448 :1/6:2010/09/11(土) 18:50:45 ID:???
  • ツンデレを褒めまくってみたら

「へぇ。かなみのお弁当、美味そうだな」
『何よアンタ。いきなり来て、人の弁当ジロジロ見ないでよね。失礼じゃない』
「ああ、気に触ったならゴメン。いや、通り掛かっただけなんだけどさ。何かやけに美味
しそうに見えて。おばさん、料理上手なんだな」
『へ? えっと、その……違うわよ。確かにその、ウチのお母さん、その……料理は上手
いけどさ。これはその……』
「どうしたんだよ。別に俺相手に言いにくい事なんてないだろ? 言いたい事あるなら遠
慮せずに言えって」
『あぅ……これは、あたしが……その……作ったのよ。ウチのお母さん、今月からパート
始めたから……朝、忙しくなって、だから……』
「そうなんだ。でも、自分で作るなんて偉いじゃん。朝、結構早起きしなくちゃならないんだろ?」
『ま、まあね。でも、お母さんがさ。こういうのも花嫁修業の一環だと思いなさいって言っ
て…… あたしはさ、面倒くさいなって思うけど。でも、作らないとお昼が購買のパンに
なっちゃうし……』
「それでもやってるんだから大したもんだって。それに、かなみってお弁当作るセンスあ
るんだな。彩りとか栄養とか、ちゃんとバランス考えた作りになってるじゃん」
『あたしだって女の子なのよ。それくらいは考えて料理くらいするわよ。ていうか、アン
タもしかして、あたしが料理下手くそだとか思ってたの?』
「いやいや。前に調理実習の時もおすそ分け貰ったじゃん。あれも上手かったけどさ。け
ど、単品で作るのと、お弁当でいろんな料理を作るのはまた違うし。それに、女の子だか
らって言うけど、友子なんて料理はからきしダメじゃん」
『友子はもっぱら食べる専門だからね。それに、料理してる暇があったら、少しでも記事
になるネタを探し回りたいって言ってたし』
「ま、アイツらしいよな。けど、だからこそ、別に男とか女とか関係なく、料理って一つ
の才能だと思うぜ。俺なんて、作れるって言ったらインスタントラーメンくらいだし」
『何でそんな褒めるのよ? 何か気持ち悪いんだけど。むしろからかってるとか、バカに
してるんじゃないでしょうね?』

449 :2/6:2010/09/11(土) 18:51:09 ID:???
「まさか。本気で美味そうだと思ったから言ってるだけだぜ。そもそも、最初はかなみの
手作りとか知らなかったじゃん」
『ま、まあそうだけどさ。でも、何かアンタにそんな褒め方されると、背筋がゾワーッと
なんのよ。マジで』
「そりゃあ申し訳ない。けどさ。しょうがないじゃん。実際に美味そうだし見栄えもいいし」
『わ、わかったから、もう言わなくていいわよ。褒めてくれてありがと。これでいいでしょ?
だからもうあっち行ってよね』
「その……かなみさん」
『何? 急にさん付けとか、逆に気持ち悪いんだけど』
「あー、いや。その、お願いがあってさ。だからここは、ちょっとかしこまろうかなって」
『ふーん。お願いね。分かった。言うだけ言いなさいよ。ただし、期待はしないでよね』
「じゃあ、期待しないで言うけどさ。出来ればそのシュウマイ、一つくれないか?」
『やだ』
「即答かよ。断るにしても、少しは考えてくれたっていいだろ?」
『だって、何であたしがせっかく自分の為に作ったお弁当を、タカシなんかに分けてあげ
なくちゃいけないのよ。意味が分かんない』
「俺が、かなみ手作りのお弁当を、ちょっとだけでも味見したいって言うんじゃ理由にならない?」
『なる訳ないでしょ? 大体、何でアンタがあたしのお弁当を食べたがるのよ。自分のが
あんでしょーが』
「いや。それはそれとして。つか、ほんのちょっとだけでいいんだよ。かなみのお弁当が、
見た目通りに美味しいのか、確かめたいだけだから」
『失礼な事言うわね。そりゃ、胸張って美味しいとまでは言わないけどさ。一応、ちゃん
と食べられるものは作ってきたつもりよ。大体、自分のなんだもん。不味いもの作って来
るわけないじゃない。アンタのならともかく』
「そりゃまあそーだ……って、俺のだったら不味いの作って来んのかよ!!」
『例え話よ。大体、ほら。あたしが、アンタのお弁当作るとか……その……死んでもあり得ないし』
「俺の弁当を作るのは、死ぬよりも辛い苦行だとおっしゃるか」
『だから例えだっての。いちいち本気にしないでよ。とにかく、あたしのお弁当は米粒一
つだって分けてあげないから。ほら。諦めて自分の席戻ってご飯食べて来なさいよ』

450 :3/6:2010/09/11(土) 18:51:30 ID:???
「一応言っとくがな。タダとは言わないぜ。貰うからには、それ相応のお礼はしないとな」
『お礼? お礼って何よ?』
「お? 食い付いて来たな」
『バ、バカ言わないでよ。一応聞いとこうかなーってだけよ。あげないことには変わりないわよ』
「ふぅん。ま、いいや。じゃあ教えるだけ教えるってことで」
『いいから。もったい付けずにとっとと言いなさいよ』
「ああ。もし、かなみがそのシュウマイ一個くれたら、美風堂のカスタード&ホイップシュー
クリームをおごってやろうかなって」
『ホントに? 今、あたしそれ、すっごくハマってるんだけど。あのホイップのほわっと
口の中で溶けるような感じとか、皮のサクサク感とか、ホント最高なのよ。あれ』
「でも、高いんだっけ。3個入りで600円とか」
『うぐ…… そうなのよね。別に買えないって程じゃないんだけどさ。気楽に手を出すの
にはちょっと躊躇っちゃうのよね。うちはそんなにお小遣いくれないし……』
「だよな。そんなかなみに、何とシュウマイ一個で奢ってやろうって言ってるんだぜ? ど
うだ? 悪い話じゃないだろう」
『う…… で、でも、タカシにシュウマイをあげるって言うのはちょっと……』
「どうしても、嫌か?」
『その……嫌って程じゃないけど、抵抗が……』
『(だって、あげるつもりで作って来てないから、全然心の準備が出来てないし…… 何か、
お弁当分けるのって、恋人同士みたいで気恥ずかしいし……)』
「まあ、無理強いは出来ないからな。けど、残念だな。俺にとっては、かなみの弁当はシュ
ウマイ一つでも、美風堂のシュークリームに全然勝る価値があるのに」
『わ、分かったわよっ!!』
「あん?」
『そっ……そこまで言うなら、その……一つくらい分けてあげるわよ。でも、その……勘
違いしないでよね。あたしはただ、その……シュークリームに惹かれただけなんだから。
タカシに褒められたからとか、そんな事は全っ然関係ないんだからねっ!!』
「分かってるよ。そんじゃ、かなみのお許しも頂いた事だし、遠慮なくいただきまーす」
『ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!!』
「何だよ? まだ何かあるのか?」

451 :4/6:2010/09/11(土) 18:51:50 ID:???
『手掴みで食べようとしないでよ。汚いわね。箸、使いなさいよね。ほら』
「ああ。悪いな。サンキュー。そんじゃ、あらためていただきまーす」
『ど……どうぞ……』
 ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……
『(ど、どうしよう…… タカシが、あたしの作ったシュウマイ食べてる…… 口の中で咀
嚼して、ゆっくり味わってる……)』
 モギュモギュ……ゴクン……
「フゥ……」
『ど……どうだったのよ? 食べさせてあげたんだから、感想の一つくらいは言いなさいよね?』
「うーん……」
『な、何なのよ。唸っちゃって。美味しかったの? それとも……口に、合わなかった……?』
「かなみ」
 ビクッ!!
『なっ……何よ急に…… 真面目な顔で呼ばないでよね。もう……』
『(は、早くしてよ…… こっちは心臓が破裂しそうな程、緊張してるのに…… 何で難し
い顔してるのよ…… もしかして、言い辛い事でもあるの? ねぇ、早く……)』
「あのさ。お前のシュウマイだけどさ……」
『何なのよ、もう!! いい加減、もったいつけて区切るの止しなさいよね。時間の無駄
なんだから。聞くこっちの身にもなってよ!!』
「ああ。悪い。いや、何て言うか上手く言えないんだけどさ……」
『(そこで口ごもるって……やっぱり、何か失敗したのかな? もう早くして……不味いな
ら不味いで諦めるからぁっ…… お願い……っ!!)』
「お前のシュウマイ……ってさ。その……」
『(またそこでっ……!! ああ……もうダメェ…… ドキドキして死んじゃうっ……!!)』
「何か、プロが作ったみたいだな」
『…………え?』
「いや、本当に。お世辞とかじゃなくて。見栄えも綺麗だし、皮も上手く包んであるけど、
何よりも、肉がすっごいジューシーだ。これなら、中華料理店で出しても、全然問題なく
行けるだろ」

452 :5/6:2010/09/11(土) 18:52:10 ID:???
『う、ウソでしょ。いくら何でも大げさ過ぎだって。いくらなんでもプロみたいなんて、
そんな事絶対無いわよ。だから、褒められ過ぎると、却ってウソ臭くって嬉しくないんだってば。』
「いやいやいや。褒め過ぎじゃなくて、マジで。自分でも食ってみろよ。絶対、ぜーった
い、かなみのシュウマイは一級品だから。見た目でシュークリームより高価だと見抜いた
俺の鑑定眼は、全く狂って無かったぜ」
『わ、分かったわよ。もういいからあっち行ってよね。もうこれ以上はあげないわよ。あ
と、シュークリームの件、忘れないでよね?』
「ああ。だから、今日の放課後、ちゃんと空けとけよな。それとも、もう何か用事入って
る? でなきゃ明日以降でもいいけど」
『と、特に無いわよ。ていうか、先延ばしにすると、うやむやにされそうだもん。ちゃん
と、今日ご馳走して貰うからね』
「了解。んじゃ、後でな」
『ホントに、もう…… 何考えてんのよ。今まで一度もあたしのお弁当に興味持った事無
かったくせに…… 何で、今日に限って……』
『(もしかして……本当に、私の作ったお弁当だから……タカシが興味持ってくれたとか……
ないない。そんな事、あるはずないわよ…… でも、彩りもキレイだって言ってくれたし……
シュウマイも、見た目から美味しそうだって……)』
 パクッ……
『(うーん…… 我ながら、不味くはない……かな? けど……タカシは、プロみたいだっ
て。本当かな……もし本当だったら…… タカシの為に毎日お弁当作ってあげたら……なーんて……)』
『うはっ!! まっさかー。そんなのないない。無いってば!!』
〔どうしたんですか? かなみさん〕
『へ!? い、委員長、どうしたの?』
〔いえ。かなみさんこそ、何かニコニコと嬉しそうに笑いながら手を振って…… 何かい
いことでもあったんですか?〕
『なっ!? 何でもない!! 何でもないから!!』
〔そ、そうですか…… それならいいんですけど……〕
『(あっぶなー…… でも、タカシにあれだけ褒められたんだもん。イヤでも嬉しそうな顔、
出ちゃうよ……)』

453 :6/6:2010/09/11(土) 18:52:42 ID:???
「なー、友子。あれで良かったのか? お前が、今日はかなみが手作り弁当持って来たか
ら、とにかく褒めまくれって言うからさ。とにかくやってみたけど」
[ナイスよ、別府君。これでかなみの心はもう、落ちたも同然ね。それにしても迫真の演
技だったわ。遠目に観察してたけど、あたしでもあれだけ褒められたら、この人の為に尽
くそうって思っちゃうかも]
「いや。実際あいつ、弁当作るの上手だったし。まあ、多少は大げさに脚色したけどさ」
[それでいいわ。これでかなみは、間違いなく明日からお弁当を作り過ぎて来るから。別
府君は、お昼持って来ちゃダメよ?]
『ホントかよ。もしかなみが作り過ぎて来なかったら、俺、昼飯なしだぞ? 購買のパン
なんて、速攻で売り切れんだからさ』
[分かった。じゃあその時はあたしの手作り弁当を別府君にあげよう。それでどうだ?]
「断る。お前の料理下手さは、クラスで知らない奴はいないくらい有名だからな」
[ぶーっ。失礼な奴。せっかくの女の子の手作り弁当を断るなんて。じゃあもういいわよ。
昇竜軒のとんこつチャーシュー麺大盛りプラス餃子ゴチで。これならいいでしょ?]
「よし。それで手を打った」
[ま、かなみがお弁当持って来ないなんて有り得ないから。そもそも、もし、なんてない
んだけどね]
「お? エライ自信有り気だな?」
[そりゃ、かなみの親友ですもん。これで別府君は、毎日かなみのお弁当を食べさせられ
るわよ。イヤだって言ってもね]
「そっか。まあ、友子の言う事を信じて、楽しみに待ってるとするか」
[そうしなさい。かなみもきっと喜ぶわよ。顔には出さないけどね。あーあ……いーな。
青春してさ……(ボソッ……)]
「ん? 最後、何て言った? 良く聞き取れなかったけど」
[何でもないわよ。さ、そろそろ戻ろ。あたしと別府君で変な噂が立ったら大変だもん。ね?]
「ま、そりゃねーと思うけどな。まあ、話も終わったし戻るか」
[うん]
[(……ちょっと、かなみが羨ましいかな……)]

『(タカシってば、何が好物なんだろ? そだ。今日は一緒に帰るんだから、その時に聞き
出そう。明日、お弁当持って行ったら喜んでくれるかな……? エヘヘ……(/////////////))』
最終更新:2011年10月25日 21:13