83 :名無しさん:2005/07/17(日) 16:13:37 ID:lo33z49.
針子
男「いつも気になってたんだけどさ」
悪友A「なんだ?」
男「教室の端っこの子……あの子、いつも一人だよな?」
悪友A「ああ、ハリコのことか」
男「張子?」
悪友A「違う違う、”針子”。まぁ、あいつの場合は自業自得って言うか…」
男「なんだよそれ。どんな理由にしろ仲間はずれなんてするなよな!」
悪友A「あ、おい止せよ」
男「よお」
ツ「…なに?」
男「お前、針子って言うんだってな。上の名前は何て言うんだ?」
ツ「…」
男「なんだよ針子、返事くらいしろよ」
ツ「…」
男「いい加減にしろよ!そんなんだから友達できないんだぞ」
ツ「……あのさ」
男「何だよ、本当の事だろ!」
ツ「……私の名前、針子じゃないんだけど」
男「え…」
ツ「返事をしなかったのは、私の名前じゃないから。分かった?
それに……初対面の人間に対して、よく失礼なこと言えるね。
とりあえず、私の名前は針子じゃないから。
それにしても、私ってそういう風に呼ばれてたんだ…ふぅん」
男「あ…!いやっ…その……」
ツ「……催促するみたいで悪いけど、言い忘れてること無い?」
男「えっ……!?だ、だから……別に俺は…」
ツ「はぁ……もういい。じゃあね」
男「あ、ま、待てよっ!俺はただっ……!」
……お前と、友達になりたかっただけなんだ…
84 :名無しさん:2005/07/17(日) 16:30:19 ID:lo33z49.
悪友A「ったく!人の話は、最後まで聞けよなァ」
男「……悪い、俺はただ…」
悪友A「まあ、でもこれであいつに友達が居ない理由が分かったか?」
男「……なんとなく、な」
悪友A「そうだろ、そうだろ。もうあいつには近づかないほうが良いと…」
男「…おいおい!言っておくけどな、それはねえ!
確かにツンツンしてるけど、でもそれだけがあいつの全部じゃないだろ?!
第一まだ俺はあいつの本名も知らないんだぞ?なのに……あっ?」
悪友A「どうした?」
男「そういえば俺……ああッ!わ、悪い!急用思い出したっ!」
悪友A「なんだよォ~……ったく!」
男「お、お~~~い!!」
ツ「…今度はなに?」
男「……あ、あのっ!」
ツ「…私、忙しいんだけど。用があるなら早く言って」
男「悪いっ!すまなかった!
おまえに…酷いこと言っちまって……。で、でも俺はただ…」
ツ「もういい、って言ったよね?
もう終わったことなんだから、謝ってもらっても同じよ。いい?」
男「…い、いや!よくねえっ!こればっかりはちゃんとやらねえと…
俺の気がおさまらねえっ!」
ツ「貴方の都合に付き合うつもりは無いから。それじゃ」
男「………くっ……」
ツ「…」
男「…一つ、教えてくれよ。お前、本当は何て名前なんだ?」
ツ「……私の名前が何であっても、貴方には関係無いでしょ?」
男「おおいにあるよ。
名前知らないと、お前のことなんて呼んでいいのかわからねえからな」
ツ「……針子」
男「へ?」
ツ「私のこと、何て呼んでいいのか分からないんでしょ?
だったら針子って呼べばいいわ。どうせ、皆そう呼んでるんでしょうから」
男「……ふぅ、ホント可愛くねえやつだな」
…でもな針子。そんなお前が、何となく放って置けねえんだよ……
86 :名無しさん:2005/07/17(日) 16:49:25 ID:lo33z49.
男「お、悪い。それじゃあこれで帰るわ」
悪友A「んだよ~。最近付き合い悪くねえかァ?」
男「へ、ちょっと……な」
悪友A「まったく、あんな奴のどこが良いんだか…」
男「針子の良さは、お前には分からねえよ。じゃあな!」
悪友A「やれやれ……あいつマゾか」
男「お~い、針子!一緒に帰ろうぜ~」
ツ「…」
男「おいおい、針子と呼べって言ったのはお前のほうだろ?」
ツ「……一緒に帰っていいなんて、ひとことも言ってないでしょ」
男「いいじゃねえか、一人くらいお供がいてもよ」
ツ「…良くないわ」
男「へぇ?そりゃまたどうしてだよ」
ツ「…貴方の話、聞きたくないから」
男「ははは……嫌われたもんだな俺も。
…あ、そういや明日から近くの海水浴場で泳げるようになるよな?」
ツ「…人の話、聞いてる?」
男「まぁまぁ。それでよ?よかったら二人で泳ぎに…」
ツ「嫌」
男「そういうなよ、明日は暑いから絶対泳げば気持ち良いぞ?」
ツ「……嫌って言ったよね?」
男「はいはい、どうせまた俺が嫌だとか言うん」
ツ「……人前で……たく………いから」
男「え、今何て…」
ツ「…人前で、肌とか見せたくないから……」
男「…そういやお前、プールの時間とか絶対休んでるよな。
あー、そういわれれば夏でも冬服とか着てるよなあ~。
そんなに言うほど、貧相な体してる訳でもないだろ?腕だってほら…」
ツ「ッ…!?」
男「え…」
ツ「放して」
男「な、なんだよ……”これ”?!」
ツ「放してって言ってるでしょ!放してッ!!」
男「あ……う………何だ……よ」
ツ「っ…………」
男「あ、おい……ま、待て……よ…」
…畜生…初めて見るあいつの表情が、泣き顔になるなんて……
88 :名無しさん:2005/07/17(日) 17:04:02 ID:lo33z49.
悪友A「針子の噂?う~~ん……そりゃ、あるにはあるけどよ」
男「なんでもいい、どんなものでもいい。どんなに……暗いものでも」
悪友A「…その口調だと、ある程度の目星は付いてるみたいだな」
男「やっぱり……あるんだな?」
悪友A「先に一つだけ言っておくよ……お前にあいつは救えない」
男「…」
ツ「…」
男「針子、一つ聞いていいか」
ツ「……」
男「針子ッ!」
ツ「……今日は何?できればもう、貴方には関りあいたくないんだけど」
男「今日聞きたいのは、お前の母親の事だよ」
ツ「ッ……なおさら貴方には……関係ない…でしょ」
男「アル中なんだってな」
ツ「ッ!!……だ、だれから聞いたのか知らないけど……やめてよね」
男「それで毎晩、泥酔してはお前に躾……いや、ありゃもう暴力だよな」
ツ「さ、さっきも言ったでしょ?やめて、やめ……て…」
男「昨日見た腕のキズ……割れたガラスか何かか?あんなもの、どうやって…」
ツ「やめてッ!!」
男「あ…」
ツ「……」
男「……わ、悪い…お前を傷つけるつもりは……ただ俺はお前を助けたくて……」
ツ「…大声出して、ごめん」
男「え…」
ツ「…じゃあね」
男「……あ…」
…なんだよ……謝らなきゃいけないのは、俺だろ……
90 :名無しさん:2005/07/18(月) 07:35:55 ID:lo33z49.
悪友A「言っただろ?兎に角、俺たちが口を出せる問題じゃないんだ」
男「…」
悪友A「何もしない方が、まだマシなのかもしれないな」
男「…違う」
悪友A「…」
男「そりゃあ絶対違う。何もしなかったら、あいつは一生あのままだ」
ツ「あ…」
男「…よう。この前は悪かったな」
ツ「別に」
男「…どうしてだよ?」
ツ「…」
男「どうして、あんな最低な女と一緒に暮らしているんだ?
俺たちの年になると、一人暮らしとか出来るんじゃないのか?」
ツ「……そういう悪口はやめて、私の母なのよ」
男「母親があんな……止めよう。とにかく、その母親から離れた方がいい」
ツ「離れても同じよ……十年間、ずっと母の陰で暮らしてきた。
慣れる事は無いけど……でも、もう諦めたから」
男「……俺が出来ることは、何も無いのか?」
ツ「無い。…できれば、余計なことはしないで」
男「そうか……そうだよな。お前の家庭の事情だからな……」
ツ「そういうこと」
男「けどよ?友達のピンチを助けるのは、別に余計なことじゃないよな」
ツ「……貴方と友達になった覚えは無いけど」
男「そうかい。じゃあ今日から友達だ」
ツ「え……ちょ、ちょっと!」
男「握手、ダメか?嫌だったら、いつでも手を放してくれ」
ツ「………」
男「…ダメじゃないみたいだな。じゃあこれで俺とお前は友達だ」
ツ「……余計なことしないでって……言ったのに……」
男「…あれ?今お前………あっ」
ツ「……力になってくれるって言うのは嬉しいけど…。
気持ちだけで十分。……それじゃあ」
男「……あ、ああ……またな」
……たしかにさっき……ほんの一瞬だけど、針子が笑ったように見えた…
91 :名無しさん:2005/07/18(月) 21:45:30 ID:lo33z49.
男「お、もう昼かぁ……。よいしょっと、それじゃあな」
悪友A「おいおい、昼飯どうするんだよ」
男「へっへっへ…ちょっと、な」
悪友A「へえ、お前もうあいつとそこまで…」
男「バーロー、そんなんじゃねえよ」
男「悪い悪い、購買が混んでて…」
ツ「……遅刻するぐらいなら、お昼に誘わないで。
それに屋上は、用事が無い限り出入り禁止だったと思うけど」
男「昼飯も大事な用事だからな。しっかし本当に…いや…はは」
ツ「何?」
男「いや、お前と一緒に昼が食えるとは思ってなかったからな~」
ツ「……さっきも言ったけど、誘ったのは貴方の方だから」
男「でもこうして屋上で待っててくれてるわけだろ?」
ツ「………」
男「ははは、まあいいや。メシにしようメシ!」
ツ「……いただきます」
男「いただきまーす……ってなんだそりゃ!随分とまぁ…う、うう…」
ツ「……別に普通のお弁当だと思うけど」
男「そ、そうかぁ?……も、もしかしてこれ…お前一人で?!」
ツ「………」
男「あー……いや、そのスマン。
し、しかしすげえなぁ!俺も、そんなちゃんとした弁当喰いたいなー」
ツ「………」
男「あー……誰か作ってきてくれないかなー…」
ツ「……自分で作れば?」
男「………すまん針子。俺にも弁当作ってきてくれ」
ツ「わかった」
男「へ?いいのかよ?!」
ツ「期待しないで」
男「そんなに酷い味には見えないけどな…・・・どれ」
ツ「あ、それ…」
男「モグモグ……うん!こりゃ旨い!いやぁ、明日が楽しみだ!」
ツ「………」
男「ど、どうした?針子」
ツ「………さっきの卵焼き、私の食べかけなんだけど」
男「それがどうし……あ」
…・・・こ、これって…間接キス、だよ……な…
94 :名無しさん:2005/07/20(水) 02:33:30 ID:lo33z49.
悪友A「あれ?お前今日は弁当か?珍しいな」
男「ま、ちょっとな~…なあ~針子ォ~?」
ツ「…」
悪友A「なんだ?シカトして出ていっちまったぞ?あいつ」
男「…まさかあいつ……忘れてきたんじゃ…おい、待てよ針子!」
悪友A「まったく、一体なんなんだよ」
男「…っと!待てよおい!なにも屋上まで逃げること無いだろ?」
ツ「別に逃げてないけど」
男「いいや。お前は間違いなく逃げてる。そしてその理由も分かる。
ズバリ!昨日の弁当の約束を忘…」
ツ「はいこれ。貴方の分」
男「……れ?」
ツ「どれくらい食べるか分からなかったから、量は適当だけど」
男「お、おう……なんだよ、ちゃんと作ってきてくれてるじゃねえか」
ツ「…」
男「うんうん、久しぶりの手づくり弁当!いやあ、感謝する!」
ツ「……別に、たいしたことしてないと思うけど」
男「いやいや!……でも、わかんねえなぁ~」
ツ「何?」
男「いや…何で屋上にあがったんだ?別に見た目も悪くないぞこの弁当」
ツ「………」
男「いや、俺はてっきり弁当忘れて俺から逃げてるのかと思ったけどよ」
ツ「それは、ない。……屋上に来たのは、その……昨日……だから」
男「ハッキリ言えよ」
ツ「き、昨日みたいなことがあった時に…他の人に見られたくないから」
男「昨日?昨日なんかあったか?ええっと…?何だ?」
ツ「卵焼き」
男「?…あ!?ああ~~~……そ、そうかウム。気持ちは分かる」
ツ「……」
男「…ん?でも他人に見られるのが嫌なんだろ?」
ツ「当たり前よ」
男「んじゃあ、間接キス自体は嫌じゃないんだ?」
ツ「……」
…なるほど、針子も赤面とかするんだな。大発見だ…
最終更新:2011年10月27日 19:21