795 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/20(日) 00:15:56 ID:PRkJDO8k
べ、別に恥ずかしくてこっちに投下してるわけじゃないんだからねっ

春になりました。



18

春っていいよな?俺は春ってやつが大好きなんだ。
センチメンタルな気分とハッピーな気分を嫌というほど堪能できる。
―出会いと別れ
―始まりと終わり
どちらかが欠けてもだめなんだ。

4月某日

今日は俺の通う大学の入学式。
俺は石段の下をぞろぞろと並んで歩く新入生の列を見下ろしていた。
退屈な入学式を終え、これから迎える華やかな大学生活を夢見ていることだろう。
だが…希望と期待に胸を膨らませているのは何も新入生だけじゃないんだ。
3月は別れの季節…そして4月は出会いの季節なんだから。
今朝の目さまし占いでは獅子座が第一位!ラッキーカラーは白と水色でした。

「待ってろよ!俺の子猫ちゃん達!」

この日、俺に課せられた任務は新入生の勧誘だ。
毎年この時期、新歓コンパと銘打たれた飲み会が様々なサークルによって開かれる。
当然俺の所属するテニスサークルも新入生歓迎の飲み会を企画している。

(この一年間テニスラケットを持ってすらいないけど…)

我がサークルの精鋭から構成される5名の勧誘部隊には一人10名というノルマがある。
参加約束を取り付け、当然子猫ちゃん達の電話番号を聞きださねばならない。
これは仕事なのだ…もちろん飲み会の後に仲良くなろうが、にゃんにゃんしようが個人の自由。

「さぁ・・・狩りの時間d・ぶわぁあああ」

俺は情けない悲鳴をあげながら、階段を転げ落ちた。

「あら?私の通り道にポストがあったのでついつい蹴飛ばしてみればタカシじゃない。
 そんなところに這いつくばってイモムシの真似事でもしてるのかしら?」

この日、俺は赤いコートできめていた…
俺を蹴り落としたうえ、イモムシ扱いする不埒な輩の顔を睨みつける。

上半身を起こし、石段の上を見上げた俺の視界に移るのは白いパンツ…じゃなくて毅然とたたずむ神野りなの姿だった。

「危ねぇな!!一歩間違ったら死ぬぞ!お前は赤いものを見たらついつい興奮しちゃう闘牛か!
 しかも痛くて起き上がれないんだよ、誰かさんが俺を蹴り落としたから!さらにさらにイモムシ扱いとは失礼だぞ!!!」
「ふん・・・真っ赤なバラが似合う情熱的でついつい興奮しちゃう女ですって?
 今更、褒めても何もでないわよ。まぁ・・・タカシとイモムシを同等扱いしたことは謝ってあげるわ」
「・・・」

やけに素直だ。それにしても俺の抗議はどうやったらあんなポジティブな解釈になるんだ?

「だって・・・あまりにもイモムシに失礼だわ。タカシ、あなたがイモムシに謝りなさい!」

俺はイモムシ以下か。しかも俺が謝るのかよ!!

「子猫ちゃんとやらに噛み付かれないように気をつけることね!バカたかし!」

そんな捨て台詞を残してりなはプンプンと機嫌悪そうに去っていった。
それにしても恥ずかしい台詞を聞かれてしまった。

「痛い・・・りなのやつ、今日は白か・・・」

そう呟いた俺はコンクリート上等とばかりに地面に仰向けに寝転んだ。
今日はいい天気なのだ。空を見上げた俺の視界には水色の……パンツが…あれ?

「あの・・・お兄さん大丈夫っスカ?」

心配そうに俺を見つめる少女の姿がそこにあった。
大学構内のコンクリートに寝転ぶ怪しげな男に声をかけるとは変な子…俺も変だけど。

「あ、はい。水色・・・」

「え?・・・」
「・・・・ん?」

―きゃぁああああああ!!!!痴漢ッス!!変態がいるッス!

大学構内に響き渡る少女の悲鳴が響き渡る。

「ち、痴漢だと!許せんな。この俺が成敗してくれる!!」

そう呟いた俺は一目散に逃げ出した。

796 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/20(日) 00:16:50 ID:PRkJDO8k
19

「こんにちわ~。入学おめでとう!
 今度うちのサークルで歓迎コンパやるからよかったらおいでよ~。うちのサークル絶対楽しいよ!」
「え~~。どーしよー」

(・・語尾を無理に延ばすな低脳!)

などとは間違っても口にせず、ようやく俺は本日10人目の電話番号と飲み会参加の約束を頂戴した。
ノルマ達成…とはいえ、堂々と女の子の電話番号が聞けるのだ。
ここで勧誘行為を止める理由もない。な、ナンパじゃないぞ!!これは任務なのだ!
俺は再び獲物を狙うハンターのように周囲を観察する。

(あの2人・・・後ろ姿しか見えないが服装のセンスがいい。きっと上玉だ!!)

俺は無理やりテンションをあげて後ろから2人に声をかけた。

「こんにちわ~。入学おめ・・「変態。痴漢。」「うるせーッス。黙れッス。消えろッス」・・・で・と・・う」        

振り向いた可愛らしい2人の少女が俺を睨みつける。

―目がくりくりして身長145cmほどの小動物のような少女と…
―汚いものをみるかのように軽蔑のまなざしを向ける少女……かなみ

「か、かなみ・・・」
「・・・・」
「???かなみちゃん知り合いッスカ?」

きょろきょろと俺とかなみを見比べながら小動物のような少女は不思議そうな顔をしていた。

「うちの・・・・あに・・・まる」
「そうそう。俺はアニマル!って獣かよ!!」
「・・・粗大ご・・・廃棄物・・・・寄生虫・・・ペット?」
「そうそう。俺は卑しい卑しい犬ですよねー。」
「他人!!」
「こらこらこら!お兄ちゃんだよ!!忘れちゃだめじゃん!」
「行こっか♪」
「スルーかよ!!ほんとに他人みたいじゃん!!小学生の頃はおにいちゃんのお嫁さんになるのが夢だっ・・・ゲフっ」

見事な右ストレートが俺の鳩尾に決まる。かなみ…そこは人間の急所なんだ。
敵に確実にダメージを与える場合に狙うんだよ。

「あはははは。兄さん面白いッスね!よくよく見ると格好いいしね。私は風花(ふうか)ッス。よろしくッス」
「風花ちゃんか~。可愛い名前だね!おまけに人を見る目がある!!」

そう言って俺はこの小さな後輩によしよしをしてあげようと手を伸ばそうとし、
噛まれた。しかも本気で痛い。

「フガッ!ガウガウフガフガーッ」
「お、落ち着いて!何を言ってるかわからないよ!!」

なんとか腕をひっぺがした俺の腕にはしっかりと風花の歯型と出血が認められた。

「チビ扱いするなッス!!先輩なんて豆腐の角に足の小指ぶつけちまえッス!!」

風花はそう言って威嚇するように俺を睨みつけ、ウーウー唸っていた。
豆腐の角に足の小指をぶつけるとどうなるのか激しく気になる。

「あ、風花ちゃんチョコ食べる?」

そう言って俺はカバンの中から取り出したチョコレートを差し出した。

「きゃう~ん」

風花は飛びつくように俺の手から奪い取った。
やべぇ…こいつ面白い

「先輩いい人ッスね!男子三日会わざれば撲殺せよとはよく言ったものです」

お前は犬か。初対面から5分しか経ってねーよ。しかも撲殺してどうすんだ。三日会わないと俺は撲殺されるのか!
こうして俺の友人のカテゴリに新ジャンル「獣」が誕生した。

797 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/20(日) 00:17:48 ID:PRkJDO8k
20

男は新入生の勧誘を終えた後、ミーティングという名の飲み会に参加した。
各大学に存在するテニスサークルの半分はテニスをする回数より飲み会のほうが多い。
男の所属するサークルも例外ではなかった。
帰宅した男は飲み疲れたのか着替えもろくにできずにベットに横たわりうなっている。
確実に二日酔いコースだろう。

部屋に一人の少女がはいってきた。

「タカシ?帰ってるの・・・」
「かなみ~・・・・きぼちわるいょー・・おーみーずーをーくーだーさーい」

男は真っ青な顔で少女に懇願している。

「はぁ・・・ほんとバカ」

そう言って部屋を出た少女は2分ほどすると、手に水の入ったグラスを持って部屋に戻ってきた。
少女は普段はこの男には決してみせないであろう…心配そうな顔をして近づく。

「・・・はい、水・・・・・うわっくさっ!酒くさいから呼吸しないでよ」

そう言って少女は男に水を差し出した。
一見優しそうだが、後半は「死ね」と言ってるのに彼女は気づいているのだろうか…
男は苦しそうに上半身を起すと受け取った水を一気に飲み干した。
飲み終えたコップをベットの隣にある机に置こうとするが数cmほど手が届かない。

「ほら、よこしなさい・・・コップ」

少女が声をかけ、コップを受け取ろうとした刹那―
男はコップから手を離し、少女を腕をつかむと強引にベットに引き込んだ。

「え?・・・きゃっ」

ベットに引き込んだ少女を男は強い力で抱きしめる。

「ちょっと!調子に乗ら・・・」

男と少女の視線が交差した…瞬きも忘れたように二人は見つめあっていた。

「かなみ・・・俺・・・」

(まさか・・・タカシもわたしのこと・・・)

頬を赤く染めた少女は静かに目を閉じた。
永遠とも思えるような時間が静寂に包まれたまま過ぎる。

(・・・・・あれ?)

少女は恥ずかしそうに片目を半分だけ空けて男の様子を覗った。

(ね、寝てる!?普通この状況で寝るか!!期待したわたしがバカだったわ・・・)

少女は口をアヒルのように尖らせつつも、男の腕に身を委ねていた。

(惚れた弱みってやつかなぁ・・・もっと素直になれたらいいのに)



―夜はそんな2人とは関係無しに更けていく
少女は朝方まで一睡もできず、翌朝男は恐ろしい目にあう。

798 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/22(火) 00:15:20 ID:PRkJDO8k
21

その朝俺は激しい頭痛によって夢の時間から強制的に引き戻された。

「うーん・・・頭痛い、昨日飲み過ぎたか・・・」

そう呟きながら俺は目を開ける。

(!?・・・かなみ!!なんでかなみが俺のベットで寝てるんだ?)

意識が急激に目覚め、眠気が吹っ飛ぶ。
目の前で寝息をたてているのは紛れも無く俺の妹…かなみだ。
かなみは寝るときキャミソールに短パンという姿をしている。この日も例外ではない。
掛け布団は完全に足元へ押し出され本来の機能を果たしてはいない。

―白い太股
―めくれ上がった腹部
―ふくよかとは言えないまでも微かな谷間を覗かせる胸元

俺は悪いと思いつつも、いつの間にか成長したかなみから目が離せなかった。

(い、いかん!俺は兄でこいつは妹だ・・・兄として俺は・・・)

俺の中の理性と欲望が火花をちらして戦っている。

(もしも・・・めくれあがったキャミソールの腹部を上に少しずらしたら・・・ちょっとだけ・・・)

いつかどこかで聞いた事がある…漢ってのは考えた時には行動は終えてなければならないのだと。
こうして俺は変態への記念すべき第一歩を踏み出してしまった。

(少しずつ・・・少しずつだ・・・)

かなみを起さないように手と目に全神経を集中させる。
爆弾処理ってのはこんな緊張感と集中力がいるんだろうな。
心臓から押し出された血液が俺の体中を巡っていくのが手に取るようにわかる。
かなみの呼吸に自分の呼吸を合わせる
普段は意識しない時計の音、窓の外で木々を揺らす風の音がやたら大きな音に変わる。
自分がまるで空気と一体化したような気分になる。

細心の注意を払い指先をミリ単位で動かしていた指をとめ呼吸を落ち着ける。

(ふぅ・・・後少し・・だが・・・本当に俺はこんなことをして・・・)

かなみの様子を覗おうと一瞬だけかなみに視線を戻す…
一瞬だけ目を向けたはずの俺はかなみと見つめあっていた。

「・・・」「・・・」

俺の変態的行動は全てかなみに見られていた。
手はキャミソールのすそを摘んだまま、俺は金縛りにあったかのように動けなくなる。

「おはよう・・・ お 兄 ち ゃ ん ♪」

(父さん、母さん・・・20年間生きてこられてタカシは幸せでした・・・)

「ち、違うんだ!!!」

799 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/22(火) 00:15:40 ID:PRkJDO8k
22

思い出すだけで身震いがする。
俺は今朝開けてはいけない扉を開けてしまった…
当然俺は右ストレートやハイキックや締め技のコンボがくると予想し、死を覚悟した。
しかし予想に反し、かなみは暴力的な手段には一切訴えてこなかった。

「ふふふ♪」

などと微笑みながら嬉しそうに部屋を後にしたのだ。
洗面所で顔を合わしたときも、ニヤニヤ顔が緩みっぱなしで微笑んでいる。
挙句の果てにこの日を境に、かなみは俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶようになったのだ。
ある意味暴力よりも恐ろしい…身の毛もよだつような予感が俺を包む。

犯罪者ってこんな気分なんだろうな。
いつ警察がくるかとビクビク怯えているのだろう。
そんな事をベットにうずくまりながら考えてしまう。

―コンコン

突如響き渡る部屋のノック音

「ひぃ・・・どうぞ・・・」

部屋に現れたのは予想通りかなみだった。

「お兄ちゃん?」

このお兄ちゃんという言葉がまた俺の良心を刺激する。
妹に手をだそうとした兄…そんな烙印を押されているような気分になるのだ。

「かなみ・・・先ほどは大変失礼を・・」

かなみは勝ち誇った笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。

「だいたいなんでかなみが俺のベットで」
「え?何かな~?よく聞こえないな~。私 が 悪 い の ?お兄ちゃん♪」
「う・・・ナンデモゴザイマセン」
「そうだよね~。まさか妹に手を出すなんてね~。お母さんに言ったらどんな顔するかな~♪」
「お代官様!どうかそれだけはご勘弁を!」

妹に土下座して謝る情けない兄の図がそこにあった。

「これからは大学の送迎毎日よろしくね♪」

「へ?俺今日1限は休講で授業ないんだけど・・・・・・・・・・・・・・・喜んで送迎させていただきます!!」
                   「おかーさーん!!おにいちゃんが・・・」


すでに入学したてで取得すべき単位の多いかなみと違い、3回生となった俺は1限から授業の日など皆無だ。
つまり俺は例え4限の時間から通学すればいい日も1限から大学に顔をだすことになる。最悪だ…

「うむ。わかればよろしい」

そう言ってかなみは俺に近づき、土下座する俺のふとももに自分の足をのせた。
―妹に足蹴にされる兄の図がここに完成した。

「目・・・閉じて」
「ナンデ?」
「いいから言う通りにしなさい!お母さんに言ってもいいのかな~?」
「よ、喜んで~」

白木屋の店員か、俺は。
…人の弱みを逆手にするなんてまったく人としてどうなんだ、かなみ…
人として既に終わってる俺に言えた義理じゃないが。

「何か言いたそうな顔ね…文句でもあるのかしら?」
「メッソウモゴザイマセン、オジョウサマ」
「そう・・・ならいいわ」

俺は歯を食いしばった。

「絶対目開けちゃだめよ。開けたら殺すわ」
「モチロンデス。ゴシュジンサマ」

俺は間もなく訪れるであろう衝撃に耐えるべく、全身の筋肉を緊張させる。

―ちゅっ

「ほぇ?」

何か柔らかい感触が俺の右頬に…???
予想外の出来事に体の緊張が解け、目を開けようとしたその次の瞬間

―パシーン

強烈なビンタが俺の右頬に炸裂した。

800 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/22(火) 15:58:40 ID:90x..TqI
23

「タカシと同じ大学に行くわけじゃないわ。
 私がもともと行きたかった大学にタカシが勝手に入ったのよ」

大学の合格発表の日、かなみは俺に向かってこんな台詞をはいた。
自慢じゃないが俺は国立大学に通っている。付近の大学の中では高いレベルであり家からも近い。
妹が国立大学に入学を決めたとき、俺は純粋に喜んだ。
しかし、俺の大学内での威厳を保つ為には大学内でのかなみとの遭遇は極力避けねばならない。
そんなわけにもいかないのが現実なのだ。
というか、今朝の一件からかなみの下僕としての立場を確定させてしまった俺は通学の送迎運転手として従事することになった。

車が家を出てから既に15分は過ぎたころだろうか…
車内にはなんともいえないどんよりした空気が流れていた。
かなみは車に乗ってから一度も言葉を発してはいない。
走り出して5分ほどはかなみのご機嫌を伺おうと話しかけたのだがすべて無視されている。

「ねぇ・・・」
「ひゃい」

噛んだ。

「携帯」
「・・・」
「け い た い」

視線はフロントガラスを見据えたまま、かなみが右手をこちらに突き出している。
恐らくは携帯をよこせという意味だろうが…
携帯電話というのは人のプライベート満載である。
易々と他人に渡して見せるようなものでは断じてない。

「な、何にお使いになられるのでしょうか・・・」
「暇」

…暇つぶしだった。俺の携帯電話は暇をつぶすだけ理由で他人に操作されることになった。
差し出された携帯を受け取るったかなみは当たり前のように操作を始めた。
しかし、俺だってバカじゃない。しっかりと暗証番号でロックしてあるからこそ差し出したのだ。

「・・・・番号」
「・・・・」

無視してみせたが、俺のふとももに鈍い痛みが走る。
運転する俺のふとももにかなみが縦に握ったコブシを振り下ろしたのだ。
知ってるかい?油断しているときにこれをされるとかなり効くんだ。
だが俺は叫び声もあげずに痛みに耐える。ここでひいたら俺のプライベートが晒される。
そんなことは御免だ。

「暗証番号・・・」
「・・・・かなみの誕生日」
「え・・・・おにいちゃん・・・覚えててくれたんだ・・・」

頬を紅く染めながらかなみが俺の携帯電話に4桁の番号を入力した。
もちろん嘘なわけだが。

「・・・・」
「あはははは・・・冗談に決まって・・いひゃい!ひゃめへ・・・ごふぇんあはい」

乾いた笑いでその場を和ませようとした俺の左頬がひっぱられる。

「あんた自分の立場わかってるの?」

俺の頬をひっぱる力がいっそう強くなる。

「いひいひひゅうにーれふ」

―さようなら、昨日までの幸せな俺
―こんにちわ、かわいそうな俺

801 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/22(火) 15:59:08 ID:90x..TqI
24

「むー・・・」

さっきから唇を尖らせて俺の携帯電話を操作しているかなみは時折こんな風にうなっていた。
大学につくまで残り30分…俺の携帯は暇つぶしという名のもとにプライバシーを侵害されている。

「女の子の番号ばっか」

人の携帯を弄り倒したあげく、そんな感想をかなみは漏らした。

「ん~、昨日新歓コンパの勧誘で20人くらい増えたからなぁ・・・ほとんどサークル関係だな」
「ふーん・・・まぁどうでもいいわね。わたしには関係ないし」

そう言ってかなみは鬱陶しそうな表情をして俺の携帯電話握った手を窓の外に向けて伸ばした。

「暑いわね・・・・手に汗握って滑ってしまいそうだわ」
「ちょっと待って!かなみさん、危ないので走行中に手をだしたらいけませんよ!!!」
「そう・・・」

手をひっこめたかなみの手を握り、携帯を奪い返そうとするがどうやら手放す気はないようだった。

「わかってくれてお兄ちゃんは凄く嬉しいよ・・・・」
「ねぇ・・・・最近の携帯って丈夫らしいけど走っている車から投げたらどうなるのかしら?」
「暑いね!!!窓閉めて冷房にしよう。それから携帯は車から投げたら危ないし絶対壊れます!!!」
「そうそう・・・わたしのメールアドレス登録しておいてあげたわ。送迎の時間はメールする。」
「はいはい。ありがとうございます・・・」
「はいは3回よお兄ちゃん」
「はいはいはい・・・・」
「それから、メールなんか鬱陶しいだけだから勘違いしてつまらないメール送ってこないでね」
「・・・・」
「わたしのメールには必ず3分以内に返信すること。座布団とれないようなくだらないメール送ったら殺すわ」

意外にも笑点好きらしい…
そして再び俺の携帯を弄りだした…と思ったら突然こちらを睨みだす。

「お兄ちゃん五月蝿い」
「いや、しゃべってないし!!!」
「昨日の夜から朝にかけての話よ」
「そっちかよ!!寝言いってた・・・?」
「呼吸音とか心臓の音とかとめてくれない?」

死ねって言われた。
どうやらまた機嫌が悪くなってしまった…いった何が…
結局かなみは大学につくまで散々俺の携帯をなにやら操作し、

「ありがと・・・でも恥ずかしいから大学では半径3km以内に近寄らないでね」

そう言ってかなみは車を後にした。
車内に残された俺は、タバコに火をつけると自分の携帯をとりだすとこれからの暇つぶし相手を探すべく電話帳を開く。

047 神野りな(笑)

「・・・・」

こうして俺のアドレス帳に存在する女の子は全員語尾が(笑)という奇妙な登録に変更された。

803 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/23(水) 01:26:02 ID:PRkJDO8k
25

「学食でもいってみるか・・・」

かなみを学校に送り届けたものの、授業は午後からだった俺は4時間以上ある暇を持て余していた。
どうせ一週間もすれば送迎も飽きるだろうが、今日は初日である。一度帰ってまたくるのも面倒なのだ。

「どうせ1時間もすれば学食か別棟に誰かくるか」

別棟とは授業に使われていない教室で、現在は各サークルの部室というか溜まり場になっている棟だ。
3人ほど拉致って雀荘へ行けば4時間などあっという間なのだ。

―ドドドドド

突然地響きが鳴り響いた…ような気がした。

「タカシせんぱぁあああああい!!!」

聞き覚えのある声に名前を呼ばれ振り向くと100Mは距離があろう遠方から俺の名前を叫びながら走ってくる姿があった。
かなり…距離がある。地響きを響かせていそうな走り方ではあるが、速度は遅いようだ。
というかあんな距離から人の名前を連呼しながら駆けてくるというのは非常に迷惑なのだが…

(あっ、転んだ・・・)

もともと背の低い風花の姿が少しずつ大きくなってきた。

(20M・・・・・・15M・・・)

ようやく残り7・8Mといったところまで駆け抜けてきた風花は一度立ち止まり息を整えている。

「おはよう風花ちゃん」

そう言って風花の方へ歩みだそうとした瞬間、風花は再びこちらへ向けて全力疾走を再開した。

―ドドドド

「せんぱぁあああああい!!」

残り5Mほどに達した風花は速度を落と……さらに加速した。

「え?ちょ・・・待って」

風花は2Mほど手前で力強く踏み切ると、俺に向けて勢いよくヘッドスライディングしてきたのだ。

「せんぱ~い」

風花は俺が受け止めると100%信じきっているかのように…
両手を×に交差させ、俺の首元めがけて飛んできてるのは気のせいだろうか。
俺は風花を受け止めるべく両手を差し出し、フライングアタックの直前で身をかわした。

「きゃう~ん・・・」

全身を投げ出すかのようにヘッドスライディングした風花は当然コンクリートに向けて着地した。

「うぅ・・・痛いッス・・・・たかし先輩ひどいッス」

パンパンと服を叩きながら立ち上がった小柄な少女―風花は飛びっきりの笑顔で俺に向かって敬礼をした。

「先輩!おはようございマス!」

804 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/23(水) 01:26:22 ID:PRkJDO8k
26

「それにしても先輩はひどいッス!鬼ッス!童貞にもほどがあるッス!」

ナチュラルに失礼なことを言われた。童貞は関係ないし!

「プンプン・・・大人の男性ならあーいう時はしっかり受け止めるべきッス!先輩異常ッス!」

そんな漫画でしか使われないような擬音語を発しながら風花は文句を垂れている。
そもそも全力で人にフライングアタックをしてくる少女は異常じゃないのだろうか…

授業開始まで時間のあった俺たちは適当なベンチにかけて互いに時間潰しをしている。

「先輩喉渇きませんか?自分買ってくるッス!何がいいッスか?」
「あぁ・・・悪いね。缶コーヒーお願い」

そう言って俺はポケットから120円を取り出し風花に渡した。

「了解ッス!!風花は紅茶にするッス!」

風花は受け取った小銭を見ると不思議そうな顔をしている。

「ん?どうした」
「・・・・・・・・これじゃぁ先輩の分買えないッスよ?」

自分から誘っておいていつの間にか俺のおごりになっていた。

「・・・・」
「???」

俺は黙ってもう120円をポケットから風花に手渡した。
こいつどういう育ちをしてるんだ…

「♪」

風花は嬉しそうな表情を浮かべ颯爽と自販機へ向けて駆け出した。

「せんぱ~い!いきますよ~」

自販機から飲み物を取り出した風花はこちらを振り向き、大きく振りかぶった。

「しっかりキャッチするッス!」

ん?投げる気か…
まるでピッチャーのようなモーションから繰り出された缶コーヒーは放物線…
を描かずにまっすぐこちらへ一直線に向かって飛んできた。

―ガンっ・・・・ゴロゴロゴロ

「危なっ!」

缶一発…じゃなくて間一髪で顔面めがけてとんできた缶コーヒーを避ける。

「先輩だめッスよ。ちゃんとキャッチしなきゃッス」
「お前は俺をどうしたいんだ!!!危うく怪我するとこだったぞ!」
「でもー・・・先輩が初めてッスよ?わたしのパスを受け取れなかった人」
「いつもあんな危険なパスをしてるのかよ!悔い改めろ!!今すぐにっ」
「いえ、殺す気で本気になって投げたのは先輩が初めてッスよ?」
「本気なのかよ!!しかも殺す気だったんだ!!!」
「てへっ☆」
「てへっ☆じゃねぇ!」

だが悪戯っ子のように微笑む風花を見た俺は、不覚にも可愛らしいと思ってしまった。

「まぁまぁ、先輩怒ったらだめッスよ。仏の顔も三度までッス」
「・・・・ホントに反省してんのかよ・・」
「でも二度あることは百度あるみたいッス」
「まだあるんだ!!!反省してませんね!!」

ケラケラと笑いながら飲み終えた空き缶をゴミ箱に放り投げ、風花は立ち上がった。

「お茶ごちそうさまでしたッス!」
「おう。気にするな」
「魚心あれば下心ッスか?」
「人の好意をそんな風にとっちゃうの!?」
「先輩水難の相がでてるッス。充分気をつけるわん♪」

正しくは水心…である。

「水難の相って・・・しかも今時わんって・・・」

テクテクと離れていく風花を見つめながら、俺は先ほど投げつけられた缶コーヒーのふたを開ける。

―ブシュッ

俺の顔に勢いよく飛び出したのはコーヒーではなく炭酸飲料だった。

「あの野郎・・・」

805 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/23(水) 16:56:41 ID:90x..TqI
27

男は有り余る時間を別棟で過ごすことにしたようだ。
サークルの部室にはベッド代わりのソファーや誰かが持ち込んだ雑誌やマンガが大量に放置してある。

「ちきしょー・・・顔中ベタベタだし俺のお気に入りのTシャツが・・・orz」

古びた薄暗い洗面所で男はTシャツを脱ぎ、水でパシャパシャと洗いながらそう呟いた。
部室に戻った男はTシャツをハンガーにかけ、半裸のままソファに横たわるとすぐに寝息がきこえてきた。

1時間は経過した頃だろうか…

「暑い~!4月でこの暑さは何なのよ~。重ね着なんかしてくるんじゃなかったわ」

ドアを乱暴に開けて一人の女が部室にはいってきた。
この日、4月だというのに30℃に達しようかという異常気象だった。

「誰かがこないうちに、Tインナー脱いでおこうっと・・・」

女は服を脱ごうとして、ソファに横たわる男に気づいたようだ。

「ち、痴漢!?・・ちょっと、タカシ!!なんて格好・・・・タカ・・・シ・・・寝てる・・?」

女の目は半裸で横たわる男に釘付けになっている。
心なしか頬が紅く染まっているのは、このうだるような暑さのせいだろうか…

「結構・・・いい筋肉してるわね。」

そう呟くと女は携帯電話と男に向けた。

―ぴろりろりーん

「やだ私ったら・・・タカシの半裸の写メなんて・・・
 こ、これはタカシの弱みを握っておくためよ・・・・わたしは変態じゃないもん」

そんな独り言を呟く女の顔はいっそう紅く染まっていた。
どうみても変態である。

「ちょっと、誰が変態よ!」

突如上を見上げた女が声をあげた。

「・・・気のせい・・かな」

地の文につっこみをいれるとはこの女は只者じゃないらしい…

「って、バカたかしが目覚める前にさっさと着替えなきゃ!」

そう言って女はシャツのボタンに手を掛け、ボタンをはずしていった。
続いて女がインナーを脱いだ瞬間…男が寝返りをうった。

「うーん・・・」

女の行動は素早かった。一瞬で足元に転がっているテニスラケットを手にとると、
ソファに横たわる男のもとへ間合いを詰め、その勢いを利用して一気にテニスラケットを振り下ろした。

「・・・むにゃむにゃ」

男の鼻先2cmのところでテニスラケットはピタリと止まった。

「寝言か・・・びっくりした~。危うく叩くとこだったわ」

男はすんでのところで命を拾うことができたようだ。
叩くってレベルじゃねーぞ!!

女は黙ってラケットを足元に置き、素早くシャツを羽織るとボタンをかけはじめた。

―ガーン

突如扉が開くと共に大きな女の声が聞こえてきた。

「おっっはよ~!!・・・・って、ええ!?」

扉を開けたサークルの一員であろう女の視界にはいってきたのは…

―ソファに横たわる上半身裸の男と、頬を紅く染めて服をきる途中の女

どうみても…

「りなってばこんな所で!やるわね!!」
「ち、違うのぉおおおおおおお!!!」

安らかな寝息をたてる男をよそに、女の叫び声がこだましていた。

806 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/24(木) 11:12:45 ID:90x..TqI
28

メールの着信音で目が覚める。
どうやら寝すぎてしまったらしい…液晶ディスプレイに表示された時間を見ると既に17時を過ぎている。
出席するはずだった授業は既に終わっている。
気持ちの悪い目覚めだ。悪い夢を見た…寝汗で気持ち悪い。
夢の中で俺は誰かに殺されかけていた。まさに鈍器が振り下ろされた瞬間に目が覚めた。

「妙にリアルな夢だったなぁ…」

身体を起こし、干していたTシャツを着る。
タバコに火をつけて、先ほど届いたメールに目を通す。

差出人:かなみ
件名:
本文:5分で駐車場着く。遅れたら殺す

はぁ…なんとも味気ないメールだ。
火をつけたばかりのタバコを灰皿に押しつぶして俺は駐車場へ向かった。
駐車場につくと、車の前に
風花が待っていた。

「先輩遅いッス!レディを待たせたらだめッスよ」

思い出した…俺はこの小動物のせいで炭酸まみれにされたのだ。

「風花ちゃん、さっきはよくもやってくれたな!」
「はて?何のことッスか?」

この女しれっと惚けやがった!

「どんな記憶力してんだよ!忘れたとは言わせん…お陰で俺は炭酸顔からかぶったんだぞ!」
「ところで貴方誰ッスか?」
「そこから忘れちゃうんだ!ジュースおごった相手にあんな仕打ちまでしておいて!!」
「缶ジュース一本でせこい男ッスね」

こいつ本気で見下すような目で俺を見てやがる…いや確かにせこいけど。

「あぁ!思い出したッス!3ヶ月前のセンター試験で緊張のあまり腹痛でうずくまってた貴方を私が助けたッスよね。
 その後下痢のおかげんはいかがッスか?」
「俺はそんな情けない腹痛になったりはしない!!さらに言わせてもらうとお前とは昨日が初対面だ!記憶を捏造すんなー!」

楽しい女だ…

「ところで風花ちゃんこんな所で何してるの?」
「私が誘ったのよ。文句ある?」

風花ちゃんを駅まで送るということか…

「そーいう事か…俺は運転手っていうか下僕だしね…じゃぁ行こっか。車乗ってー」
「卑しい運転手風情が気軽に声かけないで欲しいッス」

いつの間にか風花の運転手も兼任になっていた。

「風花ちゃんまで…orz」

落ち込む俺の肩に風花ちゃんが手をかけた。

「冗談ッスよ先輩。元気出すッスよ」
「風花ちゃん・・・」

うーん…俺の見込み通りいい子だ。

「・・・・『さん』をつけろよデコ野郎!!!ッス」

807 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2007/05/24(木) 11:13:14 ID:90x..TqI
29

車に2人を乗せようとキーを取り出した所で俺の携帯がメールの着信を知らせた。

「ごめんメールきたからちょっと中で待っててねー」

そう言って俺は車のロックを解除し、2人に車の中に入るように促した。
メールを開こうと携帯に目を落とすと、俺の両脇にかなみと風花が覗き込むように俺の携帯に目を向けている。
俺って当たり前のようにプライベートを覗かれるキャラだっけ…

「・・・・」
「先輩、見えないッス」
「・・・・」

無視することにした。

「もっと下げて欲しいッス!気が利かない男ッスね」
「なんで風花ちゃんまで当たり前のように俺のメールみようとしてんだよ!」

立っている状態身長差があるので、覗かれる心配はなさそうだった。
メールの内容は合コンの誘いだった。19時に駅前集合…
今から2人をすぐに送り届ければ充分間に合う時間だ。
思わず顔が綻ぶ。

「何ニヤニヤしてんのよ。気持ち悪い」
「ロリータの写真でも送られてきたんスか?」
「いつから俺はロリコンになったんだ!」
「違うんスか?」

風花が上目遣いでこちらを見上げた。
うぅ…可愛い…ロリ系の風花ちゃんにドキッとしてしまった。

「メールは大した用じゃないよ」

そう言った瞬間俺の両膝に2発のローキックが炸裂した。
両膝に『ひざかっくん』をされたような状態になり、思わず膝をつく。

「・・・麻雀の誘いです」

突如俺の首筋に柔らかい感触が走り、奇妙な感覚が全身を駆け抜けた。

「この味は!・・・嘘をついている『味』だぜ・・・」

舐められた。
女の子に首筋なめられちゃった!!

「どうしたの!?お兄ちゃん!大丈夫?」

かなみはそう言うと手をついている俺の手のひらに足を乗せて体重をかける。

「痛いって!!足はなして!かなみさん、台詞と行動がかみ合ってないよ!!!」

再び生ぬるい感触が首筋を走り、ちくりとした。
今度は風花が俺の首筋に噛み付いていた。

「ほほふぁへいじょうひゃふっふ」

何言ってるのかわからなかった。
だが状況から理解できる。なにせ…頚動脈に歯を突き立てているのだから。

「参った!参りました!!合コンのお誘いです・・・・」
最終更新:2011年10月25日 18:00