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衛生兵3

「俺~♪ おっかえりぃ」

家の扉を開けると、ルッキーニはそう言って俺の胸に飛び込んできた。

「ただいま、フランカ。いい子にしてたか?」

そう言って俺は、ルッキーニの頭を撫でる。ルッキーニは気持よさそうに喉を鳴らした。

「してた~♪ほらっ」

そう言ってルッキーニが指さしたのは、料理がならんだ、食卓だった。

「すごいじゃないか。フランカが作ったのか?」
「ねっ! 食べてみて!」 

ルッキーニに引っ張られるままに、俺は席についた。小さな食卓の上に、ところ狭しと料理が並んでいた。

「すごいな! でも……こんなに一杯どうしたんだ? 食材だって足りなかっただろ?」
「んーとね。お肉は街で迷子になってた子のマーマがくれて、こっちのお芋はね……」

そう言ってそれぞれの料理の素材の由来を解説していくルッキーニ。その内容は次第に、身振り手振りを交えた冒険譚へなっており、俺はその様子に目を細めた。

「ゴメンな、フランカ」
「うぇ?」
「……俺の稼ぎが少ないばっかりに、苦労を掛ける」
「ううんっ! 違うよ!」

ルッキーニは心外だ、と言わんばかりに首を大きく振った。

「苦労なんかじゃないよ。私が好きでやってるんだもん。それに……」
「それに?」
「俺が一緒にいるんだもん。あたし、幸せだよ!」

ルッキーニは満面の笑みを俺に向けた。頬が熱いと自覚できる。ルッキーニは楽しそうに笑った。

「ほらっ。食べて、食べて!」

勧められるままに、俺はこんがりと焼かれた牛肉を頬張った。
肉から口の中に肉汁がじわりと染みだした。

「……美味い」

でしょー。と得意げに言うルッキーニ。

「本当に美味しいよ。ありがとう。フランカ」

そう言って俺は、ルッキーニの頭をくしゃくしゃと撫でる。
お互いの位置が近い、小さな机はこういう時には便利だった。
ルッキーニは照れくさそうに目を細めている。

「牧場の仕事、大変でしょ? いっぱい食べて、力つけないと!」
「ああ、そうだな」

一週間前。この牧場の持ち主は、敷地内に不時着した俺とルッキーニに対して、理由も聞かずにこの小屋を貸してくれていた。
その上で、牧場の仕事を手伝うなら、賃金も払う言ってくれていた。
厚遇の理由を問う俺に対して、「孫も……ウィッチじゃった。辛かったら逃げ出してもいいんじゃ、それが……子供の特権じゃ」と小さく漏らしたきり、それ以上説明する気はないようだった。ただ、ルッキーニを見つめる瞳に時折悲しい光が浮かんでいるように、感じられた。

「「ごちそうさまっ」」

食事を終えて、片付けに入ろうとした俺をルッキーニが止めた。

「あ~っ! ダメダメっ! あたしが片付けるから俺はそこで寝てて!」

ぷくーっと膨れ上がって怒りを表すルッキーニの様子に俺はまた笑った。ベッドに寝転がる。
ルッキーニは自分が何も出来ていない、と考えてるようだった。実際には、そんなこともないんだけどな。と俺は今日の夕飯を思い出しながら自嘲の笑みを浮かべた。

「こらっ!」

思考に沈んだ俺の意識の外からルッキーニが叫んだ。

「ま~た、いーっって顔してるぅ!そんな駄目亭主には~……こうだっ!!」

その言葉と同時に、ルッキーニは素早く俺に馬乗りになると、その手を俺の脇腹に伸ばした。

「そ~れ、コチョコチョー。コッチョコチョー」
「っやめ!ひゃ……本っ当にっ。あはははは」

俺の顔色が酸素欠乏で紫がかってようやく、ルッキーニはその手の動きを止めた。

「……俺。さっきも言ったよ。あたしはね、今しあわせだよ?」
「フランカ……」
「だから、笑おうっ! 今日は楽しかった。明日はきっともっと楽しいって」

ルッキーニは笑顔だった。いつもと変わらぬ天真爛漫な笑みだった。かなわないな、。俺は思った。

「そうだな。その通りだ。ありがとう。フランカ」
「まったく……」

俺の礼を受けてルッキーニは言う。ここで謝ったら三日は口聞かなかったよ。

「俺はあたしがいないとほんっとダメダメなんだから……っ!?」

俺の腰に跨ったまま、とうとうと説教を続けるルッキーニだったが、突然言葉を止めた。ルッキーニの体がビクリと跳ね上がったのが伝わった。

「……俺」

ルッキーニが口を俺の耳元に近づける。漏れ出した吐息が耳に入りくすぐっく思った。

「えっち……」

そう言ってルッキーニはその腰をぐっと俺に押し付ける。

「ぐぅっ……」
「あたってるよ……」

耳元でルッキーニがささやく。首筋がしっとりと汗で濡れているのが見えた。

「もうっ!あたしは真剣に話してるのに、なんでおっきしちゃったの?」
「いやっ、それは……」

ルッキーニが手を俺のズボンに滑りこませた。
水仕事を終えて冷たくなった手が、いきり立つ怒張を握り、俺は声を漏らした。
ルッキーニの唇が軽く耳をなぞる。

「……やっぱりだ」

そう言ってルッキーニが俺の目を覗き込む。幼さの残る顔に似合わない妖艶な笑みを浮かべている。

「えっち、だね?」
「……」
「ね?」

言葉とともにルッキーニは手をきゅっと握る。

「っ!」

ルッキーニはケラケラと笑った。

「ねっ。めー閉じてよ」

言われたとおりに眼を閉じる。
唇に柔らかい感触が伝わる。ルッキーニの舌が俺の唇をなぞった。
俺は舌を絡めようと伸ばすが、ルッキーニはすっと体を起こした。
クスクスと笑い声が聞こえた。

「だーめ」

ルッキーニの指先が、俺の胸板を撫でる。シャツのボタンを外すぷちぷちという音が響く。

「ど~して欲しい~♪」

ルッキーニの舌先が俺の乳首をちょんと突いた。

「…………るな」
「んっ?」
「調子に乗るなあっ!」
「ふみゃあああ」

俺が勢い良く体を起こしたため、上からルッキーニが転がり落ちた。

「悪い子の口はこれか~?」
「は~へ~へよぉ~(やーめ~てよ)」

ルッキーニの頬をつかみ左右に引っ張る。よく伸びる。
手を離した。

「ひどいよぅ」
「自業自得だっ!」
「違ぁうよ! 俺がたっちゃうからいけないんでしょう! 逆切れだよ!」

ルッキーニが毛を逆立てて怒る。

「あれは生理現象だ。あんなえっちな子に育てたつもりはありません! だいたいどこであんなこと覚えたんだ……」
「ん~前に坂本少佐が……」
「おーけー分かった」

扶桑では常識だぞ! と大笑いする坂本の姿が目に浮かんだ。

「とにかく!あーいうのは、フランカにはまだ早いの」
「そんなことないよ! あたしたち夫婦でしょう? いっつもあたしだけ気持ちよくしてもらって……。してもらうだけじゃ嫌だよ……。あたしも俺に何かしてあげたい!」
「フランカ……」

そう主張するフランカの目には涙で濡れていた。
その体を引き寄せて、抱きしめる。

「あせらなくていいんだ。そうだ、俺達は夫婦だ。なら時間はいっぱいある。ゆっくり、二人で進んで行こう?」
「……うん」

胸の中で小さくうなずくルッキーニの頭をそっと撫でる。
ルッキーニが小さく言った。

「……ぎゅってして」
「ああ」

ルッキーニの細い腰に手を回し、強く抱きしめる。

「……ちゅーして」
「……フランカ」

まだあせっているのか? そう思って視線を下に向けると、ルッキーニはじっとこちらを見つめていた。目が不安に揺れている。

「ちゅー……」

ルッキーニが呟くように言った。しょうがないな、うん、これはしょうがない。
ルッキーニの首の下に指を入れて、上を向かせる。眼を閉じている。涙に濡れた睫毛が、震えていた。
ついばむような軽いキスを交わした。そうしてから、唇を重ねる。たっぷり十秒以上はそうしていただろうか、突然唇をそっとつつくような感触を覚えた。遠慮がちにこちらをノックするルッキーニの舌を招き入れる。絡みあう舌からびりびりとした快感が走った。
口を離す。視界一杯に広がるルッキーニの顔はやはり、その年齢相応の笑顔で、胸の奥にちくりと罪悪感を覚えた。
そんな事を考えていたからだろう。ルッキーニは俺の口元に手を伸ばすと言った。

「にぃ~」

俺の口元を釣り上げるように引っ張った。

「笑って、俺!」

俺は頷き、言う。

「ああ、明日がもっと楽しくなるように、な」 


ルッキーニは、満足気に微笑んだ。
だから、その瞳の奥に、不安の色が見えたのは、きっと俺の勘違いだったのだろう。




深夜、ルッキーニは目を覚ました。俺の胸の中にすっぽりと収まっている。しかし、胸の奥にざわざわとした感覚があった。
喉がからからに渇いていた。
俺を起こさないように、そっと布団から抜けだした。
水を飲もうと台所に向かったところで、汲み置きの水を使い切っていたことに気付いた。裏の井戸に行こう。ルッキーニは、扉を開くと外に歩み出た。
冷たい空気に触れてルッキーニの体が震えた。小屋の裏の小道を歩く。雲ひとつ無い夜道は、月明かりに照らされて、歩くのに不自由はしなかった。
井戸を覗き込む、月明かりに照らされて、水面に映る自身の表情にルッキーニは驚いた。暗い表情はとても自分のものに思えず、不気味に感じられた。

「あなたはだ~れ?」

返事は無い。

「なんてねっ」

当然の結果に、しかしルッキーニの心にかかったざわつきが少し晴れたのを感じた。
小屋に、俺のもとに帰ろうと、ルッキーニは振り返った。なにか違和感を覚えた。
ルッキーニは夜の静寂を裂くような、甲高い音が聞いた。

「シャーリー!」

聴き慣れたエンジン音、細かいチューンアップを繰り返したその音をルッキーニは確信をもって、親友のそれだと断定した。
駆ける。何故だかとても嫌な予感がした。エンジン音が止んだ。
(着陸したんだっ)小屋を回りこむ。閉めたはずの扉が開け放たれていた。
小屋に飛び込んだルッキーニは、呆然と呟いた。

「シャー……リー……?」

愛する男が、親友に銃を突きつけられている。
ちらりとルッキーニを見たシャーリーの瞳が悲しげに揺れた。

「ゴメンな、ルッキーニ」

飛びかかろうとした。しかし、ルッキーニは動けない。
叫んだ。

「だめぇぇぇえええ!!シャァァァァリィィィィー!!」

銃声。

「こちらシャーリー。ルッキーニ少尉を保護した。誘拐犯と推定された脱走兵俺中尉は、抵抗をはかったため……」

ルッキーニは理解できなかった。目の前で起こっていることを認めないと首を左右に振っていた。

「射殺した」

続く

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最終更新:2010年11月22日 23:56
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