【天紗堂理佐プロローグ】


黒い爬虫類の影が、地面を滑るように這っている。比喩ではない。文字通り、立体感のない爬虫類の影だけが地面を這い進んでいるのだ。影はやがて、希望崎学園校舎の傍に立つ少女のもとに辿り着く。その肩には一匹のトカゲ。影は彼女の体を這い登り、本来の位置であるトカゲの下に収まった。

トカゲは、少女に耳打ちする。少女は深刻な表情で数度うなづき、呟いた。「まさかウラギールさんが、一人をあんな目に遇わせた犯人だったなんて……」トカゲの言葉を解する少女、天紗堂理佐(てんしゃどうりさ)は、山之端一人の友人であった。「おやおや、どうやらバレてしまったようですねぇ~!」

「ウラギールさん!?」「理佐さん、なかなか面白いペットを飼ってるんですねぇ~。あまり興味深いので、ついつい尾行してしまいましたよぉ~~」ウラギールは慇懃な態度を崩さずに嘲笑う。「……兄さんのことをペットと言うな」理佐は腰に帯びた曲刀に手をかける。

「ハルマゲドン前に正体を露呈するわけにはいきませんので、貴女はここで……縊り殺して差し上げますよォ~~ッ!」黒衣を翻し両腕を広げる!周囲に無数の鋼線ワイヤーロープが展開!「これぞ惨殺率100%の絶対鋭断抹殺凄絶技法!華麗なる殺人奥義で四肢切断バラバラ殺死ヒャァ~~!!」

ワイヤーが四方八方から理佐を襲う!理佐の肌に無数の赤い筋が刻まれる!「兄さんお願い!」理佐の叫びに応え、肩のトカゲの下から十匹の影蜥蜴が這い出し、地面を滑るようにウラギールの元へと進む!「死ヒャッ!?馬鹿な切れぬ!?」実体を持たぬ影は鋼線斬殺不能!

十匹の影蜥蜴はウラギールの身体を這い登り、その両目にまとわり付いた。「なヒャッ!?目がッ!?目が見えないィ~!?」「今だっ!蜥蜴剣術!」理佐は地面を這うような低姿勢で鋼線網を潜り抜ける!ウラギールに肉薄!曲刀を天に向かって振り上げる!

ぼとり。肩の付け根から切断された左腕が地面に落ちる。その手には曲刀が握られていた。「ぐああぁーっ!?」理佐が苦悶の叫びをあげる。「おやおやァ~?どうやら貴女も、私の周囲に張り巡らされた絶対不可視完全堅牢防御鋼線が見えなかったようですねェ~~」ウラギールが両腕を交差して反撃の構え!

(いけない!理佐っ!逃げろっ!)理佐の肩で兄であるトカゲが叫ぶ!「ぐっ……仕方ない!」斬り落とされた理佐の左腕が跳ねてウラギールに斬り掛かる!しかし不可視の鋼線に阻まれて左腕は空中で止まる!「そこですねェ~~!!」視力の回復していないウラギールはワイヤーの振動に反応して斬殺撃!

無数の肉片へと変えられてゆく自らの左腕を背に、理佐は兄とともに鋼線包囲網を潜り抜け、脱出に成功した。(どうする……?ウラギールの正体を皆に知らせるべきだろうか……?)だが、そんなことを言っても、恐らく信じる者は少ないだろう。それほど、ウラギールは周囲から人望を集めているのだ。

(番長グループには、恩義がある。生徒会の連中も、悪い奴らじゃない。でも……)理佐は、山之端一人の仇を討ちたい。そのためなら、双方の陣営をウラギールを殺すために利用することも厭わぬ決意を固めた。ハルマゲドンまで残りひと月弱。『尻尾切り』した左腕の再生はギリギリ間に合う。

「兄さん、私やるよ。絶対に、一人のことを殺したあいつのことは許さない……!」天紗堂理佐は、瞳に復讐の炎を燃やす。その肩で兄であるトカゲは、心配そうに舌をチロチロと動かした。

【天紗堂理佐プロローグ】おわり

番長グループ所属NPC! 蜥蜴剣術の天紗堂理佐ちゃんです!


最終更新:2015年03月23日 21:10