「窓の外」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

窓の外 - (2008/06/07 (土) 00:32:26) のソース

俺が高2の夏の頃だった。 
毎日これといった事もなく楽しい事もなかった。 
しかし、これといって悲しい事がある訳でもなく、 
周りを見渡しては何とも言えない何か足りない様な虚しい気持ちになった。 
その日の昼間の炎天下に打って変わって涼しい夜で時折風がカーテンを揺らして入ってきた。 
ぼーっと窓から外を眺めててふと焦点を変えると窓が光の屈折でそっくりそのまま部屋と自分が写る。 
よく自分の部屋の隣にもう1部屋あってカワイイ女の子が住んでて・・なんて、 
ちょっと甘い妄想をしたりしたけど高校生によくある幻想だとギターの音で掻き消した。 
何時間立ったのだろう。時計の針が深夜1時を過ぎようとしていた。 
またギターを取り上げられるのは懲り懲りなので素直にマーシャルの電源をパチッと落とした。 
そして訪れる静寂。外からは虫の声がする。 
ふと窓の外を見ると視界が歪んでる・・・? 
長い時間薄暗い部屋でスコアを見続けて目が疲れたかな・・・。 
夜風に当たろうと窓を開けるとそこにはもう1部屋出現していた。 
窓を開けたり閉めたりしてみるがどうみても現実だ。 
インテリアなどは違うがそっくりそのまま自分の部屋がそこにあった。 
よく見るとそこに女の子が「どうしたのよ」とケラケラと笑いながら座っていた。 
事情を説明してみるが全く通じないようだ。 
その日から毎晩女の子の部屋に遊びに行った。 
どういう訳か曇りや雨の日とか昼間に窓を開けてもいつもの景色が広がるだけだったが、 
涼しげな気持ちの良い日に窓を開けるといつもそこに女の子はいた。 
理由はどうあれその女の子と仲良くなりたくて部屋が出現する日を待っては遊びにいった。 
話す事といったら俺の唯一の趣味の音楽やギターの事くらいだったが、 
素人にも分かるように分かりやすく楽しく話して色々とCDを貸してあげたりした。 
沢山貸してあげたCDの中でその女の子はニルバーナがいたく気に入っていた。 
ある日私もこんな風に歌ってみたいというから、 
冗談だろうとじゃあ俺が作曲、君が作詞なと言ってみたら本気で書いてきた。 
初めてにしては上出来で作曲なんてした事なかった俺に結構こたえた。 
それから顔を見る度に無邪気にまだなのまだなの!と聞いてくる女の子。 
もちょっとと苦笑いをしながら答える俺だったがこれっぽちも書いてなかった。 
近頃両親の夫婦喧嘩とやらが悪化して離婚を考えているみたいだし、 
俺自身も進学や周りのクラスメートの事を考えると作曲どころではなくなっていた。 
ある日あまりにもしつこく聞いてくる女の子に嫌気がさして、 
「うるせーな!今はお前に構ってる場合じゃねーんだよ!!」と怒鳴ってしまった。 
一瞬すごく驚いた顔をしたがそのまま塞ぎ込んでしまった。 
「じゃあまたな!」とぴしゃっと窓を閉めていつもの机に向かう俺。 
たまに自分の信じてる事やってる事が正しいのか分からなくなってどうしようもなくなる時がある。 
傷だらけのiPodを取り出すとイヤフォンで耳に栓をして電気を消してベッドに倒れこむ。 
適当にホイールを回して決定ボタンを押す。 
一発で分かる・・スティーブヴァイだ。いつ聴いても変態的だ..... 



そうこうしてるうちにあっという間に大学生になった。 
受験のとんとん拍子で合格、両親も何があったか知らないが仲良くはしてるようだ。 
そうそう。自分にも彼女とやらが出来た。 
一方的な告白で全くタイプでなかったが無意識に「いいよ」と言葉が出ていた。 
昔、望んでいた生活じゃないか・・。だが何かどこか物足りなさを何だ。 
そしてまた夏。暑くもなく寒くもなく涼しくていいなとギターをスタンドにかけ[[アンプ]]の電源を落とす。 
ふと部屋を見渡した瞬間とても大切な何かを思い出した気がして、 
小学生の時からの使い慣れた机の引き出しをひっくり返す。 
あった!くすんだスケッチブックの紙切れ。あの時に約束した曲だ! 
しっかり完成させてたんだ。あれから色々あり過ぎて忘れていた。 
もう1度ギターを掴んでアンプのスイッチを入れ少しつまみを弄る。 
一音一音思い出しながら弾いてみる。思い出した。 
その日から毎晩あの時のように窓を開けてみるがいつ開けても見飽きた景色。 
夏も終わりに差し掛かったある日の昼過ぎ。 
ベランダに出てくすんだ紙切れを見つめていた。 
すっとしゃがんで紙ヒコーキを折ってみる。風もそんなに強くない。 
今だ!と太陽に向かって投げてみる・・・・。 
っとその瞬間ひゅっと強い風が吹いてヒコーキはバランスを崩して家の前の道路へ一直線。 
あっとそこへ自転車に乗った女の子が通りかかって頭へナイスヒット。 
ビックリしたのかバランスを崩してきれいにコケる女の子。 
急いで階段を駆け下りて裸足で大丈夫ですか!と飛び出して手を差し出す俺。 
イタッー・・と女の子がこちらを見る。 
その瞬間俺はハッとした。 
あの夏の日の女の子にとても似た涼しげで透明感のある女の子だった