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パスタ准尉 後編

後編






147 自分返信:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 07:23:24.49 ID:5X7bqIUO0 [19/47]

「君は一体何を見ているんだい?」

彼女は空を見上げていた。

「へっ!? あっ………。」

俺の問いかけに対する彼女の返答は今まで見たことがないものだ。

「………。」

俺は口を開かない。こんな反応を返す彼女に、どう言葉をかけていいのか分からなかったから。

「………。」

彼女は気まずげに俺から目をそらし、再び空を見上げる。

「隣………いい?」

ここは、俺がいつも休憩させてもらっている場所だから。だから………いつも通り、ここに居座らせてもらおう。

「………………どうぞ。」

彼女は一瞬躊躇したが、すぐに何食わぬ顔をして俺を受け入れてくれた。

これが俺と本当のジュゼッピーナ・チュインニ准尉の出会いだった。






148 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 07:28:12.16 ID:5X7bqIUO0 [20/47]

俺「准尉は………俺のことを覚えているn…いるんですか?」

俺がいつもいっしょに休憩時間を過ごしていた彼女……俺が好きだと告白し、それを受け入れてくれた彼女は、ネウロイに操られていた。

そのことを聞いた次の日、俺が惰性にしたがっていつもの木の下に来ると、このジュゼッピーナ・チュインニ准尉が彼女のように空を見上げていたのだ。

ジュゼッピーナ「うん…覚えてる。あの…別に敬語は使わなくていいのよ?」

俺「そ、そう…!? えっと…さっきも聞いたけど、君はどうして空を見上げているの?」

聞く所によると、チュインニ准尉は穴拭中尉と格闘戦に敗れた時に、正気を取り戻したらしい。

それと同時に、操られていた時の人格は完全に消え去った。

ジュゼッピーナ「さぁ…私にもよく分からないけど、こうしているとなんだか落ち着くの。」

チュインニ准尉は、彼女と同じように空を見上げる。

でも、表情も雰囲気も彼女とは全然違う。この娘は彼女とはまったくの別人なのだ。

俺「そうか、不思議だなぁ…。」

ジュゼッピーナ「貴方は…さぁ……」

俺「うん、君のことが………いや、一昨日までの君のことが好きだったんだ。」

ジュゼッピーナ「そう……みたいね…。」







149 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 07:34:03.28 ID:5X7bqIUO0 [21/47]

そう、俺は彼女を……ネウロイに操られた君を愛していたんだ。

ネウロイに操られていて、感情なんてあるはずないって言われるかもしれないけど、俺は彼女が俺に特別な感情を抱いていてくれていたと信じている。

あの日、あの瞬間だけ俺達は結ばれることが出来たんだ。

ジュゼッピーナ「でも…私は……」

准尉は俯いて申し訳なさそうに何かを言おうとした。

俺「大丈夫。分かってるよ。」

きっと、チュインニ准尉の中には、彼女の思いがまだ残っているのだろう。でも、それはあくまで彼女のものであって、チュインニ准尉のものではない。

准尉は、俺のことなど何とも思っていないはずだ。

それでも、

俺「あの……休憩時間暇だからさ、話しに付き合ってもらっていい?」

彼女と同じ容姿、声のこの娘を見ていると、彼女への思いを断ち切ることが出来ない。

ジュゼッピーナ「うん。私で良かったら。」








150 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 07:39:09.46 ID:5X7bqIUO0 [22/47]

ジュゼッピーナ「智子中尉の黒髪ってキレイよねぇ。」

俺「遠目からしか見ていないけど、俺もそう思うよ。あの赤と白の服で一層映えるよね。」

ジュゼッピーナ「うん♪」ニコッ

チュインニ准尉は心底楽しそうに笑った。穴拭中尉のことがよっぽど好きなんだろうなぁ。

俺「迫水一飛曹の黒髪もキレイだよな。やっぱり扶桑人の黒髪には何か神々しさがある。」

ジュゼッピーナ「よねぇ。あの娘は私の恋敵だけど、時々撫でまわしたくなるくらいかわいいもの。」

今日も今日とて、いつもの木の下で准尉の世間話をしながら休憩時間を過ごす。

ジュゼッピーナ「それでも、智子中尉の可憐さには遠く及ばないけどね、ふふん♪」

子犬のようにはしゃぐ准尉を見ているのは楽しい。見ていると何だかこっちまで元気になるんだよな。

でも、彼女といっしょにいた時の、妙な安心感はない。

それはそうだよなぁ。彼女と准尉は別人なんだから。

ジュゼッピーナ「あのさ……ありがとうね。」

俺「えっ…何が…? こうやって話しをしているのは俺も楽しいからで…」

ジュゼッピーナ「ううん。そっちも感謝してるけど、そっちじゃなくてさ。」

俺「?」







151 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 07:43:10.84 ID:5X7bqIUO0 [23/47]

ジュゼッピーナ「私がネウロイに操られていた時、いっつもこの時間はいっしょにいてくれたのよね?」

そう………俺はこの時間はいつも彼女と…

ジュゼッピーナ「おぼろげだけど、覚えてるわ。気だるげでとっつきにくかった私にも話しかけてくれて、気遣ってくれて、好きだって言ってくれて、あの時の私はとてもとてもうれしかった。」

あの時の私……かぁ…。

ジュゼッピーナ「ありがとうね。」ニコッ

まるで、お手本のような笑顔。ロマーニャ人らしい太陽のような明るい笑顔だ。

それでも、彼女の笑顔とはどこか違う。

俺「うん…どういたしまして…」

彼女はいなくなったんだよな…。

そのことを再認識して、心がチクリと痛んだ。

ジュゼッピーナ「ネウロイに操られていた私は、本気であなたのことが好きだったみたいね…。」








152 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 07:46:15.62 ID:5X7bqIUO0 [24/47]

ジュゼッピーナ「俺くんってさ、この近くに住んでるのよね?」

俺「ん? まぁね。」

今日は雪の日。空は雲で覆われ、空からちらほらと雪が降っていた。

ジュゼッピーナ「歩いて行けるくらい近い?」

俺「うん。歩いて20分くらい。俺は自宅からここに通ってるよ。」

そんな日でも、俺とチュインニ准尉はいつも場所でダベっている。

ジュゼッピーナ「そっか…そんなに近いんだ。時間がある時に遊びに行ってもいい?」

俺「えっ…? やっ…来てもいいけど………なんで?」

ジュゼッピーナ「むぅ…友達だと思っていたのは私だけ?」ムスッ

俺「あっ……ご、ゴメンっ! そういうことかっ! う、うん……全然構わないよっ!」

お、女の子がウチに来るなんて初めてだ…!

ジュゼッピーナ「フフッ…スオムスの家庭を見るのは初めてだから楽しみねっ♪」

俺「うん…それは良かった。」

ジュゼッピーナ「それに……この娘はきっと俺くんの家に行ってみたいだろうし。」

俺「この娘?」








154 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 07:50:20.90 ID:5X7bqIUO0 [25/47]

この娘って……

ジュゼッピーナ「私の中にいる、ネウロイに操られていた時の私よ。」

何を言っているんだ……彼女はもう…

ジュゼッピーナ「うん、たしかにその時の意識はもう消え失せてしまったわ。でもさ、思いは残っているじゃない? あの時の私の、俺くんを好きだって思いが。」

俺「………。」

ジュゼッピーナ「もうこの娘が意識として出てくることはないだろうけど、きっとこのまま消えることはなく私とずっと共にしていくはずだからね。ちょっとくらいこの娘の願いを叶えてあげたいのよ。」

彼女の思いは残っている。チュインニ准尉の心の中で生き続けている。

彼女は……

ジュゼッピーナ「多分私が俺くんのことを好きになることはない……と思う。でも、それでもさ……」

俺の愛した彼女は……

ジュゼッピーナ「私の中のこの娘のために、これからも私といっしょにいてくれないかな?」ニコッ

そう言って、チュインニ准尉は俺に笑いかけた。

その笑顔は優しく、子犬のように可愛らしい、いつか見たことのある笑顔だった。

ギュッ








155 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 07:55:09.86 ID:5X7bqIUO0 [26/47]

ジュゼッピーナ「キャッ……俺くんっ!?」

その笑顔を見た途端、頭が真っ白になった。

体が勝手に動く。

ジュゼッピーナ「えとっ……そのっ…べ、別に嫌なわけじゃないけど…あの……先に一声かけてほしかったというか…」カァァ

久しぶりに見た笑顔…俺が好きだった彼女の笑顔を見て、俺の理性は完全に飛んでしまった。

今自分が何をしていて、何を考えているのかすら分からない。

ジュゼッピーナ「お、俺くん…?」

俺「えっ……?」

気付いたら、俺の両腕が何かあたたかい物を包み込んでいた。

ジュゼッピーナ「く、苦しいからそろそろ離してほしいかな…。」

俺「へっ………あっ…ご、ごめんっ!」

知らない内にチュインニ准尉を抱きしめていたらしい。








156 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 08:00:22.56 ID:5X7bqIUO0 [27/47]

ジュゼッピーナ「あの……えっと…お、俺くん…?」モジモジ

俺「俺は………俺は……………………………ゴメンっ!」ダッ

ジュゼッピーナ「ちょっ俺くん!?」

何を……何をやっているんだ俺は…!

いくら笑顔が同じだからって、彼女と准尉は別人なんだ。

それなのに、俺は……






230 自分返信:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 17:53:01.84 ID:5X7bqIUO0 [38/47]

あれから……チュインニ准尉を抱きしめてから、俺の頭の中をある疑問がずっとグルグルと回り続けている。

その疑問の答えが出ず、昨晩は一睡も出来なかった。

フラフラの状態でハンガーの掃除をして、やっと待ちに待った休憩時間だ。

俺はいつもの通り、ハンガー裏手のとある木の下に向かう。

ジュゼッピーナ「あっ……。」カァァ

先に来ていたチュインニ准尉は、俺の姿を目にすると、顔を赤らめて目をそらした。

俺「………。」トサッ

俺は無言でチュインニ准尉の隣に腰を下ろす。

俺「………。」

ジュゼッピーナ「………。」

気まずい空気が流れる。

俺は顔をしかめてそっぽを向いており、准尉は顔を赤らめて俯いていて、お互い一言も言葉を発しない。







231 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 17:56:25.79 ID:5X7bqIUO0 [39/47]

ジュゼッピーナ「あの……俺くん…。」

チュインニ准尉が気まずげに口を開いた。

ジュゼッピーナ「き、昨日のことは別に気にしてないからね? 私は…その……君が好きだった女の子と同じ容姿をしているんだから、俺くんがそういう衝動に駆られてもしょうがないというか……」モジモジ

俺「そのことで話しがあるんだ。」

ジュゼッピーナ「へっ…?」

俺は静かに、そして強く声を出した。

俺の思いを、頭の中を駆け巡るこの疑問の答えを噛み締めるように。

俺「俺は、君が好きだ。」

俺の疑問。

『操られていたチュインニ准尉と、今のチュインニ准尉は別人なのか?』

昨日准尉のあの笑顔を見てから、今までこの疑問の答えをずっと探していた。

ジュゼッピーナ「違うでしょ? 俺くんが好きなのはさ…」

一睡もしなかったせいで頭が全然回らない。

でも、その分自分の本当の気持ちに気付けた。







232 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 18:00:32.62 ID:5X7bqIUO0 [40/47]

俺「違わない。俺は君が……ネウロイに操られていたころから君のことが好きだ。」

准尉の目を真っすぐ見ながら宣言する。

俺「君の人格を冒涜することになるかもしれないけどさ……ネウロイに操られていた君も、今の君も、どっちもジュゼッピーナ・チュインニなんだ…………と俺は思う。」

昨日、君のあの笑顔を見た時から、俺はおぼろげながらにそれに気付いていたみたいだ。

たとえ、ネウロイに操られていても君は君。

そう思えてならなくなった。

ジュゼッピーナ「………。」

俺「ゴメン…本当に失礼なことを言っているよな…。」

チュインニ准尉は顔を真っ赤にしながらも、俺から目を離さずに話を聞いてくれている。

俺「俺のことを好きになってほしいって言っているんじゃない。いっそこんな失礼なことを言う奴なんて縁を切っちまった方がいいと思う。」

ジュゼッピーナ「………。」

俺「たださ…俺の思いを伝えたかっただけなんだ。じゃないと俺自身が壊れてしまう気がするから。」

ジュゼッピーナ「………。」








234 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 18:04:23.34 ID:5X7bqIUO0 [41/47]

俺「あの……それじゃあ、もう俺は行くから…」

後悔はない。この言葉を准尉に伝えることが出来ただけで俺は満足だ。

それなのに……そのはずなのに、どうしても彼女の元から去る足取りが重くなってしまう。

ジュゼッピーナ「ちょっと。言いたいことだけ言って逃げられるのは色男だけの特権よ?」

俺「えっ?」

ジュゼッピーナ「ちょっとくらい私の話も聞いたら?」

俺「そ、そうだね! ゴメン…。」

そう言って俺はチュインニ准尉に向き直った。

そうだよな。言いたいことだけ言って逃げるなんてそれこそ失礼だよな。

こうなったら、どんな罵声でも甘んじて受け入れよう。

ジュゼッピーナ「そこで、動かないでいてね?」

俺「えっ…あっ……うん…。」

な、何だ…? ドロップキックでもされるのか…?

ジュゼッピーナ「昨日のお返し♪」

ギュッ








235 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 18:07:01.90 ID:5X7bqIUO0 [42/47]

俺「へっ!? ちょっ……チュインニ准尉!?」カァァ

えっ……ちょっ………まっ…何これ!?

ジュゼッピーナ「んふふ……聞こえるでしょ?」

俺「な、何が…?」

聞こえるとかそんなこと言ってる余裕ないでござる女の子ってやわらかいささやかな膨らみの感触があばばばば

ジュゼッピーナ「聞こえない? 私の心臓の音。」

そ、そういえば、トクントクンっていう振動を感じるような…

ジュゼッピーナ「俺くんに好きって言ってもらってから、ずっとこういう感じに鼓動が速くなってるの。なんでかしら?」

俺「さ、さぁ…なんでだろう?」

ジュゼッピーナ「私にもなんでなのか分からないの。なんだか、よく分からないんだけど、胸の奥からこう何か熱いものが込み上げてきて…」

ううう……准尉が喋るたびに吐息が肌に触れててててて

ジュゼッピーナ「私の中の何かが俺くんのことが好きだって言ってるの。おかしいよね? 私が好きなのは智子中尉のはずなのに。」

俺「えと…その……」








238 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 18:10:46.07 ID:5X7bqIUO0 [43/47]

ジュゼッピーナ「私は俺くんのことが好き。」

俺「………。」

チュインニ准尉は俺の胸に顔を埋めてそう呟いた。

ジュゼッピーナ「俺くんはどう? もう一回聞きたいの。言って?」

俺「俺は君が……ジュゼッピーナのことが好きだ。」

ジュゼッピーナ「ウフフ……うれしい。」ニコッ

そう言って准尉は優しく笑った。

この笑顔も今まで見たことがない。優しく、母性を孕んだ色っぽい笑顔。

この娘には、こんな一面もあったんだな…。







239 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 18:13:09.59 ID:5X7bqIUO0 [44/47]

ジュゼッピーナ「俺くん。」

俺「ん?」

ジュゼッピーナ「いただきっ!」

チュッ

俺「ちょっ……なっ……えっ!?」カァァ

き、キスされた!?

ジュゼッピーナ「マンマミーヤ! 私にスキを見せるからよっ!」

ジュゼッピーナは顔を真っ赤にしてそう言い、再び俺に笑いかける。

まるで、イタズラをした子犬のような可愛らしいその笑顔は、俺が最も好きな表情だった。

ジュゼッピーナ「前の私と違って、今の私はこんなに大胆なんだから♪」ニコッ








240 自分:パスタ短編[sage] 投稿日:2011/09/27(火) 18:15:10.83 ID:5X7bqIUO0 [45/47]

「俺達は一体何を見ているんだろうね?」

俺と彼女は空を見上げていた。お互いの手をしっかりと握り合って。

「何って、空じゃない?」

俺の問いかけに、隣に腰かけた彼女はそう答えた。

「まぁ、そうだよな。」

俺達の目の前にはスオムスの寒空が広がっている。今日は雲一つない晴天だ。

「あのさ、明日休暇が取れるようになったから、今夜俺くんの家にお邪魔していい?」

こんなキレイな空をボーッと見上げて、俺達は何を思っているのだろうか?

「うん、いいよ。おふくろとかに紹介したいしな。」

二人の将来か、これからの対ネウロイ戦争の戦況か、はたまた今日の夕食についてか。

「そうね。将来、お義母さんって呼ぶかもしれない人だしね♪」

どんなことなのかは分からないけど、確かに言えることは……

「ちょっ…気が早すぎるだろうっ!」


俺達二人は同じものを見ているってことだな。




fin


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最終更新:2011年09月28日 03:39
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