輸送機から発進して間もなく、前方に通報通りの敵編隊が見えてきた。
雲の下端は7000フィート程度とかなり低めであり、必然的に空戦も低高度で行われる。
俺は愛機P-40Bが持っている "低高度" "高速域" での良好な旋回特性を活かして戦おうとしたのだが、
俺「随分と消極的な敵だな…?」
逃げる逃げる逃げる。新米ウィッチでも中々ないだろう、という勢いで逃げ回る。
そのくせ空域から離脱するわけではなく、少し離れたところで様子を伺っている。
俺「こいつら、もしかして陽動部隊か?」
試しに雲海めがけて上昇してみると、予想通り慌てた様子で追従し妨害してきた。
俺「よし、本当の敵は雲の上だ!」
地球で暮らしている限り、重力のくびきからは逃れられない。
それは
魔法使いにとっても同じこと。普通に上昇すれば速度は落ち、敵のいい鴨になってしまう。
ここで一工夫。一旦急降下して速度を稼ぎ、地表スレスレで水平飛行に戻してから上昇に移る。
こうする事で非常に高い速度から上昇に移ることができ、敵の追撃を振り切ることができるのだ。
但し、十分な機体強度と適切な操縦、そして勇気が何より求められる。
俺(もう少し…あとちょっと……今だ!)
瞬間的に強いGが掛かったが、耐えて水平飛行、続けて上昇に転じる。そして二つ目の固有魔法 ―出力増強― を発動。
俺(よし!今日も俺のアリソンエンジンの調子は抜群だ!)
一時的とはいえ増強されたエンジンパワーのお陰で、俺は敵を振り切って雲海の上へ登ることができた。しかし・・・
俺「ディオミディア!?嘘だろ!?」
俺を出迎えたのは、12機の小型 ―ラロス改― と、8機の中型 ―ケファルス― と、1機の大型 ―ディオミディア― だった。
ディオミディア。精強たるカールスラント空軍ウィッチをもってしても撃墜困難な、"空の要塞"。
高速で防弾装甲も厚く、何より各所に備えられた防御機銃のせいで近づくことすら困難な強敵である。
だが"困難"であっても"不可能"ではない。現に我が配属先いらん子中隊によって、先日1機が撃墜されている。
問題は人数。件のケースでは5人がかりで突撃し、ロケット兵器や扶桑刀まで駆使して撃墜しているのだ。
今は自分1人しかいない。増援を待っていたら、恐らく敵は市街地に達してしまう。
有効な手立てを見つけられないまま、俺は護衛のラロス改と追ってきた陽動のラロスから逃れるべく再び雲海へと潜った。
雲に囲まれながら考える。大型機をなるべく一撃で墜とす方法…ヒスパニア事変以来の経験と、冬戦争開戦以来の情報を必死に探る。
俺(主翼の付け根を狙って折れば…でもディオミディアは迂闊に接近できないからなあ…
防御機銃の火力が最も少ないのは何処だろうか…前か。ということは…)
俺「正面反航、しかないか。」
正面反航戦、それは敵に真正面から突っ込みつつ撃つ戦法。爆撃型は前方火力が弱い一方、こちらの銃弾は高い相対速度で威力が増す。
しかし、正面衝突の危険性が高い。ヒスパニア事変では火力不足を補う目的で中型相手に試行されたが、事故多発で禁止される結果となった。
俺(だからといって、他に代替案もないし。頑張って避けるしかないか。)
そう決心して急降下し、速度を稼いでから上昇して敵編隊の正面へと出、水平飛行でディオミディアに突っ込む。
固有魔法で出力を増強されたエンジンが唸る。みるみるうちにディオミディアの機首が迫ってくる。
俺(あと500ヤード…400…300…今だ!)
200ヤードまで近づいてから引き金を引いた。50口径機銃弾が機首へと吸い込まれていき、大きな火花が散り………
ほぼ同時に、自分にも機銃弾が降り注いだ。
俺「・・・ハッ!?
ここは何処だ!?俺はディオミディアに正面反攻戦を仕掛けていたはずでは……
ああそうか、撃墜されたか。」
とりあえず自分は生きており、何処かの基地 ―パッと見たところ、恐らくタンペレ以外― の医務室に収容されている。
そして枕元の小机に大量の花束…鉢植えを置いたバカは誰だ…が置かれており、キャンディーやドロップの箱もある。
あの戦爆編隊が町に達してしまっていたら、これほど見舞い客が来ることもなかったであろう。
要するに、多分俺はあのディオミディアを撃墜した。
俺「まだ早朝みたいだし、医者が来るまでもう一寝入りするかぁ…」
ムニュッ
俺「!?」
???「あぁん…えっちねー……zzz…」
俺「!!??」
なんということでしょう。人生初の同衾、しかも金髪巨乳美女と、が実現しているのです。なんというご褒美!!
何?予告編と言っていることが違うって?
上官「金髪巨乳美女だぞ?」
俺「青春の大半を女性に囲まれて過ごした俺にそんなの通用しませんよ。」
上官「それは残念。」
いや流石に『同じベッドで美少女と一緒に寝ている』という状況は人生初な訳でして、まあイロイロと問題というか何というか…
ムクリ
俺「はあ…やっぱり勃っちゃうよなあ…。」ボソッ
?????「まあ、男だから仕方がないんじゃないか?」
俺「そうだよね、仕方ないよね…
えっ?」
?????「ん?」
銀髪の美少女が傍らの椅子に座り、何食わぬ顔でこちらを見ている。え?同衾黙認??てか何で今まで黙ってたの???
俺「えーと、ビューリング少尉、だよな?」
ビューリング「ああ。」
俺「そのさ、この状況って凄くまずいんじゃないか?」
ビューリング「別に?」
俺「……。」
流石軍規違反82回、始末書232枚、営倉入り55回、軍法会議8回、銃殺刑になりそうになったこと3回のシルバーフォックスさんは格が違った。
???「zzz…」
俺「えっと、今俺の隣で寝てるのはキャサリン少尉、であってるよな?」
ビューリング「ああ。
『ミーのために来てくれた人なんだから、熱心に看病するのは当然ねー!』
とか言って付きっ切りで看病していたんだが、どうやらベッドを間違えたようだな。」
俺「お手洗いにでも立った帰りに間違えたんだろうな。
…なあビューリング、この状況って他の誰も知らないんだよな?」
ビューリング「ああ。私が早く目が覚め、暇つぶしに立ち寄って面白そうだから居座っていた間誰も来てないぞ。」
俺「世間的には色々と問題だよなこの状況。」
キャサリン「zzz…」
俺「かといって寝ているこの娘を起こすわけにもいかないし。」
ビューリング「仮に今トモコが入ってきたら、斬り殺されても文句は言えないな。」
俺「いくら無謀な俺でも二度死にかけるのは御免だ。早く隣のベッドに移―
ガラッ
智子「……。」(無言で抜刀)
俺「」
ビューリング(俺、死んだな。)
無謀少佐の断末魔が、朝のカウハバ基地にこだました。
つづく
最終更新:2011年09月03日 23:51