無題4
公園のベンチに一組の男女が座り談笑していた。
「へー。もとこちゃんは俺とトシ変わらないのに飛び級で大学生なんだ? じゃあさ、そろばんとかカナリ凄いんでしょ」
大きく足を開いて座り、ギャグなのか素なのかリアクションに困るトークを展開しているのが、自称21世紀で一番いけてる妖怪、ナキである。
隣に座るちゃんねーの詳細は下記の通りだ。
【A】もとこ 属性/眼鏡。とっても頭が良くて、飛び級で総理大臣になっちゃうの。権力ってステキ!
「面白い方ですね、ナキさんは」
「あ、違う違う。ナキじゃなくてー。こうアルファベット読みっぽい感じでNAKIって呼んでよ、リピートアフタミー?」
「Naki?」
「うお、ネイティブぅ! その発音アメリカンコーヒー」
「こ、コーヒー……?」
お気づきだろうが、このナキ、いやNAKIという男、圧倒的にトークがつまらない。なぜなら妖怪だからだ。
「Nakiさんは本当に妖怪なんですの?」
「あー、マジ。実は妖怪。ってかYOUKAI」
NAKIは両手でろくろを回すような形を作ると、語り始めた。
――まぁ、妖怪ってやっぱヤバい奴もいっぱい居るわけね。俺の仲間もさー。あ、ちなみに俺、地元じゃ悪そうな奴は大体友達。
とにかくその仲間がもうマジ悪くてさー。マウンテンドッグらとつるんで人間襲ったりすんの。
マウンテンドッグとか殆どウルフだからね、ウルフ。いわば狼。やべーっしょ。
で、まずは俺ら夜雀部隊、もはや部隊が夜山を歩く人間を包囲してビビらせんのね。
あ、てか俺は夜雀って妖怪なんだけどさ。夜雀って「夜に雀が鳴いてるとかおかしくね?」って妖怪なのね。
まぁ、そっから。こう。あれ。さっきのウルフ。マウンテンウルフががーって襲うわけ、がーっと。
え? 夜雀要らない? いやいや、要るから! 夜雀要るから!
ほらあれ、猟師さんだって犬連れてるあれと同じで……
そんな順序立てが全くされていない下手くそな話をNAKIはした。その間ろくろのポーズを取った両手が微動だにしないのが不気味で仕方ない。
「まぁ、実際俺とか妖怪には見えないっしょ。でもマジ夜雀だし。ウンコとかめっちゃ白いし」
「くすっ、本当に面白いんですねぇ、Nakiさんったら」
いつもは十回かませば十回滑るNAKIのギャグがどういうわけか、そこそこにヒットしている。
それはもとこが天才で、常人とはかけ離れた精神性を持っているからである。
「マジ白いんだよ。見たい? 見る!?」
「見せてくださるんですか?」
「じゃあ行っちゃう? クソタイム~」
言うが早いかNAKIはベンチから立ち上がり、ズボンを下ろすような仕草を始めた。
もとこはその様子をまじまじ眺めている。だんだんNAKIの挙動が怪しくなる。
「え……と。そろそろ止めてくれないと、俺。ホントにその……クソタイムなんですけど?」
「見せてくださるんじゃなかったんですか?」
「いやいやほんとに見せたら捕まっちゃうからおまわりさんに! てか冗談通じない系なのもしかしてキミ!?」
「大丈夫! 雀には 人 権 なんてありませんからぁ。人の法も適用されませんよ、たぶん」
「たぶん!? 今たぶんって言った今!?」
ヤバイ。この女はヤバい。マウンテンウルフよりもヤバい。ヤバいとしか言えない。ヤバい。
語彙の乏しいNAKIの脳内はもはやヤバイ一色である。
「あ、じゃあこうしましょう! 俺今からそこのトイレで出してそれ撮ってきますんで。それをご覧いただく運び、でどうでしょうか……」
「えー……」
不満げな表情でもとこは立ち上がった。その背からは黒い妖気が立ち上っている。
なまじギャグがヒット?してしまった為に、知的好奇心のスイッチが入ってしまっているのだ。
(こうなったらアレしかねぇ!)
NAKIは腕時計に仕込んだ麻酔針をもとこに向けて発射! しかし、その針はあっさり指で摘みとられてしまう。
CランクのおねえちゃんですらNAKIより戦闘力が高いのだから、Aランクのもとことは歴然たる戦力差がある。
「なんのつもりですかぁ、Nakiさん?」
ひぃっ。NAKIは小さく悲鳴を上げた。このままでは脱糞不可避!
「あ、じゃあ……えっと。こうしましょう! えっと。つまり……」
「……」
「あれです、腹案! それはですね。どういうものかと言いますのは……」
「……」
「いや、もう思いついてはいるんですよ。えーっと、なんだっけなー……」
「……ちっ」
もとこは舌打ちした。
「うぜぇ」
それだけ言うと、もとこはNAKIを残して歩き去ってしまった。その背中が遠く離れてやがて見えなくなると、NAKIはへなへなとベンチに座り込んだ。
「おかあさん……」
うつむいて目がしらを抑えると、何故だか涙が止まらなかった。
最終更新:2015年03月19日 20:49