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ポイポイダースピリチアルダンス(ACE) - (2007/09/03 (月) 20:37:27) の編集履歴(バックアップ)


*ポイポイダースピリチアルダンス(ACE)

名称:・ポイポイダースピリチアルダンス(ACE)
要点:・バンドウイルカ・水槽
周辺環境:・宇宙船

 

宇宙船の中に、大きな水槽が一つ。
その中を、一頭のイルカが泳いでいる。

宇宙にイルカ、というのは字面だけ見ればおおよそミスマッチな組み合わせである。
が、星屑きらめく宇宙をバックに泳ぐイルカというのは、なかなかどうして神秘的にして美しい。
では、このイルカが宇宙船での閉鎖された生活に心すさんだクルーたちの観賞用かと言うと、決してそうではない。もちろん、このイルカが泳いでいる姿を見てクルーたちの心が癒されているのも事実であるが、決して観賞用などではなく、れっきとしたこの船のクルーなのである。

名を、ポイポイダー。役職は航海士。誇り高きバンドウイルカ知類の、オスである。

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彼の航海士としての腕は超一級である。その優れた空間把握能力と計算能力はこの船の航海を大いに助けており、また、愛らしい外見と義理堅い性格から他のクルーからの信頼も絶大であった。
この宇宙船に彼専用の大きな水槽が備え付けられているのは、彼のこの船に対する貢献度の高さを表している。
彼は、宇宙にあっても二足歩行用のスーツを脱いで泳ぐことのできる環境を享受していることに、非常に感謝していた。

が。

やはり水槽は、狭かった。


宇宙船に備え付けられている通常のアクアリウムに比べればずいぶん大きかったが、それでも彼が自由に泳ぎまわれるサイズとはとても言えなかったのである。とは言えこの宇宙船のサイズではこの水槽のサイズがいっぱいいっぱいであり、それゆえクルーたちは彼の泳ぐ姿に心和ませつつ、もっと広いところで思い切り泳がせてあげたいなあと思うのが常であった。

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ある日。
休息時間に入ったポイポイダーに、一人のクルーが声をかけた。
手には大量の資料。どこかの島国の上空写真らしきものもちらりと見える。


彼は言った。
ポイポイダー、イルカの友よ。この国に行ってみないか。
船のみんなと捜してみたんだ。砂漠の国だが、君のそのスーツなら大丈夫だろう。
この国は島国だけあって海の面積が大きい。それにここの国民はイルカが好きらしくてね。ここなら君も気持ちよく泳げると思うんだ。
どうだろう、行ってみないか?

ポイポイダーは言った。
歩く友よ。
気遣いは嬉しいが、私にはそなたらの用意してくれた水槽がある。
それに私には職務がある。

彼は笑って答えた。
ポイポイダー、実はね。この船はしばらく宇宙ステーションの常駐任務に組み込まれることになったんだ。
だから、しばらく長い休暇を取ってもらっても大丈夫。安心してくれ。

ポイポイダーは言った。
歩く友よ。
それはもう、私がこの船に要らぬということか。

彼はまた、笑った。
まさか。君の航海士としての腕は天下一品だ。他のどの船にも渡したくはない。
ただ、僕たちは君に、光の海で泳いでほしいんだ。狭くて薄暗い宇宙船の水槽ではなくて。日の光が海底を穏やかに照らす暖かな海で、君に泳いでほしいんだ。
…わかっている。君があの水槽でも充分喜んでくれてるって、それはわかってるんだよ。でもね、だからこそ。君にのびのびと、思う存分泳いでほしいって思うんだ。
もちろん、君が嫌なら断ってくれてまったくかまわない。ただ僕らは、君に友情を示したかっただけだ。友人として、君の望むことを少しでも叶えてあげたいと思っただけだから。

ポイポイダーはしばらく考えた後、クォアッと笑った。
承知した。歩く友よ、そなたらの厚意、ありがたく受け取るとしよう。

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こうしてポイポイダーはニューワールドのいち島国、レンジャー連邦にやってくることになった。
彼が南の岬近くで泳ぐ姿や、二足歩行スーツに身を包んで北の漁港で海産物に目を輝かせる姿はすぐに多くの連邦民が目にすることとなる。


ポイポイダー・スピリチアルダンス。
その能力はまだ未知数ながら、その愛らしさと義理堅さでもってレンジャー連邦のみんなに愛されまくることはまず間違いなさそうである。

(文責:蝶子)


(絵:萩野むつき)

 

 

○レンジャー連邦とイルカ
島国であるレンジャー連邦では、水産業も国を支える重要なものである。
北の都にある連邦最大の漁港は近海の漁船が集まり、時に貿易船が直接乗り入れることも。空にはウミネコ達が戯れるこの地区は、最も人の心に旅愁を掻き立てる一角でもある。
レンジャー連邦において、沿岸部からイルカを目撃できる機会は、実は少ない。
近海部での漁を中心とし、大型の漁船は小数である連邦水産業においては、近海に固体数が少ないと見られているイルカは、たとえ漁師といえども、常に身近にいるものではないのだ。
その分、連邦民はイルカへの愛着が強い。
漁師は近海でイルカを目撃することは吉兆とされ、豊漁の証とされた。実際、イルカが近海に多くやってくるとき、その多くは繁殖した小型の回遊魚を捕食するためと言われており、豊漁となることも少なくない。
また、一般の連邦民の間でも、イルカは幸運をもたらすと言われている。
連邦の大地を始めて踏んだとされる、連邦の祖は嵐の中を誘導するかのように泳ぐイルカに導かれたと、伝説は語る。
また、南の岬に身を投げた悲劇の南都王子と北都王女は、実はイルカ達によって救出されていたという民間伝承もある。
決して身近な存在ではないイルカへ連邦民から多くの愛が注がれるのは、その優しげなフォルムと、なによりも人の心を読むといわれる賢さにある。
時にイルカ達が近海に姿を現したとき、多くの連邦民が海岸部で触れ合いを楽しむ。その際に人になついた個体は再び戻ってくる可能性が高いが、不思議と毎年一定の人物を訪れるときがある。この現象は現在にいたるまで明確な答えがでていないが、一説にはイルカにはそばにいてあげるべき人物が分かるのではないか、という考えもある。
以上のように、レンジャー連邦とイルカは浅からぬ関係がある。
ポイポイダー氏も連邦において、一つの大きな支えとして受け入れられことだろう。

(文責:青海正輝)


(絵:萩野むつき)