349 :1:2010/08/07(土) 19:08:46 ID:cTPqACE2
少々レス拝借します。
8月――
今日の気温は30℃。
太陽の光が容赦なく俺たちに降り注ぐ。
そんな中、俺たちは――
『別府くん!!早く来てください!!』
――プールに来ていた。
『早く!!何の為に連れて来たのか分かりません!!』
さっきから俺を呼ぶ、鈴のような声。
クラスの委員長、東雲 遥。今日はコイツに、泳ぎを教えに来たのだ。
「浮き輪片手に何言ってんだ、東雲」
『別府くんのコーチじゃ心配ですので、念のため』
水面に浮き輪を浮かべながら、偉そうに言う。
「とうっ」
東雲が乗ろうとする直前に、浮き輪を押す。浮き輪は、プールの中心の方にゆらゆらと流れていった。
『あぁっ!?酷いです別府くん!!今すぐ取りに行って来てください!!早く!!』
背中に意外と強めな張り手が5、6発。シメに蹴りを入れられ、プールに強制ダイブ。
監視員の注意を聞き流し、浮き輪を取りに泳ぐ。
350 :2:2010/08/07(土) 19:10:22 ID:cTPqACE2
「はい、東雲」
『酷いです別府くん……流石悪人顔です』
「どーせ目付き悪いですよ……。まぁ、なんだ。浮き輪なんて使ってもアレだから、ビート板からにしろ、な」
東雲は怯えた目付きで、
『えぇっ!!レベル高くないですか……?』
小学生レベルです。
「……じゃあ、俺トイレ行って来るから、準備しといてくれ」
トイレから出ると、東雲の周りに2人の男。
「オイ、東雲」
〈あぁ!?なんだテメェ?〉
『あ……べ、別府くん……』
〈なんだよ、彼氏ってか?〉
《バッカ、あり得ねぇって、こんなヤンキー顔、こんな可愛い娘……東雲って言ったっけ?東雲ちゃん?が相手にするかって》
好き勝手喋る2人。2人とも整った顔立ちをしている。
〈なぁ東雲ちゃん?こんな奴放っといてよ、俺らと遊ばねぇ?〉《あぁ、ついでに友達1人呼んでくれねぇ?2人同士だと楽しいしな♪》
「オイ、お前……」
怒りに任せて、1人の肩を掴む。
〈あぁ!?テメェ何してんだコラァ!!!〉
《うわー怖。ホラホラ東雲ちゃん早く行こうぜ?》
言いながら東雲の肩を抱いた、その時。
351 :3:2010/08/07(土) 19:11:32 ID:cTPqACE2
パシン!!
快音1発。
《っ……!!何しやがんだゴラァ!!!》
『……ふざけないで……!!』
男達を睨む目は、微かに潤んでいる。
〈……なんだコイツ〉
『貴方達に、別府くんの何が分かるんですか!!確かに、目付きは悪いですけど、貴方達みたいに…貴方達のような腐った人じゃないんです!!別府くんは……私みたいにいっつも偉そうに指図する私にも、親しく接してくれる優しい人です!!心の暖かい人です!!』
「お、おい、東雲ー?」
『それでもまだ別府くんをバカにするなら……タダじゃおかないんだからぁっ!!!!』
……しーん。
プール全体が静まりかえる。
〈…………あ、えーと……何か、スイマセン…………〉
《……ちょっと、こんなトコで騒がれるのも、なぁ?》
〈あ~ぁ、なんかシラケちまった〉
《……じゃ、そゆことで》
2人は早歩きでプールを後にした。
352 :4:2010/08/07(土) 19:13:13 ID:cTPqACE2
結局、俺らも何だか練習どころではなくなり、逃げるようにプールを出た。
「はい、ジュース」自販機て買った缶ジュースを渡す。
『どうも』
東雲はプルタブをひき、ジュースを一口。
「……さっきは、ありがとうな」
『……うぅ~。もうあそこのプール行けませんよ……。大体、別府くん泳ぎ教えてくれないですし、絡まれた時も役立たずですし、それに――』
「東雲は、何で俺に構う?」
さっきの2人に言われた通り、俺の人相はかなり悪い。
街に出ると人が俺を避ける。寄ってくるのはヤンキーばかりだ。目付きが悪いので接客のバイトは履歴書段階で落ちる。学校でも、俺に話そうとする奴はあまりいない。
そんな俺に、1日に必ず何かしら仕事を押し付けてくるのが東雲なのだ。
「お前は俺と違って、明るいし、頭も良い。下世話な話……スタイルも良いし、ルックスだって抜群だ。俺のような正反対の人間に、構う事なんか無いんじゃ」
パシン
頬に微かな痛み。
『そうやって……自分を卑下しないで下さい。そんな別府くん、嫌いです』
「……あぁ、ゴメン……」
『私は、別府くんをただ目付きの悪い奴だなんて、思ってないです。本当は優しい人だって事、私はちゃんと知ってますから』
353 :5:2010/08/07(土) 19:14:56 ID:cTPqACE2
そう言い、ジュースの缶に口付け、傾ける。
『……ッ!ゴホッ!!ゴホッ!!』
……どうやら、むせたらしい。
「大丈夫か?東雲」
背中を擦ってやる。
『は、はい……エヘヘ。そういう別府くん、大好きです』
…………。
顔が、熱い。多分、耳元まで真っ赤になっているだろう。
『……あっ!!かっ、勘違いしないで下さい!!いいい今のは、そ、そういう意味では、決して無くて、その……』
「……あ、あぁ……大丈夫」
何が大丈夫なのか。俺よ。
『あ!!そ、そのですね、私、良い事考えたんですよ!!』
そう言い、自分が掛けてた眼鏡を外し、軽く背伸びをし、俺に掛ける。
『これなら、目の見え方が変わるから、少しはイメージ変わるかもしれません!!』
と、東雲は嬉しそうにはにかんだ。
「ん……ありがとう、東雲」
『お礼には及びませんが……2つ、お願いがあります』
「何だ?」
『これからは、下の名前で、呼んでもらえませんか?』
「……別に、良いぞ、遥?」
『ふわぁっ……。あ、あと、私すごい近眼で……』
「今も結構見えないのか」
『はい、だから……家まで送ってもらうの、ダメですか?』
困ったように俺を見つめる。
354 :6(完):2010/08/07(土) 19:16:05 ID:cTPqACE2
「お安い御用だ」
俺はしの……遥の手を握り、駅へと向かう。
「単車は大丈夫か?」
『初めてですが……だ、大丈夫です』
後ろに遥を乗せ、遥の家を目指す。
『んぅ……べっぷくん……』
……寝てるのか。
「オイ、着いたぞ」
『ふぁ……ありがとうございます……』
「じゃあ……」
帰ろうとした、その時。
『あ、あの!!明日、絶対に泳ぎ教えて下さいね!!迎えに来るの、待ってますから!!』
「……あぁ。じゃあ、また明日」
『はいっ!!』
満面の笑みで返される。
――もし、もし、俺が少しでも変われたら……自分に自信が持てたら。
その時は、アイツにこの眼鏡を返そう。
そして、そして俺は、アイツに――
そんな事を考えつつ、俺は帰路に着いた。
(了)
最終更新:2011年10月25日 21:09