[65] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/29(土) 12:26:44.62 ID:PB3TeB+p0
「~~♪」
「ねえ」
「~~♪」
「ちょっと」
「~~♪」
「こらっ」
「あれ? 何、むみさん。もしかしてずっと呼んでた?」
むみさんの鋭い声に、僕は慌てて、ゲーム機から延びるイヤホンを耳から外した。
「ゲームの音がうるさくて、読書に集中出来ないのよ馬鹿」
「えっ、まさか音漏れしてた?」
「そうではなくて、ボタンの音がカチャカチャしてうるさいのよ」
……ボタンの音、ね。
「そんなこと、今の今まで言わなかったのに……」
「はあ? 何か言ったかしら?」
「ああ、いえ、何でもないですはい」
要するに、いい加減構って欲しくなっただけだろう。言ったら、間違いなく否定されるだろうけど。
「だいたい、小一時間も、人を放っておいて、何をそんなに熱心にやっているのよ」
「いや、むみさんもずっと本読んでたじゃん……」
「私は良いの!」
なにその理不尽。
いや、むきになるむみさんは、すごく可愛いからなんだって良いのだけど。
まったく揺らがず常に冷静そうな表情と、子供のような態度のギャップが、たまらないわけですはい。
「何を一人でにやけてるのよ、馬鹿! それで、どんなゲームをしているの?」
「ん、ああ、いわゆる恋愛シミュレーションだよ」
「呆れた。ゲーム好きだとは知っていたけど、そんなものまでやるのね」
「いや、普段は全然やらないんだけどね。今回は特別なんだ」
[66] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/29(土) 12:29:27.91 ID:PB3TeB+p0
そう言って、ゲームの画面をむみさんに見せる。
「別に興味があるわけじゃ――ってちょっとこれ」
「ね、むみさんそっくりでしょ、この娘。パッケージ見たら急に欲しくなっちゃってさ」
「~~っ。ほんっとうに呆れたものね、貴方ってば!」
叫んで、赤面して、そっぽを向いてしまう。
怒ったのか、それとも照れたのか……。
(まあ、どっちもか)
胸中で呟いて――腕を伸ばし、むみさんを抱き寄せる。
「ごめんね、ちゃんと構ってあげるから許してよ、むみさん」
「な、ば、馬鹿! は、離しなさいっ。だいたい、構ってほしいだなんて、私は!」
「だって、今まで、むみさんの前でゲームをしたことは、何回もあったけど、ボタンの音がうるさいだなんて言ったの、今日が初めてじゃない」
「い、いい加減我慢できなくなったの!」
「嘘だね」
「な、何で、貴方にそんなことがわかるのよ!」
「それは――」
僕は、むみさんの耳元に口を寄せ、囁く。
「――僕が、むみさんを愛しているからだよ」
「ふぇっ!? な、なな、何言ってるのよ、ば、ばかばか馬鹿っ! り、理由になってないじゃない!」
「そうかな」
「そ、そうよ馬鹿っ。貴方はゲームのヒロインでも攻略していれば良いのよ!」
「そうしても、良いんだけど」
「け、けど、何よ?」
「むみさんが離してくれなきゃ、それも無理かな」
いつの間にか、むみさんの両手は、さりげなく僕の背中に回されていた。
「え、な、なんで私……」
しかも、むみさんの様子を見る限り、どうやら無意識にしていたらしい。
[67] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/29(土) 12:30:09.80 ID:PB3TeB+p0
「本当は、それだけ寂しかったってことじゃないかな」
「う、ううぅ~~っ。さ、寂しくなんてないし、構ってほしくなんかないけど! 貴方がどうしてもって言うならこのままでいてあげるわっ」
「はいはい、どうしてもどうしても」
「な、何よ、その投げやりな態度っ。やっぱり貴方なんか嫌いよ、馬鹿。ほんっと、大っ嫌い!」
「僕は、愛してるけどね」
ふん、と言うと、むみさんは、その真っ赤になっている顔を隠すように、横を向いてしまう。
まったく、むみさんの可愛さは天井知らずだから困る。
しかし、それにしても……
「それにしても、むみさんからも離す気はないんだね」
「そ、そんなの、知らないもの、馬鹿……」
消え入るような声で呟いて、むみさんは黙ってしまうのだった。
最終更新:2011年11月03日 02:19