【希望崎学園雑誌部の激突取材・番長グループ編 File5】


みなさんこんにちは!
魔人が集まる希望崎学園の中でも、とびっきり個性的な方の生態……もとい、日常を紹介するコーナー。
番長グループ編の第5回は、紅蓮のラテンボーイこと紅世アモルさんを特集します!
担当は私、新人記者のみっちゃんです。初めての記事、緊張です……。
それでは早速スタートです!


 *****


《1.クラスメイト・小山友貴の証言》

――紅世アモルさんってどんな人ですか?
「アモル? あぁー、あいつは面白いよ」

――エピソードを聞かせてください!
「基本何したいのかわかんないし。今朝も登校する途中でばったり会ったんだけど、いきなり『鈍色の天蓋……』って言われてさ、ああ、傘忘れたんかなーと思ってとりあえず世間話でもしようと思ったわけ」
「そしたらあいつがいなくてさ、どこ消えた!? って探したら、反対側の歩道で知らない女の子に抱きついてキスしようとしてんの。このときの気持ち、何て表現したらいいんだろうな」

――それはまたエキセントリックですね。というか、ニビイロのテンガイ? からよく言いたいこと判りましたね。
「え? いやぁ、声のトーンが低かったし、なんかしょんぼりしてたから」

――優しいんですね!
「うちのクラスのやつはみんなこれくらい判るよ。それにホントにそういうつもりだったのかは知らないし」
「まあ悪意はないからね、あいつには。本能に忠実すぎるだけで」

――けっこう愛されてるんですねー。ありがとうございました!


 *****


《2.担任教師・勅使河原順子の証言》

――紅世アモルさんは、先生の目から見るとどんな生徒ですか?
「紅世か。まあ、平たく言えば『筋金入りの軟派者』といったところか。……何を言ってるんだろうな私は」

――エピソードはありますか?
「出席を取る度にいちいち私を口説こうとしてくるんだ。最初は周りの皆も驚いていたが、今では普通の光景になっている」
「そもそも朝時間通りに登校してくることの方が珍しいな。それはあいつに限ったことじゃないんだが、その……服を汚したまま学校に来るのはやめてほしい。目のやり場に困る」

――なんかすごいですね。先生たちの間で問題にはならないんですか? 謹慎にした方がいいとか……
「謹慎? あいつを街に放つ方が危ないだろう」

――あー、なるほど。
「授業は一応ちゃんと受けてるしな。しばしば興奮して廊下に立たされてるが。まあ、好きなんじゃないか? 学校が。なんだかんだでさ。担任教師の願望かもしれないけれどね」

――ふむふむ、全く別世界の住人ってわけでもないのかな? 先生、お忙しい中ありがとうございました!


 *****


《3.駄菓子屋店主・竹松ウメの証言》

――紅世アモルさんについてお聞かせください!
「紅世アモル……はて、それはどなた?」

――あっ、すみません! えっと、背が高い、赤い髪の毛の、男子高校生です!
――こちらのお店でよく見かけるとお伺いしたのですが……?
「あぁ、あぁ、あの赤髪の! そうかい、あの子はそんなハイカラな名前なのねぇ」

――そうですその人です! 何か面白……げふん。アモルさんがどんな人かわかるお話ってありますか?
「良い子だよあの子は。いつもお菓子を買ってくれんだけどねぇ、わたしの手を握って言うんだよ。『永久に共にあらん』って」
「わたしゃ年甲斐もなく胸がドキドキしちゃうんのよ。でも、その後ね、後ろに並んでたチビッ子にもおんなじようにするの。コラッていうとヘラヘラ笑いながら逃げてくんだけど、まぁー元気がよろしいこと」

――ずいぶんストライクゾーンが広いんですね。他には何かありますか?
「すごい力持ちなのよ。前に戸棚の下敷きになっちゃったときもね、助けてくれたの」

――へー、ただのチャラ男でもないんですね。
――このお店はずいぶん前からあるみたいですが、ひょっとして昔のアモルさんもご存知だったりします……?
「昔? あの子はずっと変わらないよ。言葉遣いは大げさになったけど、そういうお年頃なのかしらねぇ」

――小学生の軟派者ってどんなかんじなんでしょう? 取材協力、ありがとうございました!


 *****


《4.現地取材》

駄菓子屋での取材を終えた私は、次の取材先であるピッツァ屋(ピザ屋ではないらしいです)に向かっていました。
その途中……。

「へっへっへ、いいだろ? ねぇちゃんよぉ。俺たちと楽しいことしようぜぇ~?」
「ちょ、ちょっと離してください!」

絵に描いたようなチンピラ共に女の人がカラまれてる場面に出くわしてしまいました!

てかお前ら私と年そんなに変わんないだろ! いつの時代だよ! と思いつつ、非力な私は手をこまねいていました。
するとそこに現れたのです。炎のように真っ赤な髪の、大きな男の人が!

「身の程を知れ、穢れし畜生共」
「あァン!? 部外者はすっこんで……グヘァ!」

男の人はチンピラを殴り飛ばしました。するとなぜか爆発が発生! 倒れたチンピラは動けません。
仲間たちは黙っていられないようで、男の人を取り囲みました。

「おうおうナメた真似してんじゃねぇぞコラァ!」
「ククク……奴は俺たちの中でも最弱」
「『東京フール』の面汚しよ」
「テメェ、死ぬ覚悟はできてンだろうなぁ!」

殺気だった連中は今にも男の人に襲いかかりそうな雰囲気でした。
私は警察を呼ぼうと携帯を取り出しました。
ですが。

「下賤な眷属共の後塵を拝することがあろうか? いや、主の御心のままに……滅びよ」

男の人は何事かを呟いたかと思うと、チンピラたちに立ち向かいます。
彼がカウンターパンチを決めると、拳の当たった場所が燃え上がったではありませんか!

「ギ、ギャアアー!」
「お前、一体なにを!」
「『我、炎を以て世界を愛さん』――愛を妨げる者よ。灰燼に帰して沈黙するが良い」
「ち、ちくしょうが……ウオオー!」

なおも襲いかかるのをやめないチンピラたちでしたが、ほどなくして全員逃げるか気絶するかしてしまいました。
彼の勝利です!

「聖なる乙女よ、大過無いか?」
「は、はい。大丈夫です……って、きゃあ!」

助けられた女の人が突然悲鳴を上げました。
何事かと思って近づいてみると……なんということでしょう。炎が彼の服に燃え移って、下半身が丸だしになっているではありませんか!

「わわ、すみません。私のために、服が燃えちゃって……」
「『創造の初めから、神は、人を男と女に造られたのです。それゆえ、人はその父と母を離れて、ふたりの者が一心同体になるのです。それで、もはやふたりではなく、ひとりなのです。こういうわけで、人は、神が結び合わせたものを引き離してはなりません』」
「え?」

女の人は彼の発言を聴き取れなかったようです。
私も取材用レコーダーの音声を文章化してるので現場では何言ってるかさっぱりでした!
男は女の人の肩を掴むと、彼女の目を見てぶつぶつ喋ってます。
男の瞳がみるみる胡乱になっていきました。

「バベルの塔は神に至るだろうか」
「ちょ、やめ」
「魂の合一を……」
「やだ!」

我慢の限界に来た女の人が平手打ち!
驚いた顔をした男が手を離すと、女の人は逃げていきました。

「神の裁きか……」

ひとり残された男の人は空を見上げて呟きました。下半身丸出しで。
追いかけて行かないってことはあくまで合意が必要ってことなのでしょうか。
あまりのことにあっけにとられていた私でしたが、気をとりなおして取材に向かいます。
そう、彼こそが紅世アモルなのです!

私が彼の方に歩みを進めた次の瞬間、パトカーのサイレンが辺りに鳴り響きました。
すると彼は駆けて行ってしまいました。ものすごいスピードで。
きっと、以前にも警察のお世話になったことがあるんでしょう。
私にできることは、夕焼けよりも赤い彼の頭を、そっと見送ることだけでした……。


 *****


いかがでしたでしょうか。
中々ぶっとんだ方でしたが、悪い人ではない気がしました。
しかし、はたして彼は無事に家に帰れたのでしょうか……。

それでは今日はここまで!
希望崎学園雑誌部の激突取材、次回もお楽しみにー!
(記・みっちゃん)


最終更新:2015年03月19日 20:50