれば赤く染まっていた。恥ずかしいの
かそっぽを向いているが、そんなに辛いなら言わなければ良いのに、と思う。
「早くしろ!!」
怒鳴るように言われて、慌てて股間のものを露出した。いきなりのことで、つい従って
しまったけれども、一体どうするつもりなのだろうか。
まさか。
不穏な想像が幾つも浮かんでくるが、答えはどれでもなかった。
「何、してるんですか?」
「お詫び」
言って、ツルは先端を一舐め。今まで味わったことのない感触が股間の先端に当たり、
あまりの快感に声が漏れた。それに気を良くしたのか、相変わらず不機嫌な表情のままだ
が何度も刺激を与えてくる。
「お詫びって何だよ?」
ツルは口を離すと、
「さっき酷いことしちゃったし。一昨日のことで、股は痛いから」
下品な上に直接的だが、何とも分かりやすい。
「でも、人がくるかもよ?」
「今の時間なら大丈夫、そのためにここにしたんだし。だから」
再びツルは僕のものを口に含み、動かし始めた。淫猥な水音が無人の廊下に響き渡り、
僕をより興奮させていく。初めてだから当然なのだが、歯が時々当たるのがそれを増長さ
せた。口の中で更に大きくなり、元々あまり大きくない口内を埋め尽くすようになりツル
は少し苦しそうな表情を浮かべた。
だが逆に僕は全体を圧迫されていて気持ちが良い。歯が当たる回数が増えたけれども、
あまり痛くなく、寧ろアクセントになって心地良かった。
不意に、手がツルの胸へと伸びた。それに驚いたのか、絡み付くように竿をなぶってい
た舌が跳ねた。続いて、僕のものを口から出すとこちらの顔を睨みつけてくる。
数秒。
「……すみません、調子に乗りすぎました」
「改めて訊くけど」
何だろう。
「巨乳、好きなの?」
「詰まっているのは乳脂肪じゃなくロマンだと思うときが多い」
再びの沈黙。
しまった、素直に答えすぎた。
「うあぁん、ちんこを殺してアタシも死んでやる!!」
「待て、そこに脳や人格はない!!」
しかし僕の制止も聞かず、強く歯を立ててきた。
「落ち着け、僕が好きなのはツルだけだ」
「本当に?」
僕のものを口から出しながら、潤んだ上目遣いで見上げてくる。態度が可愛いのは良い
が、何ともせわしない娘だ。
「本当だ」
これは、嘘じゃない。
「……でも、アタシも頑張るから」
「そのままで良いさ。前にも言ったけど、僕はロリコンだから」
自分でも少し恐ろしい発言だと思ったけれど、ツルは何も言わずにまたしゃぶり始めた。
心なしか嬉しそうに見えるのは、気のせいではないだろう。
僕も嬉しくなり髪を撫でると、顔や舌の動きが加速した。コツを掴んだようで、僕の弱
い部分を重点的に激しく責めてくる。正直、ここまで気持ちの良いものだとは思っていな
かったから、予想よりずっと早く限界が来た。
「出るぞ」
口に出して、と言わんばかりに大きくストロークをして、一気に根本まで喰えてくる。
「んっ」
次の瞬間、思わず出してしまった。竿の中に微妙に残ったものを吸い出したあと、ツル
は天井を向き、音をたててゆっくりと精液を飲み込んでいく。
「大丈夫か?」
「不味い」
そう言いながらも口の端から垂れるものを指で拭い、しゃぶるように舐めとっていく。
ぼくがそれを眺めているのに気付き、ツルは頬を赤く染めた。
「……もう一度訊くけど、巨乳、好き?」
どうやら余程気にしていたらしい。引っ張りすぎだと思ったけれども僕は笑みを浮かべ、
「ツルの乳が一番好きだ」
「馬鹿」
ぶん殴られた。
最終更新:2007年08月09日 18:34