218 :1:2005/12/24(土) 18:10:35 ID:ds2w/QB6
校門の前で一人、佇む私。
誰かを待ってるわけじゃない。
友達の都合が悪いから。
一緒に帰る相手が居ないから。
だから仕方なくこうしているだけ。
他に一緒に帰れる相手は居ないかって。
そう、別に深い意味は無い。
「何してるんだ? こんな所で」
帰りはどうしようかな?なんて考えてたら、ふいにアイツが話しかけてきた。
「別に。友達を待ってるの」
そう言ってやったら、「そうか。それじゃ、またな」だって。
……ちぇ。
いつまでもここに居たって仕方が無い。
不本意だけど一人で校門を出る。
数歩進んだ後、鼻先に水滴。
空を見ると不機嫌な雲が少し泣きだしていた。
――そういや、アイツも傘持ってたっけ。
仕方ない。ちょっとメンドクサイけど傘を取りに戻るか。
校内へと戻る私の足取りが重いのは、単に二度手間だから。
……別に落ち込んでるわけじゃない。
219 :2:2005/12/24(土) 18:11:07 ID:ds2w/QB6
結局、一人で帰ることになった。それも雨の中を一人で。
いつもなら、友達と騒いで帰るのに。
話し合える誰かが居て、ふざけあえる誰かが居るはずの。
なのに、今は私一人。隣に誰も居ない寂しい帰り道。
ひとりぼっちの帰り道は退屈で、それにとても長く感じる。
アイツでも居れば、そんなことも無いのに。
時間なんかあっという間に過ぎて―――
って、別にアイツじゃなくても良いんだけどね。
なんとなくイラついて道端の小石をコツン!と蹴飛ばす。
蹴飛ばした小石は綺麗な放物線を描いて、、、
「痛っ!」
その先にアイツが居た。
220 :3:2005/12/24(土) 18:11:38 ID:ds2w/QB6
「何してるの?」
さっさと帰ったくせに。
「雨宿り」
「傘、どうしたのよ」
さっきは持ってたくせに。
「傘が無くて困ってる奴が居たから、そいつにあげた」
ふーん。で、
「女の子?」
「ん? ああ、そうだけど?」
へぇ~。で、
「いくつぐらいだった?」
「確か、小学生くらいだった」
「なんだ。子供か……」
「? 子供じゃ悪いのか?」
あ~、ホント嫌な奴。
「別に。ただ、小学生相手にカッコイイとこ見せようとするなんて変態かな?って思っただけ」
「……善意でやったんだ」
「偽善の間違いでしょ」
その言葉に、アイツは眉を顰めて押し黙る。
……はぁ、またやっちゃったな。
221 :4:2005/12/24(土) 18:12:06 ID:ds2w/QB6
アイツはあれから一言も話さない。
私からずっと顔を背けたまま。
それはアイツなりの「謝れ」っていうサイン。
冗談じゃない。誰が謝ってなんかやるもんか。
嫌われたって平気だ。あんな、どうでもいい奴。
――けど、無視されるのはなんとなく気に入らない。
顔色を伺うわけつもりは毛頭無い。
でも、少し気になる。
横目でちらっとアイツを盗み見る。
相変わらずのムスッとした顔。
腕を組んで偉そうにしてる。感じの悪い奴。
だから、嫌いだ。そ、大嫌い。
こんな奴、放っといて帰ってしまおう。
そう思って視線を外そうとして………
その時、初めてアイツの指が震えているのに気がついた。
222 :5:2005/12/24(土) 18:12:38 ID:ds2w/QB6
これは気まぐれ。単なる同情。
自分にそう言い聞かせてから傘を突き出す。
「入って」
目は合わせない。
「…いいのか?」
良くない。全然良くない。でも、
「そのままじゃ、風邪ひくでしょ」
そうだ。そうじゃなかったら、誘ったりするもんか。
それも私から。
「でも、狭くないか?」
ちょっとイラついた。
「いいから入って」
袖を掴んで引きずり込む。
握った手から冷たい感触。これも気に入らない。
「ほら、帰るわよ」
煮え切らないアイツを引っ張って歩き出す。
まったく。
なんで、私から誘わなきゃいけないのだろう。
223 :6:2005/12/24(土) 18:13:11 ID:ds2w/QB6
アイツと一緒に帰ること。
それは別に大したことじゃない。
同じマンションの、それも隣の部屋に住んでいるのだから。
だから、一緒に帰ることぐらい、誘いさえすればいつでも出来る。
ううん、別に誘ったりしなくたって、偶然帰りが一緒になったことくらい今までに何度もある。
でも、1つだけ。たったひとつだけ、いつもと違うことがある。
それは、アイツが私のすぐ側に、それも吐息のかかるほど近くに居るということ。
不思議な気分だった。自分でも形容できないくらいに。
私の隣にアイツが居る。
「傘、小さかったな」
道路を行きかう車の騒音の中でさえ、アイツの呟きはハッキリと私の耳に届く。
「入れてもらってるくせに文句言わないの」
「単なる独り言だよ」
ふて腐れた様にアイツが言う。
「だったらもっと、小さな声で話したら?」
「聞き流したらいいだろ」
「耳障りなのよ。一人でブツブツと文句ばかり言って」
「ったく、細かなことでグチグチと」
煩わしさを乗せて見下ろしてくるアイツを
苛立ちを込めて見上げ返す。
「嫌な女」
「女々しい奴」
いつもと同じやり取り。
いつもと同じ口喧嘩。
だけど、アイツへの文句や不満で一杯になるはずの私の意識は
もう少しだけアイツの方に寄れないかな。なんて
そんなことばかり、気にしていた。
224 :7:2005/12/24(土) 18:14:06 ID:ds2w/QB6
終わらないはずの口喧嘩が、今日に限って途切れた。
無言の時間を誤魔化すように、アイツは明後日の方を見つめていて。
私は赤信号の長さにイラついた振りをしながら、足元の水溜りに視線を逃がしてる。
どうしてだろう? 何だか、ちょっと、、気まずい。
いつもよりずっと近くに居るのに。肩が触れそうなほど側に居るのに。
何かを言おうとするたびに言葉に詰まって。
視線が絡まるたびに居心地の悪さを感じる。
……気に入らない。
またいつもの口喧嘩に戻りたいのに。
もっと近くに歩み寄りたいのに。
「ねぇ、こっちに寄ったら?」
たったそれだけの言葉を出すのに苦労する。
「ん?」
「そのままじゃ濡れるでしょ」
「いいのか? 俺は濡れてるぞ」
「大した事じゃないわよ」
この距離が埋まることに比べれば。
「じゃ、ちょっとだけ」
ほんの少しだけ、距離が縮まる。
肩から伝わる冷たい感触……でも、まだ遠い。
「このぐらいしないと濡れるでしょ」
後ろからそっとアイツの腕を組む。
「でも、これじゃまるで………」
「まるで?」
「いや、なんでもない」
そう言うと、アイツはまたそっぽを向いてしまう。
ひょっとして、気にしてたのかな?
私がアイツを気にしていたように。
アイツも私を……。
そうならいいな。そうだといいな。
なぜだか、その時は素直にそう感じる事が出来て。
すこしだけなら――
そう、ほんの少しだけなら素直になるのも悪くはないかな?
そんな事を思いながら、濡れたアイツの腕にそっと頬を沈めた。
225 :8:2005/12/24(土) 18:14:47 ID:ds2w/QB6
マンションに着くまでのことは、ぼんやりしていてよく覚えてない。
気が付いたら、私は自分の部屋の前に立っていて
アイツは自分のドアに鍵を差し込んでいるところだった。
「それじゃ、また明日な」
そんな言葉を残して、ドアの向こうへと消えていこうとするアイツ。
その背中に自然と声がこぼれる。
「家、寄ってく?」
「は?」
「大丈夫よ。今日は私一人だけだから」
「え、あ、、いや、、でも……それはさ。その……」
あわあわと慌てふためいて、家の鍵を落すさまを
しっかりと目に焼き付けておいてから言う。
「嘘よ。バカ」
呆気にとられた顔したアイツを残して家に飛び込む。
してやった。思いっきりしてやった。
背中をドアに預ける。
目を閉じてもまだアイツの姿が残ってる。
いつもは憮然としてるアイツの……
焦る姿がおかしくて。
戸惑う姿がおかしくて。
次々と浮かんでくる笑みを両手でこらえる。
バカみたい。あんなこと本気にしちゃって。
そう、今のは嘘。あれは嘘。
ただちょっとアイツをからかうための、ささいな嘘。
本気の言葉じゃない。ホントの思いじゃない。
素直になったわけでもなんでもない。
そう、あれは嘘。
だから―――
この胸の熱さも嘘にしなくちゃ。
洗面所へ向かう私の足取りが軽いのはきっと気のせい。
最終更新:2011年10月25日 17:00