• 男の妹に対抗心を燃やすツンデレ

【おい、タカシ。パン買いに行くぞ】
「あ、悪い。俺、今日からパスするわ」
【どうしたんだよ? 特製ジャンボカレーパンがあんなに大好きだったお前が】
「いや、その…… 俺、今日から弁当だからさ」
【ヒュウッ!!】
「な、何だよ? 変な口笛なんて吹いたりして」
【やるじゃんかよ、タカシ】
「は? 何がだよ」
【何って、弁当だよ、弁当。ついに、かなみちゃんから作って貰えるようになったんだな】
「は? ば、ばっか。違うよ。かなみからのなんかじゃねーって」
【隠す事ないって。どうせ誰にもしゃべるなとか言われてんだろ? 大丈夫。俺とお前
だけの秘密にしとくからさ。正直に言っちまえよ】
「いや、そういう訳じゃなくてさ」
[何なに? どうしたの? 別府君がかなみからの手作り弁当を持ってるって?]
「早瀬まで寄ってくんな。何で俺が弁当持って来たってだけで、そうなるんだよ?」
[だって、別府君の家ってお母さんも共働きなんでしょ? だから弁当作って貰えないっ
て、前言ってたと思うけど]
「それはそうだけど、だからって言って、かなみのだって訳じゃねーだろ?」
[じゃあ、誰に作って貰ったの? 他に別府君に弁当作ってあげるような子なんていたっけ?]
【まあ、いいからタカシ。とりあえず、弁当見せてみろよ。どうせ一緒に飯食うんだし、いいだろ?】
「ま、まあそりゃいいけどさ……」
『ちょっと。何騒いでんのよ。さっきから何かあたしの名前も聞こえてたけど、また変
な事言ってんじゃないでしょうね?』
[お? 手作り弁当の主が来た]
『は? 何言ってんのよ。手作り弁当って何の事?』
[またまた。すっ呆けちゃって。いや、何か別府君がね。お昼は女の子の手作り弁当だっ
て言うからさ。ならかなみが作ったんだろうって、今問い詰めてたトコなのよ]
『女の子の手作り弁当……って、どういう事よタカシ!?』
26 :2/8[]:2011/10/22(土) 13:02:49.34 ID:P3ZL0fTb0
「おわっ!?」
【あれ? かなみちゃんのこの動揺っぷりは、どうやらタカシの言ってる事が正しかっ
たみたいだな】
[まあ、いいわ。それならそれで、誰に作って貰ったのか興味あるし。ま、そっちの方
の尋問はかなみに任せるとしますか]
『ちょっと。誰に作ってもらったわけ? 正直に教えなさいよ。ほら、早く!!』
「ちょ、落ち着けよかなみ。つか、ネクタイ引っ張んな。苦しいし伸びるって」
『誰に落ち着け、ですって? あたしは冷静だってば。何でこんな事くらいであたしが
取り乱さなきゃなんないのよっ!!』
【うーん…… 誰がどう見ても、興奮してるようにしか見えないけどなぁ……】
[あれで冷静だって言うなら、世界中の全ての辞書から嫉妬って言葉が消えうせるわよ]
『外野うるさい!! ちょっとは黙ってなさいよ!!』
[こわっ!? 女の嫉妬ってすごいわよねぇ。山田。ちょっと大人しくしてないと殺されるわよ]
【タカシ。骨は拾ってやるからな】
「クッソ~。こいつら、他人事だと思って完全に楽しんでやがるな」
『どっち向いてんのよ。ちゃんとこっち向いて、あたしの目を見て答えなさい。さあほら。早く』
「わ、分かった分かった。答えるから、とにかく離れろ。みんな見てるぞ」
『みんなじゃないわよ。今はあたしだけに注意を向けなさい。さあ、答えるって言った
んだから、さっさと言いなさいよね』
「分かったよ。これはその、妹に……まあ、作ってもらったっていうか、押し付けられ
たみたいなもんでさ。だからその、全然特別なもんでもないっての」
『ふーん。い・も・う・とに……ねえ?』
「ちょっと待てよ。ホントだってば。何でそんな疑い深い目で見るんだよ」
『だってアンタ、都合の悪い時は平気でウソ吐くじゃない。だから信用出来ないのよ』
「いや。こんな事で嘘吐く理由がないし、大体他にどんな子が俺のために弁当なんて作っ
てくれるって言うんだよ? お前にだって散々貶されてる俺がだよ?」
『そんなの分かんないじゃない。世の中、どこにだって物好きはいるものよ。確かにア
ンタは顔だってカッコ良くないし、性格だってエロイはだらしないわいい所なんて無い
けどさ。中にはそういう所に母性本能をくすぐられる女の子がいたっておかしくないもの』
[まあ、その典型がかなみだからねえ]
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『あたしは幼馴染だから仕方なくだっての。いい加減にしないと友子。アンタだからっ
て承知しないわよ』
[しまった。ついうっかり]
『なーにが、ついうっかり、と。ワザとらしい』
「で、かなみ。ちょっと常識的に考えてみりゃ分かるだろ? 仮に俺にそんな子がいた
りすればさ。コイツらが黙ってないってことを。あっという間にすっぱ抜かれて、ある
事ない事全部お前や他のクラスメートに吹聴して回るに決まってるじゃん」
[ちょっと。いくら何でも失礼よね。まるであたしらが節操無いゴシップ記者みたく言
われてるわよ。ねえ、山田]
【うーん。俺はともかく、友ちゃんに関しては言われても仕方がな――あいたっ!!】
[裏切り者っ!! 二人でジャーナリスト界の頂点を目指そうって誓い合った仲なのに、
あたしを売って自分だけいい子でいようなんて信じられないわ]
【いつそんな約束したんだよ。つか、よくポンポンと思いつきで言葉出せるよな。記事
書く時もそうだけど、良くも悪くもその才能はすごいと思うけどな】
[男が細かい事でぐちゃぐちゃ言うな!! っと、あたしらの事はともかく、今は別府
君よね。実は今朝、後輩の女の子とかが急に目の前に現れて、別府先輩の為にお弁当……
作って来たんですけど……食べて貰えませんかっ? とかそういう展開だったら、さす
がのあたしでも追いきれないわよ?]
「そんな美味しい展開があるんなら、むしろ是非、起こって欲しいくらいだわな」
『何ですって?』
「んな怖い顔で凄むなよ。嫉妬してると思われるぞ」
[思われるっていうか、とっくに思ってるけどね]
『だから嫉妬じゃないわよっ!! も、もし万が一、タカシの事を勘違いで好きになっ
てる女の子がいたりしたら、突き止めて間違いを正してあげなきゃ、先々絶対可哀想な
事になるもん。だから、こうして追求してるんじゃない』
[聞いた、山田? ここまでテンプレ的なツンデレも珍しいわよね。特別天然記念物も
のじゃない? 絶対保存しておかないと]
【うーん。ここまで来れば、タカシが軽く一押しすれば、間違いなく落ちるはずなんだ
けどなぁ。何でか、知らぬは本人達ばかりなり、なんだよなぁ】
28 :4/8[]:2011/10/22(土) 13:03:38.73 ID:P3ZL0fTb0
『ちょっと、友子。何ニヤニヤしてんのよ。あと、山田も呆れた顔で見るな!! コソ
コソ話してるつもりでしょうけど、全部聞こえてんのよ!!』
[あ。あたし達の事はお構いなく~。どうぞ、お二人で仲良く痴話……じゃなかった。
お話続けてて。でないと、昼休み終わっちゃうわよ?]
【そういえば、パン買いに行く機会逃しちまった。タカシ、あとで奢れよ?】
「そんなもん、自分のせいだろうが。付き合ってはやるから金は自分で出せ」
【ちぇっ。ケチ臭い奴だな】
『ちょっとタカシ。まだ話は終わってないんだから、山田となんか話してないでこっち
向きなさいよ』
「終わってないもクソも、勝手にお前がややこしくしてるだけじゃんか。大体、何で妹
の弁当っていうのが嘘なのか、根拠示せよな」
『だって、タカシの妹の舞衣ちゃんならあたしだって知ってるもの。中学で女子バレー
部のキャプテンやってんでしょ? 毎朝6時には家出てるとか言ってたじゃない。いく
ら舞衣ちゃんだって、その上タカシの弁当まで作るとか出来る訳ないじゃない』
「いや、だからさ。その部活が9月でちょうど引退してさ。朝、暇になってしょうがな
いから、将来の為に手作り弁当作る練習しとくって。高校に入ったら、部活だけじゃな
くて、恋愛も頑張りたいからって」
『う、う~ん…… 確かにつじつまとしては、合ってなくも無いけど……』
「だろ? 果たして今の俺の話と、実は隠れて好きになってた女の子から弁当を渡され
るとか言うのと、どっちが信憑性あると思う?」
[まあ、間違いなく妹さんの方よね。つか、あたしはかなみのヤキモチが面白くて、か
らかってただけだし]
『だからヤキモチじゃないっての!! これ以上しつこく言うなら、もう宿題とか見せ
てあげないからね』
[アハハ。冗談だってば。そんなにいきり立たないの。全く、こういう時って怒れば怒
るほど、不利になってくもんよ?]
【タカシの妹ってさ。いるって話は聞いたことあるけど、どんな感じなの? 可愛い?】
「別に。ただ背が高いだけって感じでさ。女としては欠点だろ」
29 :5/8[]:2011/10/22(土) 13:03:59.24 ID:P3ZL0fTb0
『何言ってんのよ。可愛いって感じとは違うけど、間違いなく美人の部類じゃない。タ
カシに似てなくもないけど、似たようなパーツ使ってどうしてこうも違うかなって』
【へえ。そうなんだ。なあ、タカシ。今度一度遊びに行ってもあいててててて!!】
[なーに、鼻の下伸ばしてんのよ。バッカじゃないの? このドスケベ]
【だからって、足の甲が割れるほど踏み付けることないじゃん……】
「あらら。今度はこっちが嫉妬かよ」
『あたしは嫉妬してない!!』
[そうよ。何が悪いの?]
「ありゃ? かなみと違って、早瀬はあっさり認めるんだな」
[だ、だってその……自分の所有物がさ。勝手に他人にフラフラされるのって、何かム
カつくじゃない。そーゆーのって]
『ふーん。所有物、ねえ……』
[ニ、ニヤニヤしないでよ。かなみにそういう顔されるの、すごく嫌なんだけど]
『何よ。アンタがいつもやってる事をそのままお返ししてあげただけじゃない。何が悪いのよ』
[アンタの場合は分かりやすいクセにムキになって否定するから悪いんじゃない。この
ツンデレ女が]
『だから誰がツンデレだっ!! あたしはタカシなんてぜんっぜんこれっぽっちも全く
好きじゃないんだからっ!!』
【ま、二人とも押さえて押さえて。それよりタカシ。その妹が作ってくれたっていう弁
当、見せてみろよ。どんなもんか興味あるからさ】
[そうだった。今はこっちが大切だったわよね]
「全く、二人とも好奇心に目を輝かせやがって…… まあ、減るもんじゃないからいい
けどよ。ちょっと待ってろ」
[ほら。かなみも見なさいってば。別府君の妹さんの手作り弁当を]
『いい。あたしは見ない』
[まーた強がっちゃって。興味あるんでしょ?]
『別に興味ない。つか、見なくても分かるし』
「かなみは昔、舞衣の作った飯食った事あるからな。幼馴染なのは妹ともだし」
[ああ、そっか。ということは、尚更期待出来るわね。ほら、早く]
「今出すから急かすなって。ほら」
30 :6/8[]:2011/10/22(土) 13:04:19.15 ID:P3ZL0fTb0
【へえ……すっげえじゃん。お前の妹。中学生なんだろ?】
[うわ。超本格的。何か、恋人に作ってあげてるみたい。もしかして、妹さんってブラコン?]
「なわけねー。別に兄妹仲は普通だっての。だから言ったじゃん。将来、彼氏に手作り
弁当作ってあげたいから、それの練習だって。本気で恋人向けに作ったんだから感謝し
なさいよって恩着せがましく言われたけど」
【このハンバーグって手ごね? 厚焼き玉子に金平にポテトサラダにスパゲッティにう
ずら卵のフライだって。手間掛かってるなあ】
[この俵むすび可愛いじゃない。全部顔が描いてあって、怒ったり笑ったり泣いたりし
てる。ほらほら、かなみも見てみなさいってば]
『だからあたしはいいってば――痛いってば。ひっぱんな』
[悔しいのは分かるけどさ。ライバルの手腕を見ておくのも勉強よ]
「だから、何がライバルだよ。お前の脳内で勝手に妹と俺の恋愛フラグ立てんな」
【でもいーなー。友ちゃんなんて、弁当は手間掛かるからって作らないし、それどころ
か、お腹に入れば何でもいいのよとかって、お菓子だけでご飯済まそうとするし】
[あら? 一応これでもやろうと思えば出来るのよ。めんどくさいだけで]
【何でこう、人のゴシップ以外の事には興味持たないかなぁ……】
[うっさいわね。いーのよ、あたしは。やろうと思っても出来ないかなみに比べれば全
然マシでしょうが]
『し、失礼な事言わないでよ!! あたしだってやれば出来るもの。舞衣ちゃんにだっ
て、その……ま、負けないわよ!!』
「マジ? 確かに最近、お前の料理って食った事ないけど、中学の家庭科実習は散々だっ
たじゃん。そんなに上達したのか?」
[ないない。かなみに味付けとかさせると大変な事になるから、見張り番しかやらせて
ないんだから。包丁の持ち方一つとっても、危なっかしくて見てらんないし]
『そんな事ないってば!! 頑張れば、このくらい出来るもん。タカシの妹程度なんか
には負けないんだから』
[ふーん。じゃあ、作ってあげれば?]
『え?』
[だから、手作り弁当。別府君の妹さんより上手に出来るっていうなら、当然それを証
明しないとね。どうしようか? 一週間後までとかしとく?]
31 :7/8[]:2011/10/22(土) 13:04:39.79 ID:P3ZL0fTb0
[ちょ、早瀬。お前、そうやってかなみを焚き付けんなよな。うっかり本気になっちまっ
たりしたら、大変な事に……]
『何が大変な事よっ!!』
「おわっ!?」
『友子なんてどうでもいいけど、タカシにバカにされたり憐れんだ目で見られるのが一
番頭来んのよね。こうなったらもう、絶対弁当作る!! 作って舞衣ちゃんのお弁当よ
り美味しいって言わせてみせるんだから』
[やたっ!! 幼馴染VS妹さんの弁当バトルキター!!]
【友ちゃんって、ホント自分の面白いと思う方向持ってくの上手いよな。ホント、そう
いうパワーっていうか、能力は凄いと思うよ】
[当たり前でしょ。人生は面白おかしく過ごさないとね]
「つか、ホントに出来るのかよ。その……せめて、ちゃんと味見くらいして来てくれよな?」
『だからあたしをバカにするなっ!! 一週間なんて期限はいらないわよ。明日。明日
持って来るから。だからもう、舞衣ちゃんからの弁当は断りなさいよね。いい?』
「ダメって言ったら?」
『拒否権なし!! アンタに残された選択はイエスかはいのどちらかしかないの。ほら、
答えなさい』
「選択じゃねーじゃんかよ、それ…… 分かったよ。舞衣に断っときゃいいんだろ? 全く……」
『ぶつくさ言うな!! あたしがタカシ相手に弁当作るなんて本来は絶対絶対ぜーった
い、あり得ない事なんだからね。もっと喜べっての』
「はいはい……」


〔え? ちょっと兄貴。明日から弁当いらないってどういう事?〕
「お前が弁当なんて渡すから、かなみが変な対抗心燃やしたんだろうが。で、明日から
はあたしが作るとか息巻いちゃってさ」
〔あちゃー。ちょっと本気過ぎたかな? でも、練習で手を抜くなんて許される事じゃ
ないしなあ〕
「とにかく、そんな訳で明日からはお前の練習には付き合えなくなったから。つっても、
あれだけ出来りゃ、練習する必要ないだろ」
32 :8/8[]:2011/10/22(土) 13:05:22.34 ID:P3ZL0fTb0
〔うーん…… 褒めてくれるのはありがたいけど、でももっともっと上手になりたいし
な。かといって、自分で自分の弁当を彼氏風に作るなんて寂しいし、ここは弁当二つ食
べるって事で、どう?〕
「食えるかアホ。しかも、お約束通りなら、多分食べ切るだけで昼休み終わるわ」
〔かなみさんの不味い弁当を兄貴が一生懸命食べる姿か。それはそれで見てみたいけどね〕
「悪趣味な奴だな、ホントに」
〔ゴメンゴメン。とりあえず、明日は止めにしとくよ。それよりこれあげる〕
「何だこれ? 胃薬か?」
〔多分必要になるだろうから。ま、頑張ってね。それこそ、女の子から手作り弁当作っ
て貰えるなんて、男冥利に尽きるじゃない。どんなに下手くそでも、私と違って愛情たっ
ぷりなんだし〕
「ねーだろ、そんなの。全く、他人事だと思いやがって好き勝手言うなって」
〔やれやれ。ホント、兄貴ってば鈍感も甚だしいんだから……〕


『ああ、もうタカシも友子もあったまくるわ!! こうなったら超絶に美味しいお弁当
作って、タカシに毎日でも食べさせたいって言わせてやるんだから!!』
『あいたっ!! また手切っちゃった~…… で、でも負けないわよ。こんな程度で音
を上げてなんていらんないし……』
『(それに……タカシが美味しいって思ってくれたら……かなみのご飯、毎日でも食べた
いな、とか言ってくれたり……)』
『キャーキャーキャーキャー!! ないないないっ!! そんなのあり得ないってばー!!』
 ボフッ!!
『んきゃあああ!! おなべがああああ!!』


終わり
最終更新:2011年10月24日 00:32