【ウラギール・ツレショニズム】



授業も終わり、少し薄暗い学舎の片隅、男子トイレにマサと昌平は立っていた。
「おめぇとは、もう長い付き合いだけどよ」
改造学ランにリーゼントの目立つ男が、そばに立つ男に声をかける。
「今度の戦、おめぇさんどっちにつくつもりだ、昌平?」
「いったい何の話だい、マサ」
「とぼけてもらっちゃあ困る。おめぇは元々番長グループの人間だろう?」
あくまで強気の口調で迫るマサに対し、しかし昌平はにこにこと笑ったままだ。
「僕らはとっくに人間をやめているものだと思っていたけれどね」
「はぐらかすんじゃねえ」
怒気を強めるマサの、しかしその表情は怒りに震える男のそれではない。むしろ、痛みを堪えているかのようだ。マサは懐から1枚のビラを取り出した。
「こんなもんがウチのメンバー内に出回ってんだよ」
昌平はビラを受け取り、力なくため息をつく。ビラには楚野昌平は生徒会陣営を内側から瓦解せしめんとする番長グループのスパイである、即刻追放すべきだなどという文面が派手な字体で書かれていた。
「まあ、自分でも疑われてもしかたないとは思うよ。ただ、僕には裏切る気なんかない。生徒会の人たちはみんな優しいし、僕は番長グループに追い出されたようなものだしね」
「……」
「でも、ここまで疑われたらしょうがないかな。もうここにいるわけにも」
「しょうがないって何だ!」
たまらずマサは叫んだ。思わず顔をマサのほうにむける昌平。
「おめぇはいつもそうだ。なんかに本気をだすってことをしねぇですぐ諦めちまう」
昌平は、ただ黙ってマサの話を聞いている。
「おめぇのことを疑うやつも多いさ。俺も疑って悪かったよ。だけど、それをおめぇが受けいれちゃダメだ。きちんと信じてもらわなくちゃダメなんだよ」
マサは苦しそうに言った。
「ありがとう、マサ」
昌平は、笑顔で答えた。彼はずっと、笑っていた。
「分かったならいいさ。おめぇがどんなに疑われようと、おめぇがどこにいこうと、俺とツレションしたやつは俺のダチだからな」
マサもまた笑顔であった。その目は鋭いが、しかしそこには友を信じる光があった。午後5時を知らせるチャイムが鳴った。
「今日はもう遅いし、僕はこれで帰るよ。明日から、みんなに信じてもらえるよう頑張らないとだね」
「おう、俺にできることなら協力するからよ」
「じゃあ、またね」
「あ、おい」
帰ろうとする昌平を呼び止めるマサ。
「まだ何か?」
不思議に思い、振り向く昌平。マサはすっと水道を指さした。
「トイレから出るときは、手は洗え」
ふと2人は見つめ合い、どちらからともなく笑いあった。


最終更新:2015年03月19日 20:42