269 :1/2:2009/03/07(土) 23:24:12 ID:???
本スレ484の>>41のお題:・メジャーを目指す男とそれを先にアメリカに行って待つツンデレ
満員のスタジアムの熱気に当てられたのか、柄にも無く少しワクワクしている自分に気が付く。
- うぅん、そうじゃない。本当は分かっている、けど認めたくないだけ。
「いよいよですな」
『ふん、本場アメリカにいるのだから見てみたいと思っただけのこと。今日を選んだのたまたまですわ』
「左様でございますか」
電光掲示板に両チームのオーダーが表示されている。その中の一人だけ、周りとは雰囲気の違う日本人の名前。
『約束・・・覚えているかしら?』
両チームの選手の入場に、スタジアムの中のボルテージが一層高まる。
その中の一人・・・記憶よりもたくましくなった彼が目に留まる。その瞬間、昔の記憶が洪水のように
あふれ出した。
『私、来月からアメリカに留学しますわ』
「そっか、さすがはお嬢様。やる事が予想外過ぎて笑えるよ」
いきなりの告白に驚きもせず苦笑いする彼。その態度に苛立ち、次から次へと文句を連ねた喧嘩別れになって
しまった。
寂しくなるって言って欲しかった、向こうに行っても連絡くれよって言って欲しかった。
それなのに、ただヘラヘラ笑って聞き流す。貴方にとって、私はそんなに軽い存在だったの?
社会勉強の一環で通うことになった普通の高校生活。住む世界が違うから・・・と誰からも避けられて
いた私に出来た最初の友人と呼べる人。そして、私の初恋の人。
私にとって、貴方は特別な存在。貴方が引き止めれば、全てを捨てても側に居ようと思っていた。
それなのに・・・彼にとっての私は特別ではなかった。その日は帰って大泣きしてしまった。
日本最後の日、空港に彼が現れた。最初に出来た友人に最後の別れを告げる。
『貴方の顔を見なくて良いと思うと、すがすがしい気分ですわ』
別れの言葉さえも罵倒で埋め尽くした。これで彼の事は諦められる・・・そう思った。
けれどとめどなく流れる涙。気が付けば、彼の胸に抱かれていた。
270 :2/2:2009/03/07(土) 23:25:15 ID:???
その彼から耳を疑うような言葉が聞こえた。泣き顔である事も忘れ、慌てて顔を上げる。
私を射抜くような真剣な眼差し。
「一人ではやり通せる自信がなくてさ。でも、お嬢が待っててくれるなら・・・目指すよ、メジャーリーガー」
『だって、貴方・・・地区大会で』
「甲子園にも行けないようなヘタクソさ。けどな、登る山がでかいほど燃えるのが男だろ」
元気付けるにしても、もっとまともな事を言うべきだと思う。普段ならバカな事・・・と一蹴しているが、何故
かこの時は実現する予感がした。
『カッコつけて・・・バカみたいですわ』
「あぁ、バカだ。いや、バカになる。野球バカに・・・そして、リナバカになる」
『メジャーに行ったところで活躍できる日本人は多くないですわ』
「ま、神野のお嬢様を奪い取るには、それに相応しい活躍をしないとな」
『確か、投手でしたわね?デビュー戦、何が何でも勝ちなさい。勝てたらデートくらいして差し上げますわよ?』
「まじで?勝った名誉とお嬢をもらえるなんて、そんな良い話があって良いのかよ?」
『もう勝ったつもりですの?地区大会敗退の弱小高校エースの貴方が?』
「あはは、これからいっぱい練習するさ。約束だからな?」
『ふふふ、それで上手くなるなら、誰も苦労しないですわよ』
気が付けば笑いあっていた。願わくば、この時間がずっと続けば良いと思った。
けれど時間は無常にも過ぎていき、出発の時間になってしまった。
「・・・待っててくれよな?」
『ま・・・無理だと思いますが、せいぜい頑張る事ですわね』
彼に背を向け、発着ロビーで手続きを済ませる。振り返りたい気持ちにはならなかった。
次に会うのは向こうで・・・そう約束したから。
大歓声で回想から現実に戻される。あろう事か、先頭打者にヒットを許していた。
『まったく・・・最後まで気が抜けない試合になりそうですわね』
「左様ですな」
真剣な眼差しでバッター見る彼。何だか少しだけ、相手チームの選手に嫉妬してしまう。
私にすら真剣な眼差しをみせたのは、あの時のたった一瞬だけだったのに。
この試合が終わったら、心行くまでその眼差しを独り占めしてやろう・・・そう思った。
最終更新:2011年10月25日 18:53