三人目のお客様 「エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉」



ナレーション:諏訪天姫

こんばんは、ナレーションの諏訪天姫です

今宵もここ、とある空間、とある場所にまた扉が現れました

どこから行くのかも、どこからたどり着くのかも、誰も知らない気まぐれに現れるこの扉

今日も「Open for business」の文字を掲げ、中からはまた微かな話し声が聞こえてきています

足下の看板には……

ああ、なるほど今日はこういった趣で

いったいどこからこういうものを仕入れて来るのでしょう……

やはりそこはKKIという所に落ち着くことになるのでしょうね、ふふ


さてさて、前置きはこのあたりにして

今宵もそろそろ、中を覗いてみましょう

それでは、私はまた後程


………………
…………
……


――――KKI空間「ORE's Bar」

俺「……」カチャカチャ

ヘルマ「あの、俺さん」フキフキ

俺「何ですか?ヘルマさん」カチャカチャ

ヘルマ「今日のお客様なんですけど……連絡したときに色々文句を言われてしまって」シュン

俺「そうみたいですねえ、電話口でも怒鳴り声が聞こえてましたよ」

ヘルマ「う、分かってたなら助けてくれてもよかったじゃないでありますかー!」

俺「大丈夫ですよ」

ヘルマ「何がでありますか」

俺「文句の内容も想像がつきますしね、いつものことですから気にされる必要はありませんよ」

ヘルマ「うう、今日の俺さんは何を言ってるのかよく分からないです」

俺「まあ、大方『一人は嫌だ、誰々を連れていきたい』そんなところでしょう?」

ヘルマ「な、なんでわかるんですか!?」

俺「この仕事も長いですから」

ヘルマ「答えになってませんよー」

俺「お二人で来られたとしても俺は大歓迎なんですけどね
  そうですね……とは申しても恐らくは相手の方の都合がつかないでしょうからね」

ヘルマ「ますます分からないであります……」

コンコン

俺「ほら、噂をすれば何とやら。ヘルマさん、よろしくおねがいしますね」スッ

ヘルマ「うー、了解であります」トコトコ

カチャ カランカラン

エイラ「よー、俺ー、来てやったゾー」ヒラヒラ

俺「いらっしゃいませ、お待ちしておりました、ユーティライネン中尉」ペコリ

エイラ「んだよー、相変わらず慇懃無礼な奴ダナ」

俺「申し訳ございません、これも性分なものでして」

ヘルマ「え、ええと、きょ、今日のお客様はこちらの方です!
    スオムス空軍飛行隊第24戦隊第3中隊及び、連合軍第501統合戦闘航空団所属
    ダイヤのエースこと、エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉です!」パチパチパチ

俺「」パチパチパチ

エイラ「ン、いいぞー、もっと誉めロー」フフン

ヘルマ「ささ、こちらへどうぞ」

エイラ「お邪魔するゾ」

ヘルマ「お水とお手拭きです」ササッ

エイラ「ウム、くるしゅうない」

俺「ふふ、その様子ではサーニャさんには振られてしまったようですね」

エイラ「ッ!う、うるさいな!いいダロ別に!夜間哨戒があるって言うんだから仕方ないダロ!」

俺「存じ上げておりますよ。夜間哨戒では仕方ありませんものね」ニコニコ

エイラ「ぐぬぬ……こ、こいつぅ」

ヘルマ(元々知り合いなのかな……そういえば俺さんの事、私なにも知らないんだっけ
    ミーナ中佐の時も『お久しぶり』って言ってたし、俺さんってここに来る前はどこで何をしていたんでしょうか……)

俺「お客様が何人でいらっしゃろうと、気持ちよくお酒を飲んで、気持ちよく帰路について頂けるよう努力するのが俺の勤めです
  ご安心下さい、エイラさんの為の逸品をしっかりとご用意させていただいておりますので」

エイラ「ったく、期待してっかんナー」クルクル

ヘルマ(口を尖らせて椅子をくるくる回してます……でもちょっと嬉しそうに見えるであります)

エイラ「そうだ、そういえば……」ピタッ ゴソゴソ

俺「何か?」

エイラ「姉ちゃんから手紙を預かってンダ」

俺「」ピクッ

エイラ「ほい」スッ

俺「……ありがとうございます」

ガサゴソ

俺「……」ジー

ヘルマ「お姉さん、ですか?」

エイラ「ああ、俺がスオムスで店やってたときにな……」

俺「ゴホン、えー、では早速ですが
  エイラさんには既に本日の一品目をご用意しておりますのでお喋りはこの辺で」ササッ ゴソゴソ

エイラ「あ、そうだそうだ、私は客だゾ!早く酒持ってこい酒ー!」

ヘルマ(あう……いいところで)

俺「え、ええ、少々お待ち下さいませ」カチャカチャ

ヘルマ(いけない、私も手伝わなきゃ!)タッタッ

俺「ヘルマさん、冷凍庫から例のものを」

ヘルマ「はーい」ガチャッ

俺「……」カチャカチャ カシャンカシャン トクトク

エイラ「~♪」

俺「お待たせ致しました、こちらオラーシャが世界に誇るウォッカの名品、『モスコフスカヤ』にございます。今宵は是非ロックにてお召し上がり下さい」

俺「どうぞ」スッ

エイラ「お、なかなかいい感じダナ。いただきまーす」グイッ

ヘルマ(うわっ、一気に……)

エイラ「くぁーっ、効くなぁー!なんだよーウォッカ出してくれるならそれこそサーニャ呼んでくればよかったじゃなイカー」

俺「ふふ、それはまたの機会にでも」

エイラ「まぁ別にいいケドな……ところでこれちょっと、なんだろう、なんか懐かしい感じがするゾ」

俺「重畳です、その感覚に触れていただけたのならご用意した甲斐があったというものです」

エイラ「??」

ヘルマ「あ、もしかして私の出した氷……でありますか」

俺「正解です」

エイラ「氷?この氷がどうかしたのカ?」カラン

ヘルマ「はい、それは俺さんがスオムスから取り寄せた、凍湖の天然氷なのです」

エイラ「へぇー、これが……どおりでやけに透き通ってると思ったンダ」

俺「エイラさんが生まれ育った土地の水からできた天然の氷です、どこか郷愁を感じて頂けたのなら幸いに存じます」

エイラ「なんだヨ。ず、随分気が利くじゃないカ。あ……ありがとナ」///

俺「光栄の極み」ズパッ

俺「本日の仕込みはそれだけではございません、今お飲み頂いているそのウォッカ、オラーシャ産にございます」

エイラ「ウン、名前でわかるよ『モスコフスカヤ』、モスクワのウォッカカナ?」カラン

俺「その通り、モスクワで作られたウォッカです」

エイラ「それがどうかしたノカ?」

俺「モスクワのウォッカにスオムスの氷、俺はこの組み合わせによく似たものを存じ上げていますよ」

エイラ「モスクワって、サーニャの生まれ故郷……あっ」

俺「お気づきになられましたか、このグラスに広がる世界は正にエイラさんとサーニャさんです
  これ以上無いくらい透き通ったウォッカと、これ以上ない位透き通った天然氷
  純粋で美しく、絶妙の相性で解け合っている様は、お二人とよく似ていると思われませんか?」

エイラ「なな……な」///

俺「氷は少しずつ溶けて、ウォッカの尖った口当たりを滑らかに
  ウォッカは氷を優しく溶かして、その形を丸く、優しく角のないものにします」

エイラ「ぉ……おぉ」///

俺「お二方もきっと、そういった間柄なのでしょう」

エイラ「そ、そ、そうダヨ!私とサーニャはそうなんだ!うん
    お前よくわかってんじゃなイカ!あははっ、いややっぱ流石だな!」バンバン

ヘルマ(まだ酔ってないですよね?なにをそんなに喜んでいらっしゃるのでしょう?)

俺「」ニコニコ

エイラ「えへへ」///

ヘルマ(グラスを眺めてうっとりし始めてしまいました……)

俺「」カチャカチャ カリカリ カランカラン

ヘルマ(あれ、俺さんまた何か作ってるであります……なんか削って、なんだろう?)

俺「ではもう一品、こちらをどうぞ」スッ

エイラ「えへへ……ン?なに?」

俺「エイラさんにはお馴染みでしょう、久々にお飲みになられてはみませんか?」

エイラ「おお、これは!」キラキラ

俺「どうぞ、お召し上がり下さい」

エイラ「へへ、そんじゃ遠慮なく」クイッ

ヘルマ(あれはなんでしょう……真っ黒の……お酒?)

俺「ベースは先ほどのモスコフスカヤです、如何ですか?」

エイラ「ウン、旨いナ!やっぱコレだよナ!」ニヘー

ヘルマ(ベース?カクテルなのかな……)ジー

エイラ「ン?お前も飲むカ?」

ヘルマ「あ、え?えっと……」チラッ

俺「ふふ、お客様が良いと仰るのですから。どうぞ」ニコニコ

ヘルマ「あ、で、では失礼して……」オズオズ

コクン

ヘルマ「……」

ヘルマ「ぉ……ぉぉ……」

エイラ「どうだ?旨いダロ?」

ヘルマ「お……」

エイラ「お?」

ヘルマ「お……おあー!あー!あー!ああああああああああああ!!」

俺「」ニコニコ

エイラ「あちゃー、だめかー」

ヘルマ「あああああ、あうあああああ、あああああああああばばば……」ボロボロ

俺「仕方ありませんね、はい。お水ですよ」

ババッ

ヘルマ「」ゴクゴクゴクゴクゴクゴク

ヘルマ「っぱ……な、なんなんですかこれはああああああああああ!!
    なんなんですか、なんか、その、なんなんですか!?なんだか!なんなんですか!
    なにがそのなんというか、なんか、すごいあれで、あれがそのあれで、あとなんか頭が痛いです!!」

ヘルマ「落ち着けヨー、大げさダナー」ヘラヘラ

俺「ふふ。それはですね……これです」カン

ヘルマ「何でありますか……この缶」

俺・エイラ「「サルミアッキ」」

ヘルマ「サ……サルミ……こ、これが噂の……」

俺「サルミアッキを粉に砕いて、ウォッカに溶かし込んだのが、先ほどのものです
  俗称ですが、ストレートに『サルミアッキウォッカ』と呼ばれています」

エイラ「マイルドで私は好きなんだけどナー、やっぱスオムスの人以外には無理カー」

ヘルマ「うぅ……私はもういいです、まだ頭が痛いです……」ガンガン

俺「仕方ありませんね、ではヘルマさんも口直しに一杯ご馳走してあげましょう」カチャカチャ

ヘルマ「やった!」

俺「さて、先程のサルミアッキはお遊びのサービスです。エイラさんに差し上げたい本当の品はこちら」

トン

俺「扶桑の芋焼酎『百合』にございます」

エイラ「扶桑のお酒かー、飲んだことないんだけど大丈夫カナ」

俺「まずはお試しになられて下さい」キュルキュル トクトク

俺「さてこの『百合』、先程も申し上げた通り芋の焼酎、つまり芋の蒸留酒にございます
  仕込みには黒麹を使用しておりますので、しっかりとしたコクが魅力であるのは勿論なのですが」

俺「しかしなかなかどうしてコクよりもまろやかさの方が全面に出ていて、非常に優しい味わいに仕上がっております
  まろやかなのに、黒麹としての芯はしっかり持っている……人に言い替えてみればなかなかに出来た人間です」

エイラ「優しいのに芯はシッカリしてる……ウン、まるでサーニャみたいだ」ポワワ

俺「その通り」

エイラ「エ?」

俺「この焼酎の銘は『百合』、百合とはリリィ、リリィとは……リーリヤ」

エイラ「サーニャ!!」

俺「ご名答」

エイラ「お、俺!それをハヤクよこせ!」ガタン バンバン!

ヘルマ(すごい興奮してるであります、カウンターが……)

俺「あわてずとも酒は逃げもしなければ裏切りもしませんよ、ふふ」スッ

エイラ「サーニャ!!」ペロペロ

ヘルマ(……)

俺「おやおや、これは酔いがよろしくない所に回ってしまったみたいですね」

ヘルマ(本当にそうかなぁ……)

エイラ「サーニャ……」ペロペロ

俺「仕方ありませんね、酔いが醒めるまでうちで預かりましょう
  このままというわけには参りませんから……ヘルマさん、あとでミーナさんに連絡を入れておいて下さいね」

ヘルマ「あ、は、はい!了解であります!」

エイラ「……」ペロペロ

ヘルマ(あ、お姉さんと俺さんの事聞き忘れたであります……)



………………
…………
……



ナレーション:諏訪天姫

ここはとある空間、とある場所にある秘密の隠れ家
どこから行くのかも、どこからたどり着くのかも、誰も知らない気まぐれに現れる謎の扉

今宵はちょっとおどろおどろしい気配が中から染み出ています

<あっ!落ち着いてください!エイラさん!

<アンマリデアリマスー!!

こ、これ以上はあまり詮索しないほうがいいような気がしますね……

そろそろお時間のようです

今宵の営業はここまで、次回があればまた是非ご来店をお待ちしております

ではナレーションは私、諏訪天姫がお送り致し

<サーニャぁぁぁぁぁぁ……

ひぃっ!あ、明日もまたがんばりましょう!おやみなさい!

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最終更新:2011年04月18日 01:33
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