私は騙されたのだ―
そういえば、最初の男たちがこそこそと何か相談していた。
自分は初めから身体を売らされるために連れてこられたのだ。
いい人だと安心して着いてきた自分が情けない。
アイリーンは放り投げられた財布を強く握りしめた。
だが、騙されたままではいられまい。
アイリーンは自分の服を身につけて、部屋を出た。
こうなったら自分で力づくで逃げる他ない。
自分には猴拳があるではないか。こういうときに使わなくてどうする。
祖父はこういう時のため修行をつけてくれたのではないのか。
さっきのようにガタガタ震えてはいられない。
部屋を出ると薄暗い廊下が続く。
幸いなことに人はいないようだ。
出来るだけ足音を立てないように、尚且つ早く移動しなければならない。
階段を降りると、人の話し声が聴こえる。女と男の声だ。
女の方は恐らくここで働く娼婦だろう。
男は、アイリーンをここに連れてきた男だ。
二人はカウンターで世間話をしているようだ。
サッと死界になる柱の後ろに隠れる。ここからなら気づかれずに背後に回れる。
アイリーンは側にあった適当な花瓶に手を伸ばし、二人の近くに投げた。
花瓶は壁に当たり大きな音を立てて割れた。
「何だ!?」
二人の注意は条件反射的に割れた花瓶の方へ向けられる。
今だ!
アイリーンは早足で近づくと男に思い切り飛び蹴りをかます。
「ぐあっ」
男は仰向けに倒れた。そこにすかさず馬乗りになり、みぞおちを突く。
的確に急所を突いたため男はすぐに気を失った。
「誰か…誰か来てー!!小娘が逃げ出そうとしているのよ!」
女は大声で人を呼ぶ。
まずい、さすがに何人もの人間の相手は、自分のレベルでは出来ない。
アイリーンは建物の扉に身体ごとぶつかり、戸を開ける。転びそうになるのを絶妙なバランスで耐え、走り出す。
後ろを振り返ると男が何人も追ってきている。皆強面の男だ。
どうやらあの売春宿の警備の者のようだ。
アイリーンに向かって走ってくる。
「かけっこだったら負けないよ!」
とりあえず大通りに出なくてはならない。
誰かに助けを求めるか、もしくは人混みに紛れる。
あの人混みの中では小さなアイリーンを探しだすのは至難の技だろう。
人を隠すには人の中、である。
大通りに向かって真っ直ぐ走っていると、突然壁にぶち当たった。
「何で!?」
入り組んだ路地裏、似たような建物がごまんとある。
ましてや初めて来た人間が迷ってしまうのも無理はないのである。
アイリーンは後ろを振り返って別の道を探そうとする。
しかし、男たちは既に曲がり角までやって来ている。
このままではさっきの二の舞だ。
さすがに今度捕まればそう簡単には逃れられまい。
しかし、突然こちらに駆けてくる男の一人の身体が突然宙に浮いた。
「!?」
続いて二人、三人と同じように宙に浮いてゆく。
あっという間に自分を追いかけてきた男たちの身体が地面に転がった。
何が怒ったのかまるで理解出来ない。
しかし、一人立っている人間がいる。あの人がこの男たちを…?
「ふふっ、私の方が強かったみたいね♪」
―女だ。
恐る恐る近づいてみると、この男たちを倒したのはこの女性のようだ。
「あなた、大丈夫?」
見ると、女は箸より重いものも持てないのではないかというくらいにたおやかな女性だ。
しかも、アイリーンが未だかつて見たことがないほどのとびきりの美女。
長い黒髪を中華風に結い上げ、
黒いノースリーブのタンクトップにロールアップのデニムジーンズとラフな格好だが、
眩しく輝く白い肌、ふっくらとした頬に包まれた切れ長の眼に果実のような唇はかなり、
いや、とてもいるだけでも人目を惹く美貌だ。
しかも随分若い。20歳は越えていないように見える。
「大丈夫?」
女性はにこりと白い歯を見せてアイリーンに近づいた。
「あっ、ありがとうございました!!」
女性に見とれてお礼を言うのを忘れていた。アイリーンは顔を真っ赤にして頭を下げた。
「あなた、もしかして田舎から出てきたばかり?
ここは女のコが一人でうろつくような所じゃないから気をつけてね」
「はっはい!」
女の子が一人でうろつくような場所ではない…ならば彼女自身はどうだというんだ?
女性は、「じゃね♪」と言うと踵を返して立ち去ろうとした。
「あのうっっ!!!」
「んっ?」
「私…行くところがないんです…」
アイリーンは女性に連れられて、小さな劇場に来ていた。
アイリーンが軽く事情を説明すると、女性は今夜はうちに泊めてあげると言ってくれた。
劇場に来るまでの間、女性は自身のことを色々と話してくれた。
名前はパイということ、彼女は駆け出しの女優であるらしく、今から公演があるらしい。
彼女も幼いころから功夫をたしなんできており、さっきの武術は燕青拳というらしい。
アイリーンはパイの計らいで小劇場の一席に座って、彼女の演舞を見せてもらえることになった。
小劇場とはいえ満員で、こんないい席をもらっていいのか、
とパイに聞くと、彼女は公演の度には必ず一席確保しておくのだという。
どうしても、来て欲しい人がいるらしい。
恋人だろうか?少し妬けるが、これだけの美しい人ならば恋人の一人や二人いてもおかしくないだろう。
ブザーが鳴ると段幕が上がり、先程とは違う、いかにも「中華風」な衣装に身を包んだパイが立っていた。
身体には薄いシルクの羽衣を待とっている。手にはレプリカの剣。
派手な銅鑼と音楽に合わせてパイはくるくると回った。
回るたびに羽衣がひらひらと舞って…まるで、天女のようだ、とアイリーンは思った。
そしてパイは軽やかな手つきで剣を操り、巧みな演舞を見せる。
まるで剣も着ているものも合わせて生き物のようだ。
まわりの客たちもため息を洩らしている。
アイリーンもこうみえて京劇をたしなんでおり、見る目はある。
パイの演舞はアイリーンを魅了した。
長かったような短かったような時間が終わり、別の俳優の演技が始まった。
アイリーンはしばらく感動のあまりぼうっとしていたが、立ち上がりパイの控え室へと向かう。
「パイさん…とてもすごかったです!あたし、ちょっと泣いちゃった…」
「ありがとう」
パイはアイリーンの髪の毛をくしゃくしゃと撫でてくれた。
パイの美しさ、優しさ、強さの全てがアイリーンを憧れさせていた。
全ての公演が終わると、二人はパイの泊まっているホテルへと向かった。
狭いが二人泊まるには十分だろう。
「アイリーンちゃん、背中流してあげるわ。一緒にお風呂入りましょう」
「はい!」
風呂は思いのほか狭くて、二人で入るには、必要以上に密着しなければならない。
「アイリーンちゃん、綺麗な肌ね。色も白くて、すべすべで」
パイはアイリーンの背中をスポンジでごしごし洗いながら言った。
「そんなことないです…パイさんと並んだら男の子にしか見えません…」
パイは、服を着ているときは華奢に見えるが、どうやら着痩せするタイプのようで、実はかなり出るとこは出ている。
田舎の無垢な少女のような顔立ちと、不釣り合いなくらい成熟した体つきがいやになまめかしい。
さっきからパイの豊かなバストの先がアイリーンの背中にツンツン当たって、
女同士だというのに何だか変な気分になってしまう。
「アイリーンちゃんはどうして都会に出てきたの?」
「えっ…私…あんな村での暮らしが嫌になったんです。
たった一人の家族のおじいさんには悪いけど…。
友達だって出来ないし」
「もう戻る気はないの?」
アイリーン
「…戻りたい…です」
故郷の風景や祖父のことを思い出すだけで胸がいっぱいになって目が熱くなる。
いわゆるホームシックというやつだ。
「戻った方がいいわ。あなたは都会で生きていくのに向いてない」
「でも…戻れないんです」
アイリーンはうつ向いてそう呟いた。
「どうして?」
パイはそんなアイリーンの顔を覗き込むようにして聞いた。
「私…いけないことをしてしまった。男の人と、汚くて、恥ずかしいこと」
その言葉をきいてパイの表情はサッと曇る。
自分が助けたときには、既に遅かったようだ。
少女は既に女にされてしまったようだった。
―酷なことをする、とパイは思った。
パイ自身も昔、何度危険な目に遭わされたか分からない。
勘のいいパイは毒牙にかかることはなかったが、やはりこの少女は都会で生きていくのには向いてない。
ここでは自分の身は自分で守る。それは誰も教えてくれることではない。
勘のいい者、頭の良い者だけが生き残るように出来ているのだ。
パイはアイリーンを自分と向かい合わせになるように座らせた。
そして、こう聞いた。
「何をされたのか、全て私に話して。」
「えっ…!」
誰かに話すだけでも心が軽くなるものだ。
おそらく彼女には今自分が聴かなければ自分以外にはこのことを言わないだろう。
ずっと胸に閉まっておいたままじゃ、もしかしたら彼女は一生恋をすることも出来なくなるかもしれない。
「話して…。ね?」
パイはアイリーンの頬に軽くキスをする。ふわふわした子供らしい肌には切り傷がある。
新しい傷であることから、恐らくそのときについた傷であることが予想出来る。
「私…一生懸命抵抗した。そしたら、おじさんに殴られて。」
「うんうん」
「私…おかしいんです。おじさんにおっぱいを触られて、痛いのに、嫌なのに気持ちよくなって
変なんです…」
「アイリーンちゃんは私に身体を触られるのは嫌?」
「そんなことありません。」
パイは優しく微笑むと、アイリーンの胸元に顔を寄せ、その膨らみきってない小さな乳房を口に含んだ。
「きゃっ…!何を!?」
パイは歯で突起を甘噛みすると、舌でそれを巧みに転がした。
ざらざらした舌の感触がよく伝わるように。
「はぁ…っ、パイさん…突然何を…」
「気持ちいいでしょ?」
「ン…っ」
「それから、何をされたの?」
アイリーンは、顔を上気させ、甘い吐息を吐きながら答える。
「ここを…触られて、指を入れられたら、バカになっちゃうんじゃないかっていうくらいに気持ちよくなって…っ」
パイは、アイリーンの答えたとおりのことを彼女にした。
彼女の秘部は指を入れるのに十分なほど濡れそぼっていた。
そっと指を一本差し込む。つぷ…と音を立てて、パイの指が中に入ってゆく。
膣壁の上側、いわゆるGスポットを指の腹で丹念にこする。
「んあ…やだぁ…っ」
アイリーンは思わず顔を仰け反る。
「気持ちいい?」
パイはリズミカルに膣壁を擦る。
アイリーンの中はみるみるうちに愛液が溢れだし、油断すれば指が抜けてしまいそうなほどだ。
「あっ…あんっ…気持ちいいっ…いいです…っ!」
まだまだだ。
やはり女の細い指では満足することは出来ないだろう。
「二本、入れるわね」
人差し指と新たに中指を密壺に挿入すると、二本バラバラの動きをしたりして、より一層彼女の興奮を煽る。
「ああっ!パイさんッ!いいっ…前のときよりずっといい…っ!」
アイリーンは、更に強い刺激を求めようと、淫らに腰を揺らした。
パイは、アイリーンの秘部に顔を近づけると、割れ目を指で開き、ぷっくりと充血した快感の芽に唇を寄せた。
これにはアイリーンも驚いたようで、
「駄目です!そんなとこ、汚い!」
「汚くなんてないわ。赤ちゃんだってここから生まれてくるのに」
アイリーンの芽にちゅっちゅっとキスをすると、尖らせた舌で愛撫する。
「あああっ!!」
女の身体のことは女が一番よく分かる。
パイは的確に少女の性感帯をついてゆく。
「気持ちいい?」
「気持ちいいですっ!!もっと…もっと嘗めて…!」
アイリーンは初めの恥じらいもなくして、脚を大きく広げ、パイの頭をぎゅうぎゅうと自身に押し付けようとする。
そろそろかな…
パイは、指の動きを更に速め、アイリーンを絶頂へと導く。
「はぁんっ!パイさん…っ!私…!!」
「いいわよ、もっともっと気持ちよくなってね」
「ん…はああ…ッ!!」
アイリーンは、大きく開いた膝をガクガクと震わせながら絶頂を迎えた。
アイリーンがイッた後、パイは彼女が落ち着くまで抱き締めてあげた。
「アイリーンちゃん、私にされても気持ち良かったでしょ?」
「…はい…」
アイリーンは我に帰ったのか、顔を真っ赤にして俯いたままだ。
文字通り湯気が出そうな勢いだ。
パイはそんなアイリーンを胸に抱くと母親のように頭を撫でる。
「あのね、あんなことはただの生理現象なのよ。
くしゃみが自分じゃ止められないのと一緒。」
「だからあなたは変なんかじゃないのよ?」
「そうなんですか…?」
アイリーンはうるうるとした瞳でパイを見上げた。
「当たり前じゃない」
またパイは母親のように彼女を胸に抱きしめた。
そういえば、彼女の話によると、一番大事なものは奪われてはいないようだ。
処女ではなくて、「ファーストキス」。
年頃の少女にとってはそれは
初体験以上に重要なことだ。
(実際、アイリーンは挿入はされていないので厳密には処女のままなのだが)
いつか、アイリーンが大切な人と恋に落ちて、そのときまでとっておけばいい。
そして心から愛する相手との行為は、快楽以上の何かを彼女に与えてくれる。
そのときに真の意味で彼女の心も身体も癒されるだろう。
パイのしたことなどはそれには遥かに及ばないのだ。
「アイリーンちゃん、明日あなたはおじいさんの所に戻りなさい。大丈夫、私たちきっとまた会えるわ…」
最終更新:2008年06月29日 21:28