時々雨宮守プロローグ【ヤモっち、崖っぷちなう】
校舎の壁の、屋上近くにぴったりと張り付く。
ここが、誰にも邪魔されない私だけの特等席。
――――うわー、スッゲェー! どうやったらそんなとこ登れんだ!?
じゃあ君はさ、どうやったら梯子を登れるのか聞かれたらどんな気分?
答えに困るよね?
掴まるところがあって、足をかけるところがあるから、登れる。
あたしにとって壁を登れることは普通のことで、登れるから登れるとしか言いようない。
――――ヤモリみてーだな! スッゲェー!!
ううう、女の子に向かってそれはないんじゃないかな。
どうせ、あたしは爬虫類っぽい顔してますよ!
ヤモリは好きだけど、ヤモリって言われるのは好きじゃない。
だって、あたしはヤモリじゃないもん。
ミヤモリって書いて「くもり」って読むんだもん。
記憶の中の彼は、何度思い出しても嫌な男の子だった。
実はあたしのことが好きでちょっかいだしてたらしいという話を差し引いても、十分やな奴。
はぁー、なんでこんな奴に恋しちゃったんだろうね。
何度も昔のことを思い出して、自分の気持ちを否定しようとしたけど、駄目だった。
だから、精一杯心を込めて作ったチョコを渡した。
渡すだけで全エネルギーを使い果たしてしまったので、彼の反応も見ないで逃げてきた。
そして、返事をされるのが怖いので、バレンタインデーからこっち、ずっと彼に会わないように逃げ回ってる。
あたし、何やってんだろ。
はなし変わって、初めてキーちゃんを学校に連れてった日のこと。
失礼なことに友達はみんなしてキーちゃんのことを恐がって逃げ出した。
毒があるかも、とか失礼しちゃう。
ヤモリには毒なんかないんだからね!
さて、簡単な論理のお勉強だよ。
A『ヤモリ ⇒ 毒がない』
B『あたし ⇒ ヤモリじゃない』
AとBから、以下の結論が導かれる。
C『あたし ⇒ 毒がある』
これが、あたしの能力『毒ヤモリさんだよ』の発現原理というわけ。
……って、導かれないよ!!
能力名もちょっと待って!!
ヤモリじゃないって言ってるのに!!
世の中はかように不合理だ。
やんなる。
あたしが、あんな奴に恋してるのも不合理だ。
まったくやんなる。
身体中からじわりと猛毒の粘液がにじみ出す。
毒粘液は、嫌な気分になると自然に出てくる。
バレンタインデーを過ぎてから、あたしはいつでも自由自在に毒粘液を出せるようになった。
あいつの顔を思い浮かべれば、一瞬で嫌な気分になれる。
あんな奴! あんな奴……!
もし、嫌いって言われたらどうしよう……!!
そして、毒能力に目をつけられたあたしは、ハルマゲドンに参加することになってしまった。
運命の日はホワイトデー。
勝つか負けるか、生きるか死ぬか、彼の返事はどうなのか。
時々雨宮守(ときしぐれ・くもり)、ただいまクリフハンガー真っ只中!
最終更新:2015年03月19日 20:46