423 :恋人ごっこ 4日目?(1/8):2006/07/05(水) 16:36:31 ID:naIt/5nk
がたんごとん… がたんごとん…
夜の人気の無い電車の中で、俺とちなみはガラガラの座席の真ん中に寄り添うように座って。
言葉無く、真っ暗な窓ガラスの向こうにある見えもしない景色を眺めていて…
『……ダーリン、…映画……どうだった?』
「ん…あ、いや、面白かったと思うよ」
『……どのへんが?』
「ああ…どこだろうな。 全体的に…かな。」
『……何それ……』
「…うん…――」
集中できなかったもんな。…観る前はあんなに楽しみだったのに、途中から全然だった。
ちなみの事ばっかり考えちまってたから…、いや、今もそうなんだけどな…
「――ごめんな。」
『………』
「………」
線路の上を走る電車の車輪の音ってのは、こんなに大きな音だったっけ…
ちなみの顔を見ることも出来ず、自分の膝小僧を眺めながら沈黙に殺されそうなわけで。
『……ダーリン、今……何時かな…』
「ん…と、」
虚ろな目で見る腕時計の針は、説得虚しく自分の仕事を健気にこなしてて…
長い体と短い体を一生懸命持ち上げていて。まぁ、お前って奴はそれでこそだよ。…GJ……
「もうすぐ12時みたいだ。」
『……そう…じゃあ……もうすぐ終わりだね…”恋人ごっこ”…』
「そうだな…(あと、5分か…」
『……名残惜しい?…ダーリンは……』
「ん? …はは、まさか……」
気付かないでくれよ?俺の中の何かがその質問に肯定するなって言うんだ。
大丈夫、一晩…いや、二晩か…もっとかもしれないけど、涙流せば…気も晴れるさ。
424 :恋人ごっこ 4日目?(2/8):2006/07/05(水) 16:37:10 ID:naIt/5nk
『……そ…う、…名残惜しくはない…っかぁ……』
「あ、でも…楽しかったよ? 俺が最近つまんないって言って、こんな風になっちまったけど。」
『……そっか…それは……良かったね…?』
「…ああ」
ホントに、いい思い出になると思うよ。…多分、この先一生忘れないだろうと思う。
『……うん…』
「…おう」
がたん、と電車が揺れて…再びその場を沈黙が支配し始める。
…どうやら目的の駅に着くまでの間に、恋人ごっこの期限は切れてしまうようだ。
「…なぁ、ちなみは?」
『…え?』
「ちなみは名残惜しいのか?」
『……私?』
「そう。 ちなみはどう思ってるんだ?」
…なんてーかさ。例えばサッカーの試合してて、後半戦残り時間5分とかで負けててさ。
あーこりゃもうだめかもわからんね…、って90%くらい理解してても、気持ちだけ焦ってる。
そんな感じ。…なにも出来ないんだけど、黙っていたくない、ってゆーか…――
『…私……は……』
「おう、ちなみは?」
――…質問して違う事を考えさせて、ちなみを”12時”というフレーズから遠ざけたくて。
だってさ。…もしかしたら、時間の事忘れちまって「あ、いつのまにか過ぎてた」とかなって
「でもま、いっか。あはは」みたいになるかもしれないじゃん。
『………』
「ど、どうなんだ?」
…そんな些細な可能性に、藁にもすがる思いで望みを託すなんて。どうかしてるよ。
『………もう、時間だね…』
「…そう、だな」
ほら、こんなもんだよ。奇跡なんて、滅多に起こらないから奇跡なわけで。
425 :恋人ごっこ 4日目?(3/8):2006/07/05(水) 16:37:46 ID:naIt/5nk
午前12時をこんなに意識したのは、多分大晦日以来なんじゃないかな。
ただこの場合はめでたい新年へのカウントダウンじゃなくて、終焉へのそれなだけで。
『……は……かったよ?』
「…え?」
ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ …
『……12時…』
「なぁ…――」
電車の揺れる音と、無駄に設定した終了のアラームの音にかき消されたんだ。
もしかすると…俺が聞きたい言葉だったのかもしれない。…なぁ、ちなみ。
「――今何て言ったんだ?」
『……何も言ってない…強いて言うなら……恋人ごっこは終わり…』
「ち…なみ…」
暗い電車の窓に映ったちなみは、少し俯いたままでいつものように答えた。
いつものようなローテンションの、いつものような口調で…
『………』
「………」
掛ける言葉なんて、見付からないよ。ただひたすらにこの3日間の思い出が溢れて。
もっとはちゃめちゃなのかと思ってた割に…終わりはあっけなさ杉…
『………』
「………」
これで、全部終わった。そう思うと、夢のままで終わらせる覚悟をしてたはずの自分が
情けなくて、悔しくて。…うなだれた後顔を上げると、窓に映ったちなみと目が合った。
『……暇つぶしにはなった…』
「…そか。 あはは…」
俺は本気でした、なんて今更言うのはカッコワリィよな。
426 :恋人ごっこ 4日目?(4/8):2006/07/05(水) 16:38:17 ID:naIt/5nk
『…一応……言っておかないと…いけない事が……無くも無い…』
「なんだよそれ…文法が変だって」
『……黙って聞け…』
「な、なんだよ。」
『……恋人ごっこ…してた……この3日間の事……忘れろ…』
「!!…」
…なんだよ、ちなみ。思い出の中に大事に取っとく事も許してくれないのか?
こっちは一生忘れないで抱えておける自信があるってゆーのに…!
「…なんで?」
『……お前と…ごっこで恋人なんて……人生の汚点……』
「そ、そこまで言うか!? 俺だって――」
…最初は遊び感覚、だった。…だけど、今は違う。
「――いや…本当は、俺…」
『……うるさい…』
「く…」
『……とにかく……明後日からは…いままで通り……』
「………」
『……それだけ…』
「…わかった」
終焉を迎えた俺に、容赦の無い追い討ちをかましてくれるちなみ嬢。
心は痛いけど、何故かすごくちなみらしくて…不思議とそれがしっくり来ていたわけで。
…やがて電車は、目的の駅へと到着する。
「プシュー)ふぅ。 …遅くなっちまったから、家まで送っていこうか?」
『……却下…』
「…そっか。 分かった。 じゃ、帰り道は気をつけてな?」
『……お前じゃあるまいし……』
「ひでぇ…。 けど、ちなみらしい。 …ありがとうな、ホントに楽しかった。」
『……さよなら…――』
427 :恋人ごっこ 4日目?(5/8):2006/07/05(水) 16:38:46 ID:naIt/5nk
甘い夢は、甘い分だけ輝いていた。
だから…現実に引き戻されると、こんなにも辛いんだな。
家に戻った俺は、月曜日からどうすればいいのか悩んでいましたとさ。
「……いい夢…だったよな、うん。」
実際、充実ってか…あんなに満ち溢れた時間は今まで経験した事なかった。
だから、悔いは………ありまくりんぐなんだが。
「あとは…あいつらをどうするか、だな。」
”あいつら”。…山田とか友ちゃんとか山田とか友ちゃんとか山(ry
頭の中でシュミレートされる、月曜日の自分。…………多分氏んでるなw
いまのうちに言い訳考えとかないと、心労で3㌔くらい痩せてしまいそうな悪寒がする。
鬱田、氏n…………にたくはないが、鬱だ…OTL
「……(それと…」
…ちなみ。…どうしようか。何事も無かったかのように振舞えってのは、どだい無理だ。
明後日どんな顔して会えばいいのか、何を話しかければいいのか。
最悪の場合、気まずくてもう二度と話しかけられないかもしれねーな…
「……っはは…」
”――最近つまんないよな――”なんて言わなきゃよかったな。
ってかホントに今更じゃないか。こんなになって気付くなんて。俺氏ねよ…
胸が締め付けられるように痛いんだ。
ちなみの事ばっかり浮かんできて、消えていって。
このまま自分が何か変なモノに変身しちまうんじゃないかって。
寝たら、切なさっていう奴に殺されちまうんじゃないかって。
布団かぶって携帯電話を握り締めながら、嗚咽交じりに泣いた情けない俺。
声に出して泣かなかったのは、自分の中のちっぽけなプライドのせいなんだろうな。
不安定な状態のまま迎えた日曜日は、ただ無為に時間だけが過ぎていったわけで…
428 :恋人ごっこ 4日目?(6/8):2006/07/05(水) 16:39:15 ID:naIt/5nk
[いつまで寝てんの! さっさとガッコ行きなさいこの愚息っ!!!]バッ
「う、うわっ!?」
[誰のおかげで学校に行けると思ってるのよ。 だらだらしないで早く起きる!]
「か、母さん…」
知らないうちに月曜日の朝になっていて。…時間ってのはホント、律儀な奴だよ。
[何があったかしらないけど、そんなみっともない顔で行くんじゃないよ?]
「う…」
[顔洗って、弁当持って。 元気出していってらっしゃい。]
「あ、ああ…――」
母さん…。母さんにはきっと俺の気持ちは分からないと思うよ。
…でも、なんとなくだけどその気遣いが嬉しく思う。…ありがと、な。
「――用意したらすぐ行くよ…」
学校の用意をして…このあとの展開を想像しながら鏡の前に立つと、バツの悪い顔。
ちゃっちゃと洗顔済まして、どうにでもなればいい的な考えで学校に向かう事にしよう…
「行ってきます、母さん」
[はいよー、愚息ー。 しっかりねー!]
「ガチャッ)だから朝から大きな声で喋るなtt――」
『……おはよう…』
「――ってちなみっ?!」
玄関のドアを開けた先にいたのは、門柱の隅に背中を預けた格好のちなみ。
通学かばんを膝の辺りでぱたん、ぱたんとさせながらいつものローテンションで…
『……リアクション薄い……お前じゃ…出川○郎には勝てない……』
「いや、誰もリアクション芸人目指しちゃいない…ってか何でここにいるんだよ!?」
『……悪い?…』
「悪かぁないけど…でもよ、俺達の恋人ごっこはもう…」
『……終わった…』
429 :恋人ごっこ 4日目?(7/8):2006/07/05(水) 16:40:00 ID:naIt/5nk
「…だろ? だったら――」
納得のいく説明をしてもらわなきゃ何がなんだかわからん罠。
口でこんな風に平静を装ったって俺の心の中はめちゃくちゃなんだからさ。
「――なんで迎えになんか来てくれたんだ?」
『……鈍感……3回は氏ね…』
「いやいやいや。 ってか3回の根拠が無いだろーが!」
『……ある……私、3回は言った…』
「…何を?」
『……ホントに鈍感……最低……耳の穴かっぽじってよく聞け…』
「ちょ、ホントに何の事かわかんないって」
『……3-12……4-10……4-16……』
「…それなんて暗号?」
『……うるさい……わかる人には分かる……それより……約束…』
「…約束?」
なんだろう、心臓がどきどきする。目の前のちなみはデレデレのちなみじゃないのに、
あの時に似た何かが、ってーか…かばんを持った手を後ろに回してどうすんだ?
『/////……ん…(つんっ』
そうだ、おとといの映画館と同じ状況なんだ。目の前のちなみは目を閉じて、
小さな唇(今日はリップも確認できる)を”つんっ”と突き出してて…
「ちな…み、お前…何を……」
『/////……鈍感…指きりした………ちゅー……しろ…////////』
「!? って…恋人ごっこはもう終わったって…」
『/////……バカ……アホ……だから言ってる……ごっこは終わったって…/////』
「え…ええ? いや、つまり――」
”ごっこは終わった”。つまり…そういうことなのか?!俺の早とちりじゃないよな!?
いいんだな!?期待しちまってもいいんだな!?いやそれよりも据え膳食わぬは男n
「――ち…なみ……」
『……ちゅー……早くしろ……///////』
……ちゅっ……――――
430 :恋人ごっこ 4日目?(8/8):2006/07/05(水) 16:41:08 ID:naIt/5nk
あんなに暗く見えた朝日がとてもまぶしく感じて。
まるで生まれ変わったような気持ち良さに包まれて。
恥ずかしさも…嬉しさのせいで霧散して。
学校へ向かう足取りは軽く、右手に優しい温かさを感じて――
「なぁ、ちなみ。 なんで”恋人ごっこしてやる”なんて言ったんだ?」
『……知らない……自分で考えろ…バカ……』
「わかんないから聞いてるんだって。 …もしかして、最初から…」
『……ばーか……ありえない…自意識過剰……///』
「う…そ、そっか。 まぁいいや、幸せだから。」
『……バカ…そのまま氏ね……』
「…っとに、恋人ごっこの時と全然違うけどな。」
『……これが私……あれは作り物の私……』
〔ちなみ! 別府くん! おはようっ!〕
「と、友ちゃん…」
『お…おはよう、友子』
〔仲良く手繋いじゃって…w 今日もラブラブしてるー?〕
「あ、いや…」
『……ダ…ダーリンとは……いつでもラブラブでいたいもん……//////』
「っ!?」
ちょ、ちなみ?友ちゃんの前だとデレるのか!?…それなんてツンデレ?
ってかそれじゃ逆じゃねーかオイ!!二人の時にデレてくれれば俺はそれd
〔ひゅーひゅーwwwって…なんかムカつくね… で~、別府くん。 どこまでいったの?〕
「あ…その、び、Bマデ…//////」
『っ!?/////////////////』
…またなんか変な勘違いしてるな、絶対。ABCのBっつたらキスだろーが…
『/////……み……見せつけちゃおっか?……ダーリン?(つんっ』
「/////////バッ…!! ち…ちなみの為じゃないんだからなっ!!///////」チュッ…
〔……(#゚д゚)……コロース〕
――俺達の恋人ごっこは終わったけど…
夢は…叶っちまったのかもしれnギャーーーー――― 終。
最終更新:2011年10月25日 17:26