559 :1/8:2010/01/05(火) 01:41:51 ID:PcWl8OCQ
(自炊)大晦日にツンデレと二人っきり

「(ん…… いい匂いがするな?)」
『~♪』
「芽衣。何か作ってるのか?」
『きゃっ!? タッ……タカシ様!! いつも急にキッチンに顔を出さないで下さいと言っ
ているじゃありませんかっ!! どうして私の言う事が聞けないんですかっ!!』
「別に、普通に顔出しただけなんだけどな。ちゃんと声も掛けてるし。まあ、料理に夢中
になってる所を邪魔しちゃったのは悪かったけどさ」
「(つか、芽衣が物思いに耽ってるかそうでないかの差だけなんだよな。いい加減分かって
来たけど……)」
『ちょっと、一人では初めてのお料理に挑戦しておりましたので。で、何のご用事でしょうか?』
「いや。何作っているのかなって、そう思ってさ」
『え? これは、その……おせち料理です……』
「へえ? 確かに芽衣がおせちを作ってくれるなんて初めてだな」
『当たり前じゃないですか。タカシ様はこれまではずっと本家の方で大晦日を過ごされた
のに、今年は急に元日の昼までは残るとか言い出すんですもの。主人が残る以上、私も戻
る訳には参りませんし、お正月におせち料理を出さないというのも、メイドとしては失格
だと思いまして』
「ゴメン。芽衣には迷惑掛けちゃったかな」
『へっ…… あっ……当たり前です!! 今までも本家の方でお手伝い程度には作った事
ありますけど……でも、本格的に一人で準備するのは初めてで……バタバタで大変だった
んですから』
「その割には、鼻歌交じりで楽しそうだったけど」
『!!!!!(////////////) バッ……バカな事を仰らないで下さいっ!! 別に楽しいから
鼻歌歌ってた訳じゃありません!! むしろ、その……やる気を高めようとしてただけで
す。ご主人様に初めてお出しするおせちを、失敗する訳にはいきませんから……』
「そっか。それじゃあ、邪魔したのも悪かったかな?」
『無論です。理解出来たのでしたら、さっさと出て行ってください。お風呂が湧いており
ますので、なるべく早くお入りになられて下さいませ』

560 :2/8:2010/01/05(火) 01:42:13 ID:PcWl8OCQ
「分かったよ。それじゃあ、風呂に入って、芽衣のおせち料理を妄想しつつ、明日の朝を
楽しみに待つとするか」
『待たなくていいですってば!! もうっ!!』


「ふぅ……スッキリした……」
『お風呂の方はいかがでしたか? 一年でこびりついた汚れをしっかりと洗い落として来
て下さいましたか?』
「ああ。もうバッチリと。なんなら点検する?」
『なっ!!(//////////) またそんな、バカな冗談は止めて下さい。そ……そろそろお夕食の
準備が整いますので、テーブルでお待ち下さい』
「はいはい。了解っと」
『(タカシ様ったら、何て事を……お体の汚れを点検とか……私が、タカシ様の体を……す
……隅々まで……? それって……は……はうぅ……(/////////////))』


「へえ。今日はまた、一段とご馳走だな」
『まあ、大晦日ですので。締めくくりくらい、贅沢してもバチは当たらないかと思いまして』
「お? ビールもある」
『いつもは、健康維持の為に節制して貰っていますが、今日ばかりは、お酒も好きなだけ
お飲みになられて下さって結構です。冷蔵庫にはワインも冷えておりますし、ウイスキー
も御所望とあればご用意致しますが』
「まあ、それはとりあえずはいいよ。それより、芽衣」
『はい。何でしょうか?』
「今日はさ。お前も付き合え」
『はい……って、ダメです!! そんな事は!!』
「何で。一年の最後の日なんだしさ。お前もちょっとくらいリラックスしたっていいじゃん」
『だ……だってその……ご主人様と酒の席を同伴するなんて、使用人としてはあるまじき
事です。許されません!! 大体、そんな命令を出す事自体が無神経過ぎます!!』
「そうか? ウチの執事は良く親父とウイスキーや日本酒を酌み交わしてるぞ」

561 :3/8:2010/01/05(火) 01:42:35 ID:PcWl8OCQ
『おっ……とうさ…… ち……父はその……使用人とはいえ、特別な存在ですし……それ
にその、ちょっとやそっとのお酒では、全く酔わない鋼鉄の体質なので……』
「芽衣もめっちゃお酒強いんだろ? 親父さんから聞いたぞ」
『あぅ……お父さんてば余計な事を…… と、とにかくダメです!! 食事が終わっても、
後片付けしたり、年越しそばも作らなくちゃならないんですから』
「芽衣なら大丈夫。どんな事があっても仕事は忘れやしないって」
『何ですか。その根拠の無い保障は』
「根拠は、今までの実績かな? とにかく、軽くでもいいから俺の晩酌に付き合う事。いいな?」
『ズ……ズルいです…… そこまで言われたら、断れないじゃないですか……』
「だって、断って欲しくないし。はい。返事は?」
『か……かしこまりました……』


「はい。芽衣、どうぞ」
『い、いえその……結構です!!』
「さっき、一緒に飲むって言ったじゃん」
『そうではなくて、その……私がタカシ様のお酌を受けるなんて、出来ません。手酌で大
丈夫ですから』
「そんな寂しい事言わない。ほら。主人の腕を疲れさせる気か」
『またそんな卑怯な事を…… いっ……頂かせていただきますっ!!』
「何か変な日本語だな。ま、いいや。はい……」
『も……申し訳ありません。本来でしたら、私はタカシ様の後ろに立って、給仕役をしな
ければならないのに、こんな風に真向かいの席で……』
「それはいつもの事だろ。といっても、最初に俺が一緒に夕飯食うように言ったんだけどな」
『タカシ様は、使用人に対して分限を弁えない事を平気でさせようとするから困るんです』
「まあ、それは芽衣だからな。俺の専任メイドって事もあるし、何よりも絶対に増長した
りしないから。仮に明日からは夕食は給仕だけに専念して別で食えって言っても、顔色一
つ変えずに従うだろ?」
『それはまあ。その方が気楽ですから』

562 :4/8:2010/01/05(火) 01:42:55 ID:PcWl8OCQ
『(そんな訳無いじゃないですか!! そりゃ、その場では……でも、一人になったら、きっ
と泣きますから……)』
 グイッ……
「だから、安心して俺も心を許せるんだ。って、あれ? もう空なのか。早いな」
『え? あ……申し訳ありません。喉が渇いていたみたいで……』
「やっぱり親父さん譲りの体質か。ほら。もう一杯」
『い、いえその……タカシ様を差し置いてなんて……』
「気にすんなって。今日は無礼講。ほら。また腕がだるくなってきたぞ」
『タカシ様はもう少し筋肉を鍛えられた方が宜しいんじゃないですか?』
「ちゃんとジムで筋トレもしてるんだけどな。ほら」
『頂戴致します……』
「お? 紅白始まったぞ」
『……宜しいんですか? 紅白で。他に見たい番組はございませんか?』
「いや。どのみちテレビなんて付けとくだけだし。まあ、実家にいたら、気にする暇もな
いくらい忙しいけどな」
『大晦日から、ご親戚の方が集まりますものね。でも、本当に宜しかったのでしょうか……?
こんな風にくつろいで……』
「親父がいいって言ったんだ。ちゃんと正月から長男としての勤めは果たして貰うから、
大晦日くらいは芽衣とゆっくりしろって」
『……その、最後の一言が余計です……』
『(……旦那様公認とか……何かその……照れちゃうかも……(/////////))』
「でも、いいじゃん。こういうゆったりした大晦日も。芽衣だって、本家の手伝いでバタ
バタしてるよりはいいだろ?」
『……いいかどうかはともかく、確かにメイド見習いを始めてからは、こんなにゆっくり
した大晦日はなかったですね』
「だろ? 来年もこうやって過ごせるかどうかも分かんないんだしさ。もう少し肩の力を
抜いてゆっくりしようぜ」
『……は、はい……』

563 :5/8:2010/01/05(火) 01:43:19 ID:PcWl8OCQ
『(どうしてだろう……? いつもと同じ、夕食の席なのに。何でこんなに緊張しちゃって
いるんだろう……? お酒のせい……なのかな? 何か凄い…ドキドキするな……)』
「あれ?」
『どうかいたしましたか? タカシ様』
「いや。この女性ボーカルのロックバンドって、芽衣が好きな歌手じゃなかったっけ?」
『え……いやその……何で知ってるんですかっ……ていうか、別にそこまで好きと言うほ
どではありませんけど……』
「そうなの? さっきもだけど、芽衣がよく鼻歌で歌ってるのって、このバンドの曲じゃ
なかったっけ」
『そ、それはその……私、よくテレビを付けながら掃除とかしてるじゃないですか。そう
いう時、よく流れてきて、それで自然に頭に残ってるだけで……』
「いいじゃん。別に音楽の趣味があるのは誰だって悪い事じゃないし、そんなに言い訳し
なくたって」
『言い訳じゃありません!! だって、実際知ってるかって言われたら、バンド名くらい
で……曲もこれだけ、音楽サイトからダウンロードしただけで…… でも、その……私、
こういう前向きな曲は好きです』
「そうなんだ」
『はい。だってその……良くない事とかも、いっぱいあるかも知れないけれど、前向きに
生きていればきっといい事あると思ってますし、だから、そういう時に背中を押してくれ
るような明るくて励みになるような曲は好きです』
「へぇ……」
『……どうか、なさいましたか?』
「いやその、芽衣がこんな風に自分の気持ちを語るのって、あんまり無い事だからさ。珍
しいなって」
『!!!!!(///////////) ももも、申し訳ございませんっ!! 出すぎた真似をしてしま
いまして』
「いや。いいんだけどさ。というか、芽衣にはもうちょっと自然な所を曝け出してくれて
もいいと思うんだ」
『良くありません!! メイドがご主人様にペラペラと語るなどと……というか、タカシ
様が悪いんです!!』

564 :6/8:2010/01/05(火) 01:43:42 ID:PcWl8OCQ
「え? 俺が?」
『そうですよ。私にお酒なんて飲ませるから、うっかり口が軽くなったりしたんです!!』
「そうか。じゃ、ま、問題ないな」
『何がですか? 大いに問題ありです』
「だって、芽衣が失礼な事をしたご主人様って俺だろ?」
『そうですよ』
「で、芽衣に失礼な事をさせるきっかけを作ったのも俺だ」
『そうですね。自覚がおありなら反省してください』
「いやいや。だったらそれは、ご主人様の自己責任って事で問題無しだろ。じゃあ、もう一杯」
『何でそこで注ぐんですかっ!!』
「だって、もっともっと芽衣にはくつろいで貰いたいからね。今日くらいは」
『タカシ様。私の誕生日にも、毎回そう言って料理とか勝手になさいますよね』
「そうか。ま、今日は今日だ。な?」
『もう……勝手にして下さい……』
『(何だか、こんな風にタカシ様と親しげに過ごしてしまうなんて……メイド服を着ている
から、まだ節度を保っていられるけど……まるで、恋人とか夫婦みたい……って、私って
ば何を考えているんだろう。恐れ多くもタカシ様と夫婦とか……はぅぅ……(///////////))』
「……何、悶えてるんだ? 芽衣」
『!!!!!!!(///////////////) だから観察しないで下さいってば!! タカシ様のバカッ!!』


「ふぅ…… 食った飲んだ。ご馳走様」
『それでは、私は片付けて、少し経ったらおそばの準備を致しますね』
「いや。今日は俺も手伝うよ。洗い物の量も多いしさ」
『何を言ってるんですか。食器洗いなんてメイドに任せてゆっくりなさってください。む
しろ、ご主人様が傍にいられると、息が詰まります』
「そっか。俺は芽衣と一緒に台所に立ってると、楽しいんだけどな。食器洗いでも、料理
を作るのでも」
『なんっ……!!!!(///////////)』

565 :7/8:2010/01/05(火) 01:44:13 ID:PcWl8OCQ
「ただ、芽衣が嫌だって言うなら、仕方ないから諦めるけど。確かに、主人らしくない振
る舞いだとは思ってるし」
『……タ……タカシ様…… 申し訳ありません。ちょっと、その……失礼な事を、させて
頂きますっ!!』
「――え?」
 ギュッ……
「ど、どうしたんだよ。急に真後ろに廻って、服の裾掴んで、おでこを背中に押し付けて……」
『申し訳ございませんっ!! でも……私っ……今、その……顔を見られたくないんで
す!! 絶対……変な顔してますから……』
『(危なかった……もう少しで……抱きついてしまうところだった…… 本当は、こんな風
に傍に立って、服を掴むだけでも失礼極まりないけど……でも、逆にこうしないと……抑
えられない……)』
「どうしたんだよ、芽衣。何かちょっと変だぞ? 酔っ払ってるのか?」
『タカシ様が悪いんですっ!!』
「……俺が?」
『そうです!! 私を困らせるような事ばかり言うから…… だって、そんな……私と一
緒に台所に立ってると楽しいとか……そんな事言われたら断れなくなっちゃうじゃないですか!!』
「いや。別に芽衣が嫌だったら、俺の事なんて気にしなくたって――」
『違いますっ!!』
「……え?」
『あ……その……っ…… 私はその……嫌とかそういうのは関係が無くって…… だから
その、料理ならともかく、タカシ様に食器洗いをして頂くなど以ての外なのに、それを楽
しいとまで言われたら、私はその……どう対応していいのか……』
「それは、芽衣が迷惑じゃないんだったら、一言で済むと思うけどな」
『え?』
「宜しくお願いしますって、こう言ってくれれば。気にすることないよ。そりゃ、実家み
たく大勢のメイドさんがいて、役割分担もキチンとしてる中では俺も迂闊なことは出来な
いけどさ。ここは二人暮しなんだし、それにもう何年も一緒なんだしさ」
『で、でもその……』
「主人の趣味が家事だったら、メイドとしてはどうすべきだと思う?」

566 :8/8:2010/01/05(火) 01:44:38 ID:PcWl8OCQ
『そ、それはその……確かに、その程度の趣味であれば、ご主人様のしたいようにするの
がメイドとしての勤めですが……』
「だろ? 俺が今日は食器を洗いたい気分なんだ。だから、芽衣はこっちは気にしないで
お蕎麦の方を頼むよ。それに、初詣も芽衣と一緒に行きたいからさ。一人でやらせてたら
時間無くなっちまうし」
『わっ……私と……初詣ですか? ふっ……二人きりで……』
「ああ。近くのお寺さんには行った事なかったろ。来年はここで年越しを迎えられるか分
かんないしさ。だから、いい機会だろ?」
『でも、どのみち本家にお帰りになられれば、ご家族で……』
「それはそれ。これはこれだろ。それに、向こうに帰ってからのは、ちやほやされ過ぎて
疲れちまうし。だから、地元のお寺で気楽に済ませておきたいんだ。付き合ってくれるだろ?」
『わ……分かりました。その……お供します』
「よし。決まりな。それじゃあ、そうと決まれば、ササッと洗い物を済ませるとするか」
『仕方ありませんね、もう…… やるからには、キチンとやって貰いますから。ちゃんと
汚れが綺麗に落ちているかどうか、全部チェックしますからね』
「うは。厳しそうだな。でもまあ、頼むよ」
『かしこまりました』
『(フゥ…… 何とか、少しは落ち着いたけど……まだドキドキしてる…… タカシ様に、
一緒にいると楽しいからとか言われてあんなに取り乱すなんて……私……きっと、まだま
だ修行が足りないんですね。タカシ様……)』


「芽衣。随分丁寧に拝んでいたな。そんなに熱心に、何をお願いしていたんだ?」
『べ、別に熱心にお願いしていた訳ではありません。仏様に対する礼をキチンとしていた
だけです。大体、召使とはいえ、女性のお願いを聞くなんて失礼にも程がありますよ。タ
カシ様』
「わ、分かったよ。これ以上は聞かないけど、叶うといいな。その願い」
『はい。叶えてみせます。きっと』
『(私のお願いは…… いつか、こんな風に二人で過ごせなくなっても、タカシ様に生涯死
ぬまで、お仕えして傍に居続ける事。ただそれだけですから……)』
最終更新:2011年10月25日 19:40