バックストーリー
その教会は村外れの小高い丘の上に建っていた。
神父もシスターもいない、もう随分前に打ち捨てられた教会。誰もいない教会。
そこに毎日通う一人の少女がいた。
彼女は聖書すら持っていなかった。丘の上のものを除いては教会のないこの村に、賛美歌を歌える者がいるはずもない。
少女が教会で何をしているのか、誰も知らなかった。
ある日、不思議に思った村の大人たちは、こっそり彼女の後をつけてみることにした。
遠目から見る少女はやはり聖書など持っておらず、しかしその代わりに、何故か大きなぜんまいを持っていた。
やがて少女は教会へと入って行く。大人たちもそれに続いた。
だが、教会の中に少女の姿は見当たらない。奇妙に思ったのも束の間、奥の方からなにかキリキリという音が聞こえてくる。
音は懺悔室からだった。
懺悔室の中に少女はいた。少女は手を組んで祈っていた。
少女の傍らには十字架を首からかけられたぜんまい仕掛けの人形、それに、――死体。
少女は手を組んで祈っていた。かたく目を瞑って、懺悔していた。
その日の晩、大人たちは教会を焼いた。
小高い丘の上にあった村唯一の教会は、たった一晩で灰になった。
*
最終更新:2010年05月16日 09:28