ツルとカメ-7
電子音。
校内放送のメロディが鳴り、僕はスピーカーを見た。
『二年F組の阪田・孝道君、二年F組の阪田・孝道君。至急生徒会室まで来てください。
繰り返します、至急生徒会室まで……あぁッ、それ以上は無理無理人の腕はそれ以上曲が
るようには出来てねぇ!! 頼むから早く来てくれマジで!!』
不穏な声を最後に途切れたが、これはやはり急いだ方が良いのだろうか。しかし最近は
悪いことをした覚えがないし、本能が行くなと叫んでいる。それに今は昼飯を食っている
ので邪魔をされたくない、食事は僕が最も大切にしていることの一つだ。
どうしようかと考えていると、ツルの視線とぶつかった。ツルはおにぎりを飲み込むと、
険しい表情で僕を睨むように見つめてくる。隣のコイも同様だ。
「カメ、アンタ今度は何をしたのよ?」
「聞いたら駄目だって、ツル。聞いたら可哀想でしょ?……被害者が」
だから何もしてないっつうに、こいつらは。
「で、行くの?」
「行きたくねぇなぁ」
「あの、カメさん? 行かなくて良いんでスカ?」
こちらに来たばかりのセンスは知らないだろうが、今のような呼び出しに限っては絶対
に行かなくてはいけないという訳でもない。正確に言うと、生徒会からの僕への呼び出し
には殆んど意味がないから、行かなくても良いということだ。そして、その意味なく僕を
呼び出す人のせいで、行きたくなくなるのだ。
取り敢えず普通に食事を済ませて時計を見た。昼休みの残り時間も充分にあるし、水樹
が行った方が良いと何度も進めてくるので、仕方なく立ち上がる。しかし体は正直なもの
で、まるで鉛で出来た靴を履いているように足が思い。一歩踏み出すごとに、重さは更に
増してゆく。これはもう格闘家の反復練習のように体が覚えているのだろう。
「着いていこうか?」
「頼む」
さすがは水樹、お前がもし女だったら惚れて……それはないな。
「仕方がないから私も着いていってあげるわよ」
吐息をしてツルも立ち上がる。
「あ、じゃああたしも」
「わたしも行きマス」
結局、皆来てくれることになった。皆の心使いが嬉しすぎて、不覚にも涙が溢れそうに
なった。こんなとき本当に、友達って良いものだと思ってしまう。
「ところで、生徒会長ってどんな人なんでスカ? カメさんが嫌がる程だから、よっぽど
言葉では表現しにくい人なんでショウか?」
いや、生徒会長程言葉で表現しやすい人間はそうそう居ないと思う。誰もが見た瞬間に、
あの人の殆んどのことが分かる筈だ。言葉にするにしても一言で充分な程だから、例え日
本文化に疎いセンスでも一瞬で把握出来るに違いない。
そんなことはひとまず置いて、大事なことが一つ。
「何で僕が低ラインの基準なんだよ?」
センスも随分と言うようになってきたものだ。と言うか、周囲に毒されてきているのか。
こいつの場合は素直な正確が災いしてか、本人が無自覚なままに喋ったり行動したりする
から恐ろしい。
そこから先、センスが想像した愉快な生徒会長像を聞きながら歩いていると、幾らもし
ない内に生徒会室まで辿り着いた。重厚な扉の向こう、防音性が高い筈なのに高く怒鳴る
声が聞こえてくる。どうやらこの部屋の主は相当ご立腹らしい、張りと鋭さが凡人のそれ
とは明らかに一線を引いている。
「日を改めようか」
「って言うか、カメが遅いから怒ってるんじゃないかしら?」
『分かってたら、さっさと入ってくれませんこと!?』
隠しカメラやマイクでもあるのだろうか、扉の向こうから怒声が飛んできた。
戸を開く。
視界に二つの人影が入ってきた。一つは生徒会長のホウ先輩、もう一つは副会長のオウ
先輩だ。この学校で名物の一つに数えられているホウオウコンビを見てセンスは目を丸く
した。それはそうだろう、こんなに分かりやすい二人組は滅多に居ない。
ホウ先輩の特徴と言えば、誰もが注目する金色の縦ロールだ。嗜虐的な吊り目が似合う
整った顔立ちやセンスとほぼ互角に張り出した巨乳と相混じって、高慢な性格を分かりや
すく表している。口には出さずとも彼女が高貴な生まれであることは誰の目にも明らかで、
高飛車な態度が周囲の空気を独特なものに染めていた。
オウ先輩の特徴と言えば、やはり褐色の肌だろう。青い瞳や銀色のボブカット、お洒落
なのか宗教上の理由なのかは分からないが眉間に付けた赤い宝石も手伝い、神秘的な空気
を作り出していた。ホウ先輩を西洋的な美人と表現するのなら、オウ先輩はオリエンタル
な美人ということだろうか。これはついでの話だが乳は大きくも小さくもない。
因みにオウ先輩はホウ先輩専属のメイドらしく、帰った後はメイド服でいるらしい。僕
も少し見てみたいのだが、以前ツルに話してみたところ鋭い目で睨まれたので、それ以来
この願いは僕の心の中に大事にしまっている。
「ところで、何故遅れたのかしら? つまらない答えでしたら許しませんわよ」
ホウ先輩はこちらを睨みつけると、大股で歩み寄ってきた。凡人を遥かに越えるお嬢様
的な空気を纏っているせいで不必要なまでの迫力があり、思わず一歩引いてしまう。その
代わりとでも言うように、ツルが一歩前に出た。
「ごはん食べてたの。アンタこそ、一体何の用よ? 毎回毎回無意味なことで呼び出して、
こっちも忙しいのよ。暇を潰したりするのとか」
ツルとホウ先輩の間に緊張した空気が張りつめた、しかしいつものことなので僕は気に
しない。本当は皆仲良くするのが一番だと思うけれど、誰にでも合う人と合わない人が居
るものだし、そういうものは仕方ないと思っている。水樹やコイも同じ意見らしく、慣れ
た様子で二人を眺めていた。この空気が初めてのセンスは戸惑った様子で、すがるように
僕を見つめてくるが、今は下手に動かない方が良いと経験上分かっているので、悪いと思
いながらも敢えて無視をして立っている。ヘタレなのではない、これはあくまで話を円滑
に進めるためだ。
数秒。
無言が続いたが、ホウ先輩が先に口火を切った。
わざとらしく視線を下に向けると歪んだ笑みを浮かべ、
「あら、ツルさん居たんですの? あまりにも小さくて気が付きませんでした。しばらく
見ない間にまた縮んだんじゃありませんこと? 今度から顕微鏡を持ってこないといけま
せんわね。オウ、昔使ったものはまだ残っていたかしら?」
ツルもそれに応えるように、相手を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、
「お気遣いありがとう、そっちこそ大変でしょ? 脳に行く筈の栄養が乳にばかり行って、
局地的打撲になってないかとても心配だわ」
一瞬。
「お黙りなさいこのミス・マッチ棒!! 火達磨にしますわよ!?」
「そっちこそ黙りなさいよこの豚娘、屠殺場に送り込むわよ!!」
「この無乳!!」
「垂れない内に威張ってれば? 総合的に見たら私の勝ちよ!!」
「今は負けてますでしょうが!!」
「将来の醜く垂れた姿で今の内からマイナスポイントよ!!」
口汚く罵りあい始めた。女同士なので流石に体に傷を付けるのは不味いと分かっている
らしく、お互い手を出すようなことはしない。しかし聞いているだけのこちらの方が辛く
なるような口喧嘩は、どうにも居心地が悪い。センスに至っては半泣き状態だ。
「そんなにオッパイが大きいのは駄目でショウか?」
「諦めなさい、今のツルには世界中の巨乳が敵に見えているのよ」
そっちかよ。しかし僕が言えた義理ではないが、どうしてそんなに乳にばかりこだわる
のだろうか。見ようと思えば誰にでも良いところは沢山あるだろうに。不倶退天の二人は
僕のそんな思いは知らずに、笑顔のままで罵倒を続けている。
数分。
二人とも疲れたのか肩で息をしながら睨みあっていた。いつもよりは若干長かったが、
取り敢えず区切りは付いたようだ。そろそろ僕が口を出しても良い頃合いだろうか。
「で、僕は何で呼び出されたんですか?」
今回も無意味にだったら嫌だな、と思いながらも礼儀として訊いておく。そう、何故か
僕は用もないのに度々呼び出されるのだ。これが僕がここに来る前に、さんざん嫌がった
理由だ。気心が知れている仲で愚痴を言う為、という理由で呼び出されるのだったらまだ
良い。いくらでも愚痴を訊こうとも思うし、何か大変なことがあるのなら手伝っても良い
と思う。しかしそんなことはないし、どんな理由で目の敵にされているのか分からないが、
無意味に呼び出されては小言を聞かされたり、言い掛かりとも言える注意のようなものを
延々と聞かされるのだ。そんな趣味の男だったら昇天確実だが、生憎と僕はそんな趣味を
持ちあわせてはおらず、ひたすら苦痛の時間になっている。だから皆がこうしてかばって
くれるように着いてきてくれるのは本当にありがたいのだ。
ホウ先輩はそんなありがたい皆を見回すと吐息を一つ。
「これは皆にも関係のあることなのですが」
指を鳴らすと、後ろに控えていたオウ先輩がプリントを渡してきた。どうやら今回は、
本当にまともな用件だったらしい。渡されたプリントに軽く目を通すと妙な文字が並んで
いる。それに続く注意書きのようなものを最後まで読むと、呼び出された理由が分かった。
「何よコレ」
隣で覗き込んでいたツルが眉根を寄せた。
「分からないんですの? この度、カメ君はめでたく変人四天王に登録されました」
「……おめでとう」
ホウ先輩とオウ先輩に祝福の言葉がかけられたが、正直嬉しくない。『暴君』釜津・芹
を頂点とした変人制度は、要は生徒会のブラックリストを分かりやすく表したものだ。僕
が今回入ってしまった四天王は階級で言えばその二番目、『毒電波』や『虎姉妹』と同じ
ランクに入る。つまり、学園でも指折りの変人として認められたということだ。だからと
言って特に実害がある訳でもないし、普通にしていれば何も問題ない。しかし、こうした
方法をとられると心にくるものがあるのも事実で、思わずくじけそうになる。
「……気にしないで。一人いなくなったせいで……繰り上がっただけだから」
僕があまりに哀れに見えたのか、オウ先輩が優しい笑みを向けてきた。しかし繰り上が
っただけって言っても、それは元から変人登録されていたということじゃないだろうか。
四天王未満は本人に通達されないので知らなかったということもあるが、僕は大丈夫だと
思っているところもあったので寧ろ今の言葉の方がショックだった。
「なぁ、水樹さんや。幸せってなんじゃろうな?」
「何で急に年寄り言葉なの? でも、そうだねぇ。そのことを考えてる時点で、既に幸せ
なんじゃないかな? ほら、勝ち組勝ち組、元気出して」
「そうだよな、乳を見てればそれだけで幸せだよな」
ありがとう、少し元気が出てきた気がする。
「そうデス、変じゃないカメさんはカメさんじゃないデスよ」
「そうよ、あんたから奇行を取ったら何も残らないじゃない」
「黙れ巨乳ども」
この巨乳二人組め、僕を慰めたいのかけなしたいのかはっきりしろ。フォローしている
つもりなんだろうが、お前らが僕の傷口に塗っているのは軟膏じゃない。カスタードなら
まだ可愛い気があるものの、僕が塗られているのは粗引きマスタードだ。
「そうですわ、貴方は貴方の個性があるのですから胸を張って歩きなさいな」
「そうですね、僕は変態じゃない」
でも、落ち込んだ元々の原因と言えば、生徒会ではないでしょうか?
「ほら、カメ、元気出して。今ならどんなに乳を揉んできても怒らないから」
「……ツル」
……それは。
「ちょっと、無理なんじゃないか?」
無いものをどうやって揉めと?
「何で私のときだけ素で答えるのよ!!」
いや、そんなことを言われても。ただ、皆のフォローのお陰でそれなりに明るく生徒会
室を出ることが出来た。やっぱり、友達は良いものだ。そして何よりも心の支えになって
くれているツルが居たことが僕は……
「帰ったら覚えてなさいよ」
くじけそうになった。
そして放課後、僕はいつも通りに帰宅しようと歩を進めていた。ツルはセンスやコイと
カラオケに行くらしいし、水樹はバイトが入っているとのことだったので一人寂しく廊下
を歩いている。しかしただ満然としている訳ではない、今日の食事当番は僕の担当なので
どれだけ良いものを出せるのか考えていながらだ。今日は随分と助けられたから、ツルの
好物であるクリームシチューでも作って……
「カメ君!!」
突然の呼び声に、視線を発生源へと向ける。そこには崇高な二つの純白があった。神は
悲しんでいる僕に素晴らしいものを送ってくれた、これなら明日からも希望を持って生き
ていける。そして今の白で決めた、晩御飯はクリームシチューで決定だ。後はスーパーに
でも寄って、材料を買い揃えるだけだ。
「お待ちなさい!!」
そういえば、一つ言い忘れていた。
「パンツ見えてますよ、先輩たち」
怒鳴りながら階段を降りてきているホウ先輩は物凄い勢いで頬を赤く染めあげ、慌てて
スカートの端を押さえた。そして歩く速度を早め、こちらに向かって大股で向かってくる。
しかし、それがいけなかったらしい。只でさえバランスが悪く受け身も取れないような
しせいなのに、階段を勢い良く、それも大股で下っていたせいでホウ先輩は盛大に転んで
しまった。オウ先輩が珍しく慌てた様子で手を伸ばしたが時既に遅し、重力に従って僕に
向かい自由落下をしてくる。大気を受けて広がる金髪を天使の羽根
のようだと思い、見惚れていたのも一瞬のこと。
「受け止めなさい!!」
「無理です」
言葉では拒否したものの体が勝手に動いていた。受け止めるのは無理だけれど、せめて
緩衝材になるように落下地点に体を滑り込ませる。
一瞬。
「重ッ、無理ッ、死ぬッ」
「失礼ですわね、重くありませんわよ!!」
間に合わないかと思っていたが、どうやら助かったらしい。体に走る重い痛みは、ホウ
先輩が床に激突しなかった証だ。そう思えば、これしきの痛みなど構わない。
しかし、
「早くどいて下さい」
重いのではなく、不味いのだ。体に当たる乳や尻の感触が心の奥の方を刺激してきて、
思わず体の一部が超元気になりそうになっている。よりにもよって生徒会長の前でそんな
ことになったら、それこそ本当に変態のレッテルを貼られてしまうだろう。
「あの、本当に早く」
「分かってますわよ」
ホウ先輩は立ち上がろうとするが、
「痛ッ」
どこかを痛めたらしくすぐに膝を着く。
仕方ない。これの責任の一部は多分僕にもあるのだろうし、少しくらい時間がかかって
もツルが帰ってくるまでには間に合うだろう。今急いで帰って、その後で色々気にしたり
するよりもずっと良い。僕は吐息を一つ漏らすと、ホウ先輩を背負った。
「……ありがとう」
「気にしないで下さい、これは男の仕事です」
保健室に行くとエニシ先生は留守だった。そう言えば、今日は職員会議の日だったか。
しかしただ放っておく訳にもいかないので、取り敢えず椅子に座らせて上履きを脱がす。
爪でも折ってしまっていたのか爪先の部分に血がにじみ、白のハイソックスを部分的に赤
く染めあげていた。思ったより出血が多いらしく、触れるとぬるりとした感触が手指の先
にまとわりついてきた。病院に行くまでもないだろうが雑菌が入って膿むと良くないし、
早めに手当てをした方が良いだろう。
「という訳で、オウ先輩頼みました」
これ以上この姿勢でいると再びスカートの中を見てしまいそうなので立ち上がり、ホウ
先輩に背中を向ける。例え立っている状態でも脚を上げたときに見えるかもしれないので
その対策だ。そのまま部屋を出ようとして足を踏み出そうとしたが、
「待ちなさい」
出来なかった。シャツに僅かな抵抗感がかかり、振り向くとオウ先輩が顔を赤く染めな
がら下を向いていた。その右手は僕のシャツの裾を軽くつまんでいて、離れてほしくない
と弱く意思表示をしている。これは、どういうことだろうか。
「帰りも、その、男の人の手が必要ですし、ここに居なさい」
「……ついでに、ホウ様の手当てもしてあげて。慣れてるみたいだし……ボクはこうして
両手がふさがっているから。……お願い……ね?」
そう言ってオウ先輩は両手に持った鞄を見せてくるけれど、それはどこかに置けば済む
話なのではないだろうか。そう言おうと思ったが、無表情の奥にある微笑のようなものが
見えて、何故かその気力がなくなってしまった。
吐息をしてホウ先輩の前に膝を着く。
「早く、脱がせて頂戴」
先日センスに同じようなことをしたなと思いつつ、靴下を脱がしてゆく。しかし、流石
はお嬢様なだけのことはある。人に靴下を脱がせることすらも慣れているように見える、
と言うかやけに堂に入っている。センスとこうしていたときも悪くなかったが、今の状況
はそれすらも遥かに上回る。女性が上位というだけでこんなにも違ってくるのだろうか。
全く、本能というものは恐ろしい。
「ちょっと痛むかもしれませんよ」
「構いませんわ」
毅然とした声に軽く安堵しながら一気に脚から靴下を取り去ると、綺麗な足の指が視界
に入ってきた。磨かれて光沢を放つ少し長い爪の内の右端、親指の爪の一部が割れていた。
他のものは整えられているのにそこだけ歪んでいて、余計に痛々しく見える。目を背けた
くなったが、痛いのは僕ではなくホウ先輩だ。性格は多少妙でも女の子、これ以上負担を
かけるのは良くないと思いよく観察する。それ程深い部分まではいっていないようだが、
破片が刺さっているようだ。そこから流れる血は表面を覆っていた布が取れたことですぐ
に珠になり、一滴床に溢れ落ちた。
「いかん、消毒液は」
「舐めて」
一瞬耳を疑い、続いて自分の正気を疑い、最後は失礼とは思いながらもホウ先輩の脳を
疑ってしまった。今この人は何と言ったのだろうか、僕の聞き間違いでなければ足の指を
舐めろと言ってきたような気がする。確認をしようと視線を上に向けると、とろけたよう
な瞳で僕をじっと見下ろしていた。
「聞こえなかったの? 早く、舐めて」
どうやら僕の耳や脳は正常だったらしい、異常なのはホウ先輩の性格だ。やはり表面は
比較的まともでも、この変態学校の生徒会長だ。根の部分はおかしい人らしい。金髪巨乳
お嬢様生徒会長から淫乱弩S金髪巨乳お嬢様生徒会長へと、僕の中でホウ先輩の超急激な
降格が行われた。それと同時に脳の奥で警告の鐘が大音量で鳴り響く。
立ち上がろうとしたが、
「……駄目」
いつの間にか背後に回っていたオウ先輩が腰の辺りにしがみついていたせいで、逃げる
どころか立ち上がることさえ出来なかった。そうこうしている間にも鼻先にホウ先輩の足
が近付いてくる。その上、目を背けようとしても何故か僕の視線は傷口に釘付けだった。
「……舐めて」
耳元で、オウ先輩が囁く。
「早く、舐めなさい。垂れてしまうわ」
その言葉を合図とするように、大きな血の雫が足先から垂れた。僕は思わず舌を伸ばし
てそれを舐めとると、そのまま親指に舌を絡ませた。ねぶるように唾液を擦り付けながら、
血を絞りとるように強く吸う。その度にホウ先輩の口から喘ぐような熱い声が漏れ、空気
を異様なものに変えてゆく。
「あら、カメ君の股間が大変なことになってますわね。そうですわ、今の恩もありますし」
小さく笑い声を漏らして、
「楽にして差しあげますわ」
快音。
ホウ先輩が指を鳴らすと、オウ先輩が僕のベルトを外してきた。そしてジッパーを降ろ
すと僕のものを取り出して、いじり始める。背中に当たる柔らかな感触や、冷たく柔かな
手指の感触、そしてホウ先輩の官能的な姿や視線のせいですぐに大きさは最大になった。
それを満足そうに見届けると、一旦引いていた足の指を僕の前へと突き出した。
「好きなだけ楽しんで、ワタクシも楽しませて」
「……頑張るから」
言うなり、オウ先輩が僕のものをしごいてきた。背中の向こうに居るので、どんな表情
なのかは分からない。ただ、興奮はしているのだろう。荒くなった呼吸と熱い吐息が耳に
かかり、やけに大きく聞こえる音で鼓膜を震わせる。股間からの快楽と耳や肌から伝わる
刺激に、一瞬ごとに理性が削られてゆく。
「ただ喘いでないで、こっちも、舐めて?」
オウ先輩と同じリズムで熱っぽい声を漏らしながら、親指を僕の唇に触れさせた。口の
中を鉄に似た味が広がり、思わずむせそうになる。
「飲んで」
「……飲んで」
先端を撫でるようにしごかれ、息を詰まらせた。その反応でつい飲み込んでしまった。
「美味しい、ワタクシの血は?」
味は、よく分からない。何故か酷く甘く感じる後味と、とてつもない渇きがある。
「噛んで、強く。とても強く」
言われた通りに強く噛んだ。軽く皮膚が弾ける感触があり、続いて口内全体に血の味が
広がった。視線を上げてホウ先輩の顔を見てみると、痛がるどころか、いやらしい、陶酔
したような笑みをこちらに向けている。
「あはっ、ちょっとお手伝い」
僕の口から指を抜くと、血と唾液で濡れたそれで亀頭を撫でてきた。満偏なく塗るよう
に擦り、撫で、踏み、挟んでくる。粘着質な音と高い笑い声を響かせながら、強い笑みで
僕の顔を見つめてきた。
「だらしなく、果てなさい」
オウ先輩のしごく速度が早くなり、ホウ先輩は一際強く擦ってきた。
一瞬。
言葉も出ないままに、僕は出してしまっていた。それを見て、ホウ先輩の漏らす笑い声
が一段と大きくなる。満足そうに降ろした脚の付け根の部分、純白の下着が濡れて、薄く
透けているのが見えた。
「また、遊びましょうね」
「……勿論、ボクも一緒に」
二人の声は、酷く遠いところから聞こえたような気がした。
最終更新:2007年08月14日 20:39