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ツルとカメ-6

  • 作者 79氏

 日曜日、朝の十時にもなれば番組も特に面白いものもない。目新しいものもなく、取り
敢えずチャンネルを回し僕は珈琲を口に含んだ。三つ程変えたところで面白そうな特集が
目に停まり、そこで固定して珈琲をもう一口。全国の色物新商品を不味そうに食べている
アナウンサーを少し気の毒に思いながら手元にあるモナカをかじった。
 電子音。
 誰だろうと思いながらマグカップを置き、立ち上がる。最近は結構辛い性生活を送って
いるせいで、足腰がたまに重いときがある。昨日もかなり激しかったので朝から少し眠気
や疲労が溜っていて、正直少し面倒臭い。
 電子音。
 二度目のチャイムが鳴り、少し早足で歩く。
「はいはい、今出ますよ」
 我ながら年寄り臭い、たまにツルに指摘される部分だ。モナカやフガシが好きな部分は
まだ良いのだが、肉や脂物が苦手なことを真顔で心配されると本気でへこんでしまう。僕
は普通にしているつもりなのだが、やはり高校生でこれは不味いんだろうか。
 そんなことを考えながら玄関のドアを開くと、眩く日光を反射する金髪が目に入った。
「あ、おはよう」
「おはようございマス」
 センスが笑顔と共に挨拶をする。流暢だけれども一部のイントネーションがおかしいの
は、愛敬だろうか。特に気にもならず、寧ろ個性と言うのだろうかか、可愛く思えてくる
から不思議なものだ。服装もYシャツに黒のフレアスカートと素朴な彼女に似合ったもの
で、素朴で素直なセンスが着ると一種の様式美のように思えてくる。
 しかし朝から目の保養が出来たのは良いことだが、何故ここにセンスが居るんだろう。
ツルは今日、友達と遊びに出かけているから家に呼ぶ用事もなかった筈だ。寧ろセンスも
それの面子に入っていると思っていたので、わざわざここに訪ねてくる理由が分からない。

「まあ、とにかく上がれ。珈琲くらいは出すから」
 取り敢えず玄関先に立たせておくのも失礼だと思い、家に入れることにした。わざわざ
来てくれたのに一人で追い返してしまう程、僕は悪人じゃない。
「失礼しマス」
 何気無くセンスの足下を見ると、スニーカーだった。同年齢の僕が言うのもおかしい話
だけれど、この位の女の子はもう少しお洒落に気を付けるものだと思っていたが、センス
にはあまりそんな部分はないらしい。
「どうしたんデスか?」
「何でもない、それよりリビングで待ってろ。珈琲で良いよな?」
 不思議そうな表情でリビングに向かうセンスを見届けて、台所へ向かった。珈琲は先程
煎れたばかりだったので量も熱さも問題ない。アメリカ人向けの茶菓子は何にしようかと
思ったが、リビングに置いてあるモナカで良いだろうと結論し珈琲だけを持っていくこと
にした。ここで日本の文化を知ってもらうのも悪くない。
 リビングに入ると、センスが小首を傾げているのが目に入った。何をしているんだろう
と視線の先を辿ってみれば、モナカだった。多分珍しいのだろう、僕は特別外国の菓子類
に詳しい訳ではないからはっきりとは言えないが、これに似た食べ物はあまり存在しない
気がする。無邪気な疑問を顔に浮かべ、光沢のある表面を手指の先で突いたり撫でたり、
まるで幼い子供のように見える。大きい乳に反比例するようなその仕草に不思議な気持ち
に、思わず頬が緩んでしまう。
「はい、アメリカン」
 一度ネタとしてアメリカ人にアメリカン珈琲を出してみたかったのだが、冗談が通じな
かったらしい。笑われることもなく、普通に受け取られた。センスは一口飲むと美味そう
に顔を綻ばせ、こちらを見る。

「ありがとうございマス」
「そりゃどうも」
 センスの向かいに座り、視線を画面に向けた。ブラウン菅の向こうでは女子アナが仙台
産らしい笹カマキャンディと牛舌キャンディを眉間に皺を寄せ、しかし吐き出すことなく
舐めている。ポップな音楽とは裏腹なその表情を見て製作会社の意図を知りたくなった。
街起こしとして明らかにこれは間違っていると思うのだが、責任者は何を考えてGOサイン
を出したのだろう。
「あの、カメさん」
「ん?」
 視線を戻すと何かを窺うようなセンスの視線。
「これは、何でスカ?」
 モナカを指差して小首を傾げている。
「あぁ、それはモナカって言って日本の菓子だ。美味いぞ?」
「お菓子、デスか?」
 不思議そうな表情で一つを手に持った直後、絶叫が響いた。驚いて画面に目を向けると、
悲鳴の主らしい女子アナがモナカを片手に悶絶していた。テロップにはスキヤキモナカの
文字が踊っていて、傍らに立つMCの壮年のアナウンサーが『やっぱりな』という顔をして
背中をさすっていた。スキヤキとはあまり関係のない緑色の液体がモナカの中から垂れて
いたが、気にしないことにしてセンスを見た。
 数秒。
「食べ物デスよね?」
「あれは特殊な例だから、気にしなくて良い」
 僕の言葉を信じてくれたのか、苦笑を浮かべたままではあるが素直に口に運ぶ。独特の
皮が折れる軽い音をたて、よく噛んで、飲み込んだ。流石に吐くのは不味いと判断したの
か、女子アナもそれと同時に飲み込んだ。それぞれの顔には笑みがあるが、これ程に差が
ある笑みを同時に見る機会もそうそう無いだろう。
「不思議な味ですケド、美味しいデスね」
「そうだろう」

 今センスが食べている小倉アンのモナカは特に気に入っている一品で、それなのに周囲
に理解者が居なかった為、今の発言は嬉しかった。美味そうな表情で二つ目に手を付ける
センスを見て、こんな雰囲気も悪くないと感じる。
 しかし、先程からの疑問が消えた訳ではない。
「どうしてここに来たんだ?」
「ふぇ? あ、迷惑デシタか?」
「そうじゃなくてな、ツルは居ないぞ?」
「知ってマスよ?」
 僕は数秒理由を考え、結論した。
「この変態アメリカン!!」
「な、何でそんな答えになるんでスカぁッ!!」
 どうやら違ったらしい。最近は妙なことが連続して続いていたから、猜疑的というか、
少し過敏になっていたのかもしれない。改めて考えてみると確かに勘繰りすぎで、何故僕
もこんな結論に達したのかよく分からなかった。やはり、疲れているのだろうか。
「で、ツルに誘われなかったのか?」
「いえ、誘われたんですけど、用事があったので一回断ったんデス。それがなくなったん
デスけど、一回断った手前頼み辛くテ」
 偏見ではないがアメリカ人はもっと積極的だと思っていたので、正直驚いた。センスは
言葉遣いは丁寧だけれど別におとなしい訳ではないので、幾らでも遊びに行けそうなもの
だと思っていたが、国は違ってもやはり人間は人間らしい。心のそんな後ろめたい部分は
万国共通のようだ。
「でもなぁ、僕んとこはどうだろう」
「?」
 外に出かけて誰かに出くわしたらバツが悪いのは分かるけれど、だからと言ってここに
来るのはどうかと思う。まだこの街に不馴れだろうからあまり外に出られないというのも
分かるし、日頃の会話のお陰か警戒を解いてくれて気安い友人として訪ねてくるのも嬉し
いとは思う。
 それは良いのだが、無害だとは分かっていても、異性が一人で居るところに遊びに来る
のはどうなのだろうと思ってしまうのだ。アメリカでは普通のことなのかもしれないし、
僕の倫理感がそれこそツルに指摘されているように古いのかもしれない。
 これは、どう説明したら良いのだろうか。
「なぁセンス、お前はどう思う?」
 誤解は産みたくなかったので、主語のない妙な質問になった。案の定、センスは不思議
そうな表情を浮かべている。今日センスが来てから幾らも経っていないが、その短い間に
この表情はどれだけ浮かんだんだろう。
「男と女が二人きりになるような状況が」
「好きな展開デスよ? そして協力して最後はハッピーエンドが最高デス」
 驚いてセンスの顔を見ると、目線は画面に釘付けだ。映画の予告らしく、全米震撼の見
慣れた文字は、本物のアメリカ人にはどのように見えているんだろうと思った。訊いてみ
たかったが、しかし今はそんな場合ではない。
「この……天然娘!!」
「ひゃあ、何デスか!?」
 僕は仕方なくストレートに言うことにした。
「お嬢ちゃんよ。年頃の娘っこが男のところにノコノコと一人で遊びに来る、その意味が
分からない年でもあるめぇ。無修正と巨乳のお国だから、ガッツリ知ってるべ?」
 いかん、おどけて言ったつもりがこれでは変質者だ。下心はなかったし、寧ろその部分
を分かってもらう為にそれとなく注意をするつもりだったのに、これでは煩悩丸出し変態
野郎と罵られても反論が出来ない。
 数秒。
 僕が言ったことの意味を理解したのか、センスの顔は加速度的な勢いでもって赤くなり、
「ひあぁァーッ!!」
 絶叫した。

 アズサ先生の発言で付いた悪印象を直したのに、これで再び戻ってしまった。初めての
ときのようにセンスは勢い良く身を引き涙目で僕を見て、胸を両手で抱く。
 しかし、それがいけなかった。
「熱ッ」
 手から離れたカップが床に落ち、溢れた珈琲が足にかかる。それなりに時間が経ち珈琲
が幾らか冷めていたのは幸運だったが、それでもそれなりに熱かったらしく眉根を寄せて
苦悶の表情を浮かべていた。綺麗な白のハイソックスも黒い斑模様の染みが出来ていて、
酷い状況になっている。辛そうだが僕を警戒してか胸から手を離さずに、じっと耐えてい
る姿が何とも痛々しい。
 思わず身を載り出し、一歩踏み込むが、
「来ないで下さイ」
 拒絶された。しかし普段の僕ならともかく、今は簡単に引き下がる訳にはいかない。
「誤解だ、だからじっとしてろ」
 取り敢えず手近な布がなかったのでシャツを脱いだが、センスの表情がより険しいもの
へと変わった。今や篭っているものは恐怖や警戒よりも怒りに似たもので、視線はもはや
睨みというものへと変わっている。口から漏れているのは、聞き慣れたスラングの数々だ。
「来ないで下さイ!!」 鈍痛。
 先程よりも強い拒絶の意思と共に言葉が吐き出され、続いてマグカップが飛んできた。
額に強い痛みが走り思考が一瞬消し飛ぶが、これも自分の責任だと我慢する。僕が言葉を
もう少し選んで喋っていたらこうならなかったので仕方がない、純情で無垢なセンスは、
僕の言葉に素直に応えただけなのだ。
 だから拒絶も気にせずに、もう一歩踏み込んだ。
「あ、血が」

 どうやら額を切ってしまったらしい、垂れてきた血が目に入り、視界が僅かに赤く染ま
った。その赤い幕越し、センスは正気に戻ったらしく顔を青ざめさせていた。自分のせい
で僕に怪我をさせてしまったことが不安なのだろう、自分の痛みも気にせずに心配の表情
を僕に向けている。
 だが問題ない、僕は元々痛みには強い方だ。だから大丈夫だと言うように笑みを浮かべ、
もう一歩踏み込んだ。僅か三歩でセンスとの距離がなくなり、足を見る為にしゃがみ込む。
「あの、カメさん?」
「痛むか?」
 手指で靴下の黒い部分を軽くなぞると、センスは身を震わせた。
「信用できないならそのままの姿勢で良い。取り敢えず、脱がすぞ」
 一言断りを入れてから、靴下に手をかけた。そのまま刺激を与えないように、ゆっくり
と下ろしてゆく。これは傍目から見ると、どのように捕えられるのだろうか。上半身裸の
男が、ともすれば腕を組んで見下ろしているようにも見える少女の靴下を下げている。僕
が作業しやすいように足を組んでくれているせいで、背徳感はより一層増して見える。
「ふぁ」
 指が触れてしまったらしく、小さな悲鳴に似た声が漏れてきた。さっき下らない妄想を
してしまったせいで妙にいやらしく聞こえてしまい、不覚にも股間が反応しそうになった。
雑念を押し殺しながら両方脱がし終えると、肌が露になる。
「思ったより酷いな」
 長時間濡れていた訳ではなかったが、肌が弱いのか予想より熱かったのか。肌は奇妙な
模様を描きながら赤く染まり、それが白い部分を際立たせている。向こうの血筋のせいか
やけに白い肌が官能的で、吸い寄せられるような色気があった。
 視線を反らすように上を見てみれば潤んだ瞳でこちらを見ているセンスの顔がある。吐
く息は軽く乱れており、背中が粟立つような感情が走った。
 これは、不味い。
「あの、カメさん。そんなに見ないで下さイ。恥ずかしいデス」
「あ、ごめん」
 感情を押さえて声を出し、シャツで足を拭う。表面に残った珈琲が染みを作っていくの
を見て、これはもう着れないな、と苦笑した。
「はい、もう片方」
 押し殺しているせいか、時折聞こえる喘ぎ声のような僅かな声に煩悩が沸いてくる。特
に多くかかったらしい左の脚はそれが顕著で、ふくらはぎから足首をなぞると我慢が出来
なくなったのか身を震わせて大きく声を漏らした。
「はい、終わり」
 やっと終わった、と油断したのだろう。組んだ脚をほどき、軽く広げた股の間に薄桃色
の布地が見えた。今の異常なシチュエーションにセンスも少なからず興奮していたのか、
それとも刺激によるものか、クロッチ部分は湿り気を帯びて僅かに色が濃くなっていた。
必死に押さえ付けていた欲望が身を起こし、本能に忠実な股間が元気に膨らんでいく。
「……カメさん?」
 それ以上は言わなくても良い。立ち上がって距離を取ろうとするが、刺激によって見事
に遮られた。腰砕けになり座り込む僕に追い討ちをかけるように、センスは更に脚の先で
股間を突き、擦ってくる。
「これ、どうなってるんデスか?」
 声が持っているのは純粋な疑問の色、単なる好奇心でいじっているらしい。
「ビクビクしてマス」
 そりゃもうビクビクしますよ、男ですから。心も体もエラいことです。
「不思議デス」
「その不思議は保健の授業で習うから、今は」

 センスが強くいじったせいで強烈な快感が襲ってきて、止めろ、とまでは言えなかった。
無邪気さは残酷さに等しい。多分センスはモナカをいじっているときと同じような感覚で
やっているのだろうが、僕は理性を保つのに必死だ。昨日の夜もツルとさんざんしたのに、
それを無視するかのように射精感が脳髄を襲ってくる。決壊寸前のダムがどのような状態
なのか、分かった気がした。
 不意に、刺激が途切れた。
「助かった」
 出したかった気持ちもあるが、それは後で幾らでも処理出来る。それよりも今は、純粋
に助かったことが嬉しかった。このまま行為が進んでいた場合、僕はどうなってしまって
いたのか分からない。
 しかしそれはぬか喜びだったらしい。
「失礼しマス」
 一言言うと、足の指でジッパーを下げてきた。ツルにもされたことはあるが、それでも
半ば合意のようなものなのである程度は平気だった。しかしセンスの相手となれば、話は
変わってくる。おいそれと簡単にしてしまって良いものではない。
 しかしセンスはお構いなしに、肉棒を擦ってきた。互いの肌同士が直接触れ合っている
だけでも大変なのに、更には多種多用な動きでもって僕を責めてくる。快楽地獄とは正に
このような状態のことを指して言うのだろう、このジレンマは確かに地獄だ。
「凄いデス、カメさん」
 擦られる。
「熱くて」
 踏まれ、
「堅くて」
 挟まれ、
「ぬるぬるしてテ」
 撫でられる。
 もしかしたら全て分かっていて、わざとやっているのではないかと思ったのだが、表情
を見れば違うのは分かった。好奇心に満ち溢れ、僕のものを楽しそうに見下ろしながら脚
を動かしている。下着が見えているにも関わらず行為を続けているその様は、童女と何も
変わりはない。悪意などのない、純粋な興味の塊がそこにあった。
「あれ? 何か膨らんで、ひゃあぁ」
 思わず、出してしまった。白濁した粘液がセンスの脚を汚し、そのまま指の先を伝って
床を汚した。テレビの声が響く中、僅かに聞こえる水音がいやらしさと共に先程の余韻を
伝えてきた。
「……大丈夫デスか?」
「……大丈夫」
 心配そうな表情でこちらを見てくるセンスに苦笑を返し、シャツで足を拭った。
 これはもう、本格的に着れそうにない。

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最終更新:2007年08月04日 09:33