123 名前:1/7[] 投稿日:2011/10/23(日) 23:53:01.68 ID:G3eRb9Qk0 [9/15]
[はいっ!!]
パンッ!!
『ふぇ……えっ?』
[どう? 私の催眠術に掛かった感想は]
『掛かったって……何も変わってないように思えるけど?』
[まあ、今はね。そのうち効果が分かるようになるわよ]
『ホントかな……? 何か怪しいけど。ところで、何の催眠術を掛けたの?』
[え? 知りたい? うーん。どっしよっかなー? むしろ教えずにおいて、かなみが動
揺するトコ見るのも楽しいけどなー]
『そういう悪趣味な観察は止めなさいよね。人を実験台にしたんだから、せめてどういう
術なのかくらいは教えなさいよ』
[実験台って失礼な。あたしの催眠術は完璧なんだから。こないだも山田を鳩にしてやっ
たんだから。危うく戻らなくなる所だったけど]
『ちょっと!! そんな危ないもん、あたしに掛けないでよね。戻らなくなったらどうす
るつもりなのよ!!』
[大丈夫大丈夫。むしろ、かなみの場合は戻らない方が幸せになれるかもよ?]
『どういう意味よ。ていうか、何なのか早く教えなさいってば』
[分かった分かった。えっとね。簡単に言うと、好きな人の前で素直になっちゃうってい
う催眠術なの]
『好きな人の前で……って……ええええええっ!!』
[そうよ。かなみってば、いっつも別府君にキツく当たってばっかりでさ。このままじゃ、
進展が見込めないから、後押ししてあげようかなって]
『よ、余計な事しないでよ!! 大体あたしはあんな奴何とも思ってないってのに……』
[じゃあ大丈夫よ。これは好きな人の前じゃないと発動しないから。本当に別府君の事を
何とも思ってないなら、いつもと同じように接する事が出来るはずだから]
『な、何だ。じゃあ……あたしには、何の関係もないじゃない。し、心配してバカ見ちゃった』
[あーあ。残念。せっかくかなみが別府君にデレデレするところを見れるかと思ったのに]
『そんな態度取る訳ないでしょ? バーカッ!!』
124 名前:2/7[] 投稿日:2011/10/23(日) 23:53:25.69 ID:G3eRb9Qk0 [10/15]
『(って……友子にはああ言ったけど、どうしよう…… 本当に催眠術が効いてるとしたら、
あたし……タカシの前で、どうなっちゃうんだろう……? 甘えちゃったりとか……する
のかな? そ、そんなの恥ずかしいよぉぉっ!!)』
『(な、何かもう、タカシの事考えるだけで、ドキドキしてるし…… これもやっぱり、催
眠術の……ウソぉっ……?)』
キーンコーンカーンコーン……
[かなみ。かなみ]
『ふぇっ!? な、何よ友子……』
[何よって、日直でしょアンタ。ホームルーム終わったわよ。挨拶挨拶]
『あ、そうだった。起立。礼』
『(やっば……どんだけ動揺してんのよ。あたし……)』
「おい、かなみ」
『きゃっ!? タ……タカシ。驚かさないでよ……』
『(うわうわうわ……もう声掛けられるなんて、信じられない……どうしよう。本当に効果
があったりしたら……)』
「別に、普通に声掛けただけだけどな。それより、これ。古文のノート。助かったよ。サ
ンキュー。おかげで質問に答える事出来たわ」
『え…… あ、うん。どういたしまして…… その……良かった。役に立って……』
「え?」
『ど、どうしたの? キョトンとした顔して』
「いや。かなみが素直に、こう……お礼に頷き返すの、珍しいなって…… いつもだった
ら、汚してないかとか、ちゃんと自分で勉強しろとか、見せるのはもうこれっきりとか、
文句やら説教が必ず入るのに」
『(そ、そういえば……何であたし、言わなかったんだろ……? もしかして、これも……
催眠術の……せい?)』
『え、えっとその……別にいいの。今日はその……見せてもいい気分だったっていうか……
役に立ちたかったし……』
「どうしたんだよホントに。何か悪いものでも食ったのか?」
『ち、違うわよ!! あたしはその……べ、別に普通だもん。心配してくれるのは、その
……嬉しいけど、でも大丈夫だから』
125 名前:3/7[] 投稿日:2011/10/23(日) 23:53:50.49 ID:G3eRb9Qk0 [11/15]
「やっぱりどこかおかしいぞ? 本当に大丈夫なのか?」
『大丈夫だから。それより、その……あの、えっと…… きょ、今日さ。一緒に……帰らない?』
「……いいけど、何で?」
『何でって……帰りたいから、だけど。ダメなの?』
「いや。かなみから誘ってくる時って、大概何か用事があるじゃん。何か買い物付き合え
とかさ。そうでなきゃ、俺から誘ってグダグダ文句言いつつ、やっと一緒に帰ってくれる
ぐらいだから……」
『だ、だってそれはその……一緒に帰ろうなんて、恥ずかしくて言えなかったから……何
かと理由付けてただけで……』
『(ななな、何言ってんのよあたしーっ!! あああああ……もう、自分から隠してた事バ
ラしちゃうなんて……恥ずかしくて死にそうーっ!!)』
「うーん。どうにも調子狂うなあ…… まあ、今日は一緒に帰るか。ちょっと心配だしな」
『べ、別に大丈夫だってば。どこも調子なんておかしくないし…… でも、一緒に帰って
くれるんだったら、嬉しいな』
『(ヤバイ。ホントにおかしいあたし。た、確かに嬉しいのは本当の事だけど……でも、こ
んな言葉、絶対に出ないのに……)』
「ま、まあその…… とにかく、ちょっと待ってろよ。今、カバン取ってくるからさ」
『うん。待ってるから、早くね』
『(どうしよう…… こんな調子じゃ、あたし……どんどんタカシに…… ううん。これは
もしかしたら……チャンスなのかも。そうよ。いつもだったら恥ずかしくて出来ない事も、
積極的に出来るんだったら……確かに恥ずかしくて今にも逃げ出したいけど、いつもの失
点を挽回出来るんなら、耐えなくちゃ)』
「お待たせ」
『……ううん。大丈夫よ。タカシと一緒に帰れるって思ったら、それだけで待つのも全然
楽しいから』
「本気で言ってるのかそれ? 絶対今日のお前、どっかおかしいぞ?」
『失礼ね。じゃあ、悪口ばかり言ってた方がいい?』
126 名前:4/7[] 投稿日:2011/10/23(日) 23:54:10.17 ID:G3eRb9Qk0 [12/15]
「いや。そんな事もないけど……」
『じゃあいいじゃない。ほら、帰ろ?』
「ああ。どうしたんだ? 手なんか出したりして」
『一緒に繋いで帰ろうと思って。いいでしょ? たまには、ね』
「あ、ああ……」
ギュッ……
『(き、来たーっ!! タカシと恋人繋ぎで一緒に帰るって、何度も妄想してたのに、一度
も出来なかったのに、ついに…… 恥ずかしい恥ずかしい。でも嬉しいよぉ……)』
『何か……こうして歩いてると、幼馴染ってだけじゃなくてさ。恋人みたいな感じだよね?』
「え? こ、こい……びと?」
『うん。タカシは……こういうの、嫌?』
「い、いやその……嫌じゃないって言うか、そりゃまあ、嬉しいけど……けどさ。いつも
とこう……180度違うと……戸惑いの方が大きいって言うか……」
『細かい事は気にしないの。嬉しいんでしょ? だったら、楽しもうよ。ね?』
「う……っ!?」
「(やっべ。何だよこれ……超可愛いじゃねーか…… いやいや。落ち着け俺。絶対これに
は裏があるはずだ。とにかく、かなみからそれを聞き出さないと……)」
『そんなに恥ずかしがらないの。私だって恥ずかしいけど……それ以上に、今はその……
したいって、気持ちが勝っちゃってるから……』
「い、いや。大丈夫だよ。マジで、嬉しくはあるから」
『ホントに? 良かった。だったらさ。いっその事、腕……組んじゃおっか?』
「いっ!? う……腕を、か……」
『うん。こうやって』
ギュウッ……
「ちょっ……おま、その……」
『どうしたの? 嬉しくない?』
「いや、その……胸……」
127 名前:5/7[] 投稿日:2011/10/23(日) 23:54:30.55 ID:G3eRb9Qk0 [13/15]
『うん。当たってるの……意識してくれてるんだ……』
「待て待て待て。どう考えても大胆過ぎるだろ」
『いけない? あたしが大胆だと、引いちゃうかな?』
『(これが……あたしの望んでた事…… 催眠術でちょっと心の鍵を外しただけで……こ
んなにも大胆になれるなんて……不思議……)』
「いやその……理性が……つーか、もう分かった。ちょっとこっち来い」
『きゃっ!? ちょ、ちょっと。そんな乱暴に引っ張らないでよ』
『(どこ連れてかれるんだろ。って、公園? もしかして、タカシ……)』
「とにかく、ここ座れ」
『うん……』
「あのな、かなみ。今日のお前は……って、どうしたんだよ? そんな、うつむいて恥ず
かしそうな態度で」
『だ、だって……こんな、その……夕方の人気のない公園に連れ込むって事はその……我
慢出来なくなっちゃったんじゃないの?』
「ち……違う違う違う!! そういうんじゃなくてだな。俺はその……話がしたいだけで……」
『いいんだよ? 別に、私を気遣って無理しなくても……私は、その……怖いけど、タカ
シとだったら……』
『(ウソ……ホントに? あああ……でも、気持ちが抑えられないよぉ…… どうしよう……
心臓が破裂しそう……)』
「あのな、かなみ」
『何?』
「正直に、今日起こった事を話してくれ。普段のお前と違う事は、お前だって分かってる
だろ? 俺はお前とこうして過ごせるのは嬉しいから……嬉しいからこそ、ちゃんと知っ
ておきたいんだ。な?」
『じゃあ……ちゃんと話したら……してくれるの?』
「あ……ああ。かなみが望むならな」
『うん…… えっとね。あたし……友子に、催眠術を掛けられて……』
128 名前:6/7[] 投稿日:2011/10/23(日) 23:54:51.14 ID:G3eRb9Qk0 [14/15]
「何だって? 催眠術?」
『うん。好きな人の前で、素直になる術だって。そうなるなんて聞かされてなくて……気
付いた時にはもう掛けられた後で……でも、そうしたら本当にタカシの前で素直になる事
が出来て…… だから、こっちがその……本当のあたしって言うか……』
「そうか。おかしいおかしいとは思ってたけど、やっぱりそういう事か。友子の奴か……」
『あの……あたし、ちゃんと話したよ? だから……』
「分かった。けど、ちょっと待て」
『え?』
「アイツが隠れてるとしたら、この辺か?」
ガサガサガサッ!!
[あいたたたたたた!!]
『友子!?』
「やっぱり隠し撮りしてたか。相変わらず悪趣味な奴だな」
[お願いだから耳引っ張るの止めてってば。女の子に乱暴するなんて、最低だぞ]
「自業自得だ。このアホ」
『もしかして、アンタ……今までの全部……』
[もちろん。それにしても、見事なデレっぷりですなあ。どう? 別府君の前で素直にな
れた感想は]
『アンタには言わないわよっ!! それよりカメラ出しなさいよね。あたしとタカシの仲
は神聖で不可侵なんだから』
[そこまで言っちゃうかあ。いやー。言葉の魔力ってのは怖いわねえ]
「どうでもいいから、かなみに掛けた催眠術を早く解け。俺はこんな形での付き合いなん
て望んでない。かなみにはちゃんと……素のままのかなみでいて欲しいんだ」
『ダ……ダメだってば。術を解かれたら、またいつもの暴言吐くあたしに戻っちゃうわよ?
タカシはそっちの方がいいの?』
「別に暴言吐かれるのが好きな訳じゃないけど、催眠術とか、そういうので甘えられるの
はもっと嫌だ。強気なところもひっくるめて……その……それが、かなみだから」
『……ありがとう。でも、これがあたしの本心だからね。忘れないで』
「ああ、分かってる。そういう訳だから、友子。早く、かなみに掛けた術を解け」
129 名前:7/7[] 投稿日:2011/10/23(日) 23:55:40.53 ID:G3eRb9Qk0 [15/15]
[うーん。それは無理かな]
「無理ってどういう事だよ? お前が掛けたんだろ? だったら責任持って解けよな」
[いやいや。そもそも催眠術なんて掛けてないし]
「は?」
『……え?』
[いや。かなみには悪いんだけどさ。あたしそもそも催眠術なんて掛け方知らないもん。
適当に真似だけして、後は嘘八百並べただけなんだけどさ。こうまで見事に引っ掛かると
は思わなかったわ]
「えっと……じゃあ、今までのかなみの態度は?」
『ウソ……ウソ……それじゃああたし……素のままで、あんな事を……』
[ええ、もう。正真正銘、あれがかなみの素の言動よ。本人は催眠術に掛かってるからっ
て思い込んでただけでね]
『い……いやああああああああっ!!!!!!!』
ダッ!!
「お、おい。かなみ!! ちょっと待て。待てってば!!」
[いやあ……かなみさん。乙女ですなぁ]
『(ウソウソウソッ!! あたし、素面であんな事やこんな事してたって言うの? は……
恥ずかし過ぎてタカシに合わせる顔もないっ!! ああああああ……もう死にたいよおお
おおおおおっっっっっ!!!!!)』
終わり
最終更新:2011年10月27日 02:44