朝日新聞デジタル

漫画偏愛主義
対等な関係性描くBL それでも、やさしい恋をする(ヨネダコウ)
2014年4月18日09時30分


 【松尾慈子】4月ですね。街を歩くと就活生の黒いスーツが目に付きます。私は2年前、東京大学の駒場祭で、「ボーイズラブ(BL)漫画について語って下さい」との依頼を受け、50人ほどの方々を前に熱く語ったことがあるのですが、そのイベントの幹事役をやってくれた男子学生・U君が、今、就活中なのだそうです。マスコミ志望のU君、先日大手マスコミ・K社を受験したところ、作文のテーマが「噓(うそ)」だったとのこと。頭が真っ白になったU君は、なんと、書き出しにBLネタを盛り込んだといいます。ノンケ(異性愛者)男性に片思いする男性が、エープリルフールにかこつけて告白する、という設定がBLの王道であり、と導入部分で書き出して。そして、性的マイノリティーが社会で強いられる、セクシャリティーについて「噓をつくこと」に話を広げた、とのこと。そして無事、その社の1次試験を通過したのだそうです。

 すげえ!U君、自分の領域の話をしながら、きちんと社会の問題に広げていっている。しかも、他の人と着眼点が違うから、すごく目立つよ! これを書いたU君もすごいけど、この作文で彼を通したK社もすごい。私は前々から思っていたが、このK社は懐が深い。U君はBLを愛好する腐男子だが、異性愛者であり、BLを読む理由は「男女の恋愛漫画は、対等な関係性を描いていないような気がするから」だそう。変わり者だなあ、面白いなあ、U君。ぜひ来春からはその感性を生かして、マスコミ界で活躍して欲しいものだ。

 そんなこんなで、今回もBLを紹介したい。今BL界で不動の人気を誇るヨネダコウ。しかしながら、最近はヤクザものを描いていることが多く、そのジャンルが苦手な私はどうにも手が出せなかった。それが本作は、ヨネダコウの6年前のデビュー作「どうしても触れたくない」(大洋図書)のスピンオフ作品。しかも、サラリーマンものだという。これを読まずしてはBLファンを名乗れまい。ちなみに「どうしても……」は映画化され、5月から公開されるのだそうだ。BLが映画化。時代も変わったもんだなあ、とオールドファンとしては思う。

そして本作。ゲイの出口が好きになったのは、3歳下のノンケ男・小野田。飲み友達になったはいいが、出口はなんだかんだと3年片思いを続ける羽目になる。とうとう小野田に告白する時が来て、出口は吐露する。「お前といると楽しくて安心して嬉(うれ)しくて……っ いつだって俺はガキみてえに浮かれてた いつもそれ悟られないように必死だった」。おおお。そうだよねえ。相手はノンケ、悟られないように必死になるよねえ。

 それに対してノンケの小野田は「相手に想(おも)われたくらいで 同じように都合良く想えるのかな」と自問する。おお、これぞBL! 男女だったら性欲と世間体でなしくずしに「付き合う」ことはできるけど、男同士だとそうはいかないよねえ。最近、なんの逡巡(しゅんじゅん)もなく男同士でラブラブになっちゃって、「これなら男女でいいじゃん!」とツッコミたくなるBLが散見されるが、本作は違う。終盤、小野田が嫉妬にかられる場面なんかも、さすが、ある程度の過去も背負っているリーマンものだ。とりあえず、相手の過去の男の話なんて聞くもんじゃあないぜ、小野田。つうか、普通、女なら絶対過去の男の話なんて口を割らないと思うけどね。

 あとがきに作者が「トラウマもないし、特別辛(つら)いことも、吃驚(びっくり)するような事件も起こりません。ほんのり気に入っていただけたら」と書いている。いや、無理してトラウマとか、いらないから! 最近、トラウマもの、多いよね。話に必要がなければ、いらないから! いや、大丈夫、ちゃんと気に入ったよ! 本作こそ、U君の好きな「対等な関係性」を描いたBLだなあ、と思ったのですよ。



プロフィール
松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク




下記のURLより一部引用しています。
http://www.asahi.com/articles/ASG4B5KFNG4BPWPJ00C.html


















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最終更新:2015年03月09日 22:53