73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/10/24(月) 22:34:18.18 ID:lE+uNN9j0 [12/15]
やばい。
何を話して良いのか解らない。
どうしてこんな緊張するんだ。
今はタカシの部屋。2人でゲームしてるとこだけど、どうにも調子が出ない。
ちらりと横目でベッドを見る。だらしなく布団が半分くらいずり落ちてるけど、新しいシーツは皺一つない。
先週、あ、あのベッドの上で、オレたちはまぁ、その……した。初めてだった。
あー、やっぱ痛かったよ。正直気持ちよくもなかった。初めてはそんなもんだと聞いたけど、タカシは満足してくれたようだった。
オレも素肌で触れ合ってぎゅって抱きしめられるのは、なんつーか、すごく幸せだった。いちいち優しくて、気遣って声かけてくれた
りなんかして。こいつにあげられて良かった、って心の底から思えた。
まぁ、素直になれるのは、モノローグだけだがな。
などと浸っていると、画面の方から、風船が破裂する音がした。
はっとして視線を戻すと、オレのヨッシーが盛大にスピンしているところだった。
「てめぇ……いい度胸だな」
「はっはー、余所見してるからだよ」
楽しそうに笑ってクッパを操るタカシに、オレは鼻を鳴らすと画面に集中した。
結局、ゲームはオレの逆転勝利で終わった。
一通り遊ぶと、部屋の中が気まずい空気に満たされる。
ゲームやってる内は、余計な話をしなくて済むから気は楽だった。でも、今は違う。
話を振っても、すぐに終わる。振られても、すぐに終わる。
タカシはちらちらとベッドに視線をやっている。オレに知られないようにと努力してるようだが、バレバレだ。やっぱり向こうも普
通じゃ居られないんだと解って、少しほっとした。オレだけじゃなかったんだ、って。
でも、そこから先にどういったらいいか解らない。いきなり『シャワー貸して?』って言うのも変な気がするし、いっそ押し倒して
しまおうか、って気にもなるけどそんなことできるわけない。
「なぁ、勝美」
泡のように消えてしまう他愛の無い世間話が途切れてしまうと、タカシは突然改まった顔でオレを見つめてきた。
「な、なんだよ」
その表情に予感のようなものを感じて、声が上ずってしまう。タカシは頬を赤くして、そっとオレの手を握った。
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/10/24(月) 22:35:18.31 ID:lE+uNN9j0 [13/15]
「言いにくい話なんだけど」
「だから、なんだよ。さっさと……言え」
手を振り払うことも出来ず、オレはタカシの真剣な眼差しに釘づけになっている。
そして、タカシはついに切り出した。
「あのさ、こないだ……したとき。勝美、すげぇ痛がってたよな?」
「べ、別に……」
「正直、俺、勝美としたい」
「!!」
あぁ、このバカは。
どうしてこうも正直なんだ。どこまでも飾らないで、素直すぎる言葉をぶつけてきて。歯の浮くようなキザな言葉の一つでも言えば、
オレだってまだ返しようがあるのに。
「……でも、勝美が嫌がってまでしようとは思わなっい゛!?」
思わず手が出てしまった。そういや付き合う前も、結構こうして手を出してたっけ。これがビンタだったら可愛げもあるんだろうけ
ど、頭にゲンコツだもんなぁ。本当、こんなのと付き合うなんて、物好きだよ、こいつ。
「いってー……なんだよ、いきなりいぃっ!!」
涙目で食って掛かるタカシの頬をさらにつねりあげながら、オレは尋ねる。
「……じゃぁ、聞くけどさ」
「ひぃ?」
「オレがどっかのヤリチンと慣らしてからの方がいいのか? そうしたらとりあえず、テクニックも何も無いお前とするよか気持ちよ
くなれると思うけど? ん~~~?」
「…………」
タカシは頬をつねられながらも、猛然と首を振る。そりゃそうだ……オレだってイヤだ。
その答えに満足すると、手を放してもう一度、今度は軽く頭にチョップした。
「あのな……こんなのはチャリに乗るのと一緒なんだよ。一回痛い目見たからって、それでやめたらいつまでたっても乗れないまんま
だろうが」
「……ぷっ」
オレの台詞を聞いて、タカシはあろうことか吹き出しやがった。あぁ、あぁ、解ってるよ。あんまりにもあんまりな例えなのは。で
もしょうがないだろ。他に良い言葉が出てこないんだから。
「ははは、いや~、さすが勝美。漢だわ」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/10/24(月) 22:36:13.72 ID:lE+uNN9j0 [14/15]
案の定、そう言ってタカシはオレをからかう。でも、それが何よりも心地よい。互いに変な気を遣っておかしい空気の中で過ごすよ
り、何倍もいい。
だから、オレはいつもより少しだけ素直になれる……ような気がする。それでも、世間一般よりは大分ひねくれてるけど。
「うっせ……大体、ずりぃつーの」
「え? 何が?」
「……ちゃんと責任とって、オレも気持ちよくなるまで付き合えよ、な……ぁ」
言葉尻がしぼんだのは、タカシがオレの頬に手を当てて、引き寄せたからだ。
そっと、優しくキスをしてくれる。それだけで、さっきまでの苛立ちも、何もかも全部忘れられる。
「ごめんな。男の俺から誘わないといけなかったな」
「……うるせ、スケベが」
「シャワー、浴びるか?」
見た目よりもがっしりした胸板に手を当てると、ものすごい鼓動を感じた。あぁ、こいつも緊張してんだ。オレも、すごくドキドキ
する。でも、多少痛くても、緊張しても、それ以上の幸せを予感できるから、オレは平気。
「『一緒にあびゆー』とか甘えてみたらどうよ?」
「いや……流石にそこまでは……」
「一緒はイヤか?」
「……それはずるいぞ」
タカシに手を取られて立ち上がる。やっべーな、勢いで言っちゃったけど、明るいところで全部見られちまうのか。これはハズいな。
自分で言ったとはいえ、ちょっと後悔。
一人でおろおろしてると、タカシが振り向かないままで言った。
「なぁ、勝美」
「うん?」
「……俺、お前が初めてで良かったよ」
……だから、そういうことをアホみたいに正直に言うなって。
悔しいから、オレはタカシに後ろから思いっきり抱き着いてやった。胸も背中に押し当ててサービスしてやる。
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/10/24(月) 22:37:47.85 ID:lE+uNN9j0 [15/15]
「うおっ!?」
慌ててる、慌ててる。あっという間に真っ赤になった耳元に、歩きながらそっと囁いてやった。
「なにキザなこと言ってんだよ、恥ずかしいヤツ」
「うるせーな……」
「初めてだけじゃねーよ」
「ん?」
「二回目も、三回目も……最初で最後ってヤツにしてやるから、覚悟しとけよ?」
それはとてつもない、爆弾級の言葉だった。だって、裏返すと『そうして欲しい』ってことになるんだから。それが解らないほど鈍感
な相手でもない。
「ん……そうだな」
くそ、こういうときだけ余計なこと言わないなんて、ずりぃぞ。もっと涙流して『嬉しいです、勝美様ー』くらい言いやがれ。こんな
いい女が、今からお前の好きにできるってんだからな。
悔しかったので、もう一発チョップでもしてやろうかと考えたとき、タカシが立ち止まった。
「勝美」
「んだよ」
「顔真っ赤だぞ」
見れば、いつの間にか洗面台の前に来ていた。鏡に映ったオレの顔は、ちょっと人に見せられないほど朱に染まっている。
「くぅ……うるせー、お前だって……そうじゃねぇ、か……ょ」
オレはどうにかそれだけ言い返すと、タカシの広い背中に隠れた。
終り
最終更新:2011年10月27日 02:55