【ふたりはレプ友!】
意識を失った襲撃者チャウヒトは、通りすがりのラクロス部の子にお願いして保健室まで運んでもらった。生理食塩水をだばだばブチ込んで、毒性を希釈。なんとか一命は取り留めたけど、数ヵ月は身動きが取れないだろう、と保健室の先生。ま、あたし特製の毒をたっぷり喰らえば、そりゃ、ね。
あたしの方も実は結構重症で、先生の『能力』で診てもらったらアバラが2本ヒビ入ってた。痛いと思ったよ。何があったのか聞かれたので、素直に五階建ての屋上からフランケンシュタイナーしたって言ったらムチャクチャ怒られた。襲われた事だけ言えば良かったな。もー、やんなる。
スパーン! 保健室のドアが勢いよく開かれた。「ヤモっち! 大丈夫!?」艶やかな長い黒髪、睫毛が長くて鋭く美しい瞳。プリーツスカートの脇には曲刀を帯び、セーラー服の肩には暗緑色の鱗の大トカゲ。あたしの友人、天紗堂理佐だよ。心配して来てくれたんだ。ありがたいね。
「私と間違えてウラギールの部下に襲われたんだ……ごめん、ヤモっち。危ない目に遭わせて」理佐は辛そうに目をぎゅっと閉じて頭を下げた。「いいんだよ。上手く撃退できたし。それより、ウラギールさんの正体って何? あたしは理佐が危ない事をしてる事の方が心配だよ?」「キー!」
理佐の話はすぐには信じがたい内容だった。あの立派なウラギールさんが、ハルマゲドンを画策してるだなんて、相手が理佐でなければ、実際にあたしがチャウヒトに襲撃を受けてなければ、耳を貸さなかったかもしれない。本当に、最近やんなることばかり。
もうすぐハルマゲドンが起きるだろう、と理佐は言った。その瞳には何か暗い覚悟が秘められてるように、あたしは感じた。「理佐も……戦うの?」「うん。私にはやることがあるから」「やることって――」聞きかけたあたしを、理佐の強い瞳が制した。ああ、これは止めちゃあいけないな。
ここで、急に理佐はころりと表情を変えて女の子の顔になった。「と・こ・ろ・でー、最近ヤモっち様子がおかしいけど、何かあったのかなー?」あわわわ、そう来たか!「な、な、何もないよーっ!?」だっ、駄目だ顔が真っ赤になってて何かあるのはバレバレだよこれ。ひゃあー。
理佐は肩に乗せたお兄さんの方をちらりと見て、申し訳なさそうに言った。「あのね、盗み聞きしようと思ったわけじゃないんだけどね。偶然、兄さんの耳に入っちゃったんだ。ヤモっちがあいつにチョコ……」「うわあああーっ! やめてっ! それ以上言ったら一服盛るよ!!」ぎゃーっ! ばれてる!
「ふーん。なるほど。その様子では返事はまだ貰ってないみたいだね?」理佐が楽しそうに言い当てる。や、やめてー。「なんなら、私があいつにそれとなく探りを入れてやろっか?」おお、なんたるありがたい申し出! さすが理佐! あたしの親友! 頼りにしてますお願いします!
でも、あたしはこう答えた。「……やっぱりダメ」勇気を。勇気を振り絞らなきゃ。「こーゆーのは、やっぱり、自分でナントカしなきゃ」意地っ張りかもしれないけど。あたしはここで理佐に甘えたくない。「うん!」理佐は太陽のような笑顔で言った。「頑張ってね、ヤモっち!」
【ふたりはレプ友!】おわり
最終更新:2015年03月23日 20:24