灰腕のラヴィ<Lavi "AshenArm">
| クラス/レベル |
ソーサラー/8 |
| 種族 |
ハーフエルフ |
| 属性 |
中立・善 |
| 背景 |
貴族 |
| 経験点 |
2700+ |
設定
| 人格的特徴 |
敢えて危険な死線を選ぶ。それが冒険の醍醐味である、と嘯きながら――だが彼女は、それを本当に好んでいるのだろうか? |
| 尊ぶもの |
ピクルス、焼きたてのライ麦パン――幼いころに慣れ親しんだ味 |
| 関わり深いもの |
左腕――詳細不明の魔力により、ファイア・ジェナシのような燃え尽きた灰の色の肌に変化している |
| 弱み |
自分より明白に年下の存在。特に男性――そして、その過去に起因する全ての傷。それと、髪にからみついた卵の黄身。 |
| 年齢 |
17(肉体)または38(生年より算出) |
| 身長 |
5フィート2インチ |
| 体重 |
100ポンド(自称) |
| サイズ |
中型 |
ソーサラーの女性冒険者。
流れ者の家の出を自称している。
灰色の腕を持ち、同じような灰色の肌をした女性を探して各地を旅して回っている。
容姿
能力値
|
筋力 |
敏捷力 |
耐久力 |
知力 |
判断力 |
魅力 |
|
8 |
16 |
16 |
8 |
10 |
20 |
| 修正 |
-1 |
+3 |
+3 |
-1 |
0 |
+5 |
| セーヴ |
0 |
+5 |
+7 |
0 |
+1 |
+9 |
|
|
修正 |
セーヴ |
|
| 筋力 |
8 |
-1 |
0 |
冒険に出るまでは、川で釣った魚より重いものは持ったことがなかった |
| 敏捷力 |
16 |
+3 |
+5 |
野山を駆け回って育ったため、足腰は鍛えられている |
| 耐久力 |
16 |
+3 |
+7 |
やはりあのきのこを食べるべきではなかった |
| 知力 |
8 |
-1 |
0 |
高等教育を受けたが、受けただけだったようだ |
| 判断力 |
10 |
0 |
+1 |
注意力は並程度である |
| 魅力 |
20 |
+5 |
+9 |
洗練された立ち居振る舞いと、時折見せるその不完全さが魅力的ながらも親しみやすさを覚えさせる |
習熟ボーナス:+3
技能習熟
| 隠密 |
敏捷力 |
母親から逃げることでその基礎は磨かれたのかもしれない |
| 自然 |
知力 |
ある程度の経験則がある |
| 魔法学 |
知力 |
魔法と同じように、いつの間にか備わっていた |
| 歴史 |
知力 |
そういえばフィーリゼン先生が何か言っていたような |
| 看破 |
判断力 |
下心のある大人たちを何度か見た |
| 説得 |
魅力 |
誠心誠意お願いするのが良い |
受動知覚:10
その他習熟
| 言語 |
共通語、エルフ語、天上語、森語 |
| 装備 |
ダガー、ダーツ、スリング、クォータースタッフ、ライトクロスボウ |
| 他 |
ドラゴンチェス |
戦闘関連
| AC |
14 |
| Iv |
+3 |
| Mv |
30ft歩行 |
| HitP |
48 |
| HitD |
8 |
| 魔力点 |
8 |
装備
身に着けているもの
ダガー×3
ワンド
旅人の服
クローク・オブ・レジスタンス
水袋
7GP
1EP
背負い袋に入っているもの
携帯用寝具
炊事用具
ほくち箱
たいまつ×1(初期装備で10本入っているが、背負い袋が埋まるので破棄)
保存食×10
旅人の服×2
麻のロープ50フィート分
クローヴ1ポンド
シナモン1ポンド
ポーチに入っているもの
ドラゴンチェス
治療用具
持って来れなかったもの
上等な服
印章指輪
家系図
珍品奇品
特徴・特技
| 種族 |
暗視 |
弱光→通常60ft、暗闇→弱光60ft |
| 種族 |
フェイの血筋 |
対[魅了]セーブに有利。魔法による睡眠無効。 |
| 種族 |
技能の才 |
技能2つに習熟する |
| クラス |
魔力の源泉 |
5点の魔力点を持つ |
| クラス |
呪文修正:呪文射程延長 |
魔力点を消費して、呪文の射程を倍化する |
| クラス |
呪文修正:呪文二重化 |
魔力点を消費して、単体対象の呪文を2体に対して行使する |
| クラス |
魔力の起源:神成る心魂 |
特徴を取得する |
| クラス |
神性魔法:善 |
クレリックの呪文をソーサラー呪文として取得する。また、通常の取得枠と別にキュアー・ウーンズを取得する |
| クラス |
神の恩寵 |
攻撃ミス時、またはセーブ失敗時に、結果に+2d4する |
| クラス |
治癒強化 |
5ft以内の味方のHPが呪文により回復するとき、魔力点で回復量のダイスを振り直せる |
呪文[初級呪文:5][修得数:9+1]
初級呪文
凍瘡<frost bite>
詠唱:1アクション 射程:60ft
要素:S,V 持続:瞬間
効果:対耐久力。XGE参照。
土捏ね<mold earth>
詠唱:1アクション 射程:30ft
要素:S,V 持続:効果参照
効果:5フィート四方の土、石の地面を操作する。詳細はXGE参照。
導き<guidance>
詠唱:1アクション 射程:接触
要素:S,V 持続:精神集中(最大1分)
効果:効果中、1回まで能力値判定の達成値を上昇。
聖なる炎<sacred flame>
詠唱:1アクション 射程:60ft
要素:S,V 持続:瞬間
効果:対敏捷力。光輝ダメージ。
伝言<message>
詠唱:1アクション 射程:120ft
要素:S,V,短い銅の針金1本 持続:1ラウンド
効果:個別チャット。
1Lv呪文[スロット:4]
導きの矢<guiding bolt>
詠唱:アクション 射程:120ft
要素:S,V 持続:1ラウンド
効果:遠隔呪文攻撃。光輝ダメージ。
傷治療<cure wounds>
詠唱:アクション 射程:接触
要素:S,V 持続:瞬間
効果:HPを回復する。
癒しの言葉<healing word>
詠唱:ボーナス・アクション 射程:60ft
要素:V 持続:瞬間
効果:HPを回復する。
祝福<bless>
詠唱:アクション 射程:30ft
要素:S,V,少量の聖水 持続:精神集中(1分)
効果:対象は攻撃とセーブの結果が常に上昇する。
2Lv呪文[スロット:3]
視覚・聴覚剥奪<blindness/deafness>
詠唱:1アクション 射程:30ft
要素:V 持続:1分
効果:対耐久力。盲目または聴覚喪失状態になる。
霧渡り<misty step>
詠唱:ボーナス・アクション 射程:自身
要素:V 持続:瞬間
効果:瞬間移動する。
3Lv呪文[スロット:3]
魔法解呪<dispel magic>
詠唱:1アクション 射程:120ft
要素:S,V 持続:瞬間
効果:目標一つの呪文効果を全て失わせる。その呪文のレベルによっては判定が必要。
呪文妨害<counterspell>
詠唱:1リアクション 射程:60ft
要素:S 持続:瞬間
効果:目標一つの呪文を失敗させる。その呪文のレベルによっては判定が必要。
仮眠<catnap>
詠唱:1アクション 射程:30ft
要素:S,砂一つまみ 持続:10分間
効果:10分で小休憩の利益を得る。
4Lv呪文[スロット:2]
氷の嵐<ice storm>
詠唱:1アクション 射程:300ft
要素:S,V,土ぼこり一つまみと水一滴 持続:瞬間
効果:範囲内に冷気+殴打ダメージ。範囲内は1ターンの間移動困難地形。
ラヴァンデューラ・アストレア・ヘヴンリーベット<Lavandula Astreah Heavenlybet>
参考資料
1
見上げた空を、アマツバメが通り過ぎていった。
雲一つない、抜けるような青空。こんな日に部屋に引きこもってオサホウのオベンキョウなんて、たまったものじゃない。そんなことして喜んでるのなんて、母さん――おっと、「お母様」くらいのものだ。
跳ねるように庭を走ると、ポケットの中で小瓶がちゃぷりと音を立てた。使用人のヤスミンおばあさんが作った特製のピクルスだ。
きっとヤスミンおばあさんだって、本当は外で遊びたいに違いない。
でも大人だから我慢して、あたしにおやつ代わりにピクルスを分けてくれて、「暗くなるまでに帰ってくるんですよ」と皺くちゃの微笑みで送り出してくれたんだと思う。
だから、この青空の下で起こった素晴らしいことと起こるであろう素晴らしいことを、全部ヤスミンおばあさんに聞かせてあげるために、あたしはその場でスカートの裾を翻して一回転した。
ちらりと、あたしの家が見えた。
3階建てで、客室が十も二十もあるような立派なお屋敷。
確かに天井は高いし、きれいな絵は飾ってあるし、メイドのリーゼロッタが完璧にメイキングしてくれるベッドはふかふかだ。素敵な家だと思う。
それでも、それだけだ。天井はいつだってただの天井だし、きれいな絵はいつだってただのきれいな絵でしかない。一時も休まずに青と白がめまぐるしく入れ替わる大空や、何もかもが成長し、様相を変え続ける山々に比べればいかにも退屈だと思う。寝心地だけは家のベッドが最高だとしても。
そんな新鮮な世界で、新鮮な驚きを探して、あたしはいつだって遊び歩いやその、高尚な探求と思索にふけるのだ。
そうだ、何かいつもよりもっと素敵なことが起こったら、母さんにも話してみよう。母さんはきっと、この美しさに気づいていないだけなのだ。知ってしまえば、その虜になるに違いない。
完璧な名案を思いついて、あたしは一度足を止めた。
それなら、あれをするしかない。
予定を変えて、裏手の山にある、林の方向に足を向ける。そっちには、一本の立派なナラの樹が――あったあった。
視界に捕らえたそれに向かって、足早に進む。
ここ2年くらい、ずっと登りきってやろうと挑戦し続けて、失敗してきた(途中で怖くなった)、因縁の相手。それをついに制覇してやったとなれば、母さんと言えども感動のあまり落涙して拍手するに違いない。
邪魔にならないよう、スカートの裾を縛り、ふんす、と鼻息荒く幹に掴みかかる。
幸いなことに、低い位置から枝分かれしているおかげで、順繰りに枝に足をかけていけばさほど苦労はしない。
サンチョこぶ(執事のサンチョの鷲鼻にそっくりなのだ)に右足をかけ、ぐいと体を持ち上げれば握手枝(先のほうで綺麗に五本に枝分かれしていてるのだ)にちょうど左足を乗せることができる。
油断せずに右手を幹に添えながら、握手枝に両足を乗せれば怖い絵枝(家に飾ってある良くわからない怖い絵に似たような枝があったような気がしたのだ)に手が届く。それに体重を預け、下をくぐるように体を運べば鹿角枝(鹿の枝のような形をしているのだ)に乗ることが出来る。
そこから双子枝(根元から2本に分かれているのだ)、次の枝(いくら考えても似ているものが思いつかなかったのだ)、その次の枝(枝に名前をつけるマイブームが終わったのだ)とすいすいと上っていく。この辺りは何度も繰り返して慣れた動きだ。
とはいえ、さすがに20フィートばかりの高さにも達すると、下は絶対に見ないと心に決めなければならない。
帰れるだろうか、と心がぞわぞわするが、振り払って進む。
母さんも、貴族たるもの嫌でもやらなければならないことがある、と言っていた。多分このことだろう。
一つ深呼吸して、ひたすらに手足を動かす。道筋は見えているのだ、後は進むのみ。
そうして、額から流れた汗が眉毛にかかり、横にそれて地面に落ちていくころには、あたしはナラの樹高の大半を制圧していた。
この前登ったときは、日が沈みそうだったので撤退せざるをえなかったが、今日は慣れと早い時間に上り始めたことが合わさり、十分な余裕がある。
慌てるな、慌てるなあたし。
静かに念じながら、手足を伸ばす。また降りることとも考えれば、無理はできない。降りられなくなって家庭教師のフィーリゼン先生にフェザー・フォールの呪文をかけてもらうのは――いや、正直に言えばそれ自体は滅多にない体験でむしろ楽しかったんだけど、その後一ヶ月に渡った外出完全禁止令の退屈さを考えると――こりごりだった。
そうして、足が……着いた。ついに。
これ以上登るのは無理だろう、という最高峰の枝に足がかかる。体を入れ替えて、上手いこと腰掛ける。
眼下に、小さな自分の家と、更にそこから下ったところにある広いライ麦畑が、村が、小川が、様々なものが広がっている。
あまりの達成感に叫びだしたかったが、何と叫べば良いのかもわからなかったので、誰にともなく手を振るにとどめた。
きっと、この風景を眺めながら食べるヤスミンおばあさんのピクルスは、天にも昇る心地に違いない。宗教的な確信と共に小瓶にフォークを突っ込み、きゅうりを取り出す。
大きく口を開け、丸ごと口に放り込む。ただそれだけで、甘やかな酸味が鼻から抜け、口中を幸福感が支配する。
噛み締めれば噛み締めるほど風味は増し、飲み込むころには既に次の野菜にフォークが刺さっている。
パプリカを口に含めれば、また新鮮な酸味。
不意に吹いた風が髪を撫でて、前方へ抜けていった。それもまた心地よかった。
幸せが内と外から優しくあたしを抱きしめる。このまま、ここの風に溶けていきそうな、それも良いと思わせるような良い気分。
きっと父さんも、あのときはそんな気持ちだったんだろうな。
どこからか、ミソサザイの歌う声が聞こえてきた。
母さんは、特に話を聞こうともせずに地獄のようにあたしを叱った。そんな気はしてたので悔しくはないんだからね。
2
永劫とも思える時間のお説教が終わり、あたしはふらふらと自分の部屋に戻って、そのままベッドに倒れこんだ。
服がしわになるが、この疲労感の前には些細なことだ。
編んだ馬毛のマットレスの弾力が、あたしの体を優しくキャッチする。
「本当にあなたったら父さんに似て」
母さんは、あたしを叱るたびにそんなことを言う。
実のところ、母さんの気持ちもわからないではない。
ヘヴンリーベット家の舵取りは残された母さんがやっているわけだけど、跡継ぎになるのは一人娘のあたししかいない。なので、あたしに何かあった時にはお家断絶となるし、あたしに家を継がない選択肢は基本的にない。
この家がなくなってしまうのは、あたし一人の問題じゃない。ヤスミンおばあさんやリーゼロッタ、サンチョら使用人の皆の働き口がどうなるかもわからないのだ。
だから、あたしのためにも皆のためにも、ちゃんとした貴族としてのお作法を勉強する必要があることぐらい、あたしにだって分かってる。
ただ、あたしにはやっぱり父さんの血が流れているんだと思うし、そもそもそういう血が一代や二代ぽっちで抜けると考えてる母さんのほうがむしろ問題だと、あたしは考えてるってだけの話。
ため息と共に放たれる「父さんに似て」。
一代であたし達の家の財産を築き上げて爵位まで賜った、言わば立志伝中の人間に対して、たいへん酷い物言いだと思うけど、残念ながら妥当な扱いだと思う。
ヘヴンリーベット。天にも昇る賭け。父さんがつけた、あたし達の家名。
平たく言えば、あたしの家の財産は、父さんが外方次元界で何がしかの神との賭けに勝って得た財産だ。
だからといって、その一瞬を忘れないようにと誇らしげに家名にしてしまう辺り、良く言っても貴族的な感性ではない人物だったんだろう。私は山師で成金です、と宣伝してるようなものなんだから。
だろう、というのはあたしが小さいころに病死してしまったせいで、あまり人となりを知らないからだけど、色々と話を聞くに、そう外れていないはずである。
何にせよ、あたしはそんな父さんに似ていると、そう小言を言われ続けてきた。
本当かどうかはわからない。
そもそも父さんが、何で冒険者なんてやっていたのかすらわからないのだから。
食うや食わずでやむをえずかもしれないし、一攫千金を狙って田舎から出てきたのかもしれない。ひょっとしたら運命に導かれて手にした伝説の聖剣により、遍く諸次元界全てに平和をもたらす使命を帯びて旅立ったのかもしれない。だとすれば、ただ単に冒険が大好きなあたしと父さんは似ていないんだろう。
でも、旅立ちの理由が何であれ、あたしが父さんについて信じていることが一つだけある。
きっと父さんは、最初からでなくとも、最後には冒険が好きになっていったのだ。
そうでなければ、外方次元界に足を踏み入れるような域に至るまで冒険を続けたりなんてしない。
だからやっぱり、父さんとあたしは同じ血を引いてるんだと思う。
そう、つまり――あ、ミミズクが鳴いている。
ぱちり、と目を開いて、自分がいつの間にか眠っていたことに気がついた。
周囲はとっくに真っ暗になっている。
くう、とミミズクのようにお腹が鳴った。そういえば、晩どころかお昼ご飯も食べていない。
台所に残り物でもあれば良いんだけど。
ドアを開けて廊下を見ても、明かりは落とされている。使用人も皆寝静まっているみたいだ。しょうがないのでベッドサイドテーブルからほくち箱を取り出し、燭台に立てたロウソクに火をつける。
あたし自身は暗闇でも物は見えるのだけど、使用人のみんながびっくりするので、夜中には灯りをつけるのが我が家のマナーだ。
揺れる光から怪物か何か出てきそうで、正直あまりそうやって夜中に部屋の外に出るのは好きでは無いのだけど、空腹には勝てない。
上着を羽織り、廊下に出る。
あれこれしている間に、どうも風が出てきたみたいで、廊下の窓枠ががたがたと音を立てている。明日辺り、雨が降るのかもしれない。
嵐にならなければ良いんだけど。
この間見かけたハクチョウの雛が嵐に巻き込まれたら可哀想だな、などとぼんやり考えていたらお腹の音に咎められた。いけないいけない、まずは台所だ。
――と顔を上げると、曲がり角の向こうから明かりが少し漏れていることに気付いた。
誰か起きているんだろうか。
首を伸ばして見てみる。どうやら執務室の扉が少し開いていて、そこから明かりが漏れているらしい。
ただ、羊皮紙をめくったりペンを走らせたり、みたいな音がしない。
ひょっとして、母さん寝ちゃってるのかな?
そう思ったあたしは、ちょっとした悪戯心の赴くままに、そっと執務室に入り込む。普段は大事な書類があるから、と鍵がかかっている部屋にこっそり忍び込むまたとないチャンスだ。
やっぱり母さんは書類にサインをしようとしている状態で寝てしまってるらしく、机に突っ伏して静かな寝息を立てている。
両脇には本やら書類やらの棚がどっさりと。たいして面白くはない。
期待外れだな、と思ってドアの方を振り返り。あたしはそこで目を留めた。
覚えている。画家を読んで描いてもらった、あたしの肖像画。どこにしまったんだろうと少し不思議だったあれが、ドアの横に飾られている。書類仕事からふと顔を上げたとき、目に入るように。
……あたしは、しばし考えて、それから上着を脱いでそっと母さんにかけた。
少しくらいは母さんの言う事を聞いてあげようかな、なんてらしくないことを思いながら。
翌朝、母さんは勝手に執務室に入ったことであたしを地獄のように怒った。解せぬ。
3
危惧していた通り、朝から降り始めた雨はやがて嵐となり、夜まで続いた。
今まで見てきた中でも指折りの嵐で、夕暮れ前にサンチョが一度川の様子を見に行った以外は館の誰一人として外に出られないほどだった。
そんな中、あたしと言えば昨晩あんなことを考えてしまったせいだろう、どうにもハクチョウの雛のことが頭から離れなかった。
だから、朝方、雲一つない空を見届けたと同時に、あたしは裏手の山に向かうことにした。
明らかに泥が跳ねるので、ええいとスカートをまくりあげて、腰元で縛る。万が一目撃されたらはしたないと怒られるだろうけど、まあ、服を一着完全に駄目にして確実に怒られるよりはマシだろう。
林の中に分け入っても足元は悪いが、木に手をかけ、慎重に進んでいく。
だが、勝手知ったる何とやらだ。足を滑らせることなんてヘマはしないで、じっくりと進んでいく。
ハクチョウの親子を見かけた清流は、それほど遠い所にあるわけではない。そうやって進んでいっても、さほど時間はかからずたどり着いた。
お目当ての親子はいないようだが、まあいつもいるわけではないだろう。少し待とう。
この辺りは、崖の上というほどではないけど、段を上がったような場所になっていて、足を滑らせると結構危ない。なので、段差から離れた場所の岩に腰掛けることにした。
そうしてじっとしている間に、あたしが寝てしまったことは責められないだろう。昨夜は風の音と心配であまり眠れなかったし、このぽかぽかした陽気にさわやかな水の音だ。
――だから、強い衝撃で目を覚ましたとき、あたしには何が悪かったのか分からなかった。
嵐のすぐ後に山の中に入っていったこと?
ハクチョウの雛を見つけたこと?
母さんの目を盗んで、外で遊び歩いていたこと?
それとも――ちらりと目の端に映った、フードを被った灰色の肌の女?
何も分からないまま、あたしはあれほど警戒していた段差を、左手と頭に熱い物を感じながら転がり落ちていた。
どこか遠くで、ハクチョウの雛が鳴いている気がした。
バカみたい。どう考えてもあたしの悲鳴なのに。
意識を取り戻したとき、あたしは最初、夢を見たんだと思っていた。
強打したと思っていた左手も頭も、別に痛みを感じなかったからだ。
だけど、すぐにそれは間違いだということに気付いた。左手の様子を見ようと目をやったとき、あたしの左腕が白みがかった灰色に変色していることに気付いたからだ。
一瞬肝が冷えたけど、やはり痛みは感じないし、思い通りに動かせる。とりあえず色以外に異常は無いみたいだ。
そういえば、とさっき見かけた女の人を思い出す。あの人も似たような色の肌をしていた。何か関係はあるのだろうか。前に聞いた、ファイアー・ジェナシの肌の色に似ている気はするけど。
なんにせよ、フィーリゼン先生に一度診てもらったほうが良いかも知れない、とあたしは一度家に帰ろうと思い立ち、来た道を戻る。
奇妙なことに気付いた。
あれほどどろどろだった地面が、しっかりと固まっている。
ひょっとして1日以上気を失っていたんだろうか、と少し不安になる。その割にはお腹が空いていないので、時間が経っていないようにも思える。
何にせよ、その辺りは、最悪何時も通り母さんに怒られればわかるだろう。
そう思いながら家に近づくと、妙な声が聞こえてきた。
若い男性の声。あたしの家にはあまり縁の無い声だ。
咄嗟に、納戸の影に隠れて様子を見ると、ちょうど玄関から誰か出てくるところだった。
母さんだ。立派な正装をしている。ここ数日で外出の予定は無かったはずだけど。
その手を取っているのは、これは見知らぬ男性。やはり母さんと同じように正装をしている。
更にそのあと遅れて出てきたのは、やはり正装の若い男。背もそこまで高くは無く、成人するかしないかくらいだろうか。亡くなった父さんの外套を羽織っている。
嫌な予感がした。
話し声を聞かないほうが良いような、良くないような、決められない間に少しずつ漏れ聞こえる。
挨拶回り。
ヘヴンリーベット領。
成人。
どくん。
母様。
父様。
どくん。
どくん。
跡継ぎとして。
どくん。
どくんどくん。
どくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくん。
母さん達が何を言っているのか、わからなくなっていた。あたしの心臓の音がうるさすぎて。
理解してしまったのだ。あたしが意識を失っている間に、十年ではきかない年数が過ぎていたことを。
その間に、母さんが再婚して、あたしではない跡取りを産んだことを。
あたしの居た場所に、今は「弟」が居ることを。
気がつけば、あたしはその場から走り去っていた。
母さんと「弟」を、これ以上見ていたらどうにかなってしまいそうだったから。
二度とここには戻ってこないほうが良い。あたしには、そうするほか無かった。だから、最後に、あのナラの樹を見て旅に出よう。
小娘一人で旅に出て何ができるかわからないけど、あのナラの樹を昇りきったことを考えれば、勇気が湧いてくる気がしたから。
きっと「弟」のために家具やら何やらを作る材料にしたのだろう。あのナラの樹は切り倒されていた。
(キャンペーン本編に続く)
最終更新:2019年06月16日 00:55