『少し、長めのマフラー』
スオムス エイラ自宅 自室
エイラ『ううう・・・』
エイラ『ついに言いだせないままこの日が来てシマッタ・・・』
どんよりした気持ちとは裏腹に、手は休まずにマフラーを編み続ける
エイラ『あぁ・・・マフラーも完成してシマウ・・・』
現在進行形で作っている手編みのマフラーに完成して欲しくない理由は明白だ
エイラ『一体、どんな顔で会えばいいんダヨ』
マフラーを渡す相手に会わなければならないからだ
なら渡さなければいい?
そういう訳にもいかないのが、乙女心という物らしい
そもそも、彼女がマフラーを編むきっかけとなったのは
彼女が昔、そう大昔に貧乏であった彼のために手編みのマフラーを渡し、
彼が成長期も迎えた今なお、義理のためか貧乏のためか使い続けている事が不憫に思えたからだった、しかし
エイラ『そりゃあサ・・・マフラー使い続けてもらえるのは、嬉しイシ』
エイラ『あいつが私のマフラー以外を巻くとか・・・』
エイラ『嫌ダケド・・・』 ボソッ
どうやら憐れみ以外の感情が多いことに、彼女は気づいているのだろうか?
全く、乙女心というものは理解できない
ではなぜ、そんな彼女が彼に会いたくないかというと、今日は彼と彼女のお別れの日なのだ
エイラ『今日の夕方に軍の人の迎えがクル・・・』
エイラ『それまでに・・・』
エイラ『ちゃんと言わナキャ』
そう、彼女が空駆ける魔女になる日
エイラ『さようならッテ』
彼女が思った瞬間、さよならのプレゼントも完成してしまった
エイラ『な、なんでダ?』
エイラ『ド、ドアノブに手を触れルト』
エイラ『手、手が、震えて』
エイラ『開けられナイ・・・』
彼女が何を恐れているのか、彼女に分かる日はいつ来るのだろうか?
夕方 エイラ自宅
コンコン
エイラ母『イッル、軍の方がいらっしゃったわよ』
エイラ『う、ウン』
部屋から出ようとする彼女に、母が問う
エイラ母『でもね、行く前に悔いは残しちゃダメ』
エイラ母『渡す物、言う言葉があるんでしょ?』
エイラ『・・・』
エイラ母『さようならって言葉が嫌なら、また今度って言えばいいのよ』
エイラ母『大切な人、なんでしょ?』
エイラ『うん・・・』
エイラ母『だったら行ってきなさい』
エイラ母『世界のために戦う娘が不幸になるなんて、私は絶対に許さないんだから!』
エイラ母『きっと、彼も待ってるわ』
エイラ『ウン!!』
後に、国を背負うエースになる彼女は走る
手には彼に渡す手編みのマフラー
心は空飛ぶ魔女になって、世界を守る決意
自分のしたいことをする
そう決めた彼女の笑顔はとても眩しかった
スオムス コッラー河付近 雪原
俺『・・・』
息を殺し、獲物に照準を定め、引き金を引こうとした瞬間
エイラ『俺!!』
バサバサバサ!!
俺『あ・・・』
獲物に逃げられてしまった
しかし、彼はそんなことよりも遠くに行ってしまったはずの彼女の姿に驚いているようだ
俺『イッル・・・なんで?』
エイラ『やっぱり、ここにイタ』
走ってきたせいか、顔がほんのり上気しているのが肌の白い彼女によく似合っている
エイラ『はい、コレ』
彼女が彼に渡したのは手編みのマフラー
俺『え?くれるの?』
エイラ『ウン、だってそれ、もう短イシ』
エイラ『お前、新しいの、買わナイカラ・・・』
今彼女の顔が赤いのも走ってきたせいだろうか?
俺『ありがとう』
俺『凄くうれしい』
そう言いながら、彼はマフラーを首に巻く
エイラ『あ・・・』
その、純白のマフラーは少し長かったようだ
考え事をしながら作ったため、採寸を間違えてしまったのだろう
エイラ『間違えちゃった・・・』
俺『いや、ちょうどいいよ』
エイラ『だってどう見て・・・も・・・』
彼女の口が止まったのは、彼が近づいてきて、彼女の首にもマフラーを巻いたからである
エイラ『エ!エ!エ!』////
思考が止まっているようだ、顔もさっきより赤くなっている
当然だろう、どう見たって、今の二人の状況は街で回りをイライラさせるバカップルの行為そのものなのだから
そう、つまり二人で一つのマフラーを巻いている状態なのだ
俺『ほら、ちょうどいいだろ?』
隣に彼の体温を感じているのか、彼女の顔の赤さもついに大変なレベルまで差し掛かっている
エイラ『う、ウン』////
エイラ『お、お前に、言いたいことがあるンダ』
俺『奇遇だな、俺も言いたいことがあったんだ』
エイラ『ナンダヨ?』
俺『おまえこそなんだよ?』
エイラ『え、うん、ちゃんと帰ってくるカラ』
エイラ『無事に帰ってくるカラ』
エイラ『だから、また今度ナ』
俺『うん』
俺『また・・・今度』
エイラ『私は言ったぞ、お前も言エヨ』
俺『ああ』
俺『お前が帰ってくるまで、ここはちゃんと守っておくから』
俺『だから、世界のために、飛んできな』
エイラ『うん』
エイラ『アリガトウ』
俺『あ、あと俺の横も空けといてやるよ』
エイラ『そこは守らなくても誰も入ってこないダロ』 ニヤニヤ
俺『てめぇ・・・男に縁の無いウィッチーズから帰ってきて、俺の横に美女がいても泣くなよ!!』
エイラ『泣かないサ、きっと私の横にはオラーシャ美女がいるから』
俺『女同士じゃねぇか!!しかもオラーシャって!やけに具体的だな!!』
フフフ あはは あはははは
楽しい時間は、やはり速く過ぎるものらしい
急に家を飛び出した彼女を探して、スオムス軍の迎えがやってきたようだ
軍人も大変だな、10代の少女の乙女心に振り回されて
エイラ『迎えがきたみたい、もう行かなきゃダメダ』
俺『うん』
俺『マフラー、ありがとう』
俺『大事にするよ』
彼女はそっと名残惜しむように、彼の体温を体で感じて、マフラーを外し、彼から離れる
エイラ『俺!!マタナ!!』
俺『ああ、またな!!』
どんなに明るそうな二人の声も、お互いに泣き顔では台無しであった
スオムス基地に向かう車の中
エイラ(いつまでも泣いてちゃダメだ、私はウィッチになるんだ!)
エイラ(私の大切な物、みんなの同じ様に大切な物のために)
エイラ(さぁ、どんな未来かな?)
彼女が占ったカードはウィッチとしての自分の未来
結果は『星』
意味は希望、願いが叶う
その結果を見つめ、彼女は満足そうに微笑んだ
最終更新:2010年11月10日 23:04