79 : 1/8 : 2011/09/24(土) 20:08:50.86 ID:509qfWUl0 [15/27回発言]
『それで、えっとその……彼ったらね、こう……××して、それで……』
『ホントにぃーっ!! やるじゃんーっ!! 英子てば大胆!!』
『だだだ、だってだって、その……彼だって求めてるし、やっぱその……雰囲気ってもん
が……てか、ここまで話すつもりなかったのにーっ!! あああ、もう、恥ずかしいっ!!』
放課後。週一ペースで私達は教室でジュースやお菓子を持ち込んで、お茶会みたいなの
をやっている。もっとも、お茶会と言えば聞こえはいいが、要は女友達だけでだべってる
だけだ。話す内容は、普通に勉強や将来の事といった真面目な悩みから生理用品だの下着
だのといった男には聞かれたくない事まで様々だ。
だけど、やっぱり、一番盛り上がる事と言ったら――恋バナだった。
『で、かなみは最近どうなのよ? 別府君とはさ』
来た、と私は頭を抱える。大体一度は、この質問が飛んで来る。
『別に。前と変わんないわよ。何にもね』
素っ気無く返事をするも、もちろんこの子達がそんな事で許してくれる訳もない。
『まったまた、つれない返事しちゃって。どーなのよ? デートとか、してる?』
友子の質問に、ちょっと考えてから答える。ちなみに彼女には山田という本人曰く下僕
な彼氏がいる。
『先週、えーが言った。見たいのあったんだけど、恋愛物でさ。一人とか女同士より男い
た方が様になるかなって思ったから付き合わせた』
『それ、かなみちゃんが前言ってた奴でしょ? そういうの見たら、盛り上がったりしないの?』
そう聞いたのは現在彼氏無しの美衣ちゃん。今は何でも、後輩にお目当ての男子がいる
とか何とか。
『しないわよ。その後、ちょっとお店回って、お茶して、それでバイバイ。そんだけ』
『何それつまんない。あたしらだったら、そんな映画見たら絶対夜まで一緒に過ごすのに。
かなみさんてば、奥手なんだから』
しょっぱな、エッチ話まで告白させられた英子がいう。現在大学生の先輩と、熱々な恋
愛を展開中。
『英子が進み過ぎなの。あたしら、まだ高校生なんだし』
『でも、何にも無しってのはなー。キスくらいしようよ。ていうか、した?』
好奇心を露骨に見せる友子に、私はウザそうに手を振って追い払う仕草をする。
80 : 2/8 : 2011/09/24(土) 20:09:12.53 ID:509qfWUl0 [16/27回発言]
『しないっつーの。タカシは別に、幼馴染なんだし、付き合うっても、何となくだから英
子なんかと違って盛り上がる展開とかないし。友達とそんな変わんないわよ』
『でもさ。向こうはそうは思ってないんじゃない? 何たって、やりたい盛りなんだしさ。
あんまりお預けしてると、そのうち浮気されちゃうかもよ?』
友子がニヤニヤとからかうような笑みを顔に張り付けて言う。
『別に、そーなったらそうなったでいいわよ。別に、そこまでアイツに執着ないし』
内心ではドキリとしつつも、強がって見せる。すると、友子が口に咥えたポッキーをブ
ラブラさせながら言った。
『あたしはやだかんね。別府君にフラれて泣き付くアンタを宥めるの。昔はケンカするた
び、愚痴聞くの大変だったんだから』
『そんな事しないわよっ!! 友子だって人の事言えないじゃない。山田の事好き勝手使
い放題でさ。愛想付かされても知らないんだから』
『あれは大丈夫。ちゃんと紐付けてるもんね。かなみと違って、あたしは飴とムチの使い
方を心得てるから』
得意気な友子の脇で、英子がボソッと言った。
『じゃあ、別府君は男盛りを持て余してる訳かぁ。かわいそー』
『お、男盛りとか変な言い方しないでよっ!! あたしらは、その……い、今のままで大
丈夫なんだからっ!!』
『かなみちゃんはそうでも、別府君は我慢してるんじゃないかなぁ? あたしなら、好き
な人に我慢なんてさせないけどなー』
美衣ちゃんが言うと、他の二人がウンウン、と頷く。
『と言う訳で、かなみ。今週末はエッチしなさい。別府君と』
友子にビシッと指されて、私は文句を言い返した。
『何でそうなんのよ!! 冗談じゃないわよ。人に言われてするのなんて、絶対イヤ』
断固拒否する私の脇で、英子がため息混じりに言った。
『あーあ。別府君、かわいそー』
『かわいそうだよねー』
美衣ちゃんがそれに続く。さらに友子も言った。
『ホント、かわいそう。かなみがヘタレなばっかりに……ねえ』
『ヘタレ言うな!! それを言うなら、タカシの方がよっぽどヘタレだもん』
81 : 3/8 : 2011/09/24(土) 20:09:36.59 ID:509qfWUl0 [17/27回発言]
プイ、と不機嫌そうに横を向く私に、友子が言った。
『ともかく、来週のお茶会までに、何らかの進展を見せる事。でないと……あたしらが、
何とかしちゃうよ?』
『何とかって何よ!?』
『フッフーン。それは秘密』
友子にいいようにあしらわれて、私はフーッと牙を剥く。その横で、美衣ちゃんが言った。
『報告、楽しみに待ってるからね』
そして、それを受けて英子が言う。
『かなみの初体験報告……楽しみだわぁ……』
『だから、しないっつーの!!』
『全くあいつらったら……好き放題言うんだから……』
ぶつくさと文句を言っていると、横からチョン、とこめかみを突付かれた。
「何、怒ってんだよ。お前」
見上げると、私の真横にタカシが立っていた。
『別に。何でもなくはないけど、タカシに言う事じゃないわよ』
不機嫌そうに答えると、タカシはそのまま私の隣に座った。
「ま、どうでもいいけどな。それより、あんまり気難しい顔してると、将来縦ジワが増えるぞ」
『余計なお世話よ』
「あいてっ!!」
タカシの一言に憤慨して脇腹に一撃食らわすと、タカシが殴られた箇所を手で抑えて呻
く。フン、と私は一つ荒く鼻息をついた。
放課後、私は必ず一度はタカシの家に寄るようにしていた。或いは、時間が無ければご
飯とお風呂の後に顔を出していた。そうして、少しでも二人でまったりした時間を過ごす
のが、一日の癒しになっていた。
『ね、何読もうとしてたの?』
タカシが膝に本を置いているのに気付いて私は聞いた。多分マンガだろうけど、カバー
が掛かっていて、何のマンガかは分からない。
「ん? ああ、これ【ツンデレ!!】の新刊」
82 : 4/8 : 2011/09/24(土) 20:09:57.71 ID:509qfWUl0 [18/27回発言]
『え? ウソ。もう出たの? 貸してよ。ねえ』
これも、前にタカシから借りて読んだマンガの一つだ。最初は趣味に合わないかなと思っ
ていたが、ギャグのテンポが意外に良くて、お気に入りのマンガになってしまった。もっ
とも、読むのはいつもタカシの部屋でだけど。
「アホ。今日出たばっかで、まだ俺も読んでないんだよ。終わったら貸してやるから」
『ダメ。終わるまで待てない。先読ましてよ』
駄々をこねる私に、タカシは困った顔で拒絶を続ける。
「俺が買ったんだから、どう考えても俺が先に読む権利があるだろ。そんくらい我慢しろ
よ。ワガママなやっちゃな。ホントに」
『レディーファーストよ。レディーファースト。アンタも紳士なら、女の子に先に譲るく
らいの親切心は持ち合わせなさいよね』
タカシは何だか難しい顔で私を見ていたが、急に何かを思いついたのか、ハッとした顔
をする。それから、マンガを示して言った。
「なら、一緒に読むか? これ」
『え?』
思わず聞き返すと、タカシは頷いて言った。
「何かこのままじゃ、堂々巡りになりそうだしさ。ほら。こうやってここに本置けば大丈夫だろ?」
私の隣にくっ付き、伸ばした脚の側にタカシも脚を伸ばす。そして二人の間にタカシが
マンガを広げて置いた。
『何か、ちょっと読みづらいけど…… まあ、妥協したげる』
タカシと私で、片方ずつマンガを持って、読み始める。めくる側のページを私が持つ事
になったので、自分のペースでページをめくって行くと、タカシが肘で軽く小突いて文句を言った。
「かなみ。ちょっとペース速すぎ。今のページ、まだ全部読み切ってないし」
『何やってんのよ。ノロマ』
「俺は斜め読みじゃなくて、ちゃんと読むタイプなんだよ。特に一回目はな」
『全く、もう』
仕方なくページを戻す。程なくしてタカシが言った。
「いいよ。次、めくって」
そんな感じで、数ページ読むとまたタカシが言った。
「今のページ、まだ読んでないってば。少しは時間置いてからめくれよ」
83 : 5/8 : 2011/09/24(土) 20:10:19.54 ID:509qfWUl0 [19/27回発言]
『また? 一ページ読むのにどんだけ時間掛かってんのよ』
「お前こそちょっと早過ぎだろ? セリフ、ちゃんと読んでんのかよ」
『読んでるわよ。誰かさんと違ってノロマじゃないもん』
「俺は普通だって。お前が早過ぎんだよ。速読術でも持ってんのか?」
『そんなもんない。あたしの方が普通だっての』
そんなやり取りを何度もやってるうちに、ついに苛立って私はキレてしまった。
『アンタねえ。さっきからどんだけ戻させんのよ。いい加減にしなさいよね? 鈍クサ過
ぎんのよ!! あたしは先が気になって仕方が無いってのに』
「数秒の事だろ? ちょっとは我慢しろよ。大体、俺のマンガなんだから、文句言われる
筋合いねーだろ」
『あるわよ。一緒に読もうって提案したのアンタじゃない。仕方なくオッケーしてやった
のに、こんなに足踏みされるとウザッたくてしょうがないわ。全く』
「お前がワガママごねるからだろ? 俺が読み終わったら合図してやっから、そこまで待ってろよ」
『そんなのいちいち待ってられないわよ。男なんだから彼女に合わせるくらいしなさいよ。
鈍感。ノロマ。無粋』
「お前なあ。いい加減にしないと……」
興奮して身を乗り出しかけて、タカシがハッとした顔で言葉を止めた。
『な……何よ? 急に黙ったりして……』
思わずドキリとしつつ、私は聞いた。言い争いをしている時は感じなかったが、タカシ
との顔の距離が物凄く近かった事に、今更ながらに気が付いたのだ。しかし、そこでタカ
シが姿勢を戻すと、顔を背けて言った。
「い、いやその……何でもない」
気まずそうなその態度は、果たして私と同じような感情を抱いたのか? 確かめたくて、
私は聞いた。
『何でもないって事はないでしょ? 言いたいことあったんじゃないの? 何で急に止めるのよ』
厳しい視線を浴びせて追求する私を見ることなく、タカシは頭を右手でガリガリと強く
掻きつつ答えた。
「だから、その……お前があんまり勝手な罵声ばっか浴びせるから、一言くらい文句言っ
てやろうかと思ったんだけどさ。何か、だからさ……途中で、どうでも良くなったから……」
84 : 6/8 : 2011/09/24(土) 20:10:39.37 ID:509qfWUl0 [20/27回発言]
『何でどうでも良くなったのよ。ムカついてたんじゃないの? あたしに。言いたい事あっ
たなら、言えば良かったのに、何で止めたのよ』
言いづらそうなタカシに、私は追及を緩めなかった。こうなったらもう、徹底的に聞き
出さないと、気が済まない。ジッとタカシの答えを待っていると、ややあって、小さく自
信なさげにタカシが答えた。
「何でって、その……何か、急に気分が萎えたんだよ。そんだけだよ」
『何で急に気分が萎えたのよ。自分の事なのに、理由分かんないの? そんな訳ないわよ
ね。だったら、教えてよ』
ズイ、と身を乗り出して聞く。するとタカシがチラリと私を見たが、すぐに視線を元に
戻してしまった。
「何でって……何で、そこまで言わなきゃなんないんだよ。聞く必要、あんのか?」
『だって知りたいんだもん。いけない?』
タカシの逆質問にそう答えると、タカシがちょっと驚いた顔で私を見た。それから、プ
イと、正反対を向いて、困ったように言う。
「い、いけないって聞かれたら、その……いけなくはないけどさ。ちょっと、その……答
えづらいんだよ。分かれよ」
『分かんない』
キッパリとそう言い返すと、タカシがもう一度、振り向いて私を見た。私は不満を露わ
に唇を尖らせ、続けて言った。
『男なんでしょ? だったら、照れたりしてないで、ハッキリ言いなさいよ。でないと、
タカシはヘタレって、クラス中の女子に広めちゃうんだから』
そう脅してみせると、タカシは不快そうに眉をしかめた。グッと口を真一文字に結ぶと、
少しの間躊躇していたが、やがて視線を落とし、小さく言った。
「……かなみが……その、可愛かったから……」
『え?』
いきなりそんな事を言われて、私の心臓がドクンと跳ねた。そのまま、タカシの言葉が続く。
「だから、その……間近でお前の怒った顔を見た時、何かその、怒った顔もスゴク可愛ら
しいなって思ってドキッとしてさ。そうしたら、何か怒りなんてどっか行っちゃってさ。
だからその……それ以上、言うの止めたんだよ。これでいいか? それとも、まだ何か文句あるか?」
85 : 7/8 : 2011/09/24(土) 20:11:02.30 ID:509qfWUl0 [21/27回発言]
恥ずかしい事を言うだけ言ってから、最後にやけっぱちになって、タカシが付け加えて
質問してきた。私はそれに頷いて答える。
『うん。あるわよ』
それにタカシが、一瞬驚いて私を見たが、すぐに不貞腐れた顔で視線を背けてしまう。
「何だよ。別に、かなみに何言われたって今更だからな。いーよ、別に文句があるなら、
言ってくれよ」
今度は、私が緊張する番だった。心臓の高鳴りが、タカシに聞こえるんじゃないかと思
うくらい大きい。口の中がカラカラに乾いていて、上手く言葉を紡ぎ出す自信がない。だ
けど、タカシにここまで言わせておいて、私がヘタレるなんて、出来なかった。
心を、強く持って、私は言った。
『……だったら、何でこっち向かないの?』
「え?」
タカシが、顔を上げて私を見る。それに私は挑むように見返して、言葉を続けた。
『可愛いって……あたしの事、可愛いって思ったんなら……みたいんじゃないの? だっ
たら、見ていいわよ。ほら』
僅かにあごをしゃくり上げ、誘うように言う。するとタカシは、逆に顔を赤らめ、視線
を落として答える。
「見ていいわよって、そんな風に言われても、お前……」
自信なさげな言葉に、私は苛立ちを覚え、強く言い返した。
『何よ、アンタ。可愛いって思ってる女の子の顔もまともに見れないくらい、ヘタレなの?
この、意気地なし』
私の挑発に、タカシが顔を上げた。それから一回視線を戻しそうになり、グッと堪えて言った。
「分かったよ。そこまで言うなら、思う存分見てやるよ。嫌だって言ってもな」
『あたしが見てって言ってんだから、そんな事言う訳ないでしょ? 何だったら、もっと
近くで見なさいよ』
「分かったよ。だったら、顔近づけるぞ? いいか?」
タカシの顔がグッと近付く。タカシと私の視線が、真正面で交錯した。心臓がバックン
バックンと壊れそうなくらい激しく鼓動を打っている。しかし、一歩も引くまいと思い、
私はさらに挑発するように言った。
『……もっと。もっと近づけて。もっと、近くで見てよ。あたしの顔を……』
86 : 8/8 : 2011/09/24(土) 20:11:24.38 ID:509qfWUl0 [22/27回発言]
「お、おう……」
タカシの顔が更に近くなり、ちょうどさっき、言い合いがピークに達した時くらいの距
離になった。鼻と鼻が、もう少しで触れ合いそうな、ギリギリの距離。だけど、私はまだ
足りなかった。もっと、近くに来て欲しかった。
『まだよ。もっと……もっと、近づけて』
するとタカシが、さすがに戸惑った声を出す。
「もっとって、これ以上近づけたら……ぶつかるぞ?」
『いいの。ぶつかってもいいから、もっと近付けなさいよ。それとも、タカシはイヤなの?』
「いや、俺は……」
言いかけて、タカシは言葉を切った。僅かに首を横に振ると、顔を更に近付けてくる。
チョン、と鼻の頭と頭がぶつかる。それでタカシが僅かに顔を遠ざけて言った。
「ほら。やっぱりぶつかるだろ?」
それに私は、顔を僅かに横に傾ける。
『……こうすれば、ぶつからないわよ……』
私の言葉に、タカシが息を呑むのが聞こえた。無理もないと思う。だって、これはもう、
キスをおねだりしているようなものだから。もちろん、タカシとキスはした事ある。しか
し、デートとかで雰囲気が盛り上がっている時がほとんどで、こんな風に部屋でキスする
のは、初めてだった。
「いいのか? それじゃあ、行くぞ」
タカシが確認を取り、私がそれに頷いて答える。タカシの顔が、もはや霞んで見えない
くらいに近い。唇に、タカシの吐息が当たる。しかし、まだタカシの唇は触れて来ない。
すると、囁くような、タカシの声が聞こえた。
「……もっと……か?」
僅かに逡巡して、私は頷いた。
『……うん』
答えが終わると同時に、唇に、柔らかなモノが触れた。微かに、優しく。しかし、もは
やもどかしさが頂点に達した私は、とうとう我慢しきれなくなり、自分からタカシに、強
く唇を押し付けてしまった。
87 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 2011/09/24(土) 20:12:15.87 ID:509qfWUl0 [23/27回発言]
続く
最終更新:2011年10月01日 16:52