188 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 2011/09/25(日) 02:39:26.25 ID:AQ4JKCb00 [2/5回発言]
「友ちゃんとなに話してたの?」
席に戻ってすぐに、後ろの席の萌茄が話しかけてきた。
「んー?どうでもいい話」
購買で買った焼きそばパンを頬張りながら適当に答える。
萌茄の暫定彼氏を見る顔は飄々としていて、なにを考えているのかわからないことが多い。
「ふうん。最近かつみさんともよく一緒にいるよね」
「あいつなんだかんだでかまってちゃんだからさー」
「そうなんだ」
「どうしたの、普段俺がどうしてるかなんて興味なさそうなのに」
「別にいいでしょ、他愛もない話よ」
萌茄はつまらなそうに頬杖を突いて微かに溜め息をついた。あって間もない頃には表情の変化のなさに困惑したものだが、慣れてくると少女のちょっとした仕草の中に垣間見えるサインに気づくようになった。
ただ、注視しなければならないので他のことは手に着かず、焼きそばパンは一かじりしただけに留まっている。
タ「まあ、そりゃそうだわな」
肩をすくめてみせる。
「……私は」
「ん?」
「私は、お弁当たべてたの」
「……へえ、そうなの」
「うん」
それで?と思わず口にしてしまいそうな歯切れの悪さだった。続く言葉を待つが既に少女の薄い唇は紡がれている。
頬杖をついた少女はけだるそうにもみえ、伏し目がちに斜に構えた顔は色白い。白磁に筆を走らせたような整った目鼻立ちを観察することは僕の密やかな楽しみの一つだった。
189 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 2011/09/25(日) 02:41:02.43 ID:AQ4JKCb00 [3/5回発言]
「おいしそうね。いただきっ」
「あ、おいかつみっ!」
死角から滑り込んできた少女が、僕の焼きそばパンを猛禽類が小動物に襲いかかるようにかっさらっていく。
気付いたときにはもう遅く、大きな一口の噛み跡から麺がぷらぷらと垂れている。
「っ……!」
萌茄が大きな物音をたたて立ち上がった。後ろに滑った椅子がそのままの勢いで倒れてさらにうるさくなる。
「ど、どうした?」
テーブルを叩いた萌茄の細い指先は強く押しているのか白くなり、微かに震えているようだった。いつも伏し目がちなやや切れ長の目は珍しく見開かれていて、なにか言いたげに口を開閉しているがことばが出ない。
「……ちょっと来て」
「でもまだ俺焼きそばパン食べ終わって」
「それも持ってきて」
食べかけの焼きそばパンに一瞥くれると、萌茄は教室の外を顎でしゃくった。いつもは穏やかな口調が今はどこか刺々しく、僕でなくてもふつふつと沸き上がっているものを察することができただろう。
辺りを見回すと、椅子の音も相まって教室中の目が僕らに集まっていた。物騒なものを見る野次馬やスクープを見つけたパパラッチの目だ。
「……ほら、早く」
萌茄もそれに気づいているようで、決して崩さない無表情をほんのりと赤く上気させている。焼きそばパンにごねる僕の手首を掴むと、なかば無理やり僕を教室から連れ出した。
人通りの少ない階段の踊場まで来ると、萌茄は僕の手首を掴んだままいつになく冷たい顔で僕を見やる。
190 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 2011/09/25(日) 02:41:18.83 ID:AQ4JKCb00 [4/5回発言]
「わ、私だって」
僕の手首を握る力が強くなる。ぎゅうぎゅうとと締め付けて放す様子はなく、これでは焼きそばパンを口元に運べない。
口ごもり、言葉詰まって、萌茄は興奮しているのか言葉がなかなか続かない。三呼吸ほどの間を置いて、萌茄の手が胸のかすかなふくらみを抑える。
「私だって離したいし」
少女の細い体が僕に迫った。倒れるほど前のめりになった少女の体をとっさに受け止める。
「ちょ、ちょっと待って……」
後ずさろうとしたところで、手首を強く引かれて二人分の体重を支えきれずにバランスを崩した。そのまま後ろに倒れ込む。
倒れる間もお互いに握りしめたものは決して離さず、僕はかろうじて焼きそばパンは死守した。
萌茄が僕に覆い被さる体制になった。眼前で長い黒髪がゆらゆらと揺れている。僕の鼻先の二寸先にはまた鼻先があり、僕の唇を熱い吐息がくすぐってこそばゆい。
「私だって、もっとかまってほしい」
普段は絶対に出さないような甘く色のある声で萌茄が鳴いた。潤みを孕んだ目を見つめ返すことができずに視線を足元に逸らすと、開いたブラウズの襟元から微かなピンク色が垣間見え、けっきょく視線をもとに戻す。
「……言わなきゃ、わかってくれないの?」
悲しげに眉を下げて萌茄は首を傾げた。かすかに鼻先が擦れあう。
「わ、わかったから、どいてくれると嬉しいんだけど」
「……わかった」
本当にわかっているのだろうか、僕の焼きそばパンを握った手を握る萌茄の手にかかる体重が大きくなる。僕と萌茄の体は完全に密着していて、萌茄の鼓動と自分の鼓動が重なっていた。僕より少し体の小さな萌茄の鼓動は、僕よりも早く高鳴っている。
「目、つぶってよ」
こつん、と額と額がぶつかる。普段の飄々とした萌茄とはかけ離れた言動に、僕自身も平静でいられなかった。言われるがままに目を閉じる。
少しの間を置いて、唇に軟らかいものが触れる。その感触を確かめるように強弱をつけてそれが何度も押し付けられる。
十分に堪能したのか、触れていたものが離れると、下唇に感触が移った。潤ったものにつつまれて、なにか硬いものにまた強弱をつけて挟まれた。微かに湿りを帯びた音をたてて吸われ、濡れた弾力のあるものが唇の上を這う。
「……もういいよ」
声はいつもの平静なものだった。目を開けると先ほどより萌茄の顔は少し離れていて、やはり黒髪がゆらゆらと揺れていた。
萌茄は立ち上がると僕の手首を引っ張った。つられて立ち上がると、指先で自分の唇に触れてみる。それは潤いに満ちみちていて、萌茄を見やるとぷいと顔をそらされた。
乱れたスカートのプリーツを直す後ろ姿はいつもと同じで、少し汗ばんだ体にブラウスが張り付いていた。真っ赤に染まった耳が見えた。
普段は感じない甘い香りを僕は感じていた。蜜に誘われる蝶のような心境でさこに手を伸ばそうとしたが、焼きそばパンを持っていたのでやめた。
191 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 2011/09/25(日) 02:44:28.97 ID:AQ4JKCb00 [5/5回発言]
〆
1寸あたり3cmくらい
焼きそばパン連呼してたらおなかすいてきた
最終更新:2011年10月01日 16:55