35 名前:1/7[] 投稿日:2011/10/15(土) 18:53:19.82 ID:agSjw41R0 [6/22]
  • ツンデレと男の思い出の場所が無くなってしまったら

『どう? 進んでる?』
「よお、かなみ。どうしたんだよ」
『様子、見に来たのよ。引越しの準備のね。はい、これ差し入れ。ジュースとお菓子』
「おう。サンキュー。じゃあ、ちょっと休憩すっかな」
『それにしても……随分片付いちゃったわね。見慣れた部屋なのに……アンタの部屋じゃ
ないみたい』
「まーな。もっとも、明日の朝にはここ出るから、もうのんびりしてらんないんだけどさ」
『全く、アンタってばホントグズよねー。子供の頃から支度、遅くってさ。高校生になっ
ても、全然成長してないじゃない』
「確かにな。宿題とかもすっかり忘れてて、前の日の夜のお前に助けてもらったりしてるし」
『もうそんな事出来ないんだからね。自分で何とかしなさいよ』
「はいはい。ま、何とかなるっしょ」
『気楽なもんなんだから。全く…… アンタの宿題の面倒とか見る為に、何度この部屋
に来た事か……』
「感慨深いだろ? この部屋も、もう無くなっちまうんだぜ」
『まあ、古い家だからしょうがないけどね。天井の染みも、柱のキズも……見慣れたも
ので気にも留めてなかったけど、いざ無くなると思うと、何かこう……ね……』
「だよな。俺もここ数日はさ。いよいよこの部屋ともお別れかーって思ったら、何かど
れもこれも愛おしく思えて来るんだよな」
『このじゅうたんの染みって、徹夜で勉強してた時に、あまりの眠さにうっかりジュー
スこぼしちゃったのよね。結局落ちずに残っちゃって』
「あったなー。中1ん時か。夏休みの宿題が終わんなくて、前日に必死こいてやった時だろ」
『あたしはちゃんとスケジュール立てて、計画通りやろうとしてたのに、アンタがいっ
つも邪魔するんだもん。マンガだったりゲームだったりさ』
「誘惑されるお前も悪いんだからな。意志が弱いからそうなるんだよ。その点俺なんて、
最初っから最後の一週間で集中してやるって決めてるからな」
『偉そうに自慢する事じゃないでしょ。でも、あたしはもう、最後に追い込み掛けるな
んてしてないからね。アンタは全く成長してないけど』

36 名前:2/7[] 投稿日:2011/10/15(土) 18:53:39.62 ID:agSjw41R0 [7/22]
「まーな。しかも、お前が先にやってくれるお陰で、むしろ助けて貰ってる立場になってるし」
『ますますダメ人間化してるじゃない。でも、これからはおいそれと助けてあげるなん
て出来ないんだからね。自分でしっかりやんなさいよ』
「何。今の時代は答えを携帯で撮ってだな。俺にメールしてくれればそれでも済むから
な。まだまだ頼れるぞ」
『何、自信満々に言ってんのよっ!! 誰がそこまでしてアンタの手助けしてやんなきゃ
なんないのよ。全く……』
「まあ、今までは歩いて1分の距離だったからな。これからはそう簡単にはいかないか」
『そうよ。あたしがすぐ近くにいたありがたみが、ようやく分かった?』
「いやいや。いつも噛み締めておりましたよ。ホントに」
『うわあ。超ウソくさ。アンタの言葉ってホント、いい加減なのよね。だから嫌いなのよ』
「今のは結構真面目に言ってるつもりだぞ。実際、勉強だけじゃなくていろいろ世話に
なったしな」
『まあ、あたしがおせっかい焼きだけなのかも知れないけどね。全く、今もって何でア
ンタなんかにいろいろと世話焼いたのか不思議でしょうがないわ』
「でも、感謝してるわ。今まで、ありがとな」
『あ、改まってお礼なんて言わないでよ。気持ち悪いじゃない。バカ……』
「お? かなみさん、いっちょ前に照れてますな?」
『う、うるさい!! 誰が照れるかこのバカ!! アンタにお礼なんて言われると、背
筋の辺りがこそばゆくなんのよ』
「へえ。それじゃあもう、今後はかなみにお礼言うのはもう止めるか。気持ち悪いらしいし」
『別にいいもん。大体、もう……今までみたいに世話なんて出来ないしね』
「確かに、まあそうだな」
『…………と、ところでさ。この傷、覚えてる? ドアの所の』
「え? あ、ああ。覚えてるよ。小3の時だろ? 俺追っ掛けようとして、思いっきり
激突して、ひと針縫ったんだよな」
『何だったかしら。何かアンタがちょっかい掛けてくるから、仕返ししようとして逃げ
るアンタを追いかけたら、いきなりドア閉められたのよね。で、閉め切れなくてちょう
ど角のところにぶつかって……』


37 名前:3/7[] 投稿日:2011/10/15(土) 18:54:04.11 ID:agSjw41R0 [8/22]
「俺もビックリしたよ。いきなり凄い音がするから振り返ったらお前がもんどりうって
倒れててさ。しばらくしたら大泣きして……親にめっちゃ怒られたっけ」
『当たり前よ。大事な乙女の顔に傷が付いたりしたらどうするつもりだったのよ』
「どうするったって、ワザとじゃねーし。何かすごい剣幕だったから、逃げる時に妨害
しようとしてドア閉めようとしたってだけで……」
『全く……結局、後は残らなかったから良かったけど、もし残ったりしたら、一生アン
タに責任取ってもらうところだったんだから』
「そりゃ、怖いな。で、ぶつけたのどこだっけ?」
『ここよ、ここ。おでこの上。生え際のちょっと下』
「どれどれ? ああ、確かに跡形もないな。スベスベしてる」
『触るなこのボケッ!!』
 ペチッ!!
「あいてっ!! 叩く事ねーだろ」
『乙女の柔肌に気軽に手を触れるからよ。全くもう……触るなら触るで、一言言えっての』
「おでこくらいいいじゃんか。それに、ここじゃ傷残っても目立たなかっただろうに」
『髪をアップに出来ないじゃない。それに、傷があるってだけで、コンプレックスが出
来ちゃったかも知れないし』
「でも、まあ結果として何事もなかったわけで。それに、最後の証拠も消えちまう訳だしな」
『あ……まあね。でも、心に残った思い出まで、消える訳じゃないから』
「確かにな。この家は無くなっちまうけど、この部屋でお前と遊んだ記憶は、いつまで
も残ってる訳だし」
『そうよ。忘れるはず……ないんだから……』
「……………………」
『……………………』
「何か、急にしんみりしちまったな」
『まあ、顔出したのはそのつもりもあったからね。何だかんだで、結構居付いちゃって
たし…… でも何か、思い出すことって言ったら、変な思い出ばっかだったけど』
「じゃあ聞くけど、この部屋で変じゃない思い出って、何かあるか?」
『別に。居心地がいい部屋ってのはあったけど、アンタとの思い出で変じゃない思い出
なんてないしね』

38 名前:4/7[] 投稿日:2011/10/15(土) 18:54:30.04 ID:agSjw41R0 [9/22]
「じゃあ、実に普通の思い出だな。それが、俺たちの日常だったってことで」
『そだね。でも、もうそれも終わりかぁ……』
「終わり……だな」
『……やっぱり、何か寂しいね……』
「仕方ねえだろ。引っ越すんだし」
『何でアンタはそんなサバサバしてんのよ。10年以上も暮らした部屋が無くなるってのに』
「俺はもう、十分しんみりしたからな。引越しが決まった時から、ずっとだからさ。ま
あ、半分はやっと来たかって感もある訳で」
『そう言われれば、まあそっか。あたしは最近ちょっとご無沙汰だったからかな? 何
もかもが懐かしく見えちゃう』
「まあ、心ゆくまで最後を惜しんで行ってくれよ。もう、見ることは無いんだから」
『…………うん……』
[お兄ちゃんっ!! さっきから何うるさくしてんのよ!!]
『ひゃっ!?』
[あたしはもうとっくに自分の部屋終わって手伝ってるんだから、早くこっち手伝いに
来てよね……って、かなちゃん?]
『舞ちゃんか。びっくりしたぁ……』
[何だ。かなちゃんが来てたのか。なら、うるさい訳よね]
『ちょっと、何よそれ。どういう意味よ?』
[言葉通りの意味よ。それよか、もしかしてあたし、お邪魔だった?]
『なっ……!? 何がお邪魔よ!! お子様がマセた事言うな!!』
[かなちゃん、それかなちゃんが今の私と同い年だった時もおんなじ事言ってたよ。あ
たしだってもう、中3なんだからね]
「別に、変なこととかねーよ。この部屋も、もう無くなっちまうからな。思い出話に浸っ
てただけで」
[そっか。かなちゃん、お兄ちゃんの部屋にはしょっちゅう来てたもんね]
『変な笑い方しないでよ。あたしの部屋よりむしろ楽出来たってだけだもん。ここなら
用事言いつけられる事も無かったし』


40 名前:5/7[] 投稿日:2011/10/15(土) 18:54:50.47 ID:agSjw41R0 [10/22]
[ホントそうだよねー。女の子って、家事ばっかやらされてさ。お兄ちゃんは食べて寝
て遊んでるだけだもん]
「その代わり、体力の要る仕事とかめんどくさい仕事の時は駆り出されてるのは俺じゃ
んか。持ちつ持たれつだっての」
[違うわよ。明らかにお兄ちゃんの方が楽してるもん。かなちゃんだってそう思うでしょ?]
『そりゃそうよ。タカシなんて何の役にも立たないもん』
「どうして女ってば、二匹揃うとこうもうるさいんだろうな。マジ、厄介でしょうがねーぜ」ボソッ……
『[何か言った?]』
「うわっ!? な、何でもねーよ。それよか、舞。お前もかなみには世話になったろが。
挨拶しとけよ」
[うるさいな。そんな事、お兄ちゃんに言われなくても分かってるわよ。かなちゃんに
は、お菓子作り教えて貰ったり、勉強見て貰ったりしたからね]
『そだね。これからは、簡単には見てあげられないけど、でもいつでも遊びにおいでよ。
待ってるから』
[それがそーも簡単にはいかないのよね。今まではすぐ近くだったから良かったけど。
でもまあ、こっち来る事もあるかもしれないし、そしたら遊びに来るね]
『うん。あたしも、舞ちゃんと頻繁に会えなくなっちゃうのは寂しいな。あたしは一人
っ子だけどさ。舞ちゃんがいたから、妹がいるみたいな気持ちになれたもん』
[あたしも、お姉ちゃんがいたみたいで楽しかったよ。まあどっちみち、お義姉ちゃん
になるんだろうけど]
『んなっ!? ななななな、何言ってんのよ!! そんな事ある訳ないでしょ!!』
[お兄ちゃん。かなちゃんって、すーぐ顔に出るから面白いよねぇ?]
「お前。そうやってかなみをからかうの、いい加減止めろよな。後でとばっちり食らう
の俺なんだからな」
『ま、まあ……今日はいいわよ。そういうクソ生意気な所も含めて、妹みたいって思っ
てんだから』
[誰が生意気だっつーの。ま、あんま二人の仲を邪魔しても悪いから、とりあえずあた
しは引越しの準備に戻るね]
『え? もう行っちゃうの? っていうか、邪魔って何よ。邪魔って』


41 名前:6/7[] 投稿日:2011/10/15(土) 18:55:13.92 ID:agSjw41R0 [11/22]
[ツッコミ遅いよ、かなちゃん。まあ、まだ下でお母さんが食器とかダンボールに詰め
てるから、それ手伝わないといけないし。お兄ちゃんもあんまりかなちゃんとイチャイ
チャしてないで、早めに準備終わらしてよね。今日はご飯も外で食べるんだから]
「分かってるよ。どっちみち、あと少しで終わりだし。そしたら俺も下の片付け手伝うからさ」
[そんな事言って、いっつもグズグズしてるんだから。それじゃ、かなちゃん。ごゆっ
くりって訳には行かないけど、お兄ちゃんとのこの部屋での最後のひと時を、心ゆくま
で楽しんでね]
『だから、何意味分からない事言ってんのよ。このバカ!!』
[エヘヘ。じゃーねーっ!!]
「やれやれ。アイツもいつになったら女の子らしさを身につけるんだか」
『別に、舞ちゃんだってもうしっかり女の子してるでしょ? あの性格……って言うか、
生意気なのは多分変わんないわよ。落ち着きはしてもね』
「そうかなあ。だとしたら、彼氏とか出来るのいつになる事やら」
『意外と早いかもよ? あの子、どう考えても肉食系だし』
「……自分からターゲット見つけて食いつくのか。となると、アイツに狙われる男の方
が可哀想だな……」
『あ? そんな事言っていーの? バレたらまたケンカになるんじゃないの?』
「大丈夫だろ。そもそも、告げ口する奴が一人減るからな。伝わる術もないだろ」
『あら? メールっていう手段もあるわよ。ミクシィでもフォローし合ってるし』
「女ってそういうコミュニティーツールがホント好きだよな。俺なんて最初だけですぐ
飽きちまったのに」
『これからは、ちゃんとチェックしなさいよね。別にアンタと仲良くやり取りなんてし
たくないけどさ。それでも連絡取らなきゃいけない事もあるんだから』
「そんなもん、メールでいいだろが。何も人目に付く所でやる必要なんかないだろ?」
『ゴチャゴチャ言わないの。返事は?』
「はいはい。分かりましたよ。見りゃいいんだろ? 見りゃ」
『はい、宜しい。さて、と。それじゃあ、あたしはそろそろ、帰るかな』
「え? もう帰るのかよ。何か今日はいやに早くね?」


42 名前:7/7[] 投稿日:2011/10/15(土) 18:55:42.77 ID:agSjw41R0 [12/22]
『遊びに来た訳じゃないんだってば!! それに、アンタだって引越しの準備終わって
ないじゃない。アンタはともかく、そのせいでご家族に迷惑掛けるわけ行かないもの。
それに……この部屋に残ってた思い出は、全部心に仕舞い込んだから、ね』
「そっか。じゃあ……また、な」
『あ? 今寂しいとか思わなかった? 何たって、この部屋でかなみさんと会うのも、
これで最後だもんね』
「バッカ。思うかよ。別に、会えなくなる訳じゃないんだしさ」
『そだね。それじゃ、またね。この家の最後の姿は、しっかり見取ってあげるから。なんなら、写メ送っちゃうよ?』
「そこまでしなくてもいいって。それより、前を向いて生きてかないとな」
『へえ。アンタにしては立派な事言うじゃない。変なもんでも食べた?』
「別に食べてねーって。つか、俺がそういう事言うの、変か?」
『うん。変よ、変。全っ然似合ってない。そんな真面目ぶった言葉を言うなんて、タカ
シらしくないわよ』
「俺だって、たまにはカッコいいことだって言わないとな。まあ、別にカッコ付けって
いうより、自分に言い聞かせようみたいなのがかなりあるんだけどな」
『……………………』
『(あたしとのことは……まだ、過去じゃないわよ、ね。置いていく物じゃないわよ……ね?)』
「どうした? かなみ。急に黙りこくって」
『え? ううん。何でもない。それじゃ、本当に帰るから。また、ね』
「おう。それじゃあな」

69 名前:1/4[] 投稿日:2011/10/15(土) 20:37:01.87 ID:agSjw41R0 [16/22]
~休み明けの朝~

【美津府~、美津府~。一番線、ドア閉まります~】
『とと、とっと!!』
 プシュー……
『ファ……間に合ったぁ……』
「よう。かなみ」
『え? あ、ああ。おはよ。意外と早いじゃない。アンタにしては』
「早いって、これがいつも乗ってる電車だろ? お前がいるし」
『そうじゃなくて。引っ越してちょっと遠くなったから、もう少し遅れて来るかと思っ
てたの。二駅先になったんだから、10分は早く出ないと間に合わないでしょ?』
「ああ。キツかったぜ…… 舞に無理矢理30分も早く起こされてさ。昨日は引越しで
辛うじて寝るところだけは作り上げたって感じでさ。まだ部屋中ダンボールだらけだし、
大変だよ……」
『どお? 新居の住み心地は』
「まだわかんねーよ。今までより賑やかになった感じかな? ばーちゃんもいるし」
『でも、二世帯なんでしょ? だったら、普段は暮らし別になるんじゃないの?』
「そうは言っても、家自体はくっ付いてるし、飯もばーちゃん一人って訳にも行かない
からな。半分同居みたいなもんだ」
『へーえ。でも、楽しそうでいいじゃない』
「そうか? 優しいばあちゃんならいいけど、ウチの家系だぜ? そう言えばお前には
通じると思うけど」
『おばさんも舞ちゃんも強いもんねー。あたしだって敵わないし』
「だろ? 親父と俺と二人で、今までは2対2だったのが2対3になったからさ。どう
やって俺たちの自由と人権を守ろうか、まさに真剣で考えなきゃなって話してんだけど
さ。もう個別に誰か一人を味方に引き抜くしかないみたいな感じで」
『アハハ。おじさんはともかくヘタレのタカシじゃ無理よね』
「お前だって敵わないってさっき自分で言ってたろが。俺ばっかヘタレ呼ばわりすんな」
『あたしは基本部外者だもん。そりゃ、遠慮もある訳だし。だけど、アンタは身内でしょ?
立場が違うわよ』

70 名前:2/4[] 投稿日:2011/10/15(土) 20:37:24.62 ID:agSjw41R0 [17/22]
「へーへー。どーせ、俺と親父は女に頭の上がらないヘタレ野郎ですよ」
『なーに拗ねてんのよ。それに、おじさんをアンタと一緒にするな。一家の稼ぎ頭とご
く潰しじゃ、全然違うのよ。それに、おじさんの場合はヘタレなんじゃなくて、度量が
広いって言うの。アンタはもう少し日本語の使い方を勉強しなさい』
「納得いかねえ…… どうあってもかなみは俺一人を無理矢理にでもヘタレに仕立て上
げたいらしいな」
『無理矢理とか仕立て上げるとか、人聞きの悪い事言わないでよ。あくまで、事実、を
的確に指摘してるだけでしょうが』
「その事実ってのはどこから出てるんだよ? あくまでお前の主観だろ? それだった
ら、俺だってヘタレじゃないって主張すれば通るだろ」
『じゃあ、他の人に聞いてみる? 舞ちゃんとかおばさんとか、あとは……友子とか』
「全部お前の味方じゃねーか。そんな偏った意見で客観的とか主張されたくねーよ」
『じゃあ、アンタに味方はいるのかしら? 少なくとも、あたしの意見が独りよがりだっ
て押し込められるだけの』
「……って言っても、山田は輪を掛けてヘタレ野郎だし……後は……」
『ほら、見なさい。認めてくれる人がいない時点で、ヘタレ決定よ。ヘタレヘタレヘタレ』
「連呼すんな。ガキかお前は」
『勝利したんだからね。敗者にはキッチリ傷を植え付けとかないとダメでしょ。二度と
反論する気も起きないように』
「はいはい。分かりましたよ」
『ちょっと。何がおかしいのよ?』
「え? 何が?」
『何が?じゃないわよ。今、ちょっとニヤ付いてたじゃない。負けて頭でもおかしくなったの?』
「なるか、バカ。何か、引っ越しても俺達、全然変わんないなって、そう思ったらちょっ
とおかしくなっただけだよ」
『そりゃそうでしょ? たかが二駅分離れただけで、学校も変わんないし』


71 名前:3/4[] 投稿日:2011/10/15(土) 20:37:45.01 ID:agSjw41R0 [18/22]
「でもさ。これでも電車に乗るまでは結構新鮮だったんだぜ? 新しい家に新しい家族
もいて、今までと違う通学路で駅まで来てさ。それがお前に会った途端、いきなり前と
同じに戻っちゃって。それが何かすごく奇妙な感じにも思えてさ」
『そんなもんなの? あたしにはよく分かんないけど』
「うーん…… まあ、何つーか、これ以上口で説明するのは難しいんだけどさ。つか、
お前はどうなんだよ?」
『へ? あたし?』
「うん。今まではさ。待ち合わせて一緒に学校行ったりもしたじゃん。今日からは駅ま
では一人だけどさ。何かこう、変わった感じとかしない?」
『別に。いや、どっちかと言えば、せいせいするかな。アンタ待たなくても自分のペー
スで家を出られるし』
「ちぇっ。少しは寂しがってくれるかなって少しは期待したのによ」
『そんな訳あるはずないでしょ? たかが駅までだけじゃない。今朝だってこうして会っ
ちゃってさ。むしろうんざりしてるくらいよ』
「そこまで言う事ないだろ。ま、確かに俺も、ちょっとは新鮮な気持ちで学校行けると
思ったら、たちまち元の日常だからな。そう変わりっちゃ変わりないけどさ」
『(……簡単に信じないでよ。そのたかがの距離を一人ぼっちなのが、どれくらい寂しい
と思ってんのよ……)』
「え? 何か言った?」
『何も言ってないわよ。アンタの空耳でしょ』
「そっか。けど、ちょっとずつでも、やっぱり変わって行っちゃうんだよな。進学した
り、昔遊んだ公園が無くなったり、塾の帰りに寄ったコンビニが無くなったり、こうや
って引っ越したりとかして……さ…… けど、それが大人になっていくって事なんだろうな」
『フン。なーにカッコイイ言葉言って、いい気分に浸ってんのよ。アンタがそんな事言
ったって、全然似合ってないんだから』
「やっぱそうかな? 思い付きでちょっと付け足してみたんだけどさ」
『そうよ。バーカ』
『(憂鬱になっちゃうじゃない…… 大人になるにつれて……こうして、タカシと、少し
ずつ離れて行っちゃうなんて……イヤなのに……)』


72 名前:4/4[] 投稿日:2011/10/15(土) 20:38:51.92 ID:agSjw41R0 [19/22]
「けど、かなみとの仲は変わりたくないな」
『え……?』
「いや。つーか、変わるにしても、もっとこう、何ていうか、近付けるような、そうい
う変化ならいいけどさ。こうして二人でバカみたいなやり取りは、どう変わっても、ずっ
と続けて行きたいな、なんてさ」
『なっ……何言ってんのよ。このバカ!!』
 ドスッ!!
「あいてっ!! 殴る事ねーだろが」
『知るかこのバカ!! フンだ』
「全く……何怒ってんだか。もう……」

『(きゅ、急にそんな事言われたら照れるじゃないのよ。でも……嬉しいけど、ね……)』


終わり
最終更新:2011年10月19日 23:56