903 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/30(火) 20:53:53 ID:xlp9C.T.
ロリで年上で新婚で尊大にいたずらしてみて4レスくらい
誰にでも弱点というものがある。
そして同様に、誰にだってつまらない意地を張るときもある。
そしてこれまた同様に、誰しもその日見た映画に触発されて奥さんに『愛してるって言ってみ?』とおねだりする
ようなことがあるに違いない。
「断る」
これが尊さんの返答だった。この年一、二を争える即断具合である。休日にのんびり家でレンタルDVDを鑑賞後、
画面の主人公のつもりで述べてみたところ、これが見事に滑った。
「何が愛してるだ、気色の悪い」
「えー、いいじゃないですか。ケチ」
「ケチとかそういう問題じゃないだろう。大体、もうすこし空気というものを考えろ」
ぷい、と顔をそらしてしまう尊さんは、そのまま
「コーヒーでも持ってくる」
とソファから降りた。『立った』というより、『降りた』と言ったほうがしっくりくる。
なにしろ、うちの奥さんは俺より年上であるにも関わらず、相当に小さく、体操服とブルマをごく自然に着こなせ
る容姿をしてらっしゃるのだ。この見た目で社会人の第一線を戦っているのだから、すごいと思う。
しかし、家では別。俺の奥さんであるから、こういうときは悪戯してでも、言わせてみたい。
ということで、そのランドセルが似合いそうな背中を、指一本で撫で上げてみた。
「うひゃぅっ!!」
甲高い声を上げ、爪先立ちになる尊さん。
「にゃ、なにをする!」
「だって~、愛してるって言ってくれないんですもん」
「それとこれとは関係ないだろうが! よ、よせ! 近づくな!!」
両手をわきわきさせながら、にじりよると、明らかに取り乱してみせる。
そう、尊さんの弱点は、ズバリ『くすぐり』。概ね、くすぐりでイメージされるような場所は全部ツボ。わきの下、
足の裏、わき腹、膝の上など等、どこでもOKなのだ。
「や、やめっ! うはっ、ははははひゃぁっ!」
「ほらほら。愛してるって言わないと、やめませんよ~?」
「だ、誰がっ! お前なんかにやぁぁぁははははは!!」
傍から見れば、どう見ても犯罪者なのだが、これは夫婦にコミュニケーションの様子です、とあらかじめお断りし
ておく。尊さんは小さい身体をばたつかせ、必死に俺から逃げようとするが、俺はわき腹をがっちりホールドしつつ、
指をうごめかせているので、それは叶わない。
904 :2/4:2010/03/30(火) 20:55:00 ID:xlp9C.T.
後ろから抱きつく姿勢でくすぐっていると、脚が震えてきた。
「おやぁ? もう立ってられませんか? 尊さんともあろうお方が」
「や、やめっにゃあぁっ!」
「ほらほら、早く言っちゃった方が、楽になると思いますよ?」
「お、お前なんかに、屈するものかっぅひんっ!」
ほらほら、短めのTシャツなんか着てるから、おへそがお留守ですよ。とか思ってると、膝がかくんと落ちた。
「あぅぅ……」
「ははは、ほら、愛してるって言ってごらん?」
「だ、だれがぁ……あはははは、や、やめっ! やめろぉっ! ひゃっははははは!!」
ちっさいあんよを握って、足裏攻撃。靴下の上からこの有様である。必死に俺を蹴飛ばそうと反対の足を伸ばして
くるが、力がない。
「さぁ、靴下の上からこんなに感じてたら、直接触ったらどうなるのかな?」
「ひぁ、や、やめろぉ……この、卑怯者っ……はぁ、はぁ……」
「ふはは、その卑怯者の指で感じてるじゃないか。ほら、靴下を脱がせたぞ? 早く吐いたほうが楽なんじゃないか?」
「う……ぐぅ、あ、や、やぁぁぁぁぁはははははははははは!! んうぅぅぅっ!!」
びくん、と魚のように跳ねる身体を、無理やり抱きしめて押し倒し、さらに脇の下を攻める。どう見ても犯罪者な
のだが、これはあくまでも夫婦のコミュニk(略
「はぁっ、はっ、はぁ…うぅ、ばかぁ……」
「はぁ、はぁ……どうですか? まだ言いませんか?」
正直な話、暴れる人を押さえ込んで無理やりくすぐるってのは、結構いい運動になる。こっちも息が切れてきた。
あまり強くないとはいえ、ところかまわず蹴られたり引っかかれるのもしんどい。
なので、これにて終了とする。
905 :3/4:2010/03/30(火) 20:56:23 ID:xlp9C.T.
「尊さん……」
「な、なんだ、この鬼畜めぇ……」
「愛してます」
「ふぇっ!?」
鳩が豆鉄砲食らったような顔で、尊さんは俺をまじまじと見る。
「いや、尊さんが言わないなら、その分俺が言えばいいかなって」
「う……ぐ」
みるみるうちに真っ赤になる顔。あぁ、可愛いなぁ。本当、いつ見ても飽きない。思わずため息を漏らしそうになる。
こちらも付き合いは長いから、これしきのことで願いが達せられるとは思っていない。俺もそこそこ意地になるタイプ
だが、この人には到底叶わないので、いつも折れるのは俺のほうだ。それでもいいと思えるから、不思議なものである。
年甲斐もなく暴れて乱れた息を整え、からかいすぎたことを謝ろうと口を開く。
――その瞬間だった。
「……あいして、りゅ」
それは恐ろしく早口で、言葉の意味が持つイメージとはかけ離れた吐き捨て口調だった。声自体も小さかった上に、
最後も微妙に噛んでいたが、それ以上にこちらが追い詰められるような必死の形相に、言葉を失ってしまう。
続けて、怒涛のような言い訳が始まる。
「か、勘違いするな! 大体、お前にできて、私にできないことがあるわけないだろう。ただ、ちょっと『愛してる』
と戯れに言うくらい何だと言うんだ。お前のような万年精神年齢幼稚園児が、私を見下すなど100年早い。解ったか!
こら、なにをニヤけている!!」
とても『愛してる』の一言を噛んだ人とは思えない滑らかな説教だが、俺の顔はもはや蜂蜜漬けになったんじゃない
かと思うほど、甘く崩れてしまっていた。喉の奥から出てくる笑いが止められない。
「ふふ……ははは……」
続けて『可愛いなぁ』と言いそうになったが、思いとどまる。そのカードを切ったら、多分この人は耐えられなくな
って、全力で今の体勢から抜け出そうとするだろう。覆いかぶさられて、真っ赤な顔を見られているという状況から、
なりふり構わずに逃げ出そうとするだろう。それは、まだ後でいい。
「こら、聞いているのか! ニヤニヤするなーーー!!」
叫び声を聞きながら、俺は奥さんがその発想に気付くまでの間、可愛い姿を網膜に刻み続けたのだった。
906 :4/4 終わり:2010/03/30(火) 20:57:38 ID:xlp9C.T.
――さて、しばし経って。
「で、これは一体どういうこってす?」
「うん、お返しだ」
尊さんは笑顔でこちらを見た。俺はといえば、椅子に荷造り用のビニールテープでぐるぐる巻きにされている。身動
き一つ取れません。ついでに言えば、シャツの襟元からどこからか持ってきた棒切れを突っ込まれ、それに頭も縛り付
けられているため、首すら動かせない。
そして、俺の正面にはテレビの画面がある。尊さんはDVDプレーヤーにディスクを入れた。
「ま、ゆっくり楽しんでくれ。本当は私も愛するお前にこんなことはしたくないのだが、やはり躾というのは重要だか
らな」
Sっ気たっぷりの笑みだった。
やがて、画面にはおどろおどろしいタイトルが現れる。
――そう、誰にだって、苦手なものはある。
「じゃぁ、私は買い物に行って来るから」
「え、待って! 尊さん! 一人にしないで!!」
ここ何年か、ハロウィンの時期に公開される、シリーズものの映画だった。画面では憐れな被害者が、台の上に大の
字に繋がれて居るところだった。時間が来れば、彼の上を振り子式で往復している刃物は、確実に腹を両断してしまう
だろう。
「それじゃ、ゆっくり楽しんでくれ」
「み、尊さん! せめて灯りは!!」
「安心しろ、ちゃんと消していってやるから」
パチン、と照明が落とされる。
そう、俺の苦手なもの、それは『ホラー映画』。特にスプラッタっての? 痛い系はマジで無理。この状態では、耳
をふさぐことも目をそらすことも出来ない。目を閉じても、声だけで十分すぎる。いや、むしろそっちの方が――
「あ、しまった。私としたことが忘れていた。ほら」
無情にも、ヘッドホンがセットされた。凄まじい臨場感で、刃が空を切る音が鼓膜を蹂躙する。その合間に、尊さん
の声が聞こえた。
「買い物から帰ってきたら、ちゃんと相手してやるからな?」
「いや、待って! 行かないで! 死にたくないぃぃぃ!!」
「ゲームオーバー」
尊さんの影が消える。廊下からの灯りが細くなる。
――そして、暗闇になった。
最終更新:2011年10月25日 20:00