189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/11/07(月) 02:00:48.09 ID:Y1LovTt10 [2/7]
「……貴方は、運命についてどう思う?」
いつものように本を読んでいたむみさんが、おもむろに顔を上げて、問いかけてきた。
「なんだか、いきなりだね」
「この本にそういうシーンが出てきたのよ。まあ、気まぐれに聞いただけで、貴方の意見なんてどうでもいいのだけど」
「…………」
いつも通りの冷たい毒舌にちょっと泣きそうです、母さん。
僕は、気を取り直して――少し考えてから、答える。
「あらかじめ決まった運命なんて、ないほうが良いよ。まあ、あるかないかなんて証明できるものじゃないけどさ」
「へえ、少し意外ね。貴方なら、私と出会えたのは運命だとか言いそうだと思ったのに」
その口ぶりが、心なしか不満そうなのは、もしかしなくても……
「それって、むみさんがそう言われたかったんじゃないの?」
「なっ!? お、面白いことを言うわね。言ったでしょう、気まぐれに聞いただけで、貴方の意見なんて、最初から興味ないわよっ」
「そうかな? 初めの質問からして、僕にさっきの言葉を言わせたかったように感じるんだけど……」
「ち、ちが、違うわよ! 思い上がらないことね、だ、誰が、貴方なんかにそんなことを言われたがるのよ……!」
言葉だけ見れば、本気で怒ってるようだけど、実際は、顔を真っ赤にして俯いているので、多分図星なんだろう。
「……はあ、むみさんの可愛さは、反則級だなあ……」
「はあ!? い、いきなり、可愛いとか、な、何言ってるのよ、馬鹿っ。ほんっとうに貴方って馬鹿だわ!」
「ああでも、僕の腕の中で、こんなにむみさんが可愛くなるのが、運命だって言うなら神様に感謝したいよ」
「~~っ! う、くっ、も、もう、そうやって、耳元で、か、可愛いって言うのやめてくれないかしら」
「ふふ、なんで?」
「……だ、だから、その、何て言うか、逃げ場がなくて、ど、どうにかなりそうなのよ、馬鹿っ……」
そんな風に必死そうに言う、むみさんは何もわかってない。だって、
「もう、そういうのが、一番可愛いんだってば!」
「ひゃ!? だ、駄目だって言うのに……こ、このばか」
190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/11/07(月) 02:02:49.50 ID:Y1LovTt10 [3/7]
「ねえ、むみさん」
しばらく待って、むみさんが落ち着いたのを見計らって、声をかける。
「何よ?」
声に不満がにじんでいるのは、僕に良いようにいじられたのが気にくわないからだろうか。
「さっき、決まった運命なんてないほうが良いって言ったのはどうしてだと思う?」
「? ただ、そう思ってるからではないの?」
小首をかしげるむみさんが可愛くて、絶賛したくなるけれど、またさっきの繰り返しになってしまうので自重する。
「ちゃんと、根拠っていうか、そう信じたい理由があるんだ……」
また、怒鳴られるとわかっていて、僕は想い人の耳に口を寄せる。
「……それは、僕がこんなに、むみさんに惚れ込んでいて、大好きになったのは、運命なんかじゃなくて、僕自身の心がむみさんを初めて見たときに、そう感じたからだって信じたいからなんだ」
むみさんは、最初意味が飲み込めなかったのか、しばらくぽかんとした後、
「なっ!? ば、ばっ、馬鹿じゃないの!? よ、よくも、そんなにも恥ずかしい台詞が、すぐに思いつくものね!」
思った通り、怒鳴られてしまった。
だけど、さらに僕は、むみさんが興奮している今だからこそ、聞けそうなことを尋ねてみる。
「それで、むみさんは?」
「へ? な、何がよ?」
「だから、むみさんは僕との出会いが運命だと思う?」
「う、そ、そんなの、どうだって、いいでしょう……」
顔をそらして逃げようとするむみさんを、しかし僕は逃がさない。
「僕は、ちゃんと自分の考えを言ったんだからさ、むみさんもしっかり教えてよ」
「う、そ、そんなの、決まっているでしょう……」
僕の方に向き直ったものの、途中で恥ずかしさに耐えられなくなったのか、その端正で常に揺らがない美貌を、僕の胸に押し付ける。
「……う、うぅ、わ、私だって、あ、貴方と同じだもん……! ――う、運命なんかじゃなくて、自分の意思で、貴方を好きになったんだって、そう思ってるわよ、馬鹿っ……!」
やはり、運命の女神様なんて必要ないな、と心から思う。なぜなら、僕の目の前には、こんなにも可愛くて、愛しい、僕だけの女神がいるのだから。
最終更新:2011年11月10日 00:16