443 :労働基準法とは何か。:2006/07/05(水) 21:40:13 ID:qfI4.f5I
ちなみが家にきてから二日が過ぎた。
「ご主人様、お茶です」
「あ、ありがと・・・」
お茶を一杯受け取るにもぎこちない雰囲気が漂っていた。
それもそうだろう。二人は幼なじみで、そして幼なじみのちなみが家政婦なのだから。
「じゃあ、私はこれで・・・。何かあったら呼んでください」
至極シンプルなメイド服のちなみが、部屋を立つ。たかしと同い年、17のちなみ。
初めてちなみがこの家に来たとき、心底タカシは驚いた。
十数年ぶりに会った人が、家に来て、そしていきなり上下関係が成立していたのだから。
「ほら、タカシ。昔よく遊んだ、ちなみちゃん。・・・ちょっと、色々あったみたいでね・・・、今日から家政婦さんやってくださる、っていうから・・・」
高校に入ってから週に数度しか帰られない母親。代わりに家の諸事をやってくれるその理由を、詳しく話さない母親の顔には、影があった。
「・・・困ったなあ・・・」
そして、会話らしい会話など、今の今まで一回も成立しなかった。
理由も聞けず、義務的・事務的、上下関係の会話だけで世間話の会話も成り立たない。
愛想の欠片もない。まるでアンドロイドと生活しているみたいで、言葉の代わりにため息しか出ない。
「・・・昼寝、するか」
教科書をほっぽり出し、ソファーにごろんと寝ころぶ。
そういえばと、ちなみの荷物に、教科書が一冊の無かったことを思い出し、少し胸が潰れそうになるタカシがいた。
2時間した後、かなみが洗濯から帰ってきた。黒いワンピースに付着した糸くずと洗濯粉を払いながら。
表情は変わらず、疲れているにもかかわらず寸分も崩れない。まるで、顔面が固定されているようだった。
「くー・・・くー・・・」
そんな苦労を知らずか、寝息を立てるタカシを視界にとらえた。
疲れているが、気にしない。彼はちなみの『ご主人様』であり、自分は雇われの身であるのだから。
「ごはん・・・作ろうかな」
エプロンをつけ直し、キッチンに行こうとする。しかし、足が動かない。目も動かない。ずっと寝息を立てているタカシを注目している。
「・・・」
心臓が高鳴る。そーっと横たわるタカシに近づく。一歩進むたびに、足音が地震が起こったように聞こえた。<1>
「・・・ん」
そっとタカシの頭を持ち上げ、自分の膝に置く。
膝枕。
こんなこと、家政婦が雇い主に黙って不意をつくように、やっていいことではない。
しかし、十数年と自分の中で渦巻いていた恋心は、再会したとき、疾うに爆発していた。
「ご主人様・・・ちなみは・・・ずーっと、貴方のものですよ・・・」
未だ眠りの深いタカシを、そっと撫でるちなみ。
そして、自分の想いを奥に隠していた、素直でない自分を、また情けなく感じた。
問、 <1>で、ちなみの心境を答えなさい。
444 :その2(おわり):2006/07/05(水) 21:46:15 ID:.Yk6Wk2s
443
答
実はちなみはロボットで、身長58m、体重550tだったから。
最終更新:2011年10月25日 17:27