64 ::病弱な男とツンデレ1/3:2005/09/26(月) 23:43:57 ID:zAIT3FB2
小奇麗な病院の中に、一つだけ白い病室がある。
僕は、そこに住んでいる。VIPルームだって父さんから聞いた。
…風で、カーテンが揺れている。――――来たな。
『よう、まだ死んでないようだな』
ノックもせずに彼女が入ってくる。
そのまま、彼女は僕にアイスを投げた。
頭にぶつかる。わりと痛い。
『退院祝いにくれてやろう。315円、早めに返せよ?』
いっつも君の方が借りてたじゃないか。
37250円、いまだに一銭も帰ってきてないし。
…そろそろ返してほしい。
ところで、ほんとにVIPルームなのかなぁ、ここ。
…だって、アイス投げてきて、あげく金銭請求とかって、ないんじゃないかな?
『うるさいヤツだな、ほんのゲーム七本じゃないか。
そんなに事を荒立てる必要はないだろう。子供だな、お前は』
じゃあ、たったの315円を返せって言ってる君はどうなんだよ、まったく。
『だいたいな、お前の病気は薬で抑えられるものだろう。
何で学校に来ないんだよ。もう二ヶ月は経っているぞ』
そんなこといったって、検査とか忙しいんだから仕方ないじゃないか。
ちょっと苦しむそぶりをしただけで休むことになっちゃうんだぞ、こっちは。
『そんなもの気合で何とかしろ。…この、軟弱者』
……うう、ココロが痛い。
なんだか、心臓まで痛くなってきた。
ごめん、ちょっとそこの薬とってくれないかな?
『動けないわけじゃないだろう。そんなもの、自分で取れ』
横着者め、と薬の入った袋を投げられた。
スピードがでないし、あまり痛くない。
『ほら、水だ。感謝しろよ?』
彼女から貰った水を使って、粉薬を流し込む。
…うう、まずい。何でこんなにまずいんだよぉ。
65 ::病弱な男とツンデレ2/3:2005/09/26(月) 23:45:37 ID:zAIT3FB2
―――――そうして、日沈。
…彼女の影が、薄く延び始めた。
『そろそろ時間だ。私は帰ることにするよ』
じゃあまた、あさって。
今度は、学校で会おうね。
白い病室が、黒く染まる。
…また、ひとりの夜がきた。
それを思うと、少し、かなしくなった。
『…さびしい、か?』
……うん。僕にとって、夜はひとりでいることなんだ。
さびしいに、決まってるじゃないか。
『じゃあ、もうすこしだけ、ここにいてやろう』
ありがと。…うれしいな。
『あえて言うが、おまえの為だからな。
私の望んだことじゃないぞ。わかったな?』
それでも、いいよ。
…ただ、そばにいてくれるだけで、うれしいから。
ここ数年で、医療はどんどん発達してきた。
不治の病ってやつも、今は薬一つで何とかなる。
とはいっても、やっぱりハンデってやつがある。
…そのおかげで、いろんな人に迷惑をかけている。
『なんだ、悩みごとか?』
うん。……どうして、僕は生まれてきたのかな、って。
『どうして、そんなことを考えるんだ…?』
だって、僕は迷惑をかけるだけの存在だ。
…邪魔なだけじゃ、ないかな。
『……そうか?迷惑を掛けるのは人生の常だろう。
だが、迷惑を掛けた分、きちんと返すのも常だろうな』
でも、僕にはそれを返せる自信がないんだ。
父さんと、母さんに、何をすればいいのかすら、わからない。
『自信なんて、なくても問題ないさ。それを返せなくても、いい。
…だから、せめて、おまえに出来ることを、精一杯やり遂げろ』
僕に、なにができるんだろう。…それすら、わからない。
『簡単なことだ。…一秒でもながく、生きていればいいんだよ』
それなら、僕にも何とか出来そうだ。
―――――ありがと、僕はがんばる。
66 ::病弱な男とツンデレ3/3:2005/09/26(月) 23:46:21 ID:zAIT3FB2
――――――ふと、窓を見てみた。
カーテンが揺れ、夜の風が部屋に吹く。
…夜風は体に悪いって聞いたけど、まぁ、この位なら大丈夫だろう。
『…キレイな夜空だ。ほら、おまえも見てみろ』
ベッドから起き上がり、窓に寄る。
―――――カーテンの奥に、光る星々を見た。
こんなの、テレビでしか見たことがなかった。
…こんなに、綺麗なものだったんだ。
ずっと、損してたな。
もっと、窓の外も見るべきだったのに。
そういうコト、これからどんどん、取り返していこう。
『……何だよ。私の顔に何かついているのか?』
いや、そんなことはないよ?ただ、キレイだな、って。
『なっ、な、なっ…!』
…やっぱり、何度見ても、キレイだ。
輝く星々。その奥に、爛々と煌く月。
ガラスみたいな、蒼い月。
…今にも落ちてきそうだ。
『…しあわせ、か?』
うん。このしあわせを、僕はどんどん取り返していくんだ。
…君も、手伝ってくれないかな。
『そ、それってまさか…?む、むぅ。
お、おまえだけだと出来そうにないからっ、わ、わたしも手伝ってやる』
ありがと。そういや、君には、助けて貰いっぱなしだな。
うん。一秒でも、永く生きる。…君との、約束だから。
明日は、日曜日。
あさってからは学校だけど、今日ぐらい、夜更かししたっていいはずだ。
だから、だろうか。
―――――――僕らは、夜明けまで、この夜景を眺めていた。
最終更新:2011年10月25日 16:29