681 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/14(日) 00:07:31 ID:v8wvOJ0M
バレンタインデーに規制とか馬鹿なの?
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2月13日の午後十一時。
時計の針が12で重なったその瞬間、私は手元に持っていたチロルチョコを兄に投げつけた。

「とっ…なんだ妹。節分はもう過ぎたはずだが」
「そんなボケた真似はしませんよ、兄さんじゃないんですから」
「ん、これは…チョコか?…ほう、この日に兄にチョコをやるような敬虔な心がまだ残ってるとはな」
「変な勘違いしないで下さい。毎年毎年チョコくれチョコくれうるさいから先にあげただけです。言っておきますけど、義理ですらありませんよ?」
「手厳しいな…まーいいや。ありがと」
「礼なんて要りませんよ。それじゃ私、もう寝ます」

ぱたん、と居間の戸を閉める。
兄の視界から自分の姿が消えたその瞬間、私は言動の反省やら恥ずかしさやらで立っていられずその場にへたり込んだ。

「は……恥ずかしかった…」

胸の鼓動が収まらない。
顔が熱いのも、しばらくは止まりそうに無い。

ある意味、手作りは渡さなくて正解だったかもしれない。
チロルチョコひとつでここまで緊張するのなら、そんなものを渡して理性を保っていられる自信が無いからだ。

682 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/14(日) 00:08:04 ID:v8wvOJ0M
私の兄は、女子から微妙に人気がある。

学園のアイドルと言うほどでもないが、かといって女子から相手にもされないわけじゃない。まあそういうことだ。
女友達だって少ないわけじゃないし、中には憎からず思っている人も数名いるはずだ。

そして明日はバレンタインデー。

本命しか渡してはならない、と言う風にすればいいのに、何故だかこの国には義理チョコという悪習がある。
兄はきっと、真剣に好きなのかも分からない女子からいくつかのチョコをもらう事だろう。

兄が私以外の人からチョコを貰う事は、やっぱり少し嫌だ。
だけどそれを止める権利は私に無い。


だからせめて、妹にしかできないチョコの渡し方をさせてもらうことにした。


扉を少しだけ開き、そっと兄の様子を伺う。
ソファに腰掛け、大して面白くも無さそうな番組に目を向けている。テーブルには──食べ終えたチョコレートの包み紙。
私は心の中で、小さなガッツポーズを作った。


時刻は午前0時3分。
私からの、誰よりも早いバレンタイン・デー。


────来年は、ちゃんと手作りしますからね。

決意にも似た言葉を思い、私は自室へ帰っていった。
最終更新:2011年10月25日 19:47