163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/18(火) 00:20:47.83 ID:fPrs+YHp0 [1/3]
いらっしゃいませー、という声を聞き流しながら、僕とむみさんは、仲良くコンビニへと入った。
仲良くと言っても、むみさんが恥ずかしがるので、別に手を繋いだりはしていない。これは、今後の重要な課題である。
――嗚呼、麗しき僕の恋人、むみさん。その、夜の闇で染め上げたような、艶のある黒髪も、どこか鋭い刃物を思わせる、切れ長の瞳も、皆これ以上ないほどに彼女の美しさを、至高の域まで高めている。
そして、そんなクールな外見とは裏腹に、僕の想い人は、非常に恥ずかしがり屋なのである。
いや、そういう所も、もちろん、彼女の魅力の一つではあるのだが、彼氏としてはもっとイチャイチャしたいなー、とか思ったり思ったり。あ、あと、これも魅力の一つではあるのだけど、
「さっきから、何を難しそうな顔をして、考え込んでいるのかしら? 貴方に、長時間考え続けられるだけの脳みそがあるとは、驚きだけど」
と、このように、非常に毒舌家なのである。
「いやー、僕の彼女は、やっぱり最高に可愛いなあって再確認してたのさ」
なんて、恥ずかしい台詞をさらっと言う。むみさんに一目惚れしてからこっち、どんどんこういった芸当が身に付いてきたのは、むしろ誇って良いだろう。
「そっ、そういう馬鹿げた発言は、やめてって言ってるでしょう、馬鹿っ」
何故なら、こんな風に、赤面しながら睨み付けてくる、むみさんの貴重な表情を堪能できるからである。「ごめんごめん」
「まったく。さっさと、買い物を終わらせて帰るわよ。だいたい、貴方が言い出したんだから」
「わかってますって」
実は、テストを二日後に控えた、土曜日の今日。僕らは、親がいないと言うむみさんの家で、勉強会を開くことにしたのだ。
しかし、親がいないというフラグにかけた、僕の淡い期待を裏切って、勉強会はあまりにも地味に進み、途中でだれた僕が、おやつの買い出しをしつこく要求したので、こうやって近くのコンビニまで、やって来たというわけだ。
166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/18(火) 00:27:07.50 ID:fPrs+YHp0 [2/3]
「よし、お菓子はこんなところかな。ジュースはどうしようかな」
「別に要らないわよ。お茶くらい出すし」
「じゃあ、ジュースはやめて、餡まんも買うことにしよう」
「はあ。よく太るのを恐れずに、たくさん買えるものね。貴方は女性の努力を知るべきだわ」
「ははは、耳が痛いな。やっぱり、むみさんもダイエットとかしてるんだね、そんなに痩せてるのに」
「健康を害さない程度の、食事制限くらいだけどね。少なくとも、貴方みたいに、カロリー表示も見ずに、無節操にスナック類を食べたりしないわ」
「うっ、今度から気を付けようかな」
そんな会話を交わしつつ、会計を済ませて店を出る。すっかり寒くなってきた秋の風に身を震わせながら、結局買ってしまった餡まんを取り出す。
「歩きながら食べるなんて、行儀悪いわよ」
「でもさ、肉まんとか餡まんって、不思議とこういう風に食べるのが、一番美味しく感じない?」
「どう食べようが、別に同じよ」
なんて、秋風のように冷たいむみさんに、僕は餡まんを半分に割って、片方を手渡す。
「はい、むみさん。疲れた頭には糖分が良いって言うし、これくらいで太ることもないでしょ」
「……ま、まあ、それもそうね。私も、お腹が空いてないわけじゃないし」
167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/10/18(火) 00:28:35.91 ID:fPrs+YHp0 [3/3]
「そんなこと言って、レジの前にいたときから、ちらちら餡まんの方見てたよね。素直に食べたいって言えば良いのに」
「なっ!? み、見てないわよ馬鹿!」
「そうだったかな」
「そうよ馬鹿っ」
言いつつ、むみさんは、怒ったように、恥ずかしさを誤魔化すように、餡まんにかぶり付く。
「あ、そんなに勢い良く食べると」
「んん!? あちゅ、熱い!」
「ああもう、言わんこっちゃない」
「うぅー、熱かったぁ」
「大丈夫? むみさん」
涙目で熱がるむみさんの映像を、脳内フォルダに保存しつつ、訊ねる。
「大丈夫じゃないわよ! 私が猫舌なのは知っているのだから、もっと早く注意しなさい馬鹿! あなた以上に、私の事を理解している人間なんていないんだから!」
どうやら、猫舌という、ウィークポイントを攻められたむみさんは、思いの外錯乱してるらしく、とんでもないことを口走った。流石に、人通りのない道じゃなかったら、僕も真っ赤になっていたかもしれない。いや、今も十分顔が赤いだろうけど。
「何赤くなって……って、ち、違うわよ、今のは、その、そ、そういう意味ではなくて」
ようやく気づいたむみさんは、きっと僕の数倍は赤面していて。
「ああもう、愛してるよ、むみさん!」
僕は思わず、ぎゅっと抱き締めてしまっていた。
「ふわ!? ちょ、ちょっと、離しなさいよ馬鹿! それに、いきなり何言ってるのよ馬鹿っ」
「むみさんが可愛すぎるのが悪いんだよ。好きだよ、大好きだよむみさん!」
途端に、むみさんの顔はさらに赤く、耳まで真っ赤になる。
「な、ば、馬鹿! ばかばか、バカっ」
珍しく取り乱して、弱々しく抵抗するむみさんを、僕はたっぷり五分くらい抱き締め続けたのだった。
終わり 何だこのバカップル
最終更新:2011年10月20日 00:17