647 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/11/24(金) 19:09:10 ID:oDBXm9NM
その時、昔の事を思い出した。
幼稚園の時、とても仲の良かった女の子。
皆が色とりどりの洋服を着てる中、その子だけがモノクロームの和服を着ていて、これがまたすごく似合っていたのを覚えている。
幼稚園の隅っこで彼女を見つけて以来、俺はその子とよく遊ぶ仲となった。
どうやって遊んだかと言えば、いつもあの子のペース。
影踏み、ケンパ、鬼ごっこに飯事。
あの子の提案する遊びに俺は逆らう事無く楽しんでいた。
実家の押入れから出てきた、手書きの婚姻届。
あの子と俺の名前が書いてあるそれを見て、忘れかけていたその事を思い出した。
確か…あの子とはどうなったっけ…
そんな疑問が浮かび、俺はまた思考の海へ落ちてゆく。
小学校に上がり、初めて入った教室にあの子の姿を探した。
授業が始まってもあの子の姿はなく、俺は不思議に思ったものだ。
教師、親、友人などにも相談したが、そんな子はいないの一点張り。
誰もその子を知っている人はいなかった。
二十歳になった今、あの事を類推してみるに、
ひょっとするとあの子は幽霊の類なんじゃないかって思うわけだ。
そう思うといてもたってもいられず(オカ研部長)、小さい頃通った幼稚園へ走って向かった。
今日は祝日。園内に人の気配は無い。
門を乗り越えて、あの子とよく遊んだ裏庭へ向かう、
園内の一番北東──何の因果か知らんが、鬼門の方角──の隅に、白い装束を纏った小柄な少女が佇んでいた。
少女はあの時とまるで変わっていない。黒髪長髪、日本的な顔立ち。今思えば彼女は幼稚園時代から白装束だったっけな。
あの時と唯一違うのは、視線。少女の目はあの時と違い、凍りつくように冷たい目線を俺に向けている。
それは、おそらく祝日に幼稚園に忍び込む不審者へ向ける目なのだろう。
俺は、できるだけ当時と同じ顔を作りながら──
「15年振りだね。纏ちゃん」
──彼女の名を、呼んだ。
648 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/11/24(金) 19:10:17 ID:oDBXm9NM
彼女の行動は早かった。
一瞬で俺との間合いを詰めると、次の瞬間、彼女のビンタが俺の頬に届いていた。
俺は少し退き、彼女の方を見据えると、ビンタより痛い彼女の罵声が俺の顔を直撃した。
『おそいっ!じゅうごねんかんもいったい何をしていたのじゃっ!』
少したどたどしい日本語が15年ほったらかしにした俺への怒りと気付くまで数秒かかった。
『まったく…きさまというやつはっ!女子をじゅうごねんかんひとりぼっちにしておくなどごんごどうだんじゃっ!
その……すこしだけ……ほんのすこしだけさびしかったではないかっ!このおおばかものっ!』
そういうと彼女は、顔を真っ赤にして俺に飛びついた。
「そうか…悪かったな。ほったらかしにしちまって」
『あたりまえじゃっ!ばかっ!ばかっ!ばかっ!』
その後彼女は俺の胸の中で、いかに俺が駄目な奴であるかをこってり教えてくれた。
そして、一通り言い終わると一枚の紙を差し出した。
「…これは?」
『ふん。またほったらかされてはたまらんからな。けーやくしょじゃ。とっとと名まえをかけ』
そこには、涙で少しにじんだ可愛らしい文字で「こんいんとどけ」と、書いてあった。
「…これで二枚目だね。「こんいんとどけ」」
『…ん?なんじゃ。覚えておったのか』
「もちろん。一枚目はこれでしょ?」
俺は内ポケットからもう一枚の紙を取り出した。実家で十五年眠った婚姻届、使う日が来るとは思わなんだ。
『あっ…な、なんじゃ。まだもっておったのか…そんなもの、はやいところすててしまえばよかったのじゃっ!』
俺は、その場で感じた率直な感想を述べた。
「それは嫌だね。だってさ、これってつまり、俺は十五年間ずっと纏ちゃんに愛されたってことでしょ?」
『なっ…!ば、ばかなことをいうな…(////)
儂は…おぬしみたいなおとこはだいっきらいじゃっ!』
しかし、二枚目の婚姻届の「さかがみ まとい」の文字は果たして彼女の心中を雄弁に語っているのであった。
そうしているうちに婚姻届に名前を書き終えた俺。今後しばらく、彼女を十五年間待たせたツケを払う事になりそうだ。
ま、それはそれで楽しみなんだけど、ね。
最終更新:2011年10月25日 17:44