9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/11/05(土) 00:30:15.06 ID:KNds1khV0 [2/3]
「ねえ、むみさん……」
「嫌よ」
用件も言ってないのに、恋人から即断されて、ちょっと泣きたくなる。
「……まだ、何も言ってないんですけど」
「どうせまた、動物園だの水族館に行こうって言うんでしょう? 寒いんだから嫌よ」
「えー、確かに最近寒くなってきたけど、まだまだ余裕だって。それに、むみさん、そんなこと言ってどっちも好きじゃん」
「あのね、女性と男性では、温度の感じ方が違うのは当たり前でしょう。あと、別に動物園や水族館はそんなに好きなわけではないわ」
前半はともかく、後半は絶対嘘だ。だって、前に行ったとき、普段では考えられない程はしゃいでたもん。
「じゃあ映画は? ほら、前に、あのSF映画が面白そうだって――」
「DVDが出るまで待つわ」
「……左様ですか」
僕の消沈した声を尻目に、読書に戻るむみさん。
(なんだか最近、デートに誘おうとすると不機嫌になるなあ)
考えたくないけれど、まさか、嫌われたんじゃないだろうかと不安になる。
「ああ、それにしても、寒いわね、この部屋」
……どうやら違うみたいで安心した。
「僕でよければ、暖房器具代わりになりましょうか」
「寒いから、仕方ないわね。寒いし」
「寒い二回言ってるよ、むみさん」
「う、うるさい! さっさとこっちに来なさいっ」
顔を赤くして叫ぶむみさんの後ろに回って、背中側から、愛する人を抱き締める。
ちなみに、最近は、むみさんが部屋に来る度に、こんなやり取りをしている。
しかも、あんまり寒くない日でもそうなので、何が言いたいかと言うと、むみさんマジ天使、ということである。
「あくまで暖まる方法が他にないからであって、別にこうしたいわけじゃないから。貴方のことだから、何か妙な勘違いをしていそうだけど」
「なんなら、毛布貸すよ……」
「どうせ、貴方の悪臭が染み込んでいるだろうから、いいわ」
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/11/05(土) 00:32:38.88 ID:KNds1khV0 [3/3]
じゃあ、なんで直接抱き締めるのはいいんですか、と言いたいところだけど、また不機嫌になってしまうだろうので我慢する。
「ねえ、どうしても、外で遊ぶのは嫌かな?」
「悪いけど、寒いのは苦手なのよ。出不精とでも、何でも言うが良いわ」
本当にそうなんだろうか。素直じゃないむみさんのことだから、本当は、もっと他に理由があるように思えてならない。
「……まさか、僕の部屋が落ち着くから、なわけないしなあ……」
何気なく言った、その一言に反応するように、抱き締めていなければ、おそらく気づかないほど微かに、むみさんの全身が、びくっと震えた。
「……まさか、図星、だったりして……」
「そ、そんなわけないでしょう! どっ、どうして、こんな何もない部屋が居心地良いって言うのよ!」
怒りではなく、多分は羞恥によって、真っ赤になったむみさんには、もはや、何の説得力もない。
「それは、もしかして……僕とこうしてイチャイチャできるから、とか? 外じゃ、流石に限度があるし」
「っ!? う、あぅ、ち、違うわよ。そ、そんな理由なわけないでしょうっ、思い上がらないで……!」
「顔真っ赤だよ、むみさん?」
「う、うぅ、うるさい! あ、貴方が怒らせるからよ、馬鹿っ」
「ああもう、可愛いなあ、むみさんは! 頭なでていい?」
「……ふ、ふん。ど、どうせ、嫌だと言ってもするくせにっ、この変態……!」
そんな風に悪態をつきながらも、どこか期待するように、上目遣いで睨み付けてくるむみさんは、やっぱり天使じゃなくて、女神なんじゃないかと思う、とある秋の日の午後なのだった。
最終更新:2011年11月10日 00:03