118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/17(月) 22:16:52.19 ID:0k1AbA810 [1/12]
いつぞやのビッチが男に本気になるネタを頂いた

           ■◆■

 ぴろりろりろり、ぴろりろりろり。

 隣で歩く少女の鞄から、携帯の着信音が鳴り響く。
 彼女は手慣れた手つきで携帯を取り出し、文面を見てはくすくすと笑う。

 俺はそんな様子を眺めながら、ぼんやりと呟く。

「彼氏か」
「んー?まあね」

 ウェーブがかった色気のあるロングヘアを揺らしながら、彼女はこともなげに返す。
 彼女の名は姫野唯華。俺の幼馴染で、俺以外の男と付き合っている今時の女子高生だ。


「拓馬君も悪くは無かったんだけどさー、なんていうか、ちょっと波長が合わなかったんだよねー」

 短めのスカートをひらひらさせながら、唯華はむしろ自慢げな口調で言った。

「ああ、別れてたのか。初めて知ったわ」
「でしょうねー。言っても先週の話だし」

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/17(月) 22:17:28.46 ID:0k1AbA810 [2/12]
「ああ、別れてたのか。初めて知ったわ」
「でしょうねー。言っても先週の話だし」

 ぴこぴこと携帯をいじりながら唯華は答える。

「…そもそも、あいつと付き合い始めたのも先々週くらいじゃなかったか?」
「うん、だから一週間は持った計算。私にしては長続きしたよ」
「そうなるかな。最速記録は…明け方告白して、その日の夜に無かった事にしたんだっけか」
「あの時は深夜テンションだったんだってば、お互いに冗談で済ませられたんだから別にいいでしょ?」

 そう言って唯華はけたけたと笑う。
 これが今時の女子高生か──と、俺は自らが男子高校生である事も忘れて小さな溜息をついた。

「いくらなんでも、飽きるのが早すぎだろ」
「…しょうがないじゃない、その時は好きだったんだから」

 「送信」ボタンを押しながら、唯華は俺を軽く睨みつける。

「大体、その年で彼女の一人もいないアンタに言われたくないっつーの」

 …痛い所を突かれた。そこを言われては、何も言い返す所が無い。
 俺は負け惜しみ気味にやれやれと肩をすくめ、話題を変えた。

「んで、今度は長続きしそうなのか」
「ヤな言い方するな。…うん、でも今度は大丈夫っぽい。ほら、この人なんだ!超カッコイイでしょ!?」

 きゃぴきゃぴと唯華は携帯画面を押しつける。
 覗きこむと、確かに一般的に見てイケメンの部類に入るであろう「そこそこのいい男」が映っていた。
 が、何故か視線はカメラに向いておらず、あさっての方向を見てポーズなどを決めている。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/17(月) 22:18:29.15 ID:0k1AbA810 [3/12]
「卓球部のゆー君。あんまりがっついてない草食系で、中学までサッカーやってたんだってさ!
 ほら、ここんところとか、すっごくサッカー少年っぽいでしょ!?しかも小学校が私と同じでさ───…」

 楽しそうに、彼氏自慢を語り始める唯華。
 正直に言うが──これを聞かされる回数は既に二ケタを超えている。
 俺はぼんやりと唯華の自慢に耳を貸しながら、まだ見ぬゆー君に思いを馳せるのであった。

 ──まあ、よく考えれば唯華とて年頃の少女だ。
 恋愛に盲目になるほどのめりこむのも、また若者の特権。
 仕方ない事と言えば仕方ない事なのかな──と思いながらも、やはりひとつの思いが去来する。

 男、多すぎ。

 気安く人当たりの良い唯華はクラスでも割と人気がある。
 例えばメールアドレスの登録件数などは、携帯を買った一週間後には既に三ケタを超えていたと言うほどだ。おまけに、半分近くが男子。
 容姿も、幼馴染の贔屓目を抜いても悪くない。そりゃあ周りの男たちが放っておくわけがない、という話である。
 にしても──節操無さ過ぎだろう、とは、最近少々思うのだが。
 まあ悪い男に引っ掛かっていないだけマシか──と、俺は勝手に自分を納得させているのであった。

 さて、時間は飛んでその日の放課後。
 いい具合に日が暮れてきた夕刻、俺は校門近くで唯華のウェーブを目にした。

「唯華」
「あ!…なんだ、アンタか」
「どうしたこんな所で。帰らないのか?」
「…へっへっへ」

 唯華は得意気に胸を張る。

「これからゆー君とデートなの。悪いけど―、モテない男に付き合ってる暇は無いのよねー」

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/17(月) 22:18:57.59 ID:0k1AbA810 [4/12]
 あからさまに見下した風に言う唯華。

「ああそうかい…彼女いなくて悪かった、な!」
「あ痛っ!?」

 俺はデコピンで唯華の頭蓋を弾き、何か反撃を喰らう前にとっとと撤退した。

「男遊びもほどほどにしとけよー!」
「う、うっさい馬鹿!とっとと消えろっ!」

 捨て台詞を残し、唯華の前から姿を消すのであった。


 さて──その日はそのまま帰宅…という気分でも無かったので、ゲーセンで適当に金と時間を浪費した。
 白熱のメダル落としゲームでまさかのジャックポットを叩き出し、ホクホクで俺はゲーセンを後にする。

「いやあ、ついてたついてた」

 大量のメダルをカウンターに預け、澄み渡った空のような心でゲーセンを出る。
 日が沈みやすくなったこともあり、あたりはすっかり暗くなり始めていた。

「さあて帰るか…と?」 

 帰路へ足を向けようとした時、視界の端にふいと見た顔を捉える。

「あれは…」

 ウェーブがかった茶髪に短いスカート、胸元の少し開いた制服…
 あれはまごう事なき、姫野唯華じゃないか。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/17(月) 22:19:24.35 ID:0k1AbA810 [5/12]
「……ほほう」

 俺は当然下心もあり、そそくさと二人の近くへ忍び寄る。
 …が、半径五メートルほどまでに近づくと、何か二人が口論している様子が伝わっていきた。

「…だから、アンタの下心がミエミエなんだってば!」
「………!……………!!」

 男──おそらくゆー君の声は聞こえないが、唯華の声はよく聞こえる。
 場所はゲーセン向かいのカラオケ屋前。傍から見ればカップルの痴話喧嘩だが…
 裏路地に身を潜め耳をそばだてているうちに、俺は何やら本格的に雲行きがおかしくなっている事に気付いた。

 ゆー君は唯華の腕を乱暴に取り上げ、一歩間違えれば手を出しそうなくらい威圧的に振舞っている。
 唯華はそんなゆー君に対し、むしろ挑発するように反発的な行動を取り続けた。

 嫌な予感が胸を掠めたのと、それが現実になったのはほぼ同時。
 ゆー君は平手を振り上げ、それを唯華の白い頬に放った────。

 気が付いたら、俺は裏路地から身を乗り出していた。

 放たれた平手を受け止め、何かリアクションを取られる前にタックルでゆー君を突き飛ばす。

「…!?」

 目を白黒させる唯華の左手を強引に取り、そのまま正反対の方へ駆けだした。

「えっ!?」
「走れ!」
「ちょ、うわ、うわわっ!?」

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/17(月) 22:21:12.21 ID:0k1AbA810 [6/12]
 唯華の短いスカートが舞うのも構わず、俺はそのまま大通りまで一気に駆け抜ける。
 それから百メートルも走っただろうか。後ろが人込みで塞がったのを確認し、ひとまず俺は脚を止める。

「…まいた、か」

 それから俺はおそるおそる、唯華の方を見る。
 やはりというか、なんとも恨めしいようなもう少しやりようがあったんじゃないのかと言いたいような目で、こちらをじぃーっと睨んでいた。

「…スマン、邪魔したか?」
「……別に。あんな奴、彼氏でもなんでもないし」

 切り替わりはえー、と感嘆しながら、俺はちょうどよく設置されていた通りのベンチに腰掛ける。
 隣には自然に唯華が座り、そこで初めて、俺たちは同時に大きく息をついた。

「……最短記録更新、か?」
「うるさい」

 そっけなく返事を返される。
 その後もいくつか声を掛けてみたものの、取りつくしまもない状態である。

 ふいに前を見ると、セブンイレブンの三色看板が踊っている。

「…ちょっと待ってろ」

 俺は思う所あり、コンビニへ向かおうとした。

「あっ…ま、待ってよ。私も行く」

 すると唯華は少し慌てたように、遅れて立ち上がった。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/17(月) 22:21:43.33 ID:0k1AbA810 [7/12]
「…ちょっとした買い物だから、待ってていいのに」
「…るっさいなあ、あんな所に女一人で待たせておく?フツー」

 デリカシーのない男、とでも言いたげに睨む唯華。
 仕方が無いので、二人仲よくコンビニでお買い物である。

「肉まんでいいか?」
「ん…」

 あったか~い缶コーヒー二本と、肉まんひとつをお買いあげる。
 ベンチで肉まんの半分を割って手渡すと、またもや唯華は呆れたようにこっちを見た。

「…ケチ臭」
「甘えるな、俺だってあったかい物が欲しいんだ」

 ぶつくさ言いながらも、唯華は素直に半分の肉まんにかぶりついた。

 秋風が数度、二人の間を行き来する。
 俺が暖かいコーヒーでバリアを張っていると、不意に唯華が口を開いた。

「…うまくいかないね、恋って」
「……結局、原因はなんだったんだ?」
「アイツがただのスケベバカだったって事。…なんか、やたらと個室のあるところに入りたがるのよ。何考えてんだか丸分かりだっつーの」

 苦々しげに吐き捨て、唯華はカフェオレを一気に傾ける。

 それから唯華は少しの間をおいて、蚊の鳴くような声で──
「……ありがと」
 と、呟いた。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/17(月) 22:22:30.91 ID:0k1AbA810 [8/12]
「あ…ああ」
「アンタ、帰宅部でしょ?よくアイツ倒せたね」
「実家が壁殴り代行やっててな。まあ、体力には多少の自信がある」

 ポーズを取るような調子で、俺は上腕二等筋を膨らませる。
 自分としては、ただのポーズのつもりだったのだけど──。

「…うわっ!硬!キモッ!」

 まさか触られるとは思わなんだ。

「キモいって言うな、畜生め」
「あはは、ごめんごめん。いや、キャラと合わないなってだけで、別にそういう意味じゃないからさ。…でも本当に硬いわねコレ、鉄でも入ってんじゃないの?」

 興味深げにぺたぺたと触れる唯華。
 どうする事も出来ずに、ただ上腕二等筋を膨らませる俺。ぶっちゃけ、この体勢は少し恥ずかしい。

 俺の考えてる事を悟ったのか、唯華はやがて慌てたように手を離した。 

「あっ…ゴメン。なんか…変だよね」
「いや、別に…」

 ははは…と、妙に照れ臭い笑いが小さく零れた。

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/17(月) 22:23:04.21 ID:0k1AbA810 [9/12]
「………」
「………」

 話す話題も特に無く、コーヒーはまだ少し残っている。
 なんともやりきれない、微妙な間がしばらく俺たちの間に流れる。

「……あのさ」

 この間に耐えきれなくなったように、唯華が口を開いた。

「…どうした?」
「今週末…空いてる?」

 探るような目でこちらを見る唯華。

「空いてるけど…」
「…じゃあ、さ」

 思わずくらりと来るような上目遣いで、唯華は言う。


「私達で、どっか遊びに行かない?」



127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/17(月) 22:24:30.07 ID:0k1AbA810 [10/12]
 そんな顔を、俺は少し呆れたように見返した。 

「…本当に惚れっぽいのな、お前」
「何勘違いしてんの、そういうのじゃないって」

 バカじゃないの、と悪態をついて唯華は続ける。

「…別に、デートとかそういうんじゃなくて、ただ出掛けるだけ。週末予定が無いとかありえないでしょ?」

 ありえなくはないとは思うが、そこはそれ、文化の違いと言うやつである。

「…奢りはなしだぞ?」
「ケチ。ま、アンタに期待はしてないけど」

 言いながらも、唯華はくすくすと微笑みかける。

 手元を見れば──コーヒー缶は、既に底を晒していた。

「…じゃ、帰ろっか?」
「ああ」

 どちらからともなく立ち上がる。 
 とっぷりと日の落ちた夜の闇の中、一組の少年少女は帰路へ歩き出したのだった。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/17(月) 22:25:31.30 ID:0k1AbA810 [11/12]
おわり
最終更新:2011年10月20日 00:14