一話『旅立ちは突然に』
「辞表を提出(だ)したぁ!?」
落ち着いた雰囲気のある酒場で青年が驚愕の声をあげる。
俺は、俺が今現在所属しているブリタニアの基地の近くにある町のバーに知り合いと一緒に飲みに来ていた。
「うるさい、他の客に迷惑だ。」
叫び声をあげた俺の目の前でショットグラスを片手に椅子に踏ん反り返っている美女、ドミニカ・S・ジェンタイル大尉がうっとうしげに注意する。
「あ、すみません……ってまたどうしてそんなことを!?」
「前線での服務期間は終わったんだから、
さっさと本国に帰ってきて教官をやれと命令がきた。」
そういって彼女は手に持ったグラスにスコッチを注ぎなおす。
「はぁ、まぁ大尉は軍歴ながいですからね、
ベテランを前線から戻して新兵の訓練に当てるというのはよくある話ですし。」
「まぁ、な、だから辞表を出した。」
「いやいや、だからどうしてそうなるんですか!?」
「なんだ、分からないのか?」
「分かりません!」
分かってたらこんなふうに叫びませんよ大尉。
「はぁ、いいかよく聞け俺、
ネウロイとの戦争は今でこそ小康状態になったが毎日どこかしこで命をかけて戦っているやつらがいる。なのに上層部のやつらはそんな彼らをおいて安全な後方に下がれと言って来てるんだぞ?冗談じゃない。私にそんな卑怯者になれというのか!?。」
真剣な表情で見据えられた俺は思わず体を竦ませそうになったがなんとか踏みとどまり、
彼女に反論しようとする。
「そんな……別にだれも大尉を卑怯者だなんて思わないですよ。」
誰よりも多く戦場に赴き、仲間を救った彼女を悪くいう者などいない。
もし、そんなことをしたら彼女のファンである第八空軍の将兵たちがそいつを必ず抹殺するだろう。
「ふんっ、私が納得できないんだから他のやつがどう思おうが関係ない、それに……」
「それに?」
「それに第一、教官なんてかったるくて面倒なことしたくない。」
俺はその瞬間たしかに一時時間が停止したのを感じた。
「それが本音かよ!」
せっかくいいこと言ってたのがいまので全部台無しだ。おもわずタメ口がでる。
「ゴホン、あ~いや失礼しました。いくらなんでもかったるいは無いでしょう?」
「かったるいものはかったるいんだ。私に教官なんて似合わん。」
「そうとは思いませんけど、大尉、意外と面倒見いいし。」
気さくで気取ったところもなく、
さらに美人とくれば新兵達の受けがいいことこの上ないだろう。
きっとハーレムができるに違いない、本人は嫌がるだろうが。
「まぁそれはおいておくとして、その、結局のとこ辞表は受け取られたんですか?」
「当然突っ返された、『考えなおしたまえ大尉』となんど言われた。」
司令……お気の毒に、あとで胃薬もっていこう。副作用高めのやつを。
「でとうとう辞めさしてくれないなら脱走してやるといったら、
さすがに司令もあきらめて、そんなに前線で戦いたいなら新設される統合戦闘航空団にくわわらないかと言ってきた。」
「統合戦闘航空団?」
「世界中のエースたちを集めたドリームチームな部隊のことですよ。」
聞き覚えのない単語に首を傾げる俺に、いままでドミニカのとなりでおとなしくミルクをすすっていたジェーン・ゴットフリー大尉が説明してくれた。
「そりゃぁまたすごそうな部隊ですねぇ……で、ドミニカ大尉はその話は受けたんですか?」
「まぁ、ね、これ以上譲歩を引き出せないともおもったし、こいつと一緒ならと条件を付け加えて手打ちにしたよ。」
そういいながらドミニカ大尉はぽんぽんとジェーン大尉の頭を撫でる。
なでられたジェーン大尉は気持ちよさそうに首をすくめた。
「なるほど、でもそうなるとふたりともこの基地からいなくなっちゃうんですよね。寂しくなるなぁ。」
ふと、俺はふたりとあってからの巻き込まれた出来事を思い出す。
思えば毎日いろんなことがあった、
ジェーン大尉がなにもなにところすっころんで割った基地司令秘蔵の酒瓶を弁償するためにあやまりに行ったり。
ドミニカ大尉が基地司令の部屋に嫌がらせで仕掛けたチェリーボム(さくらんぼの形をしたおもちゃの爆弾で爆発するとあたりにピンク色のペンキとさくらんぼの匂いを撒き散らす)が炸裂して
ジェーン大尉と一緒にあやまりに行ったり。
飲みに行く途中で絡んできたチンピラをドミニカ大尉が吹っ飛ばしたらそれが町長の息子だったために、直接町長の家に親友を含めた4人であやまりに行ってフソウドゲザ(親友が教えてくれた)したり。
ほんと、いろんなことがあったなぁ……
あれ?俺、謝ってばっかりじゃね?
ま、まあ昔を思い出すのはそれぐらいにして、
とりあえずそんなんことだったら今日の飲み代は全額奢るかな。
「なに言ってるんだ、お前も一緒に来るんだよ。」
「はい?」
さらりと言われた爆弾発言に俺の思考は緊急停止した。
「だから、俺も私たちと一緒に504に出向だ。聞いてないのか?」
「いやいやいや、聞いてませんよそんなこと!?」
「おかしいですね?
俺さんと一緒に行く予定の友さんのところに命令書が回ってるはずですけど?」
ふははは、どうだ俺、驚いたろう!
とこちらを嘲笑する友の声が聞こえる。いかん飲みすぎたか。
「あ、あのヤロォ……!まぁそれも置いといて、なぜ俺たちも一緒に?」
とりあえず後で友を一発ぶん殴ることを心に誓いながらなぜ自分たちが
彼女達と一緒に行くことになった理由を尋ねる。
「それは俺さんたちが、
私と大将のストライカーをいちばん上手にマッチングさせられるからなのですよ。
知らない人に頼むよりずっと安心して飛ぶことができますからね。
だから司令に一緒に行けるように頼んだんです。」
「はぁ……事情は分かりました。」
にしても、お願いされたからってよく許可したな司令。
まぁ前々からジェーン大尉には甘い人だったけど、やっぱりあいつロリコンか?
いやあの人のことだから自分にとって目障りなのをこの際一斉に処分するつもり
なんだろう。心当たりがありすぎるだけにそう考えるとすごく納得がいく。
「あの、やっぱりご迷惑でしたか?」しゅん…
司令の考えについて、思わずため息をついてしまったことを誤解させてしまったらしい。
となりのドミニカ大尉が「私の相棒を泣かせたら、分かってるな?」とばかりに怖い目で見てくる。
「あ、いえとんでもない、俺たちのことをそんなに評価してもらえて、
とってもうれしいです。是非とも一緒に行かせてもらいますよ!!」
「ホントですか?よかったぁ。」ぱぁああ//
「ええ、ところでドミニカ大尉、何時出発なんですか?」
「明日。」
「明日!?」
いくらなんでも早すぎだろ!?
「そう、明日の昼。俺の輸送機で行くから遅れるなよ。」
「でも、輸送機の準備だけでも明日の昼には間に合わないですよ?」
「あ、大丈夫です。ここに来る前に友さんがいつでもいけるようにしときましたっていってたです!」
「あ、そうなんですか、は、ははは、はぁ。」
とりあえず、今は明日の飛行に差し支えない程度に自棄酒を飲んでやる。そう決めた。
最終更新:2011年02月16日 21:07